●平成18(ネ)10067 損害賠償請求控訴事件 特許権 壁面用目地

  今日は、『平成18(ネ)10067 損害賠償請求控訴事件 特許権 民事訴訟 壁面用目地装置 平成19年02月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070228161442.pdf)について紹介します。


  本件は,壁面用目地装置の発明に関する特許権を有する被控訴人が,控訴人が控訴人各物件を製造販売する行為は,本件特許権を侵害すると主張して,控訴人に対し,特許権侵害による損害賠償を求めたところ,原判決がこれを認容したため,控訴人が控訴し,(i)控訴人各物件が本件特許発明の技術範囲に属さず,また,(ii)本件特許発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるから,本件特許権に基づく権利行使は特許法104条の3により許されない旨主張して,原判決の判断を争っている事案で、控訴が棄却された事案です。



 つまり、知財高裁(第1部 篠原勝美裁判長裁判官)は、


『1 当裁判所も,被控訴人の請求は理由があるものと判断する。その理由は,次のとおり,当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」のとおりであるから,これを引用する。


2 控訴人は,控訴人各物件は,いずれも,本件特許発明の構成要件A及び構成要件Dを充足しないとして,原判決の判断が誤りである旨主張する。


(1) 控訴人は,構成要件Dの「当接するように」との文言が意味するところは,本件明細書の段落【0018】に開示された「当接」と同様であり,施工時に既に当接していることから,「平時から」目地プレート10と支持板10が傾斜面に当接していることをいう旨主張する。


 当接とは,「その部分に当たり,接していること。」(大辞林第3版)であるが,本件明細書の段落【0018】には,「次に,図12に示すように目地プレート10の先端部の傾斜面9を支持体6の支持板5に外側から当接させ,・・・」と記載され,壁面用目地装置の組み立てに当たり,目地プレートの先端部の傾斜面が,支持体の支持板に接して組み立てられることが記載されているが,同記載は,本件特許発明の一つの実施の形態であるから(本件明細書の段落【0008】),同記載によって,構成要件Dの「この回動金具に後端部が固定され,先端部が前記支持体の支持板とスライド移動可能に当接するように傾斜面に形成された目地プレートと」の「当接するように」について,平時から,支持板と目地プレートの先端部の傾斜面が接しているものに限定されるものではない。


 その他,本件明細書には,構成要件Dの「当接するように」との文言が,平時から当接することに限定されることを示唆する記載はない。


 また,控訴人は,本件明細書の段落【0004】,【0020】,【0021】及び【0027】の建物3の左右・前後・上下方向の一定幅の揺れによる変位の吸収の記載から,目地プレート10とその支持板5の傾斜面同士のスライド移動が常態であること,左右の建物が大きく離反して目地プレートの先端部が離れても,伸縮リンクによって,目地プレートが後方に回動することを阻止できることが理解でき,これは,本件特許発明には,傾斜のないフラットな支持面による目地プレートの支持,傾斜面同士の所定間隔及び建物の内側への旋回防止の策がないことに起因するものである旨主張する。


 しかし,本件明細書には,・・・との記載がある。



 これらの記載によれば,本件特許発明は,「目地部の幅寸法が小さくても左右の建物の左右方向の移動量を十分にとることができるとともに,構造が簡単で,損傷しずらい,安価な壁面用目地装置を提供すること」を目的とし,構成要件AないしG,とくに構成要件A及びDに基づいて,「左右の建物の左右方向の大きな移動量を吸収することができる。」等の効果が得られるようにしたものと認められるところ,目地プレート及び支持板の傾斜面が当接して移動することによって左右方向の移動量を吸収する機能は,フラットな支持面による目地プレートの支持や傾斜面同士の所定間隔があったとしても発揮され得るものと認められ,本件特許発明が,フラットな支持面による目地プレートの支持や傾斜面同士の所定間隔がないことを前提としているものと解することはできない。


 本件明細書の上記記載においては,建物が左右方向に揺れた場合,目地プレートの先端部が支持板に沿って押し出されるほか,上下方向に揺れた場合,支持板と目地プレートの先端部のスライド移動によって,その動きを吸収することが記載されているが,これは,本件特許発明の一つの実施の形態を説明するものであるから,この記載をもって,本件特許発明の目地プレートの先端部の傾斜面と支持体の支持板が,平時から接していなければならないことを限定したものと解することはできない。


 控訴人は,本件特許発明には,従来技術でみられた,傾斜のないフラットな支持面による目地プレートの支持,傾斜面同士の所定間隔及び建物の内側への旋回防止の策がなく,本件特許発明は,それらを必要としない構成を採用したところに有用な技術的思想があるとの主張を前提として,本件特許発明の構成要件A及びDは,「建物が前後左右上下方向に揺れた場合に,目地プレートの先端部が支持板をスライドする」という作用効果とともに,「平時から目地プレート10と支持板5が傾斜面において当接しており」という作用効果の双方を具備すべきものであると主張するのであるが,本件特許発明は,傾斜のないフラットな支持面による目地プレートの支持,傾斜面同士の所定間隔及び建物の内側への旋回防止の策がない構成に限定されるものとは解されないことは上記のとおりであるから,控訴人の主張は前提を欠くものであり,採用の限りではない。


(2) 控訴人は,本件特許発明の作用効果と控訴人各物件の作用効果は異なり,本件特許発明の作用効果を奏さない控訴人各物件にその技術的範囲を及ぼすべきでない旨主張する。


 まず,控訴人は,別紙1に示すとおり,本件特許発明においては,建物が上下方向に揺れた場合,付勢スプリングにより付勢の力が全面的に作用しているため,負荷が高く実用的ではない傾斜面同士の上下のスライド移動により揺れを吸収することとなるのに対し,控訴人各物件においては,目地プレートは,引っ張り装置(バネ付勢手段)による付勢が働いている状態でも旋回防止片(ストッパ)により建物壁面に対して90度より内側に入り込まないように設置され,フラットな支持面と目地プレートとが上下方向に摺動するだけであり,本件特許発明の作用効果を奏さない旨主張する。


 しかし,本件特許発明の目的,効果にかんがみれば,本件特許発明は,上下方向の動きを吸収するための構成を発明の構成として特定しているとまでいうことはできないばかりでなく,前記(1)の本件明細書の段落【0021】の記載に照らしても,本件特許発明の実施の形態は,上下方向の移動について,支持板,目地プレートの先端部が上下方向に移動することによって吸収しているのであり,上下方向に移動することにより吸収している点において,控訴人各物件と差異はなく,控訴人の主張は失当である。


・・・


3 控訴人は,本件特許発明は,乙10考案,あるいは,乙16文献,乙17文献,乙18文献,乙9文献に各記載の各考案,発明,又は装置に対し,乙11考案を組み合わせて容易に想到できたものであるとして,これを否定した原判決の判断を誤りである旨主張する。


・・・


(3) 控訴人は,乙10考案に対し,乙11考案におけるパンタグラフ式保持機構2を組み合わせる動機付けがあること,また,乙16文献,乙17文献,乙18文献,乙9文献に各記載の各考案,発明又は装置に対し,乙11考案におけるパンタグラフ式保持機構2を組み合わせる動機付けがあることを主張する。


 しかし,そもそも,上記のとおり,乙11考案のパンタグラフ式保持機構2は,本件特許発明の「伸縮リンク」に相当するものとして理解することはできず,乙11文献は,構成要件Eの「伸縮リンク」を開示ないし示唆しているとはいえないものである。



 さらに,乙11文献には,・・・との記載があり,これによれば,パンタグラフ式保持機構2は,弾発保持機構5を介して継手本体3を連結し,継手本体3を前後方向あるいはボルト20の軸心廻りに揺動可能とするものと認められる。このことに,上記のとおり,乙11文献において,パンタグラフ式保持機構2が,パンタグラフにおける支持プレート先端部の支持板より内側に継手本体3が入り込むのを阻止する機能を有するものであることの示唆があるといえないことにかんがみれば,パンタグラフ式保持機構2のみを,弾発保持機構5を介して継手本体3を連結する構成と切り離して,乙10考案等と組み合わせる起因ないし契機があるということもできない。


 そうすると,乙10考案等に乙11考案におけるパンタグラフ式保持機構2を組み合わせて,本件特許発明の構成に想到することが容易でないことは明らかである。控訴人の主張は,採用の限りでない。

4 以上によれば,被控訴人の請求は理由があり,これを認容した原判決は相当であって,控訴人の控訴は理由がない。


 よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。  』


と判示されました。



 本件は、損害賠償事件の控訴審であり、特許法第70条2項の規定により明細書の記載が原則参酌されることになりますが、特許請求の範囲の「当接するように」の用語の意義が実施の形態の記載に限定されず、本件特許発明の作用効果が明細書に記載された本件特許発明の目的,効果を参照して判断された点において、本件明細書等は参考になるものと思われます。


 尚、詳細は、本判決文を参照して下さい。


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