●平成18(行ケ)10226 審決取消請求事件「吸収体製品の表面被覆シー

  本日は、『平成18(行ケ)10226 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「吸収体製品の表面被覆シート」平成19年02月14日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070214154303.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、原告の請求が棄却された事案です。


 本件は、リパーゼ最高裁判決の通り、特許請求の範囲の用語の意義を明細書の記載を参酌せずに一般的な意味で判断した点で、参考になるものと思います。


 なお、本件請求項1は、

『【請求項1】吸収体製品に,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形された孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層とを備えていることを特徴とする吸収体製品の表面被覆シート。』

であり、請求項1の用語である『山部』、『谷部』、『ひだ状』の語の意義が問題になりました。



 そして、知財高裁は(第1部 篠原勝美裁判長裁判官)は、

『1 取消事由1(本願補正発明1の認定の誤り)について

(1)原告は,審決が,本願補正発明1の「谷部」,「山部」及び「ひだ状」の解釈を誤った結果,本願補正発明1の認定を誤ったとして,本願補正発明1の「表面被覆シート」における「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た構造は,本件明細書の【図2】の展開平面図に示すような高圧水流,機械的パンチング,熱エア及びサクション等で開口を施した不織布等からなる表面シートを,【図7】に示すような成形ロールを通過させることにより成形したものである旨主張する。


(2) 前記第2の2(2)のとおり,本願補正発明1の特許請求の範囲の記載は,「吸収体製品に,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され,かつ前記山部および前記谷部に開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層とを備えていることを特徴とする吸収体製品の表面被覆シート。」であり,同記載によれば,本願補正発明1は,(i)吸収体製品における,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,(ii)多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に形成されており,(iii)山部及び谷部に開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,(iv)表面シートの谷部のみに接触するように,表面シートの下面に接合された親水性層とを備えているものであると規定されている。


 したがって,本願補正発明1は,吸収体製品における,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートにつき,「山部」及び「谷部」を有するように「ひだ状」に成形されるものであるが,特許請求の範囲の記載には,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」という用語の意義を定義する記載はないし,また,それらの成形方法を特定する記載もない。


 そして,特許請求の範囲の記載によれば,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語が,吸収体製品における,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートの形状に関して,用いられているものであること,表面シートの下面に接合された親水性層に対し,表面シートの谷部のみが接触するものであると規定されていることを併せ考慮すれば,本願補正発明1の「山部」は,吸収体製品の表面シートにおいて相対的に高くなっている部分であり,使用時に着用者の皮膚に常に接触する部分であり,「谷部」は,「山部」すなわち相対的に高くなっている部分にはさまれて存在する,同シートの相対的にくぼんだ部分であって,表面シート下面に接合された親水層と接触している部分であるととらえることができる部分であり,「ひだ状」とは,同シートにおいて,上記「山部」と「谷部」とがそれぞれ交互に線状に存在することにより,シートが細長い折目状に見える形状をいうものとして,それぞれ,容易に理解でき,また,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の成形方法についての記載はなく,それらの成形について,特定の成形方法によるとの限定はないと理解できるものである。


 他方,本願補正発明1に係る技術分野における技術常識によって,その表面シートの形状に係る「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語について,普通に理解されるのとは異なった意義に解釈されるものであると認めることはできないし,それらが,特定の意味で使用される用語であることを定義した本件明細書の記載もみいだせないのであり,下記(3)のとおり,本件明細書の記載は,上記解釈を裏付けるものである。


 したがって,本願補正発明1の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」とは,表面シートにおいて,「山部」とは,相対的に高くなっている部分であり,「谷部」とは,相対的に高くなっている山部にはさまれて存在する,相対的にくぼんだ部分であり,それらの「山部」及び「谷部」は,交互に線状に存在するものであると認めることができ,他方,それらの成形方法について,特段の限定のないものであると認めることができるものである。



(3) 本件明細書には,以下の記載がある。

 ・・・

 この成形ロールは,一対の溝付きロールからなり,・・・」(同カ)との記載に照らして自明なとおり,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の成形を溝付きロールからなる成形ロールによって行ったことは,一実施例として記載されているのであり,本願補正発明1の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の成形方法は,それに限定されるものではなく,すでに知られている手段を選択して使用することができるものである。


 したがって,本件明細書の発明な詳細な説明等の記載は,表面シートにおける「山部」,「谷部」及び「ひだ状」についての上記(2)の理解を裏付けるといえるものである。


(4) 他方,引用例には,以下の記載がある。

 ・・・

(5) 以上によれば,本願補正発明1の「山部」及び「谷部」は,それぞれ,引用発明の「畝部」及び「溝部」に相当するものであるといえるのであり,また,引用発明は,「山部」及び「谷部」を有し,本願補正発明1と同様,「ひだ状」に成形されていると認められるものであるから,本願補正発明1の「山部」及び「谷部」について,それぞれ引用発明の「畝部」及び「溝部」と同様の意義のものであると解釈して,本願補正発明1の認定を行った審決に原告主張の誤りはない。


(6) 原告は,本願補正発明1における,「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た疎水性表面シートについて,そこで使用されている「山部」,「谷部」及び「ひだ状」といった用語の内容が技術的に特定された専門用語であるとは必ずしもいえないため,特許請求の範囲の記載のみによって,いかなる形態の原材料から,いかなる手段により,いかなる形状,構造を有するものとして「成形され」て得られた構造を有するものであるのか,一義的に明確に理解することが困難であり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,本
願補正発明1の「表面被覆シート」における「多数の山部と,隣接する山部感に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た構造は,高圧水流,機械的パンチング,熱エア及びサクション等で開口を施した不織布等からなる表面シートを,【図7】に示すような成形ロールを通過させることにより成形したものである旨主張する。


 しかし,本願補正発明1の特許請求の範囲の記載の「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」たとの記載は,前記(2)のとおり,一義的に明確に理解することができるものであるから,それを一義的に明確に理解することが困難であるとする原告の主張は,その前提において誤りである。


 また,前記(2)及び(3)のとおり,本願補正発明1における,「表面被覆シート」の「多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され」た構造において,その成形方法については,特段の限定がないものであり,特定の成形ロールによる成形に限られるものであることをいう原告の主張も,失当というほかない。原告の主張は,特許請求の範囲には,成形方法についての記載がなく,本件明細書の発明の詳細な説明において,一実施例として示されているにすぎない成形方法について,本件明細書自身に,それが,一実施例であって,成形方法が同方法に限定されるものでないことが明記されているにもかかわらず,成形方法が一実施例として記載された方法に限定される旨を発明の要旨として取り込むものにほかならない。


 また,原告は,被告が辞書を引用するなどして,本願補正発明1の「山部」,「谷部」及び「ひだ状」の記載を解釈したことに対し,本願補正発明1とは技術的意味が異なる引用文献に記載された吸収体製品の表面シートにおける,「凸部」,「凹部」及び「折目状」と解釈することは,単に,対応するこれらの語が通常の日本語として類語に近いものであるという程度の意味しかなく,高度に専門的で口語とは異なる点において,必ずしも通常の日本語とはいえない特許請求の範囲における技術的用語の解釈としては,はなはだ妥当性を欠くものであり,特許請求の範囲における技術的用語の意味の解釈として,一義的に明確ではない旨主張する。


 しかし,特許請求の範囲で使用する用語は,原則として,その有する普通の意味で使用しなければならず,特定の意味で使用しようとする場合には,その意味を定義して使用することを要する(特許法施行規則24条の4,様式第29の2備考9参照)ところ,本願補正発明1に係る技術分野において,何らかの技術常識によって,その表面シートの「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語が,普通に理解されるのとは異なった意義に理解されるものであると認めることはできず,特定の意味で使用される用語であることを定義した記載も見いだせないのであって,「山部」,「谷部」及び「ひだ状」との用語が有する普通の意味において,その内容が,技術的に一義的に明確であるといえることは,前記(2)のとおりであり,原告の主張は採用の限りではない。


 なお,原告の準備書面(第1回,第2回)中には,本願補正発明1の発明者の意見として,引用例の畝・溝構造は,開孔処理の際に必然的に生じる開孔部と未開孔部の厚み差に基づく凹凸であるのに対し,本願補正発明1は,そのように開孔処理の際に生じた凹凸を有するシートをさらに山谷状に波形成形したものに相当するものであり,また,引用例のシートの畝の高さは最大でも2.5ミリメートル程度であるのに対し,本願補正発明1の山谷の程度は,3〜50ミリメートルと10倍以上の大きな襞である旨の記載がある。


 しかし,本件明細書には,前記(3)エのとおり,「表面シート1は,柔軟な不織布で形成されているので,山部Aは,常に図1のように所定の形状を保持して起立しているとは限らないが,高さHの実際の寸法は,山部Aが起立している状態で1mm以上,好ましくは3mm以上50mm以下が好ましい。」(段落【0011】)との記載があり,本願補正発明1は,特許請求の範囲において,山部の高さを何ら限定していないものであるから,本件明細書の記載に照らしても,山部の高さが1ミリメートル以上のものが含まれるのであって,そうとすれば,発明者の意見として記載されている上記の引用例におけるシートの畝の高さと重なり合うものであり,上記発明者の意見の記載は,本願補正発明1と引用発明との相違を主張する根拠となるものではない。


(7) 原告は,引用発明の「液透過性表面層」は,開口の加工に伴って生じた凹凸を有するシートであるのに対して,本願補正発明1の「表面被覆シート」は,開口の下降に伴って生じた凹凸を有する「表面シート」をさらに成形ローラで「山部」及び「谷部」が生じるように成形したものであり,本願補正発明1の「親水性層」は,そのように形成された谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合されたものであるから,引用発明の「液透過性表面層」と「液濾過層」が,本願補正発明1の「表面被覆シート」を形成するものということができないと主張する。



 原告の主張は,本願補正発明1の「山部」及び「谷部」が,成形ロールにより成形されて形成されたものに限定して解釈されることを前提とする主張であるところ,そのように限定して解釈することができないこと,引用発明の「畝部」及び「溝部」が本願補正発明1の「山部」及び「谷部」にそれぞれ相当すると認められることは,いずれも前記説示のとおりであるから,原告の主張は,前提において誤りであるといわざるを得ない。


 そして,引用例には,「液濾過層」が,親水性であることが好ましいことが記載されている(前記(4)コ)から,引用発明の「液濾過層」を親水性とすることが開示されているに等しいものというべきである。



 そうすると,引用発明の「液透過性表面層」は,液透過性表面層の下面に接合された親水性層である液濾過層からなるシートと,液透過性表面層の溝部に形成された開口部のリブのみと接し,また,引用発明の「溝部」は,本願補正発明1の「谷部」に相当するのであるから,引用発明の「液濾過層」は,本願補正発明1の「親水性層」に相当し,引用発明の「液透過性表面層」は,「液濾過層」とともに,本願補正発明1の「表面被覆シート」を形成するものであるといえるから,同旨の解釈を前提として本願補正発明1の認定を行った審決に誤りはない。


(8) したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。


2 取消事由2(一致点の認定の誤り)について

 原告は,審決が,本願補正発明1と引用発明の一致点として,「吸収体製品に,着用者の皮膚に接触した状態で使用される表面シートであって,多数の山部と,隣接する山部間に形成された谷部とを有するようにひだ状に成形され,開口を設けた孔あきの疎水性表面シートと,この表面シートの前記谷部のみに接触するように,前記表面シートの下面に接合された親水性層とを備えていることを特徴とする吸収体製品の表面被覆シート」を具備する点を認定したのに対し,引用発明の「液透過性表面層」の開口形成に伴い生じた「畝部」及び「溝部」は,本願補正発明1の「山部」及び「谷部」に相当すると解釈する余地はないし,引用発明の「液透過性表面層」と「液濾過層」の組合せが本願補正発明1の「表面被覆シート」に相当すると解釈する余地はなく,審決の一致点の認定には誤りがある旨主張する。


 しかし,引用発明の「畝部」及び「溝部」が,本願補正発明1の「山部」及び「谷部」に相当し,また,引用発明の「液透過性表面層」と「液濾過層」の組合せが,本願補正発明1の「表面被覆シート」に相当することは,前記1のとおりであるから,審決の一致点の認定に原告主張の誤りはない。

 したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。


3 以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。


  よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 』


と判示されました。


 要は、上記判決文中に太字赤線で示したように、「特許請求の範囲で使用する用語は,原則として,その有する普通の意味で使用しなければならず,特定の意味で使用しようとする場合には,その意味を定義して使用することを要する(特許法施行規則24条の4,様式第29の2備考9参照)。」、ということです。


 詳細は、上記判決文を参照して下さい。



追伸;<新たに出された知財判決>

●『平成17(ワ)3668等 特許権に基づく差止請求権不存在確認等請求事件 売掛代金等請求事件 特許権 民事訴訟 「印鑑基材およびその製造方法」 平成19年02月08日 大阪地方裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070216171918.pdf


追伸;<気になった記事>

●『アイ・ピー・ファイン:中国特許の無料検索サイト』http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2007&d=0220&f=enterprise_0220_001.shtml
●『中国の特許情報を無料で検索できる「専利SEARCH」オープン 』http://markezine.jp/a/article/aid/775.aspx
●『中国政府の威信背負う携帯3G規格の運命【コラム】』http://it.nikkei.co.jp/mobile/news/index.aspx?n=MMITbp000020022007
●『YouTubeに関する利用実態調査、違法投稿の問題なしとの考え8割弱 』http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/02/20/14838.html
●『YouTubeの魅力はテレビ番組〜著作権は「個人で楽しむ分には問題ない」が7割』http://www.rbbtoday.com/news/20070220/38700.html
●『HD DVD/BDがコピー可能に? AACS暗号解除問題の実情』http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20070220/avt001.htm
●『マイクロソフトが偽造ソフト撲滅の施策拡大、正規品確認ソフトを自動更新で配布』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070220/262624/
●『3月3日開催 RCLIP協賛−国際知的財産権紛争処理シンポジウム』http://www.21coe-win-cls.org/project/activity.php?gid=10052