●平成18(行ケ)10126審決取消請求事件 特許権「地下構造物用錠装置

 今日は、『平成18(行ケ)10126 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「地下構造物用錠装置」平成19年02月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070222162724.pdf)について取上げます。


 本件は、訂正審判の棄却審決の取消を求めた審決取消請求事件で、原告の請求が棄却された事件です。


 審判では、請求項1に記載した発明特定事項である『鉤部材(15)は枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21,42)により上下方向へ移動可能に設けられて』を、『鉤部材(15)は枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されて軸部(21,42)により上下方向へ移動可能に設けられて』に訂正する訂正事項aは、訂正前の請求項1に記載された『軸部』はガイド部に案内されることが必須の構成であったものが,訂正後の請求項1に記載された『軸部』はガイド部に案内されないものも含むものとなるので、特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものに該当し,平成15年改正特許法第126条第4項の規定に違反するものと判断し、棄却しました。


 知財高裁では、

 1 取消事由(訂正事項aが実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものとした判断の誤り)について


(1) 訂正事項aは,特許請求の範囲の請求項1の「鉤部材(15)は・・・かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内される軸部(21,42)により上下方向へ移動可能に設けられており」との記載を,「鉤部材(15)は・・・かつ枠体の内側に設けられているガイド部(19)に案内されて軸部(21,42)により上下方向へ移動可能に設けられており」との記載に訂正するというものである。


 そして,訂正前の請求項1の記載によれば,その発明の構成において「ガイド部」に案内されるものは「軸部」であることが明らかであり,また,訂正後の請求項1の記載によればその発明の構成においては「ガイド部」に案内されるものは「鉤部材」となることが明らかである。すなわち,(i)「軸部」は,訂正前の請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内される」ことが必須の構成とされていたが訂正後の請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内される」ことが必須の構成とはされず,また,(ii)「鉤部材(15) 」は,訂正前の請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成とされていないものであったが,訂正後の請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成とされるに至っているものである。


 しかるところ,原告は,請求項1記載の発明において「軸部」がガイド部に案内されることが,必須の構成であったとすることが不合理であり,当業者は,請求項1に係る「ガイド部(19)に案内される軸部(21,42)により」との記載が誤記又は不明瞭な記載であって「本来鉤部材(15)」 は・・・「ガイド部(19)に案内されて「軸部(21,42)により」であると容易に理解するものであると主張するが,以下のとおり,この主張を採用することはできない。


・・・


 訂正前の請求項1は,その記載により「軸部」が「枠体の内側に設けられているガイド部」に案内され,その「軸部」により「鉤部材」が上下方向へ移動可能に設けられていることが,一義的に理解されるものであり,何ら不明瞭な点は存在しない。


 したがって,訂正事項aは,(i)請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内されることが必須の構成とされていた軸部(21,42)を「ガイド部(19)に案内される」ことが必須の構成とされなくするものであり,また,(ii)請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成とされていない「鉤部材(15)」を「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成とされるようにするものであって,(i)は実質上特許請求の範囲を拡張するものに該当し,(ii)は実質上特許請求の範囲を変更するものに該当するものというべきである。


(2) ア 原告は「訂正事項aは,軸部がガイド部に案内される構成を含む実施例2に相当する請求項1に係る発明を,軸部がガイド部に案内される構成を必須の構成としない実施例1に相当する発明に変更,または,実施例1及び実施例2の両者が含まれる発明に拡張しようとするものであるといえる。」との判断が誤りであると主張する。


イしかしながら,本件明細書には,実施例1,2に関し,図面とともに,下記記載がある。

・・・

 そして,訂正事項aは,(i)請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内される」ことが必須の構成とされていた「軸部(21,42) 」を「ガイド部(19)に案内される」ことが必須の構成とされなくするものであり,また,(ii)請求項1に係る発明においては「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成とされていない「鉤部材(15) 」を「ガイド部(19)に案内」されることが必須の構成とされるようにするものであることは上記(1)のエのとおりであるから「訂正事項aは,軸部がガイド部に案内される構成を含む実施例2に相当する請求項1に係る発明を,軸部がガイド部に案内される構成を必須の構成としない実施例1に相当する発明に変更,または,実施例1及び実施例2の両者が含まれる発明に拡張しようとするものであるといえる。」との審決の判断に何ら誤りはない。


エ 原告の上記主張は,訂正前の請求項1の「ガイド部(19)に案内される」との記載は「ガイド部(19)に案内されて」の誤記であり,上記発明の詳細な説明及び図面に,実施例1,2に共通する構成として「鉤部材(15)がガイド部(19)に案内される」ことが示されており,請求項1には,この事項が,実施例1,2に共通する必須の構成として記載されていなければならないとの主張を根拠とするものである。


 しかしながら,訂正前の請求項1は,その記載により「軸部」が「枠体の内側に設けられているガイド部」に案内され,その「軸部」により「鉤部材」が上下方向へ移動可能に設けられていることが,一義的に理解され,何ら不明瞭な点は存在しないものであることも,上記(1)のエのとおりであり,また,上記イの各記載を含む本件明細書によれば,訂正前の請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に実施例2として記載された発明に相当するものと認められ,請求項1の記載と発明の詳細な説明との間に,何らかの齟齬があるということもできないから,原告の上記主張は失当である。


 もっとも,上記第2の2の(2)によれば,本件訂正審判請求前の特許請求の範囲1には,請求項3を含め,発明の詳細な説明に実施例1として記載された発明に相当する発明の記載がないことになるが,特許請求の範囲の記載は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること(特許法36条6項1号)を要するものの,発明の詳細な説明に記載した発明の全部を,特許を受けようとする発明として,特許請求の範囲に記載することが要求されているわけではなく(同法29条の2は,このことを前提とするものである。),現に,特許請求の範囲に記載されていない発明が,発明の詳細な説明に記載されている例も,格別珍しいものではないことは,当裁判所に顕著である。したがって,実施例1が特許請求の範囲に記載されていないからといって,上記判断が左右されるものではない。


(3) 原告は訂正前の請求項1の「ガイド部(19)」に案内される「軸部(21,42)により」との記載が不明確であるとの主張を前提として「請求項に係る発明の認定は,請求項の記載が明確である場合は,請求項の記載どおり認定するべきであり(特許・実用新案審査基準第〓部第2章新規性・進歩性1.5.1 請求項に係る発明の認定(1)ないし(4)参照),訂正前の請求項1の記載に格別不明瞭なものはみあたらないから,請求項1の記載を字義どおりの意味に解釈することに誤りはない」とした審決の判断が誤りであると主張し,また,同様の主張を前提として,審決の判断が審査基準に反するものであると主張するが,その前提に係る主張を採用し得ないことは,上記のとおりである。


 また,原告は,訂正事項aに係る「ガイド部(19)に案内されて」との記載は,請求項1において,訂正前から実質的に表示されていた事項を表示するものであるとの主張を前提として「請求人は・・・上記訂正事項aは『鉤部材(15)がガイド部(19)に案内されて』の条件を明確にした誤記の訂正ないし不明瞭な記載の釈明をなすものであるから,当然に特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものではない旨主張しているが,仮に,上記訂正事項aが誤記の訂正ないし不明瞭な記載の釈明にあたるとしても特許請求の範囲を実質的に拡張・変更するものは特許法第126条第4項の要件に違反するものであるから(平成15年改正法における無効審判等の運用指針第103頁参照),かかる請求人の主張は認められないとした審決の判断が誤りであると主張し,あるいは,訂正事項aに係る「ガイド部(19)に案内されて」との記載は,鉤部材(15)が当然に備えているはずの条件に該当するものであるとの主張を前提として,審決の判断が審判便覧の定める取扱いに違反すると主張するが,これらの前提に係る主張を採用し得ないことは,上記の認定説示より明らかであるところである。


2 結論

 以上によれば,原告の主張(審決取消事由)は理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。 』

と判示されました。


 詳細は、判決文を参照して下さい。




追伸;<気になった記事>

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●『FAQ:MSに対する高額な支払い命令の背景--MP3技術の特許裁判』http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20343943,00.htm
●『FAQ:MSに対する高額な支払い命令の背景--MP3技術の特許裁判』http://www.yomiuri.co.jp/net/cnet/20070226nt11.htm
●『MP3訴訟での15億ドル支払い命令に対し、米マイクロソフトがコメント(米マイクロソフト)』
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=897
●『MSの特許訴訟はAppleにも波及するのか』http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0702/26/news027.html
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http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/soumu/rensai/nrichizai.cfm