●平成18(行ケ)10411 審決取消請求事件 商標権「介護タクシー事件」

 本日は、『平成18(行ケ)10411 審決取消請求事件 商標権「介護タクシー事件」平成19年02月01日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070202100106.pdf)について取上げます。


 本件は、拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 商標法第3条1項3号および同条4項8号の拒絶審決が支持された点、および3条2項が認められなかった点で参考になるかと思います。



 まず、特許庁側の主張は、「第4 被告の主張の要点」にあるように、

『1 商標法3条1項3号及び4条1項16号該当性について

 本願商標は,「介護タクシー」の文字を普通に用いられる方法で横書きしてなり,第39類「タクシーによる輸送,車椅子の貸与」を指定役務とするものであるところ,本件証拠によれば,「介護タクシー」とは,一般に「介護資格を持つ運転手が高齢者や身障者などの要介護者の介助などを行いながら送迎をするタクシー」との意味合いを有する語として認識されているというべきである。


 したがって,本願商標は,これをその指定役務中,「高齢者や身障者などの要介護者の介助などを行いながら送迎をするタクシーによる輸送及びその送迎時に用いる車椅子の貸与」に使用するときは,取引者,需要者をして,単に役務の質,内容を表示したものと認識させるにとどまるものであるから,商標法3条1項3号に該当し,また,上記以外の役務(例えば,いわゆる通常のタクシーによる輸送や通常の車椅子の貸与)に使用するときは,これに接する取引者,需要者は,これがあたかも上記役務であるかのごとく誤認するおそれがあるものであるから,商標法4条1項16号に該当する。


2 商標法3条2項該当性について

 原告は,本願商標について,商標法3条2項の要件を具備するものであって,登録を受けることができると主張する。

 しかしながら,商標法3条2項に基づき使用により識別力を有するに至った商標として登録が認められるのは,その商標と同一の商標及びその商標を使用している商品又は役務と同一の商品又は役務に関する場合に限られる。原告が審判手続において提出した資料における「介護タクシー」の文字は,商標の本質である自他役務の識別標識として使用されているものとはいい得ないものであり,かつ,本願商標と同一のものということもできない。  』

というものです。


 そして、知財高裁(第4部 塚原朋一裁判長裁判官)は、

『1 商標法3条1項3号及び4条1項16号該当性について

(1)本願商標は,「介護タクシー」の文字を横書きしてなるものであるところ,「介護タクシー」とは,集英社「imidas 2005」638頁(乙2の1)に「訪問介護事業所の指定を受けたタクシー会社がホームヘルパーの資格のある運転手により移送と乗降介助等を行うタクシー。」と記載され,自由国民社現代用語の基礎知識2005」897頁(乙2の2)には「ホームヘルパーなどの資格をもったタクシー運転手(ケアドライバー等とよぶ)が,高齢者や身障者などの介助などを行いながら送迎を行うサービス。」と記載され,朝日新聞社「知恵蔵2006」423頁(乙2の3)には,「運転手がヘルパーの資格を持ち,介護保険訪問介護事業者の指定を受けたタクシー。」と記載されているとおり,一般的には,「介護資格を持つ運転手が高齢者や身障者などの要介護者の介助などを行いながら送迎をするタクシー」を意味すると解するのが相当である。


 そして,このことは,審決の摘示する新聞記事等,例えば,「介護タクシーは,ホームヘルパーの資格を持った運転手が,利用者の自宅ベッドから病院まで付き添うなどのサービスを行うもの。」(2004年5月7日付け読売新聞32頁(乙3の1)),「介護タクシーはヘルパー資格を持つ運転手が通院の送迎や乗降介助などをする。」(2003年12月25日付け朝日新聞26頁(乙3の2))・・・などの記載からも明らかである。


 以上によれば,本願商標は,これを,指定役務中,「介護タクシーによる輸送,車椅子の貸与」との役務に用いる場合には,商標法3条1項3号にいう「その役務の質,用途,態様を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」に該当し,これを前記指定役務のその他の役務,例えば,通常のタクシーによる輸送,車椅子の貸与などの役務に用いる場合には,需要者に役務の質などの誤認を生じさせるおそれがあるものとして,商標法4条1項16号に該当し,商標登録を受けることができないものというべきである。


(2) これに対し,原告は,原告の役務態様の内容は,公共交通機関に必ず介護員が乗り込み,添乗介護輸送する形態であるから,審決が認定する役務態様とは異なると主張する。


 確かに,要介護者が交通機関で移動する際に,介護員が要介護者とともに交通機関に添乗し,要介護者を補助する役務の具体的形態には,様々なものが考えられ,運転手が介護資格を有する場合には限られない。


 しかしながら,本願商標に係る「介護タクシー」という用語は,その通常の用例に照らしても,要介護者を介助しながらタクシーで送迎する役務一般を意味するものと理解できるのであり,実際のところ,用語解説書や新聞記事等において,「介護資格を持つ運転手が高齢者や身障者などの要介護者の介助などを行いながら送迎をするタクシー」を一般的に示す言葉として広く用いられていることは前記判示のとおりである。


 そうすると,原告の提供している役務の態様が,原告の主張するとおり,運転手の介護資格の有無に関係なく介護員が添乗介護するものであるとしても,「介護タクシー」との文字から構成される本願商標は,役務の質や態様を普通に用いられる方法で表示する標章に当たるというべきである。


 また,原告は,「介護タクシーです」と呼称することをこれまで徹底して続けてきたこと,全国で唯一「介護タクシー」と表示することを認められたことなどを指摘して,本願商標は,商標法3条1項3号に該当しないと主張するが,「介護タクシー」という言葉が役務の質や態様を意味するものとして一般的に用いられているものと認められることは前記判示のとおりであり,原告の指摘するような事情は,そのような事実が認められるとしても,審決の結論を左右するものではない。


 本願商標の商標法4条1項16号該当性について,原告は,原告の役務の利用者は,要介護者などの限られた範囲の取引者,需要者を対象とするものであるから,役務の質などの誤認が生じるおそれはないと主張する。

 しかしながら,本願商標の指定役務は「タクシーによる輸送,車椅子の貸与」であるから,その需要者は原告の提供する役務の利用者に限らず,タクシーによる輸送を利用し,又はその可能性のある者全体に及ぶと解すべきであり,本願商標を介護タクシーに輸送,車椅子の態様以外の役務に使用した場合には,役務の質などについて需要者に誤認を生じさせるおそれがあることは明らかである。


2 商標法3条2項該当性について

 原告は,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとしても,原告は,他の事業者にない「介護タクシー」車両そのものを創作し,その実績や売上げが示すとおり,他者の追随を許さぬ事業展開をしてきた結果,需要者は本願商標を原告の業務に係る役務であると認識することができるのであるから,商標法3条2項に基づき商標登録を受けることができると主張する。


 しかしながら,本件証拠には,例えば,平成13年1月11日付け奈良新聞(甲10の4)に「介護が必要なお年寄りを病院へ送迎する際など,自治体から介護報酬を得る代わりに運賃を無料にする「介護タクシー」が全国で増えているが,県内で初めて有限会社ヤマキ代務サービス(判決注:原告はその取締役)が,同様のサービス「ライサポタクシー」を始めた」との記事が掲載されるなど,「介護タクシー」が一般的な用語として用いられ,あるいは,原告が「ライサポタクシー」又は「ライサポTAXI」(甲11の1)という名称の役務を提供しているとの事実を示す証拠は存在するが,原告が本願商標を自己の提供する役務に使用した結果,需要者が本願商標を原告の業務に係る役務であると認識するに至ったと認めるに足る的確な証拠はない。


 したがって,本願商標が商標法3条2項に該当するとの原告主張は採用することができない。


3 結論

 以上のとおり,原告の主張には理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 』

と判示されました。


 詳細は、判決文を参照して下さい。


追伸;<気になった記事>

●『米国際貿易委員会、米イーストマン・コダックデジタルカメラの特許侵害で調査開始(米国際貿易委員会)[2007/02/18]』http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=840
●『動画共有配信サービスと法的問題(3)問われる違法コンテンツ排除の仕組み』http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070208/261489/
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http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070217/127859/
●『ソニー半導体ビジネス戦略、垂直型から水平型に転換か (2007/02/16) 』http://www.eetimes.jp/contents/200702/14819_1_20070216204621.cfm
●『 TI社、DLPプロジェクタを搭載した携帯電話機を試作 (2007/02/15) 』http://www.eetimes.jp/contents/200702/14798_1_20070215181936.cfm
●『携帯からの電磁波に懸念、21世紀の「たばこ」との指摘も (2007/02/14) 』http://www.eetimes.jp/contents/200702/14761_1_20070214222714.cfm
●『 昨年の海外ロイヤルティ収入、20億ドル超える』(韓国)http://japanese.yna.co.kr/service/article_view.asp?NEws_id=482007021602700
●『音楽CDなどの生産額、8年連続減少 ネット配信も影響』
http://www.asahi.com/digital/av/TKY200702180145.html
●『HP掲載の判決 閲覧制限にミス』
http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20070216nt03.htm

●『特技懇 244号(最新号)』
http://www.tokugikon.jp/gikonshi/