●平成18(ワ)15425等 特許権差止請求権不存在確認請求事件 「害虫

  今日は、昨日に続いて『平成18(ワ)15425等 特許権差止請求権不存在確認請求事件 特許権 民事訴訟「害虫防除装置」 平成19年03月20日 東京地方裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070322165748.pdf)について紹介します。


 今日は、被告(特許権者)による取引先への原告各製品の製造販売が同特許権を侵害する旨の告知,流布行為が、不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知,流布行為に当たるか否かについての東京地裁の判断について紹介します。


 つまり、この点につき、東京地裁(第46部 設樂隆一裁判長裁判官)は、


『2 甲14文書の配布行為ないし本件情報提供行為が不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知,流布行為に当たるか(争点5)。


(1) 証拠(甲3,9の1ないし4,14,乙3,6)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。


ア 被告は,原告に対し,平成18年7月5日付けで,原告器具の製造販売は本件特許権を侵害するものであり,原告カートリッジの製造販売は本件特許権の間接侵害になるから,製造販売を中止するよう要請する通知書を発送した(甲3 )。


イ 原告は,平成18年7月20日,東京地方裁判所に被告が原告各製品の製造販売に対して本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求める訴え(一部取下げ前の本件本訴)を提起した。


ウ 原告は,同日付けで次のような内容を記載した書面(乙6。以下「乙6文書」という。)を,その取引先に対して配布した。


 すなわち,乙6文書には,被告から原告各製品が本件特許権を侵害している旨の警告を受けたこと,原告は被告の上記警告を不当として原告各製品が本件特許権を侵害していないことを確認するために訴訟を提起したこと,原告各製品は,薬剤を保持しているカートリッジが回転する独自の構成を採用しており,本件特許発明の構成と明らかに相違していること,本件特許発明は既存の技術に常識の範囲内にある数値限定を加えているだけであって,特許性に疑問があり,近い将来無効審判請求を予定していること,被告は平成6年にも「液体かとり」に関して特許権侵害訴訟を提起してきたが被告が敗訴していることなどが記載されていた。


エ 平成18年7月21日付け産経新聞に,原告が,被告に対し,原告各製品が本件特許権を侵害していないことの確認を求める訴訟を提起した旨の記事が掲載された(乙3)。


オ 被告は,平成18年7月28日付けで次のような記載を含む書面(甲14文書)を作成し,その取引先に配布した。


「弊社は……弊社特許権を侵害する『カトリス』シリーズを製造販売する大日本除虫菊(株)に対して,その製造販売の中止を求める通知書を送付いたしました。……大日本除虫菊(株)は,弊社特許権には侵害しない旨を述べておりますが,弊社特許権は先発メーカーとして基本的技術で特許権を取得したものであり大日本除虫菊(株)の権利侵害は明らかであります。……以上御賢察の上,お得意様各位におかれましては引き続き弊社製品をご愛顧頂きますようお願い申し上げます」。


カ 被告は,平成18年8月23日,東京地方裁判所に原告各製品の製造販売の差止め等を求める訴え(本件反訴)を提起した。


 被告は,同日ころ,朝日新聞毎日新聞,読売新聞及び産経新聞に対し,本件反訴を提起した旨の情報提供を行った(本件情報提供行為)。翌日の平成18年8月24日付けの上記各新聞には,被告が,同月23日に原告各製品が本件特許権を侵害しているとして製造販売の中止を求めて提訴したこと,これに先だって原告が被告に対して本件特許権を侵害しないことの確認を求めて提訴していることを内容とする記事が掲載された(甲9の1ないし4)。


 このうち朝日新聞及び毎日新聞の記事には,原告及び被告が,従前,液体電気蚊取り器の特許権をめぐって法廷で争った際には被告が敗訴して確定していることも記載された(甲9の1・2 。)


(2) 原告は,前記(1)オの甲14文書の内容及び同カの本件情報提供行為の内容に虚偽の事実が含まれており,甲14文書の配布行為及び同カの本件情報提供行為が,不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知,流布行為に当たると主張するので,以下,判断する。

ア 甲14文書配布行為について

 被告は,甲14文書によって,取引先に対し「大日本除虫菊(株)の権利侵害は明らかであります」旨告知した。そして,前記1によれば,被告は,原告各製品の製造販売行為について本件特許権を行使し得ない。


 しかし,当該告知,流布の内容が同条項の「虚偽の事実」に当たるか否かは,当該事実の告知,流布を受けた受け手に真実と反するような誤解を生じさせるか否かという観点から判断すべきである。具体的には受け手がどのような者であってどの程度の予備知識を有していたか,当該陳述が行われた具体的状況を踏まえつつ,当該受け手を基準として判断されるべきである。


 これを本件についてみると,前記2(1)記載のとおり,原告は,被告から原告各製品が本件特許権を侵害している旨の警告を受けたため,被告による甲14文書の配布に先立ち,その取引先に対して,原告各製品は本件特許権を侵害せず,かつ,本件特許権が無効理由を有する旨の乙6文書を配布していること,及び,甲14文書の配布に先立ち,全国紙において,原告が被告に対して原告各製品が本件特許権を侵害していないことの確認を求める訴訟を提起した旨の記事が掲載されたことが認められる。


 以上のような甲14文書配布の経緯,すなわち,原告が本件本訴(一部取り下げ前のもの)を提起し,乙6文書を配布していること,及び,受け手である原告及び被告の取引先がこれらの経緯により取得した予備知識を前提とすると,原告と被告の取引先は,甲14文書の配布を受けたとしても,被告が原告各製品の製造販売行為が本件特許権を侵害するものと認識していると解釈することはあっても,原告各製品が客観的にみて本件特許権を侵害しているものと解するとまでいうことはできない。


 したがって,甲14文書の配布行為を不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知,流布行為ということはできない。


イ 本件情報提供行為について

 弁論の全趣旨及び前記2(1)カ記載の新聞記事の内容から,被告は,本件情報提供行為の際,新聞記者に対して,(i)原告が本件本訴(一部取下げ前のもの)を提起したこと,(ii)被告が原告各製品が本件特許権を侵害している旨主張していること,及び(iii)平成18年8月23日に原告各製品が本件特許権を侵害しているとして製造販売の中止を求めて提訴したことを告げたことが認められる。


 しかし、上記(i)ないし(iii)の事実はいずれも真実であって虚偽ではない.

 なお,原告及び被告が,従前,液体電気蚊取り器の特許権をめぐって法廷で争った際には被告が敗訴して確定していることについては,被告に不利な事実であり,原告の営業上の信用を害する事実とはいえないし,そもそも本件情報提供行為を受けた新聞社のうちの一部のみが記載していることからすれば,被告が当該事実を告げたとまでは認められない。


 したがって,本件情報提供行為を不正競争防止法2条1項14号の虚偽事実の告知,流布行為ということはできない。


 なお,原告は,被告が,本件情報提供行為の際,原告各製品が本件特許権を侵害している旨告知した旨主張する。しかし,原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。


 また,仮に,被告が新聞記者に対して原告各製品が本件特許権を侵害している旨告知していたとしても,訴訟の一方当事者がそのような告知を行ったことのみによって,新聞記者が当該告知内容を真実であると誤解するとは認められない。いずれにしても,この点に関する原告の主張は理由がない。


第5 結論

 以上によれば、原告の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由がない。よって,主文のとおり判決する。  』

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


 追伸;<気になった記事>

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●『CATV2局に日本音楽著作権協会管理楽曲使用を禁止する判決 - 東京地裁 -』http://journal.mycom.co.jp/news/2007/03/23/480.html
●『著作権関連法制度の見直しに着手する政府,国際条約との整合性がカギに』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070323/266197/
●『「行列のできる法律相談所」 HP写真を無断使用』http://www.asahi.com/culture/update/0324/018.html