●平成18(行ケ)10292 審決取消請求事件 通信システムのインターリ

  本日は、『平成18(行ケ)10292 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「通信システムのインターリービング/デインターリービング装置及び方法」平成19年03月13日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070314112143.pdf)についてご紹介します。


 本件は、進歩性違反の拒絶審決の取消しを求めた訴訟で、原告の請求が認容され、拒絶審決が取消された事案です。


 本件では、本願発明の技術的思想が引用例に開示されていないと判断されて、進歩性なしと判断した拒絶審決が取消された点で、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁(第2部 中野哲弘 裁判長裁判官)は、


『1 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容)及び(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。


 そこで,本願発明に特許法29条2項にいう進歩性がないとした審決の適否について判断するが,事案にかんがみ,まず原告主張の取消事由4から判断する。


2 取消事由4について
(1) 本願発明にいう「仮想アドレス」及び「オフセット値」の技術的意義

ア 本願明細書(甲3)には,次の記載がある。

(ア)発明の目的及び効果

・・・

(イ)入力データのサイズ

・・・

(ウ)「仮想アドレス」を用いる理由

・・・

イ 上記ア(ア)の各記載から,本願発明の目的は,一定の特性を満たしながら,入力データのサイズLに該当するメモリ容量のみでインターリービング処理を可能とするインターリービング方法を提供することにあるものと理解できる。また,同(イ)の各記載から,インターリービング処理に使う実メモリのサイズは,入力データのサイズである「L」であることが分かる。そして,同(ウ)の各記載から,インターリービング処理に必要な読み出しアドレスを生成するために,入力データのサイズLにオフセット値を加算したサイズNの仮想アドレス領域を用意し,これを用いて所定のアルゴリズムに従ってインターリービング処理を行っていることがわかる。


ウ 以上から,本願発明における「仮想アドレス」とは,インターリービング処理の過程において,インターリービング処理に必要な読み出しアドレスを生成するために,入力データのサイズに「オフセット値」を加えることによって設定した2m (m>1)の整数倍のサイズの仮想的なアドレスを意味することであると理解できる。また,ここでいう「オフセット値」とは,入力データのサイズと仮想アドレスのサイズとの差を意味するのであって,メモリ上の実アドレスに書き込まれるデータ(情報)ではない。そして,本願発明においては,仮想アドレスのサイズは2m(m>1)の整数倍とされるのに対して,インターリービング処理においてデータの蓄積のために使用されるメモリ上のアドレスのサイズは,インターリービング処理の前後を通じて,入力データのサイズと同じで足りることも理解できる。


エ 被告は,上記のような理解は本願明細書(甲3)の記載に基づくものではないと主張する。

 確かに,本願発明に関する特許請求の範囲の記載では,「仮想アドレス」という用語が正確に定義されていない。しかし,「仮想アドレス」が「実アドレス」と対になる概念であることは通常の用語法としても明らかである。また,本願明細書(甲3)の発明の詳細な説明の記載をも参酌すれば,上記ア1の「………2m×N(Nは整数,m〔判決注:Mとあるのは誤記〕は,1より大きく,シフトレジスタの数)のサイズを有する仮想アドレス領域」という記載と,同2の「………最小限のメモリを使用する。すなわち,前記インターリーバはフレームのサイズLに該当するインターリーバメモリ容量のみを要する。」という記載に照らしても,本願発明において,「仮想アドレス」が,実際にデータが蓄積されるメモリ上の実アドレスと異なる概念であることは明らかである。


(2)引用発明にいう「サイズ調整用のデータ」の技術的意義

ア 審決は,引用発明は「入力情報データにサイズ調整用のデータを加えてインタリーブサイズとなるようにする過程を備える」(2頁第6段落)ものであると認定した。かかる認定の根拠とされた引用例(甲1)の記載は,下記のとおりである。

 ・・・

イ 審決が引用発明として認定したのは,引用例(甲1)の上記記載にいう「従来のインタリーブ方式」であるが,上記記載によれば,引用発明においては,固定された「インタリーブサイズ」にデータの個数を等しくするために,入力データに「無駄なデータ」(第4図に示された「無駄情報」)を加えてからインターリービング処理が行われていることが認められる。そして,引用例(甲1)においては,「無駄情報」を加えるに際してどのようなアドレスの設定を行うかについては何ら記載はなく,上記(1)で検討したような本願発明にいう意味での「仮想アドレス」を用いることを示唆する記載もないから,「無駄情報」は実アドレスに書き込まれると理解するのが自然である。そうすると,引用発明においては,無駄情報を書き込むための実アドレスを含めて,固定された「インタリーブサイズ」に相当する実アドレスを必要とし,書き込み・読み出し・出力というインターリービング処理における一連の動作も,実アドレス上で行われると認められる。


 この点について,本件優先日(平成10年12月21日)時点の技術常識について検討するに,特開昭64−37125号公報(乙1。2頁左上欄11行〜左下欄8行),特開平7−95163号公報(乙2。3頁3欄31行〜同4欄17行),特開平10−13252号公報(乙3。2頁1欄24行〜同2欄1行)のいずれにおいても,インターリービングの1ブロックのデータとインターリービングで使用されるアドレスは1対1に対応させられている。このように,インタリーブの1ブロックのデータの個数であるインタリーブサイズとインタリーブで使用されるアドレスのサイズは,同一とすることが本件優先日時点の技術常識であったことが認められる。


 そうすると,引用発明においては,固定された「インタリーブサイズ」に相当する実アドレスを必要とし,入力データと「無駄情報」の書込み・読出し・出力というインターリービング処理における一連の動作が実アドレス上で行われるという上記理解は,本件優先日時点の技術常識にも合致するというべきである。


(3)本願発明は,上記(1)のとおり,入力データのサイズLに(2m−L)をオフセット値として加え,2m個の仮想アドレス上でインターリービング処理を行うものであると認められる。そして,ここでいう「オフセット値」は情報(データ)ではなく,仮想的な数値である。また,インターリービング処理において使用されるメモリのサイズはLであり,インターリービング処理後に送信されるデータのサイズもLである。


 これに対して,引用発明は,入力データのサイズがL,インタリーブサイズが2mである場合を想定すれば,「サイズ調整用のデータ」である(2m−L)個の「無駄なデータ(無駄情報)」をL個の入力データに加え,これら2m個のデータを2m個の実アドレスを有するメモリ上に書き込んだ上,インターリービング処理を行うものであると認められる。そして,ここでいう「無駄なデータ(無駄情報)」も,実アドレス上の情報(データ)にほかならない。また,インターリービング処理において使用されるメモリのサイズは2mであり,インターリービング処理後に送信されるデータのサイズも2m個である。


 そうすると,審決が一致点の認定において,「入力データにサイズ調整用の情報を加算して特定の大きさのサイズとなるようにする過程を備えることを特徴とする」点で両者が一致するとしたのは,本願発明の「オフセット値」と引用発明の「無駄なデータ」の技術的意義の差異を看過したものであって,誤りである。


(4) なお,上記一致点の認定にいう「サイズ調整用の情報」が,本願発明の「オフセット値」と引用発明の「無駄なデータ」の両者を包含する上位概念であると理解すれば,一致点の認定に誤りがあるとはいえないことになる。


 しかし,「仮想アドレス」を設定してインターリービング処理をするという本願発明の技術的思想は,実アドレス上でインターリービング処理を行う引用発明の技術的思想とは別個のものであり,また,引用例には,仮想アドレス上での処理を開示又は示唆する記載もない。そして,本願発明は,仮想アドレス上での処理という構成により,引用発明に比べて,インターリービング処理のために使用されるメモリのサイズ及びインターリービング処理後に送信されるデータのサイズが少なくて済むという作用効果を奏するものであると認められる。


 しかるに,審決は相違点2についての判断において,他の引用刊行物や周知技術を何ら摘示することなく,引用発明から本願発明を想到することは当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって容易であると判断しているのであって,その判断が誤りであることは明らかである。


(5)上記のとおりであるから,原告主張の取消事由4は理由があり,審決にはその結論に影響を及ぼす誤りがある。


3 結語


 よって,その余について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。  』(※上記判決文中、2mは、2のm乗の意です。)

 と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。


追伸;<気になった記事>

●『DVD6C announces amendment of Article 3.2 of the DVD6C License Agreement』http://www.dvd6cla.com/news_20070314.html
●『MPEG LA Issues VC-1 Patent Portfolio License』http://www.mpegla.com/news/n_07-03-14_pr.pdf
●『要約: 「VC−1特許ポートフォリオ・ライセンス」発表=米MPEG』http://home.businesswire.com/portal/site/google/index.jsp?ndmViewId=news_view&newsId=20070314006130&newsLang=ja
●『「VC―1特許ポートフォリオ・ライセンス」発表=米MPEG〔BW〕』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070315-00000129-jij-biz
●『デジタル放送の「ARIB標準規格」の必須特許を弁理士らが判定』http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/etc/ito20070315.html

●『デジタル時代の著作権協議会(CCD) シンポジウム開催のお知らせ 』http://www2.accsjp.or.jp/news/release070315.html
●『平成19年度 日本商標協会 小売業研修会の案内』
http://www.jp-ta.jp/pdf/news/kouri.pdf
●『提訴後のYouTube、違法動画はまだあるか』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0703/15/news045.html
●『MS、ドメイン不当登録対策を拡大』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0703/15/news021.html
●『中国で見つけたWindows Vista“Professional 2007”ってなに?』http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/articles/0703/15/news013.html
●『「464.jp」運営者に永井豪さんら賠償請求』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0703/14/news101.html
●『米バイアコム著作権侵害でユーチューブとグーグルを提訴』http://news.braina.com/2007/0315/judge_20070315_001____.html
●『無断で生演奏させたライブハウスに著作権料支払い命令』http://news.braina.com/2007/0315/judge_20070315_002____.html