●平成18(行ケ)10088 審決取消請求事件 意匠権 金属製ブラインド

 今日は、一昨日からの意匠続きということで、昨年9月20日に出された古い判決ですが前々から取上げようと思っていた『平成18(行ケ)10088 審決取消請求事件 意匠権 「金属製ブラインドのルーバー」 平成18年09月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060922095925.pdf)について取り上げます。


 本件は、意匠法3条2項違反の拒絶審決の取消を求めた審決取消訴訟で、昨年出された30件近い意匠登録出願の審決取消訴訟の中で、唯一拒絶審決が取消された件ではないかと思います(間違っていたら済みません)。また、本件は、昨年末の特許ニュースに掲載されていた記憶があります。



 つまり、知財高裁は、

『1 取消事由1(本願意匠の基本形態に関する判断の誤り)について
(1) 審決が「本願意匠・・・の全体の基本構成に示す形態については・・・引用刊行物にも記載されているように本願意匠の出願前に公然知られたものである。」としている点について,検討する。


 本願意匠の全体の基本構成に示す形態(本願意匠の基本形態)は,審決の認定するとおり「一定の断面形状で長手方向に連続するルーバー材であって,背面側に嵌合部を設け,嵌合部を除く外周壁を正面側に向かって断面視半円形に膨出させ,嵌合部については,開口端の上下両縁部に突き当て面を同一垂直面に揃えた一対のリップ状係止片を形成する」というものである。


 ところで,引用意匠の形状は,別紙2のとおりであって「一定の断面形状で長手方向に連続する」点や「背面側に嵌合部を設け,嵌合部を除く外周壁を正面側に向かって断面視半円形に膨出させ」ている点では,本願意匠の基本形態と共通するものの,嵌合部については,開口端の上縁側に,突き当て面を垂直面に揃えた係止片を,下縁側に,突き当て面を前記垂直面より正面側にずれ込ませた鉤状片を形成しているものであって,本願意匠の基本形態と異なるものであることは明らかである。


 したがって,本願意匠の基本形態が,引用刊行物に記載されているように本件出願前に公然知られたものであるということはできないから,審決の上記判断は誤りである。


(2) 被告は,審決が引用刊行物を引用した趣旨は,引用意匠の外周壁から嵌合部の開始位置に設けられた係止片に至る部分の形状(すなわち,一定の断面形状で長手方向に連続し,背面側に嵌合部を設け,嵌合部を除く外周壁を正面側に向かって断面視半円形に膨出させている形状)が,本件出願前に公然知られたものであることを示すためである,と主張するので,仮に審決の判断がそのような趣旨であるとした場合に,本願意匠が上記「公然知られた形状」に基づいて容易に創作できたものといえるか否かについて,以下検討する。


ア 意匠法3条2項は,物品の同一又は類似という制限をはずし,社会的に知られたモチーフを基準として,意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするものであるが,これは,一般需要者の立場からみたものではなく,当業者の立場からみた創作の容易性を登録要件としたものであるから,創作の容易性の有無を判断するに当たっては,当該意匠の属する分野をふまえた上での検討がされなければならない。



 本願意匠は,意匠に係る物品を「金属製ブラインドのルーバー」とするものであり,当業者が公然知られた形状に基づいて容易に本願意匠の創作をすることができたというためには,公然知られた形状を金属製ブラインドのルーバーに用いることが容易であるといえなければならない。


 一般に「ブラインド」とは「窓の日覆い」や「日除け用のよろい戸」を指す用語であり「ルーバー」とは「羽板」を並べて開口部に設けた一種のよろい戸で「羽板の向きを調節して雨や日光を遮る」ものを指す用語であるとされている(広辞苑第五版。このように,ブラインドのルーバーは,日光や雨を遮ることを目的)とするものであり,また,その構造は,羽板を並べて開口部に設け,羽板の向きを調節することによって日光や雨を遮るものであるから,ブラインドのルーバーを物品とする意匠が創作されるに当たっては,上記のような機能・構造が当然に考慮され,これによる一定の制約の下に創作されるものである。


イ 以上を前提として,本願意匠の創作の容易性につき検討する。

(ア) 審決の認定する「公然知られた形状」は,引用意匠の中に示されたものであるので,まず,引用意匠に接した当業者にとって,本願意匠を創作することが容易であるか否かについて検討する。


 引用意匠は,意匠に係る物品を「建造物笠木の装飾用ホルダ材」とするものであり,その説明として「本物品を所定の寸法に切断後,予め建物天部に取着されている笠木体の屋外側に,当該物品を係着し,これに装飾笠木を係着する」と記載され,その使用状態を示す参考図(別紙2参照)に,物品が笠木体に係着されている様子が図示されている(乙1 。)


 このように,引用意匠に係る物品は,笠木体に装飾笠木を取り付けるためのホルダ材として用いられるものであって,本願意匠に係る「金属製ブラインドのルーバー」とは,その機能・構造において全く異なるものである。したがって,引用意匠に接した当業者が,上記「公然知られた形状」を採用して本願意匠を創作することは,容易であるとはいえない。


(イ) 次に,被告は,御簾垣の組子における半割竹の形状に照らせば,当業者が上記「公然知られた形状」を採用して本願意匠を創作することは容易である,と主張する。


 しかし「御簾垣」は「竹垣」の一種であり垣とは屋敷や庭園などの外側の囲いを意味するものである(広辞苑第五版。これをブラインドと比べると,目隠しと)しての機能を有する点では共通する面はあるものの,ブラインドが,羽板の向きを調節することによって日光や雨を遮るという基本的な機能・構造を有しているのに対して,御簾垣は,このような機能・構造を有しているものではない。また,御簾垣の組子が半円形状をなしているのは,竹という自然物の場合,これを割って用いることから生じる自然な結果であるが,金属製ブラインドのルーバーを作成する場合には,竹の場合と同様の発想を採用して半円形状とする理由はない。


 したがって,御簾垣の組子における半割竹の形状を「金属製ブラインドのルーバー」に採用することは,当業者にとって容易であるとはいえないから,被告の前記主張は,採用することができない。


ウ 以上によれば「金属製ブラインドのルーバー」の意匠分野における当業者が,上記「公然知られた形状」を採用して本願意匠を創作することが容易であるということはできないから,本願意匠の創作の容易性を肯定して意匠法3条2項に当たるとした審決の判断は,誤りである。


2 結論

 以上のとおり,原告主張の審決取消事由1は理由があるので,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は,取消しを免れない。』

と判示されました。


 意匠法3条2項は「本願意匠は,出願前にその意匠の属する分野における通常の知識を有する者が日本国内において公然知られた形状に基づいて容易に創作できたもの」と規定され、判決文中でも指摘されているように、物品の同一又は類似という制限をはずし,社会的に知られたモチーフを基準として,意匠の着想の新しさないし独創性を問題とするもので、これらのモチーフに基づいて創作容易な意匠の登録を認めない規定です。



 しかし、上記判決では、本件意匠に係るブラインドの機能・構造を考慮して、御簾垣はブラインドと同じ機能・構造を有しないため、本件意匠の創作容易性を判断する際のモチーフとはなり得ないものと判断しており、物品の同一または類似という制限を外し、自然物や他の物品の意匠の形態を転用する商慣行上の転用意匠等の登録を阻却し、創作性を維持するとした本規定の趣旨等の点からすると、意匠に係る物品の機能や構造を考慮する必要はなく、個人的には、特許庁の審決の方が正しいのではないかな、と思っています。


 尚、本判決の裁判長は、塚原朋一判事です。


 詳細は、上記判決文を参照して下さい。



追伸;<新たに出された判決>

●『平成17(ワ)4418 損害賠償請求事件 不正競争 民事訴訟 営業秘密 大阪地方裁判所
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070208135714.pdf




追伸;<気になる記事>
●『特許庁、特許検索システムを全面開放へ』
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20070208AT3S0701K08022007.html
●『海賊版ソフト、政府が輸出も禁止の方針』
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20070208ib01.htm

●『特許国際出願、日本は米国に次ぐ2位 中国が急増』
http://www.asahi.com/business/update/0208/093.html
●『企業の国際特許出願、松下電器が3年連続で世界第2位』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070208-00000203-yom-int
●『06年の国際特許出願、韓国第4位』
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=84436&servcode=300§code=300
●『NEC社、ムーアマイクロプロセッサー特許™ポートフォリオ・ ライセンスを購入』
http://home.businesswire.com/portal/site/google/index.jsp?ndmViewId=news_view&newsId=20070208_ja_1007675_generatedID&newsLang=ja

●『グーグル、動画投稿はユーチューブに一本化へ 』
http://www.sankei.co.jp/keizai/it/070208/itt070208003.htm
●『日本音楽著作権協会らがYouTubeと違法コンテンツ対策を協議』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070206/260950/
●『ユーチューブ、違法投稿対策に限界』
http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20070208nt04.htm
●『今なお増えるP2P音楽ダウンロード』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0702/07/news066.html
●『中国国家版権局が違法サイト205を閉鎖 著作権侵害で』
http://www.asahi.com/international/update/0208/016.html
●『違法サイト200強を閉鎖=ネットの著作権保護を強化−中国』http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070208-00000099-jij-int
●『国家版権局、500万元を計上し海賊版撲滅基金を設立』
http://www.people.ne.jp/2007/02/08/jp20070208_67681.html

●『カラオケ使用料未払い:飲食店に演奏差し止め仮処分−−地裁浜松支部 /静岡』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070208-00000012-mailo-l22
●『特許侵害:米アンビック社、サムスン電子など5社を刑事告訴
http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2007/02/08/20070208000016.html