●昭和47(オ)395 特許権の通常実施権設定登録等請求 最高裁判所

 本日は、昨日に続いて昔の最高裁判決である『昭和47(オ)395 特許権の通常実施権設定登録等請求 特許権 民事訴訟 昭和48年04月20日 最高裁判所第二小法廷』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/F5BE0BCCA0DC240149256A850031216E.pdf)について取上げます。


 本件は、通常実施権者には特許権者に対し設定登録の請求を認める権利がないことを判示した最高裁判決です。


 つまり、本最高裁判決は、


『                主    文
 
    被上告人の本訴請求中通常実施権設定登録手続を求める部分につき原判決を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。

     上告人のその余の上告を棄却する。
     前項の上告費用は、上告人の負担とする。
         
                 理    由

 上告代理人永沢信義、同中祖博司、岡川木一正、岡田辺善彦、同澤昭二、同山田忠史の上告理由一について。

 所論の解除特約を認めることができない旨の原判決の判断は、原審で取り調べた証拠関係およびその説示に照らし首肯するに足りる。なお、原判決は、被上告人に不信行為があつたことを認定しているが、判文に徴すれば、その不信行為というのは、所論主張の通常実施権設定契約に違反する行為ではなく、右契約とは別個の競業避止約束違反の行為をいうものであることが明らかであるから、上告人は被上告人の右不信行為を理由にただちに右通常実施権契約を解除することはできないというべく、したがつて、これと同趣旨において右解除を認めなかつた原判決の判断は正当として是認できる。原判決に所論の違法は
なく、論旨は採用することができない。


 同二について。

 原判決は、特許権につき許諾による通常実施権の設定を得た者は、特約による登録禁止その他特別の事情がないかぎり特許権者に対し右権利の設定登録を請求しうるものと解すべきであるとして、右通常実施権の設定を得た被上告人の設定登録手続請求を認容した第一審判決を是認している。

 しかしながら、特許権者から許諾による通常実施権の設定を受けても、その設定登録をする旨の約定が存しない限り、実施権者は、特許権者に対し、右権利の設定登録手続を請求することはできないものと解するのが相当である。その理由は、つぎのとおりである。


 すなわち、特許権の許諾による通常実施権は、専用実施権と異なり実施契約の締結のみによつて成立するものであり、その成立に当つて設定登録を必要とするものではなく、ただ、設定登録を経た通常実施権は、「その特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権をその後に取得した者に対しても、その効力を生ずる」(特許法九九条一項参照)ものとして、一種の排他的性格を有することとなるにすぎない。


 そして、通常実施権は、実施契約で定められた範囲内で成立するものであつて、許諾者は、通常実施権を設定するに当りこれに内容的、場所的、時間的制約を付することができることはもとより、同時に同内容の通常実施権を複数人に与えることもでき、また、実施契約に特段の定めが存しないかぎり、実施権を設定した後も自ら当該特許発明を実施することができるのである。これを実施権者側からみれば、許諾による通常実施権の設定を受けた者は、実施契約によつて定められた範囲内で当該特許発明を実施することができるが、その実施権を専有する訳ではなく、単に特許権者に対し右の実施を容認すべきことを請求する権利を有するにすぎないということができる。


 許諾による通常実施権がこのような権利である以上、当然には前記のような排他的性格を有するということはできず、また右性格を具有しないとその目的を達しえないものではないから、実施契約に際し通常実施権に右性格を与え、所定の登録をするか否かは、関係当事者間において自由に定めうるところと解するのが相当であり、したがつて、実施権者は当然には特許権者に対し通常実施権につき設定登録手続をとるべきことを求めることはできないというべく、これを求めることができるのはその旨の特約がある場合に限られるというべきである。


 してみると、これと異る見解のもとにかかる特約の存することを確定しないで上告人の設定登録義務を肯認した原判決には法令解釈の誤りがあり、この違法は原判決の結論に影響を与えることが明らかである。論旨は理由がある。


 したがつて、原判決中右の部分は破棄を免れず、右部分についてはなお審理の必要があるので、この部分につき本件を原審に差し戻すのが相当である。


 よつて、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。』


 というものです。


 詳細は、本判決文を参照して下さい。