●平成18(行ケ)10287 審決取消請求事件 特許権 「シール装置」

 本日は、『平成18(行ケ)10287 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「シール装置」 平成19年02月22日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070222163100.pdf)について取上げます。


 本件は、進歩性違反による拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、原告の請求が棄却された事件です。


 特許庁知財高裁における進歩性の考え方が表されており、参考になる判決かと思います。


 つまり、知財高裁(第4部 塚原朋一裁判長裁判官)は、


『1 取消事由1(相違点1,2についての判断の誤り)について

(1) 審決は,まず,本願発明と引用発明(引用刊行物1に記載された発明)を対比し,両発明が一致する点及び相違する点(相違点1及び2)を認定した上で,相違点1及び2に係る構成は,引用刊行物2に記載されており,引用発明に引用刊行物を適用することを妨げる事情も存在しないなどとして,本願発明は,引用刊行物1及び2に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであると判断した。


ア これに対し,原告は,引用刊行物2(甲3)のように,圧力差を利用するという発想がない装置に基づき,本願発明のように,圧力差を利用する装置とすることは,当業者といえども容易に想到し得ないと主張する。


 確かに,引用刊行物2には「第3図において,ピストンリングブロツク4は,プランジヤー5の頭6に,ばね座金7を介してナツト8で取付けられている」(2頁左上欄15〜18行)との記載があり,引用刊行物2のピストンリングブロック4は,プランジャー5の頭6にばね座金7を介してナット8で取付けられるものであると認められるので,引用刊行物2記載の発明は,本願発明と同様の形で圧力差を利用するものとはいえない。


 しかしながら,前記のとおり,審決は,本願発明と引用刊行物2記載の発明のみを対比したものではなく,本願発明と引用発明を対比した上で,相違点1,2について引用刊行物2記載の技術事項を適用しているものである。そもそも,負圧のかからないリングにも負圧をかけてシール効果を高めるということ自体は,原告出願に係る引用刊行物1(甲2)に記載されている事項であり(段落【0005】,【0009】,【0019】),審決は,引用刊行物1のそのような記載事項を前提とした上で,本願発明と引用発明の相違点について,引用刊行物2に記載された技術事項を適用しているものである。したがって,引用刊行物2記載の発明自体が圧力差を利用する装置でなければならないものではない。


 もとより,引用発明と引用刊行物2記載の発明の技術分野,技術課題,課題を解決するための手段等における相違から,当業者であれば,両発明の組合せを試みるとは考えられないような場合には,両発明を組み合わせて進歩性の判断をすること自体が誤りとなることもある。


 しかしながら,本件では,引用刊行物2に記載された発明は,ピストンリングブロックを用いることにより,シリンダー内の高圧漏れを防ぎ,ほぼ完全に近いシールを可能にするものであり(2頁左下欄下から2行〜右下欄3行),引用発明と引用刊行物2記載に係る発明は,いずれも高圧漏れを防ぐためのシール装置という点で共通の技術分野に属するのであるから,引用刊行物2に記載された事項を引用発明に組み合わせて進歩性の判断をすることが誤りであるということはできない。


 このように,本件では,本願発明と引用発明との相違点1及び2に係る事項が引用刊行物2に開示されており,引用発明と引用刊行物2に記載された発明を組み合わせることを妨げるような事情も認められない。したがって,相違点1及び2に係る構成は,引用刊行物1及び2に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであるということができる。


イ 原告は,引用刊行物2においては,リング同士がずれない構造がないため,バラバラに動く構成となっており,すべてのリングはボルト,ナットにより固定されているのに対し,本願発明ではリングに設けた穴から負圧で上のリングを吸い付かせ,上のリングが内側のリングを押さえているので密封性と柔軟性が高いなどの顕著な作用効果を奏すると主張する。


 しかしながら,引用発明においても,リングAの穴を通じて作用する負圧によりリングBがリングA側に吸い付けられリングAを押さえるとの作用効果を奏するのであるから,引用発明に引用刊行物2記載の発明を適用して,相違点1及び2に係る本願発明の構成とすれば,リングAの穴を通じて作用する負圧によりリングBがリングA側に吸い付けられるとともに,リングBがリングA及びCを押さえるとの作用効果を奏することは,当業者であれば十分に予期し得る範囲内であるということができる。


(2) 以上のとおり,原告の主張する取消事由1には,理由がない。


2 取消事由2(手続違背)について

 原告は,本願発明に係る請求項1中の「及び」の記載について,修正を認めることなく審決をしたのは違法であると主張する。


 しかしながら,審決は,請求項1の「B」のリングとのかさなり合う面からその対面まで穴(3),シール面(2)に溝(4)及びリングをシール面(2)の反対側に歪ませたとしたもの(5 )との記載について「上記記載は,穴(3),溝(4),リングをシール面の反対側に歪ませたもの(5)を全て併用したものの他、穴(3)を有するもの,溝(4)を有するもの,穴(3)と溝(4)を併用するもの等,様々な組み合わせを包含したものと解される」とした上で判断している。


 つまり,審決は,請求項1の「及び」との用語の意義を原告の主張に沿った形で理解した上で判断をしているのであるから,上記請求項1の「及び」との用語の意義を原告の主張するとおり理解したとしても,審決の結論に影響を及ぼすものではないことは明らかである。

 
 また,原告に対しては,平成14年8月23日付けで拒絶理由通知(甲7)がなされ,これに対して,原告は平成14年10月30日付けで手続補正書(甲8)及び意見書(甲9)を提出しているのであるから,原告が「及び」との文言を補正するための更なる機会を与えられることなく,審判手続が終結し,審決がなされたとしても,その手続に何ら違法な点はない。


 したがって,原告の主張する取消事由2も理由がない。


3 結論


 以上のとおり,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。』


と判示されました。



 詳細は、判決文を参照して下さい



追伸;<新たに出された知財判決>

●『平成18(ネ)10051 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟「数値制御自動旋盤」平成19年02月22日 知的財産高等裁判所 』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070223143239.pdf
●『平成18(行ケ)10287 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「シール装置」 平成19年02月22日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070222163100.pdf
●『平成18(行ケ)10126 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「地下構造物用錠装置」 平成19年02月22日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070222162724.pdf
●『平成17(行ケ)10661 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟「水架橋性不飽和アルコキシシラングラフト直鎖状低密度エチレン−α−オレフィン共重合体の製造方法および水架橋成形物」 平成19年02月21日 知的財産高等裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070221143825.pdf
●『平成18(行ケ)10255 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「複数情報提供方法」平成19年02月15日 知的財産高等裁判所』(棄却判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070219091025.pdf
●『平成17(ワ)2535 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟「虚偽の事実の告知・流布」 平成19年02月15日 大阪地方裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070221104619.pdf
●『平成18(ワ)1080 不正競争行為差止等請求事件 不正競争 民事訴訟「EAGLE, イーグル」 平成19年02月15日 大阪地方裁判所』(認容判決)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070221091012.pdf



追伸;<気になった記事>

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