●平成15(ワ)16924 損害賠償等請求事件 特許権 多関節搬送装置

  今日は、土曜日のRCLIP協賛のセミナー『3月3日開催 RCLIP協賛−国際知的財産権紛争処理シンポジウム』にて、設楽判事が国境を越える間接侵害の一例として挙げられた、ハイテック・プロダクト事件である,

『平成15(ワ)16924 損害賠償等請求事件 特許権 民事訴訟「多関節搬送装置,その制御方法及び半導体製造装置」平成19年02月27日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070301170251.pdf)について取上げます。


 本件の結論としては、昨日紹介した『平成8(ワ)12109  特許権 民事訴訟 「製パン器事件」 平成12年10月24日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/D3E9D8C99CBE33E249256A77000EC3B6.pdf)にと同様に、輸出など外国でのみ実施される製品についての日本国内における間接侵害を否定しています。



 つまり、東京地裁は、

『2 イ号物件の未完成品の製造ないし販売について直接侵害ないし間接侵害が成立するか(争点2)。

(1) 直接侵害の成否

ア 証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

 被告は,第3アーム(3a)及び第3アーム(3b)を備えないイ号物件(未完成イ号物件)を製造し,これにエンドエフェクターと呼ばれる検査用の部品を設置して駆動検査を行った上,これを輸出している。未完成イ号物件を韓国に輸出する場合には,被告の子会社である韓国法人ローツェ・システムが,外国において製造した第3アーム(3a)及び第3アーム3b を未完成イ号物件を購入した者に対してこれを譲渡している。


 以上の認定事実によれば,被告が未完成イ号物件を生産し,海外に輸出する行為については,これをもって国内においてイ号物件の完成品を製造し,譲渡する行為と評価することはできない。


イ 原告は,未完成イ号物件にエンドエフェクターを設置した物は本件各特許発明の技術的範囲に属するから,未完成イ号物件にエンドエフェクターを設置する行為は本件各特許発明の実施行為生産に当たると主張する。


 しかし,エンドエフェクターは性能検査のために一時的に設置されるものにすぎず,製品の一部を構成しておらず,また,未完成イ号物件とともに販売される部品でもないから,未完成イ号物件にエンドエフェクターを設置する行為をもって本件各特許発明の実施品を生産する行為ということはできない。


 また,原告は,本件においては,未完成イ号物件について,必要な部品をすべて日本で生産し,その組み立てを海外で行っている場合と同視できるとも主張する。しかしながら,本件においては,被告が未完成イ号物件について必要なすべての部品を日本で生産しているとの事実を認めるに足りる証拠はないから,原告の主張は採用し得ない。


 したがって,被告による未完成イ号物件の製造,販売(輸出)行為について本件特許権直接侵害は成立しない。


(2) 間接侵害の成否

 ア 特許法101条柱書き及び同1号は「特許が物の発明についてされている場合において,業として,その物の生産にのみ用いる物の生産,譲渡若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」について「当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす」旨規定する。


イ 未完成イ号物件のうち国内販売分について

 未完成イ号物件は,イ号物件のうち第3アーム(3a)及び第3アーム(3b)のみを有しないものであり,その余の構成はイ号物件と全く同一であるから,イ号物件の生産にのみ用いる物に当たり,前記のとおり,イ号物件は本件各特許発明の技術的範囲を充足する。

 したがって,未完成イ号物件のうち,国内販売分を製造譲渡する行為は,特許法101条1号の規定する行為に当たる。


ウ 未完成イ号物件のうち海外輸出分について

 特許法101条は,特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその実効性を確保するという観点から,特許権侵害とする対象を,それが生産,譲渡される等の場合には当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産,譲渡等に限定して拡張する趣旨の規定であると解される。


 そうすると「その物の生産にのみ使用する物(1号)」という要件が予定する「生産」は,日本国内における生産を意味するものと解釈すべきである。


外国におけるイ号物件の生産に使用される物を日本国内で生産する行為についてまで特許権の効力を拡張する場合には,日本の特許権者が,属地主義の原則から,本来当該特許権によっておよそ享受し得ないはずの,外国での実施による市場機会の獲得という利益まで享受し得ることになり,不当に当該特許権の効力を拡張することになるというべきである。


 本件についてみると,前記(1)アの認定事実によれば,未完成イ号物件は外国におけるイ号物件の生産に使用されるものであって,日本国内におけるイ号物件の生産に使用されるものではないから,特許法101条1号の「その物の生産にのみ用いる物」に当たるということはできない。

(3)小括

 被告による未完成イ号物件の製造ないし販売については,国内販売分については特許法101条1号により本件特許権の侵害に当たるものの,海外輸出分については直接侵害も間接侵害も成立しない。

・・・



4 ロ号物件の未完成品の製造ないし販売について直接侵害ないし間接侵害が成立するか(争点4 )。

(1) 直接侵害の成否

ア 証拠(甲14)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。


 被告は,ロ号物件を外国に輸出する際には,第3アーム(3a)及び第3アーム(3b)を備えず,かつ,アーム部各部の回動を個別に制御するコンピュータ,コントローラ,ドライバ,ソフトウエア等を欠いたロ号物件(未完成ロ号物件)を製造し,これにエンドエフェクターと呼ばれる検査用の部品を設置して駆動検査を行った上,これを輸出している。未完成ロ号物件を韓国に輸出する場合には,被告の子会社である韓国法人ローツェ・システムが,外国において製造した第3アーム(3a)及び第3アーム(3b)及びアーム各部の回動を個別に制御するコンピュータ等を未完成ロ号物件を購入した者に譲渡している。


 以上の認定事実によれば,被告は,未完成ロ号物件を生産し,これを海外へ輸出しているのであり,その行為をもって国内においてロ号物件の完成品を製造し,譲渡しているものと評価することはできない。


イ 原告は,未完成ロ号物件にエンドエフェクターを設置し,何らかのアーム部各部の回動をロ号物件と同様に制御するためのシステムを備えた物は本件各特許発明の技術的範囲に属するから,未完成ロ号物件にエンドエフェクター及びそのような駆動制御システムを設置する行為は本件各特許発明の実施行為(生産)に当たると主張する。しかし,エンドエフェクター及び上記駆動制御システムは性能検査のために一時的に設置されるものにすぎず,製品の一部を構成しておらず,また,エンドエフェクター及び上記駆動制御システムが未完成ロ号物件とともに販売される部品とは認められないから,未完成ロ号物件にエンドエフェクター及び上記駆動制御システムを設置する行為をもって本件各特許発明の実施品を生産する行為ということはできない。


なお,被告は未完成ロ号物件が第3アーム(3a),及び第3アーム(3),(b)並びに駆動制御部を有していないことを証明する証拠として,被告代表者作成の報告書(乙18。以下「乙18報告書」という)を提出するものの,同報告書は,相当な範囲にわたってブランクとなっているだけでなく,充分に整理されていないところもあることから,現段階においては,これを認定証拠としては採用しないこととする。ただし,未完成ロ号物件の存在については,原告も積極的にはこれを争っていないことから,前記のとおり,認定する。


(2) 間接侵害の成否

 特許法101条柱書き及び同1号は「特許が物の発明についてされている場合において,業として,その物の生産にのみ用いる物の生産,譲渡若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」について「当該特許権又は専用実施権を侵害するものとみなす。」旨規定する。

 特許法101条は,特許権の効力の不当な拡張とならない範囲でその実効性を確保するという観点から,特許権侵害とする対象を,それが生産,譲渡される等の場合には当該特許発明の侵害行為(実施行為)を誘発する蓋然性が極めて高い物の生産,譲渡等に限定して拡張する趣旨の規定と解される。


 そうすると,「その物の生産にのみ使用する物(1号)」という要件が予定する生産は,日本国内における生産を意味するものと解釈すべきである。


外国におけるロ号物件の生産に使用される物を日本国内で生産する行為についてまで特許権の効力を拡張する場合には,日本の特許権者が,属地主義の原則から,本来当該特許権によっておよそ享受し得ないはずの,外国での実施による市場機会の獲得という利益まで享受し得ることになり,不当に当該特許権の効力を拡張することになるというべきである。


 本件についてみると,前記(1)アの認定事実によれば,未完成ロ号物件は外国におけるロ号物件の生産に使用されるものであって,日本国内におけるロ号物件の生産に使用されるものではないから,特許法101条1号の「その物の生産にのみ用いる物」に当たるということはできない。


(3) 小括

 未完成ロ号物件の製造及び海外への輸出については,本件特許権直接侵害も間接侵害も成立しない。   』

と判示されました。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。



追伸1;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ネ)10060 商標権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件 商標権「MONSTER GAME」民事訴訟 平成19年03月06日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070307132957.pdf
●『平成18(行ケ)10285 審決取消請求事件 特許権 「案内ボス部付ボルト及びその製造方法」 行政訴訟 平成19年03月06日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070307113436.pdf




追伸2;<気になった記事>

●『日本電産、特許侵害で韓国LG電子子会社を米国で提訴』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070307-00000044-reu-bus_all
●『日本電産、韓国LG系電子部品会社を特許侵害で提訴』http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/soumu/index.cfm?i=2007030707770b3
●『デュダスUSPTO 長官、上院歳出委員会小委員会で証言』http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070305.pdf
●『コミュニティーパテントレビュー(情報提供の奨励施策)について米紙報道〜 IBM も記事内容は概ね事実と認める〜』http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070306_1.pdf
●『USPTO が商標の紙媒体サーチ資料の一部廃棄を決定』http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070306_2.pdf
●『独ODSなどにMPEG―2ライセンス供与=米MPEG LA〔BW〕』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070307-00000090-jij-biz
●『要約: 独ODSなどにMPEG−2ライセンス供与=米MPEG LA』http://home.businesswire.com/portal/site/google/index.jsp?ndmViewId=news_view&newsId=20070306005904&newsLang=ja
●『ODS and ODS Business Services Enter Into MPEG-2 Licenses with MPEG LA』http://www.mpegla.com/news/n_07-03-06_pr.pdf
●『米HP,中国Ninestar Image社と互換インク・カートリッジの特許侵害訴訟で和解』http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070307/128552/j
●『Microsoft,出版業界団体の総会でGoogleの書籍検索サービスを著作権侵害と批判 』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070307/264083/
●『中小企業の戦略を考える(1) 』http://www.business-i.jp/news/for-page/chizai/200703070003o.nwc
●『中小企業のための商標・著作権セミナー 〜19年4月からの小売等役務商標制度について〜』http://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/seminar/0327shouhyou.html
●『北京:知的財産権の訴訟を扱う裁判所を増加 』http://www.xinhua.jp/newsdetails.aspx?newsid=P100007331&cate_id=510
●『海賊版めぐる裁判で海外の映画3社が勝訴 上海』http://www.people.ne.jp/2007/03/07/jp20070307_68542.html
●『マイクロソフト:Vista海賊版対策は「良心に訴え」?』http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0307&f=it_0307_003.shtml