●平成18(行ケ)10438 審決取消請求事件 商標権 ハーバーパーク 

 今日は、『平成18(行ケ)10438 審決取消請求事件 商標権 ハーバーパーク アベニュー ブレストン 平成19年02月08日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070213120015.pdf)について取上げます。



 本件は、商標登録無効審判請求の棄却審決の取消を求めた取消訴訟で、原告の請求が棄却された事件です。


 本件では、原告所有の登録商標「ホテル ブレストンコート」および「Hotel Bleston Court」に基づき、被告の登録商標「ハーバーパーク アベニュー ブレストン」が著名商標の保護規定である商標法4条1項15号または8号により無効になるか否かが判断されており、参考になるものと思われます。



 つまり、知財高裁(第2部 中野哲弘裁判長裁判官)は、

『2 取消事由1(法4条1項15号該当性についての判断の誤り)につき

(1)法4条1項15号の規定は,周知表示又は著名表示へのただ乗り(いわゆるフリーライド)及び当該表示の希釈化(いわゆるダイリュージョン)を防止し,商標の自他識別機能を保護することによって,商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り,需要者の利益を保護することを目的とするものであるから,同号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」には,当該商標をその指定役務等に使用したときに,当該役務等が他人の役務等に係るものであると誤信されるおそれがある商標のみならず,当該役務等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る役務等であると誤信されるおそれがある商標を含むものと解するのが相当である。


 そして,この場合,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定役務等と他人の業務に係る役務等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度,役務等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,当該商標の指定役務等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである最高裁平成12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照。)


 そこで,上記の観点から,本件商標登録が法4条1項15号の規定に違反するものであるかどうかについて検討する。


(2)本件商標と引用商標との類似性の程度


 本件商標の構成は,前記第3の1(1)アにおいて掲げたとおりのものであって,その態様をみると,中央に大きく目立つ態様で「BLESTON」の文字を書し,その上段に「B」と「N」の文字に挟まれるように小さく書した「HARBOR PARK AVENUE」の文字を配し,さらに最下段に小さな「ハーバーパークアヴェニュー」の文字を書し続けてこれより大きな「ブレストン」の文字を配した構成から成るものである。そして,本件商標は,構成文字全体から「ハーバーパークアベニューブレストン」の称呼を生ずるほか,上記構成に照らし「BLESTON」の文字部分が看者の注意を強く引くことから「ブレストン」の文字とも相俟って,単に「ブレストン」の称呼をも生ずるものである。


 他方,引用商標の構成は「ホテルブレストンコート」又は「Hotel Bleston Court」の文字から成るものであるから,上記のように「ハーバーパークアヴェニュー」「HARBOR PARK AVENUE」の文字も含まれ,各種の大きさの文字が組み合わされており需要者がその全体から装飾的な印象を受けると認められる本件商標とは,外観の点で非類似であるというべきである。


 また「ホテル」,「Hotel」の語は日常的に使用される普通名詞であり,本指定役務についての識別力が極めて弱い。そこで「ブレストンコート」,又は「Bleston Court」の部分について検討すると,片仮名の「ブレストンコート」は同じ大きさの文字で一体的に表されているが,英文字の「Bleston」と「Court」との間には一文字分ほどの間隔が設けられている。しかるに,株式会社小学館小学館ランダムハウス英和大辞典(甲90)」によれば, 英単語の「コート」(Court)の語には,裁判所,中庭,陳列場,豪壮な邸宅,路地,テニスなどのコート,宮殿等多くの語義があり,英国やアイルランドで用いられる「中庭,邸宅」との語義は,我が国において必ずしも広く知られているということはできず,本件指定役務の取引者・需要者においても「コート」(Court)の語が中庭,邸宅の意味の普通名詞として受け取ら, )れるということはできない。このことは,株式会社リクルート「住宅情報ナビ(2005年(平成17年)7月13日現在のもの〔甲107〕)」において「コート」(Court)の語が「中庭」を意味するものと記載されているとしても,結婚披露を含む婚礼のための施設に係る需要者の認識について参考になるものではない以上,何ら変わりはない。


 そうすると,たとえ「ブレストン(Bleston)」の語が造語であるとしても「コート」(Court)の語と識別力においてさほどの強弱があるということはできず,また「ブレストンコート」という8音の称呼は,省略を要するほど冗長なものということもできないから「ブレストンコート」(Bleston Court)はホテルの名称を表示する一体不可分の表象として把握されるというのが自然である。


 このことは,被告が提供する役務の内容が「邸宅風ウェディングスタイル」であったとしても,上記のように,本件指定役務の取引者・需要者においても,一般に「コート」(Court)の語が中庭,邸宅の意味の普通名詞として受け取られるということはできない以上,何ら左右されるものではない。


 さらに,上記に照らせば,引用商標の「ホテル」からはホテルの観念が生じ「ブレストンコート」からは何らの観念も生じないというべきである一方,本件商標の「ブレストン」からも何らの観念も生ぜず「ハーバーパークアヴェニュー「HARBOR PARK AVENUE」という部分から「港の公園の」道」という引用商標にはない観念が生じるものであるから,引用商標と本件商標とは,観念の点でも非類似というべきである。


 また,後記(3)に説示するとおり,引用商標は,本件指定役務の取引者需要者において長野県や首都圏等において需要者の間にある程度知られているものと推認することができるに止まるものであるし,また,本件指定役務が婚礼(結婚披露を含む)のための施設の提供であることから,その需要者が役務の提供者を選択するに当たっては,結婚式を人生の一大イベントと位置づけ,希望する挙式の種類,価格,施設が提供する食事,会場施設等の各種サービス等に応じた挙式内容等の綿密な吟味を行うのが一般の実情であると考えられる。


 以上によれば,本件商標と引用商標とは,外観,称呼,観念において類似せず,その具体的取引状況に照らしても,非類似の商標と認めるのが相当である。


(3)引用商標の周知著名性

 これらによれば,原告ホテルが「ホテルブレストンコート」又は「ブレストンコート」として,軽井沢を中心とする長野県等や首都圏において需要者の間にある程度知られているものと推認することができるものの,それを超えた周知著名性を有しているとは認められず,また原告ホテルが,本件商標の指定役務について,需要者の間に「ブレストン」と略称されて広く認識されていると認めることもできない。


 以上のことは,上記各種結婚情報誌や新聞等に,原告の指摘する調査報告書(甲68),証明書(甲69〜89) ,インターネットで表示される各ページ(甲91〜106,118〜120,122〜126,128) ,需要者からの電子メール(甲108〜117)等を含む本件各証拠をすべて検討しても,何ら左右されない。そして,その理由は,後記(5)イ〜サに説示するとおりである。


(4)以上によれば,本件商標と引用商標とは非類似の商標であり,引用商標の周知著名性の程度も軽井沢を中心とする長野県等や首都圏においてある程度知られているという程度に過ぎない。


 しかるに本件商標の指定役務の需要者は,上記(2)に説示したとおり,結婚式を人生の一大イベントと位置づけて,希望する挙式の種類,価格,施設が提供する食事,会場施設等の各種サービス等に応じた挙式内容等の綿密な吟味を行うのが実情であるから,同指定役務の需要者において普通に払われる注意力を基準として総合的に判断すれば,仮に引用商標の「ブレストン」の部分が造語的なものであり,本件商標の指定役務と原告の業務に係る役務が関連するものであって地域的にも需要者が重なり合う部分があるとしても,両者において法4条1項15号の「混同を生ずるおそれ」があるとはいえないと解するのが相当である。


(5)原告の主張に対する補足的説明

 ・・・

 したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。


3 取消事由2(法4条1項8号該当性の判断の誤り)について


 原告は,原告ホテルは「ブレストン」と略称されて広く認識されており(甲69〜89,108〜120 ,本件商標は,かかる他人の著名な略称を含む)商標であるから,本件商標は,法4条1項8号に該当し,商標登録を受けることができないと主張する。


 しかし,原告ホテルが「ブレストン」と略称されて広く認識されていると認めることができないことは,上記2の説示に照らして明らかであるから,原告の上記主張はその前提を欠き,失当である。


 したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。


4 結論


 以上によれば,本件商標が法4条1項15号及び法4条1項8号に該当しないとした審決の判断に誤りはない。

 よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。   』


 と判示されました。



 詳細は、本判決文を参照して下さい。



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