●平成18(行ケ)10512 審決取消請求事件 商標権 「くつろぎ」

 今日は、『平成18(行ケ)10512 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「くつろぎ」平成19年03月01日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070302102000.pdf)について取上げます。


 本件は、4条1項11号違反を理由とする商標登録無効審判の取消を求めた訴訟で、原告の請求が棄却された事件です。


 「くつろぎ」の文字を標準文字で横書きしてなる本件登録商標と、「寛」の文字を毛筆風に書してなる引用登録商標とが、非類似と判断された点で参考になるかと思います。



 つまり、知財高裁(第4部 塚原朋一裁判長裁判官)は、

『1 引用商標の称呼についての認定の誤りについて

(1) ・・・国語辞典等においては,冨山房発行の「修訂大日本國語辞典新装版」(1961年(昭和36年)発行,甲4),岩波書店発行の「広辞苑第二版補訂版」(昭和51年12月1日第二版補訂版発行,甲5の1),小学館発行の「日本国語大辞典〔縮刷版〕」(昭和55年2月20日縮刷版第一版第一刷発行,甲11),冨山房発行の「新編大言海」(昭和57年2月28日新編版初版発行,甲3)及び岩波書店発行の「広辞苑第三版」(昭和58年12月6日第三版発行,甲5の2)には,「くつろぎ」の見出しとともに「寛」の文字が記載されているが,小学館発行の「大辞泉増補・新装版」(平成10年11月20日第一版〈増補・新装版〉第一刷発行,甲15)及び岩波書店発行の「広辞苑第五版」(平成10年11月11日第五版第一刷発行,甲29)には,「くつろぎ」の見出しとともに「寛ぎ」の文字が記載されている。


 また,大修館書店発行の「大漢語林」(平成4年4月25日初版第一刷発行,甲16)には,「寛」の見出しに「カン」の文字が記載され,岩波書店発行の「岩波新漢語辞典第二版」(平成12年1月25日第二版第一刷発行,甲17)には,「寛」の見出しとともに「カン〈クヮン〉ひろい・ゆるやか・くつろぐ(名)ひろ・ひろし」との文字が記載されている。


(2) 本件商標の指定商品は,「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」であり,引用商標のそれは,「ビール」及び「日本酒,洋酒,果実酒,中国酒,薬味酒」であって,取引者及び需要者を共通にし,かつ,需要者は,漢字に対し特別な知識を有していない一般大衆であって,これを購入するに際して払われる注意は高度なものではないということができる。

 そして,上記(1)のとおり,当用漢字改定音訓表(昭和47年6月28日)や常用漢字表(昭和56年10月1日内閣告示)は,一般の社会生活における漢字使用の目安を示したものであるが,漢字「寛」について「カン」と記載し,また,近時の国語辞書においては,「くつろぎ」の見出しに「寛ぎ」と記載されていることを併せ考えると,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,取引者及び需要者は,引用商標を構成する「寛」の文字について,通常,「カン」と読むほか,人名の「ヒロシ」と読み,送り仮名に「ぎ」が付されているのであれば格別,送り仮名に「ぎ」が付されていないにもかかわらず,ことさらに「クツロギ」と読むことがあるとは認め難い。


 そうであれば,引用商標からは,「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生じるものであって,「クツロギ」の称呼が生じるとは認められない。


(3) 原告は,「くつろぎ」の見出しに「寛」の表示をしている国語辞典は現在でも存在するし,「当用漢字改訂音訓表」や「常用漢字表」は,漢字使用の目安を示したもので,表示した音訓以外は使用しないという精神によって定められたのではなく,また,「送り仮名について」(昭和48年6月18日内閣告示)が改正された昭和56年以前に社会人であった者は多数存在しているのであって,「寛」の表示を「くつろぎ」と称呼する需要者も少なくないから,引用商標から「クツロギ」の称呼が生ずると主張する。


 しかしながら,「寛」の文字から「クツロギ」と読むことができるとしても,上記(2)のとおり,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,取引者及び需要者が,「寛」の文字について,ことさらに「クツロギ」と読むとは認め難いのであって,引用商標から「クツロギ」の称呼が生じるとは認められない。原告の上記主張は,採用することができない。


(4) したがって,「引用商標からは「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生ずるというのが相当である。」とした審決の認定に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。



2 引用商標の観念についての認定の誤りについて

(1) 上記1のとおり,引用商標を酒類等に使用したときに,「寛」の文字について,取引者及び需要者がことさらに「クツロギ」と読むとは認め難いから,取引者及び需要者は,引用商標から生ずる「カン」又は「ヒロシ」の称呼に対応して,「寛」の文字を含む「寛大」,「寛容」,「寛厳」等の熟語や人名の「寛(ひろし)」を想起し,「クツロギ」の称呼から連想される「くつろぐこと,余裕」を想起するとは考え難い。


 そうであれば,引用商標からは,「寛大」,「寛容」,「寛厳」等の熟語や人名の「寛(ひろし)」の観念が生じると認められる。


(2) 原告は,送り仮名のない漢字一文字からであっても,当該漢字の有する観念が生じる上,引用商標については,「クツロギ」の称呼が生じるのであるし,「寛」の文字自体に,度量が広い(豊か),ゆるやか,くつろぐ等の意味があるほか,「寛仮」,「寛窄」といった「くつろぐ」の観念を含む述語があるから,引用商標から「くつろぐこと,余裕」の観念が生じると主張する。


 しかしながら,「極」のように,送り仮名のない漢字一文字から当該漢字の有する観念が生じたり,「寛」の文字自体にくつろぐ等の意味があるとしても,上記のとおり,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標を酒類等に使用したときに,引用商標から「クツロギ」の称呼が生ずるとは認められないから,「寛大」,「寛容」,「寛厳」等の熟語や人名の「寛(ひろし)」との観念のほかに,さらに「くつろぐこと,余裕」の観念が生じるとは認められない。原告の上記主張は,採用することができない。


(3) したがって,「「寛大」,「寛容」,「寛厳」といった熟語ないしは人名としての「寛(ひろし)」を想起するというのが自然である。」とした審決の認定に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。



3 本件商標と引用商標とが非類似であるとの判断の誤りについて

(1) 本件商標は,その構成自体に照らして,「クツロギ」の称呼が生じるものであるところ,上記1のとおり,引用商標からは「カン」又は「ヒロシ」の称呼が生じるから,本件商標と引用商標とは,称呼において相違する。また,本件商標は,その構成自体に照らして,「くつろぐこと,余裕」の観念が生じるものであるところ,上記2のとおり,引用商標からは「寛大」,「寛容」,「寛厳」といった熟語ないしは人名としての「寛(ひろし)」の観念が生じるから,本件商標と引用商標とは,観念において相違する。さらに,本件商標と引用商標とが外観において相違することは明らかである。


 そうであれば,本件商標は引用商標に類似しない。


(2) 原告は,(i) 引用商標は,「くつろぎ」の文字を縦書きしてなり,酒類を指定商品とする登録第1011976号商標(昭和48年5月10日設定登録)の連合商標として登録出願された,(ii) 「くつろぎの」の文字を縦書きしてなり,酒類を指定商品とする商標登録出願(商願昭59−97163号)について,引用商標を引用して拒絶理由が通知された,(iii) 原告は,昭和56年6月ころから,引用商標に「くつろぎ」を併記して,これを継続的に使用している,(iv) 引用商標のように,動詞の連用形が名詞化した漢字一文字からなる商標とその漢字の読みの平仮名からなる商標とは同一の称呼及び観念が生ずるものであり,今日において,上記の連合商標等の審査をした当時の特許庁の判断を変更しなければならない社会現象や国語の変更があったとする格別の証拠はないから,本件商標と引用商標とは相類似する商標であると主張する。


 しかしながら,本件商標と引用商標とが類似するか否かは,両商標の指定商品の取引の実情を考慮して,個別具体的に判断すべきものであるところ,本件において,上記1,2のとおり,簡易迅速性を重んじる取引の実情において,引用商標から「クツロギ」の称呼や「くつろぐこと,余裕」の観念が生ずるとは認められないのであるから,原告主張の事情があったとしても,これをもって,本件商標と引用商標との類否の判断に影響を及ぼすものであるとはいえない。原告の上記主張は,採用の限りでない。


(3) したがって,「本件商標と引用商標とは,称呼,観念及び外観のいずれの点からみても相紛れるおそれのない非類似の商標といわなければならない。」とした審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由3は理由がない。


第5 結論

 以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由はすべて理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。   』


と判示されました。


 詳細は、判決文を参照して下さい。



追伸1;<新たに出された判決>

●『平成17(行ケ)10818 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「タキソールを有効成分とする制癌剤」平成19年03月01日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070302134304.pdf
●『平成18(行ケ)10512 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟「くつろぎ」平成19年03月01日 知的財産高等裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070302102000.pdf




追伸2;<気になったニュース>

●『知的財産侵害物品 差し止め件数、過去最大』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070302-00000009-maip-soci
●『欧州委員会、「MSのロイヤリティは高すぎる」との見解、罰金の可能性も』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070302-00000035-zdn_n-sci
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●『ソニー、振動型ゲームコントローラ問題をようやく解決--特許訴訟で和解』http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20344418,00.htm
●『SCEとImmersion、振動コントローラ特許訴訟で和解』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0703/02/news025.html