●平成10(ワ)12875 特許権 民事訴訟 ポリオレフィン用透明剤事件

  今日も、完成品の実施が海外で、国内での製造・販売がその部品で間接侵害を否定された、

 『平成10(ワ)12875 特許権 民事訴訟 「ポリオレフィン用透明剤事件」 平成12年12月21日 大阪地方裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/DD4884574DBBB94C49256ACA001C237D.pdf)について紹介します。



 大阪地裁は、争点1(間接侵害性)について

『1 被告が被告製品を、これまで外国向けにのみ輸出、販売し、日本国内向けに販売していないことは当事者間に争いがない。

・・・

 右事実によれば、被告には、今後も、被告製品を日本国内向けに製造、販売するおそれがないものと認められる。


2 原告は、被告製品が外国向けにのみ輸出、販売されるものであっても、特許法一〇一条所定の「その物の生産にのみ使用する物」(一号)及び「その発明の実施にのみ使用する物」(二号)に当たると主張する。


(一) 本来、特許権は、業として特許発明の実施をする権利を専有するものである(特許法六八条)から、特許権侵害とされるべきものは、物の発明においてはその物の生産、販売等の行為であり、方法の発明においては当該方法を使用して当該特許発明を実施する行為であるのが原則である(特許法二条三項)。


 しかしながら、物の発明の場合のその物の生産、販売等の行為や、方法の発明の場合の当該方法の使用行為を、特許権者がすべて捕捉することは容易ではないことから、発明に係る物の生産、販売や方法の使用行為のみを規制の対象とするのでは、特許権の効力の実効性を確保するのに十分とはいえない。


 そしてこの場合、発明に係る物の生産に当たっては材料や装置を使用することが通常であるし、発明に係る方法の使用に当たっても何らかの物を用いることが通常であることから、発明に係る物の生産に用いられる物(材料又は装置)や、発明に係る方法の使用に用いられる物の生産、販売等を規制することとすれば、特許権の効力の実効性を確保するために寄与するところが大きいと考えられる。


 しかし他方、発明に係る物の生産や、発明に係る方法の使用に用いられる物は多種多様であり、それらの生産、販売等を一律に規制の対象としたのでは、本来特許権の効力が及ばないはずの、当該特許発明の実施以外の行為をも規制することにつながり、特許権の効力が不当に拡張されることになるおそれもある。


 特許法一〇一条が、特許権を侵害するものとみなす行為の範囲を、発明に係る物の生産「にのみ」使用する物(一号)及び発明に係る方法の実施「にのみ」使用する物(二号)を生産、譲渡等する行為に限定したのは、以上のような考慮に基づくものであって、そのような性質を有する物であれば、それが生産、譲渡される等の場合には侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高いことから、その生産、譲渡等を規制しても特許権の効力の不当な拡張とならないとの趣旨に出るものであると解される。


 このように、特許法一〇一条は、特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその実効性を確保するという観点から、特許権侵害とする対象を、それが生産、譲渡される等の場合には当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産、譲渡等に限定して拡張する趣旨に基づくものである。


 そうすると、「その物の生産にのみ使用する物」(一号)及び「その発明の実施にのみ使用する物」(二号)という要件が予定する「生産」及び「実施」がどのようなものでなければならないかを検討するに当たっては、当該特許発明の直接侵害行為(実施行為)を規制することとは別に、間接侵害行為をどの程度まで規制することが、特許権の効力の不当な拡張とならない範囲で特許権の効力の実効性を確保するものといえるかという観点を抜きにしては考えられないものというべきである。


 ところで、本来、日本国外において、日本で特許を受けている発明の技術的範囲に属する物を製造し又は方法を使用してその価値を利用しても、日本の特許権を侵害することにはならない。それは、日本における特許権が、日本の主権の及ぶ日本国内においてのみ効力を有するにすぎないことに伴う内在的な制約によるものであり、一般に属地主義として承認されているところであるが、このような見地からすると、特許法二条三項にいう「生産」、「実施」は、日本国内におけるもののみを意味すると解すべきである。


 そうすると、外国において発明に係る物の生産や発明に係る方法の使用に供される物についてまで、「その物の生産にのみ使用する物」、「その発明の実施にのみ使用する物」であるとして特許権の効力を拡張する場合には、日本の特許権者が、本来当該特許権によっておよそ享受し得ないはずの、外国での実施による市場機会の獲得という利益まで享受し得ることになり、不当に当該特許権の効力を拡張することになるというべきである。


 したがって、「その物の生産にのみ使用する物」における「生産」、「その発明の実施にのみ使用する物」における「実施」は、日本国内におけるものに限られると解するのが相当であり、このように解することは、前記のような特許法二条三項における「生産」、「実施」の意義にも整合するものというべきである。


(二) しかるところ、1で認定した事実によれば、被告製品は日本国内で製造されてはいるものの、これまですべて外国向けに販売、輸出されており、今後も日本国内向けに販売されるおそれは認められないのであるから、仮に被告製品が乾式混合の過程で必ず本件発明所定の粒径の要件を充足するに至るとしても、それは外国での「生産」や「実施」の過程でのみ生じるにすぎないから、被告製品は、一〇一条所定の要件を満たさないというべきである。


 したがって、被告製品の製造、販売は、過去に行われたものについては本件特許権の間接侵害とはならず、また今後も被告が被告製品を製造、販売することによって本件特許権を間接侵害するおそれは認められない。


二 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。  』

と判示されました。




 間接侵害は、独立説や、従属説、折衷説などの色々な学説や論点があり、また、今回の法改正により、平成19年1月1日より、発明の行為として輸出行為が含まれ(特許法第2条第3項)、しかも間接侵害行為として輸出のために所持する行為が含まれるように改正されましたので(特許法第101条第3号、第6号)、直接侵害を構成する完成品や、間接侵害を構成する部品とこれら輸出の規定の適用の有無、そして特許発明が物の発明である場合、方法の発明である場合のこれらの規定の適用の有無は、明確に整理して理解しておく必要がありますね。



追伸;<気になった記事>

●『米3M、リチウム電池の特許侵害でソニー・日立など11社を提訴』http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20070308AT2M0801G08032007.html
●『米3M、「リチウム電池」特許侵害でソニーなど提訴』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070308-00000405-yom-bus_all
●『米3M、リチウムイオン電池の特許侵害でソニーや松下など提訴』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070308-00000256-reu-bus_all
●『リチウム電池特許侵害でソニーなど11社提訴 米3M』http://www.sankei.co.jp/keizai/sangyo/070308/sng070308002.htm
●『米3M、「リチウム電池」特許侵害でソニーなど提訴』http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070308i405.htm?from=main4
●『Google Earthめぐる特許侵害訴訟が棄却』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0703/08/news052.html
●『IntelとAmberWaveが和解,ストレインドSi特許のライセンス料支払いで合意 』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070306/263941/?ST=kessan
●『 音楽11社、ヤフーを提訴 不法配信賠償求め 』http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200703080009a.nwc
●『日本レコード協会著作権「認証機関」に 楽曲輸出の本格化期待 』http://www.business-i.jp/news/china-page/news/200703080008a.nwc
●『北京:偽物「リーバイス」販売会社に50万元の賠償命令』http://www.xinhua.jp/newsdetails.aspx?newsid=P100007365&cate_id=704