●平成18(行ケ)10497 審決取消請求事件 商標権 MAGICALSHOESOURCE

  本日は、『平成18(行ケ)10497 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「MAGICALSHOESOURCE」 平成19年03月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070313094029.pdf)について紹介します。


 本件は、引用商標「THE SHOESOURCE」または「Payless ShoeSource」に基づく登録商標「MAGICALSHOESOURCE」の無効審判の棄却審決の取消を求めた訴訟で、原告の請求が認容され、その棄却審決が取消された事案です。


  本件では、本件商標の商標法4条1項11号や15号、19号の各号の該当性における判断が丁寧に示されており、参考になるものと思います。



  つまり、知財高裁(第3部 飯村敏明裁判長裁判官)は、

『当裁判所は,本件商標の登録が商標法4条1項11号,15号,19号に違反してされたものではないとした審決の認定判断には誤りがあると解するものである。その理由は,以下のとおりである。


1 商標法4条1項11号について

(1) 商標法4条1項11号該当性の判断基準について

 商標法4条1項11号は「当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であって,その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務‥‥‥又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするものについては商標登録を受けることができない。」旨規定している。


 そして,商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであり,誤認混同を生ずるおそれがあるか否かは,そのような商品に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者及び需要者に与える印象等を考察するとともにその商品の取引の実情具体的な取引状況に照らしその商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきである。


 そこで,引用商標及びそれらの指定商品との対比において上記の観点から本件商標の登録が商標法4条1項11号に違反するものであるか否かについて,検討する。


(2) 本件商標について

ア 本件商標の構成
 本件商標は「MAGICALSHOESOURCE」の欧文字を標準文字で表記してなるものである。同構成からは「MAGICAL」, 「SHOE」, 「SOURCE」という3つの英単語を抽出することが可能である。そうすると,本件商標については,1「MAGICALSHOESOURCE」全体を一体にとらえるもの,2「MAGICAL」と「SHOESOURCE」の2つの構成部分からなるもの,3「MAGICALSHOE」と「SOURCE」の2つの構成部分からなるもの,4「MAGICAL」と「SHOE」と「SOURCE」の3つの構成部分からなるものとの理解が一応可能であるといえる。


 ところで,本件商標「MAGICALSHOESOURCE」のうち,先頭にある「MAGICAL」の部分は,「魔法の不思議な魔術的な神秘的な,魅力的な」等を意味する語として,我が国においてもよく理解され,普通に使用されている英単語であること(乙1,2)。この点に「SHOESOURCE」の部分が指定商品とのつき被告は争わない。


 関連で見る者の注意をひくことに照らすならば「MAGICALSHOESOURCE」,につき「MAGICAL」 と「SHOESOURCE」とを一つの区切りと理解できるから「MAGICAL」と「SHOESOURCE」の2つの部分からなるものととらえる理解が自然である。


イ 本件商標の特徴的部分

 そこで,本件商標について,商品の出所表示機能を有する特徴的部分に関して検討する。


 「MAGICAL」の部分は,上記のとおり,「魔法の,不思議な,魔術的な,神秘的な,魅力的な」等を意味する語として,我が国においてもよく理解され,普通に使用されている英単語であり,しかも,商品の内容を説明する修飾語と理解できることからすれば,その自他商品識別機能は小さい。


 これに対し「SHOESOURCE」の部分は「靴の供給元」なる観念を生ずると理解する余地がないわけではないが,そもそも「SHOESOURCE」なる語が英単語として存在することを認め得る証拠はなく,少なくとも一般には「SHOESOURCE」なる表記を目にした者がその意味を理解することは困難であり,仮に当該表記から靴の製造者・販売者としての観念を読みとり得るとしても,それは辞書等に収録されていない新たな言葉ないし造語であるから,これを見る者の注意をひくものと認められる(靴の製造者・販売者を意味する語としては,通常「shoe shop」 ,「shoe store 」,「shoemaker」等の語が用いられるものと考えられる。)。


 上記によれば,本件商標においては「MAGICALSHOESOURCE」の全体のほか,「SHOESOURCE」の部分が,自他商品識別機能を有する特徴的部分であるというべきである。


ウ 本件商標の称呼

 上記イにおいて述べたところからすれば,本件商標からは「マジカルシューソース」の称呼のほかに「シューソース」の称呼を生ずるものというべきである。


(3) 各引用商標について

ア 各引用商標の構成及び特徴的部分

 次に,引用商標について検討するに,引用商標1は「THE SHOESOURCE」 の欧文字を標準文字で書してなるものであり引用商標2,3は別紙商標目録(1 (2))のとおり,いずれも「Payless ShoeSource」の欧文字よりなるものである。


 引用商標1については,このうち「THE」の部分は英語の定冠詞であり,自他商品識別機能を有する部分とはいえない。したがって,引用商標1のうち自他商品識別機能を有する部分は「SHOESOURCE」の部分というべきである。


 引用商標2,3は「Payless」, 「Shoe」及び「Source」の各部分の頭文字が,大文字で書されているものであり,また「Payless」と「ShoeSource」の間に約半字分の空白が設けられていること,甲3の1,4の1 に照らせば,「Payless」 と「ShoeSource」の2つの部分からなるものと認めることができる。


 このうち「Payless」の部分は「無料」,「廉価」,「支払う必要のない」というような漠然とした観念を生ずる語であると理解することも一見可能なようにも思われるが,一般に知られていない語であり「payless」なる語自体が英単語として存在することを認め得る証拠は,認められない。そうすると「Payless」の部分は,辞書等に収録されていない新たな言葉ないし造語として,見る者の注意をひく部分であり,また,前記のとおり「ShoeSource」の部分も同様に造語として,見る者の注意をひくものということができる。


イ 引用商標の称呼

 上記によれば,引用商標1からは「ザシューソース」及び「シューソース」の称呼を生じ,引用商標2,3からは「ペイレスシューソース 」,「ペイレス」及び「シューソース」の称呼を生ずるものと認められる。


(4) 類否判断

 以上検討したとおり,本件商標は「MAGICALSHOESOURCE」全体及び「SHOESOURCE」の部分を特徴的部分とするものである。他方,引用商標においては,引用商標1は「THE SHOESOURCE」全体及び「SHOESOURCE」の部分を特徴的部分とするものであり,引用商標2,3は「Payless ShoeSource」全体「Payless」の部分及び「ShoeSource」の部分を特徴的部分とするものである。


 そうすると,本件商標と各引用商標とは,いずれも特徴的部分として「SHOESOURCE」ないし「ShoeSource」の部分をとらえることができ,その称呼において共通する(なお,当該部分について外観において共通する。また,当該部分からいかなる観念が生ずるにせよ,観念が生ずる限度で共通する。)


 上記によれば,本件商標と各引用商標とは類似するというべきである。


(5) 指定商品等

  本件商標の指定商品と各引用商標の指定商品は,いずれも第25類に属し,靴,履物等を含むものとして同一ないし類似のものである。

 また原告は既に(平成16年4月1日)本件商標の査定時には,「ペイレスシューソース」をその略称とし,店舗数約5千店の北米最大の靴専門の小売店として我が国においても広く知られるに至っており,各引用商標も原告に係る商品を示す商標として広く知られていたと認められる(甲6〜8,10,弁論の全趣旨)。なお,この点について,被告は積極的には争っていない。)。

(6) 結論

 以上によれば,本件商標は,その審決時(当裁判所は,判断の基準時を審決時と解するものであるが,査定時においても,その事実が存在していたことについては同様である)において,各引用商標に類似し,その指定商品と同一ないし類似の商品に使用するものに該当するから,本件商標の商標登録は商標法4条1項11号の規定に違反してされたものというべきである。


 したがって,本件商標が同号の規定に違反して登録されたものではないとした審決の判断には誤りがあるから,審決は違法なものとして取消しを免れない。


2 商標法4条1項15号,19号について

 上記のとおり,本件商標の商標登録には商標法46条1項11号所定の無効事由があり,審決が違法なものとして取消しを免れないが,事案に鑑み,念のため,本件商標の商標法4条1項15号,19号該当性についても,当裁判所の判断を示すこととする。


(1) 商標法4条1項15号該当性について

ア 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ,すなわち,いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標をも包含するものであり,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度,取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断されるべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照。)


イ そこで,上記の観点から,本件商標が商標法4条1項15号に該当するかどうかを検討する。上記1において判示したとおり,本件商標と各引用商標を対比すると,いずれもその特徴的な部分として「SHOESOURCE」ないし「ShoeSource」をとらえることができ,当該部分において称呼が共通するのみならず,外観及び観念(ただし,観念が生ずるとした場合に限る。)も共通するものであって,本件商標と各引用商標とは類似する。


 そして,本件商標の指定商品と各引用商標の指定商品は,いずれも第25類に属し,靴,履物等を含むものとして同一ないし類似のものである。


 また,原告は,本件商標の出願時(平成14年12月4日)までには,「ペイレスシューソース」をその略称とし,店舗数約5千店の北米最大の靴専門の小売店として我が国においても広く知られるに至っており,各引用商標も原告に係る商品を示す商標として広く知られていたと認められる(甲6〜8,弁論の全趣旨。この点について,被告は積極的には争っていない。)。


ウ そうすると,本件商標は,その出願時において,これをその指定商品に使用した場合には,これに接する取引者は,周知商標である各引用商標を連想,想起して,当該商品が原告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。


 したがって,本件商標の商標登録は,仮に商標法4条1項11号に違反しないとしても,同項15号に違反してされたものというべきである。


(2) 商標法4条1項19号該当性について

 前記1において判示したとおり,本件商標と各引用商標とは類似する。


 そして,各引用商標における「SHOESOURCE」ないし「ShoeSource」の部分は,独創的な造語であり,原告の略称及び各引用商標を除けば,本件商標以外に使用されている例は認められない。そして,原告は,本件商標の出願時(平成14年12月4日)までには「ペイレスシューソース」をその略称とし,店舗数約5千店の北米最大の靴専門の小売店として我が国においても広く知られるに至っており,各引用商標も原告に係る商品を示す商標として広く知られていたことは,前記(1)において認定したとおりである。


 そうすると,被告は,昭和35年設立に係る靴の製造,卸売り及び小売りを業とする会社であり,実際に靴店舗を出店していたのであるから(弁論の全趣旨),本件商標出願前に上記の事情を認識していたと認めるのが自然であり,本件商標の商標登録は,仮に商標法4条1項11号,15号のいずれにも違反しないとしても,同項19号に違反してされたものというべきである。


3 結論

 上記によれば,本件商標は,少なくとも,商標法4条1項11号に違反して登録されたものであるから,同法46条1項によりその登録を無効とすべきものである。したがって,これと異なる審決の判断は誤りであり,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,審決は取消しを免れない。

 よって,主文のとおり判決する。   』

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸;<気になった記事>

●『QUALCOMMBroadcom、特許訴訟で一部和解』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070320-00000018-zdn_n-sci
●『QUALCOMMBroadcom、特許訴訟で一部和解』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0703/20/news021.html

●『WSJ-ノキアが欧州でクアルコムを提訴、特許権消尽の宣言求める』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070320-00000018-dwj-biz
●『Nokia、特許消尽でQUALCOMMを提訴』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070320-00000027-zdn_n-sci
●『NokiaQUALCOMMの欧州特許失効をドイツとオランダで申し立て』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070320/265656/?ST=ittrend
●『Nokia、特許消尽でQUALCOMMを提訴』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0703/20/news022.html
●『ノキアが欧州でクアルコムを提訴・特許権消尽の宣言求める【WSJ】』http://it.nikkei.co.jp/mobile/news/index.aspx?n=MMITfa000020032007


●『「キンチョウ」の訴え退ける=電池式虫よけ器めぐる訴訟−東京地裁http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070320-00000216-jij-soci
●『電池蚊取り訴訟、金鳥に軍配 アース「特許」認めぬ判決』http://www.asahi.com/business/update/0320/146.html
●『アース製薬の特許無効 虫よけ装置「発明容易」』http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007032001000666.html
●『アース製薬の特許無効 虫よけ装置「発明容易」 』http://kumanichi.com/news/kyodo/index.cfm?id=20070320000366&cid=social
●『電池式蚊取り器、アースの特許無効と東京地裁判決』http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070320i416.htm

 ・・・本ブログの昨年の8/31の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060831)と,9/1の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060901)に取上げた“アース製薬 VS 大日本除虫菊”の事件のようです。


●『東芝、韓国ハイニックスと和解・半導体モリー特許訴訟』http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20070320AT1D200A820032007.html
●『東芝、Hynixメモリ特許紛争を終結 クロスライセンス締結』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0703/20/news108.html
●『東芝、韓国ハイニックス社と特許クロスライセンス契約と製品供給契約を締結』http://release.nikkei.co.jp/detail.cfm?relID=155964&lindID=1
●『ハイニックスと東芝がライセンス契約』http://japanese.yna.co.kr/service/article_view.asp?NEws_id=2007032000400088
●『2007/03/20-19:54 東芝半導体特許係争で和解=韓国ハイニックスから使用料』http://www.jiji.com/jc/c?g=ind_30&k=2007032000971
●『東芝とハイニックス和解、特許クロス契約と製品供給契約締結 』http://news.braina.com/2007/0320/move_20070320_001____.html
●『東芝とハイニックスが和解 特許相互利用の契約締結 2007/03/20 22:07』http://www.topics.or.jp/contents.html?m1=1&m2=&NB=CORENEWS&GI=Economics&G=&ns=news_117439870475&value=&vm=1

 ・・・知財高裁大合議で判断されていた事件のようです。和解になり、日米における全ての特許係争が取り下げられるとのことであり、知財高裁大合議により、侵害訴訟における無効の抗弁(特許法104条の3)を判断する際、平成3年リパーゼ最高裁で原則判断するのか、特許法70条2項により原則判断するのか判示されないのが残念です。
 

●『パチスロのゲームソフト著作権訴訟、4億支払いで和解』http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20070320i307.htm


●『特許電子図書館における審査書類情報照会サービス拡充のお知らせ〜「利用者の利便性を高めるために」〜 』http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/hiroba/service_kakuzyu.htm
●『平成19年4月に発効する特許協力条約規則(PCT規則)の改正の概要』http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/t_tokkyo/kokusai/pct_kisoku.htm
●『韓日共通特許出願、来月から審査がより早く簡単に』http://japanese.yna.co.kr/service/article_view.asp?NEws_id=2007032000230088
●『「知的財産推進計画2007」の策定に向けて』http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/019.pdf
●『映像コンテンツ大国の実現に向けて』http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/016/honbun.pdf