●平成18(行ケ)10071 審決取消請求事件 放送内容受信装置 知財高

  今日は、昨日公表された訂正審判請求棄却審決を取消した2件目の『平成18(行ケ)10071 審決取消請求事件 放送内容受信装置 平成19年01月25日 知財高裁』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070126144253.pdf)についての知財高裁の判断を取上げます。



 つまり、知財高裁は、

『便宜,取消事由2(訂正事項aについての判断の誤り)についてまず判断する。

1 「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」につ
いて


・・・


2 訂正事項aについて

(1) 当初明細書(甲1)には,次の記載がある。

「【従来の技術】所望のテレビ番組を,見損ねるという失敗は,テレビが登場して久しい今日においてもよくあることである。この失敗は,放送日時を間違えたり,他のことに気を取られて忘れてしまう等が主な原因である。また,放送時間に間にあうようにテレビの電源を入れたものの,チャンネルを間違え,しかもこれに気が付かないこともある。この場合,所望の番組とは異なる番組が画面に出力されてから正しいチャンネルに直すことになるので,冒頭の部分を見損ねてしまう。この対策として,見たい番組をビデオ録画装置(いわゆるビデオテープレコーダ)に録画予約しておくという方法がある。しかしこうした録画装置では,録画開始時刻や収録番組のチャンネルの設定や録画終了時刻等,設定内容が多岐に亘り,設定にはかなりの手間と慣れとを要する。そこで,機械の操作に慣れない老人等でも簡易に録画予約の設定ができるよう,バーコードを使って録画開始時刻を読み込ませたり,一週間を単位として毎週同時刻に同じ番組を録画する機能を備えた録画装置も提案されている。」(段落【0002】)


「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,こうした録画装置でも,バーコードといったいわば約束事を用いるため,操作が直感的ではなく,しかもその操作が煩雑であるという問題があった。特に,放映時間が連続する異なるチャンネルの番組を録画する場合や,同じ番組が週によって異なる時間帯に放映されるといった場合には,バーコードを使用してもその設定は極めて煩雑なものになってしまう。また,バーコードの場合,読み取りミスもあり得る。


 本発明は上記課題を解決し,見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供することを目的とする。」(段落【0003】,【0004】)


「【発明の効果】以上詳述したように,本発明の放送内容受信装置によれば,番組内容がテレビ受像機に表形式にて視覚的に表示される。これにより,チャンネルや開始時刻といった,抽象的で誤り易い情報を操作者に認識させることなく,異なるチャンネルの番組内容や同じチャンネルの前後に放映される番組内容と対比させることにより操作者に認識させることができる。従って,異なるチャンネルや隣接する時刻の類似番組と誤っていないか,といった注意事項が直観的に喚起されることとなる。そして番組の内容の予約は,表形式で表示された番組内容の中から所望の番組内容が表示されている位置を位置指定手段にて指定し,設定手段を操作すれば完了する。この間,チャンネルや開始時刻といった抽象的な情報を取り扱う必要がない。開始時刻は,開始時刻補完手段によって補われ,チャンネルはチャンネル補完手段によって補われる。つまり,当該放送内容受信装置の操作者は,新聞などの番組欄を見て所望の番組を選ぶのと同じ感覚で予約を行なうことができる。すなわち,テレビ受像機に表形式で表示された番組内容を見て,所望の番組内容を位置指定手段で指定し,設定手段で設定すればよい。しかも位置指定手段にて指定した位置は,識別表示手段により他の位置と識別可能に表示される。・・・」(段落【0029】)


(2) 上記(1)の記載によれば,従来,見たい番組を録画予約する場合,録画予約の設定にバーコードを使って録画開始時刻を読み込ませたり,一週間を単位として毎週同時刻に同じ番組を録画予約することで,簡易に録画予約をする方法があったが,これらの方法は操作が煩雑であり,特に,放映時間が連続する異なるチャンネルの番組を録画する場合や同じ番組が週によって異なる時間帯に放映される場合にはその設定が煩雑なものになるという問題(課題)があったところ,このような課題を解決し,見たいテレビ番組を見逃すことがなく,容易に操作が可能な放送内容受信装置を提供することが,訂正前の請求項1に係る発明の目的であり,そのための構成が,訂正前の請求項1に規定した放送内容受信装置の構成であるものと認められる。


(3) そして,訂正事項aにおける「録画再生部」は,訂正前の請求項1に明示の記載はないものの,請求項1に係る放送内容受信装置が当然に有しているものにすぎないし,「限定手段」は,訂正前の請求項1の「位置指定手段」による位置指定の前提となる表示すべき番組表の内容を具体的に規定したものであり,「更新手段」は,番組内容の表示位置を指定するための位置指定に関連して,カーソルの移動に伴って必要な処理内容を具体的に規定したものであり,「映像信号出力部」は,請求項1に係る放送内容受信装置に必要とされる映像信号出力部の機能を具体的に規定したものであるから,訂正事項aの具体的内容は,いずれも,訂正前の請求項1に係る発明の目的に含まれるということができる。


3 そうであれば,訂正事項aは,訂正前の請求項1に係る発明の目的を逸脱したということはできず,訂正事項aに係る訂正によって,実質上特許請求の範囲を変更するものではない。


4 被告の主張について

(1) 被告は,当初明細書には,訂正前の請求項1に係る発明の目的について,「見たいテレビ番組を見逃すことがなく,しかも容易に操作可能な放送内容受信装置を提供すること」と示されているだけであり,このような極めて一般的な目的から,請求項1における,番組を録画し再生するという具体的な目的,番組表を画面に表示可能な一画面分の番組のみに限定するという具体的な目的,番組表を更新させるという具体的な目的及び少なくとも録画再生部により再生された映像信号を含む映像信号をテレビ受像機に出力するという具体的な目的が直ちに導出されるということはできないから,訂正事項aは,訂正前の請求項1に記載された発明の具体的な目的の範囲を逸脱すると主張する。


 しかしながら,発明の目的は特許請求の範囲の請求項において規定された構成によって達せられるものであり,新たに構成が付加されたり構成が限定されれば,目的も,それに応じて,より具体的なものになることは当然であって,訂正後の発明の構成により達せられる目的が訂正前の発明の構成により達せされる上位の目的から直ちに導かれるものでなければ,発明の目的の範囲を逸脱するというのであれば,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は事実上不可能になってしまうから,相当でない。


 そうであれば,訂正事項により付加,限定された構成により達成される内容が,訂正前の発明の目的に含まれるものであれば足りると解するのが相当であり,本件においては,上記2のとおり,訂正事項aの具体的内容は,いずれも,訂正前の請求項1に係る発明の目的に含まれる。


 被告の上記主張は,採用することができない。


(2) また,被告は,請求項1に係る発明は,新たに「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」が付加されるたことにより,訂正前の請求項1に係る発明の目的に加え,新たに,番組を録画再生し,表示可能な一画面分の番組のみに限定して番組表を出力し,その番組表を更新し,各映像信号を選択してテレビ受像機に出力するという(具体的な)目的が併せて付加されたものとなることは明らかであり,このような新たな構成要件の付加は,訂正前の請求項1に記載された発明の具体的な目的の範囲を逸脱すると主張する。


 しかしながら,訂正事項aに係る「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」の内容は,いずれも,当初明細書に記載されているものであって,訂正事項aにおける「録画再生部」は,請求項1に係る放送内容受信装置が当然に有しているものにすぎないし,「限定手段」は,訂正前の請求項1の「位置指定手段」による位置指定の前提となる表示すべき番組表の内容を具体的に規定したものであり,「更新手段」は,番組内容の表示位置を指定するための位置指定に関連して,カーソルの移動に伴って必要な処理内容を具体的に規定したものであり,「映像信号出力部」は,請求項1に係る放送内容受信装置に必要とされる映像信号出力部の機能を具体的に規定したものであるから,訂正事項aの具体的内容は,いずれも,訂正前の請求項1に係る発明の目的に含まれるということができる。


 被告の上記主張も,採用することができない。


(3) さらに,被告は,請求項1において新たに付加された「限定手段」,「更新手段」という構成要件については,その用語自体,当初明細書には何ら記載されていなかったものであって,訂正明細書の段落【0014】,【0015】において,上記ステップ120の処理を「限定手段」,上記ステップ120から150に至る処理を「更新手段」として,それぞれ新たに定義し直し,明細書に初めて出現させたものであるところ,明細書に記載されているからといって,必ずしもその全てが訂正可能であるとは限らないと主張する。


 しかしながら,特許請求の範囲を減縮する場合には,新たな構成要件を付加したり,構成を新たに具体的に限定するのが通常であるから,新たな構成要素を付加したり,構成要素を新たに具体的に限定することが,直ちに,実質上特許請求の範囲を変更することに当たるものでないことは明らかである。


 訂正事項aに係る「録画再生部」,「限定手段」,「更新手段」及び「映像信号出力部」の内容は,いずれも,当初明細書に記載されているものであって,訂正事項aにおける「録画再生部」は,請求項1に係る放送内容受信装置が当然に有しているものにすぎないし,「限定手段」は,訂正前の請求項1の「位置指定手段」による位置指定の前提となる表示すべき番組表の内容を具体的に規定したものであり,「更新手段」は,番組内容の表示位置を指定するための位置指定に関連して,カーソルの移動に伴って必要な処理内容を具体的に規定したものであり,「映像信号出力部」は,請求項1に係る放送内容受信装置に必要とされる映像信号出力部の機能を具体的に規定したものであるから,明細書に接した第三者であれば,訂正が可能であることを予測することができるのであって,訂正事項aによる訂正が一般第三者の利益を損なうものとはいえない。
 
 被告の上記主張は,採用の限りでない。


5 上記3のとおり,訂正事項aは,訂正前の請求項1に係る発明の目的を逸脱したということはできず,訂正事項aに係る訂正によって,実質上特許請求の範囲を変更するものではないから,「訂正前の請求項1に記載された事項によって構成される発明の具体的な目的の範囲を逸脱してその技術事項を変更するものであり,実質上特許請求の範囲を変更するものであることは明らかである。」とした審決の判断は誤りであり,原告主張の取消事由2は理由がある。


第5 結論

 以上のとおりであって,原告主張の審決取消事由2は理由があるから,その余について判断するまでもなく,審決は取り消されるべきである。』

と判示されました。


 昨日取り上げた『平成18(行ケ)10070 審決取消請求事件 番組サーチ装置および番組サーチ方法 平成19年01月25日 知財高裁』とほぼ同一の判示事項のようです。


 なお、本件も含め昨日判決が公表された3件の特許権者は、過去にEPG特許や、2画面携帯特許等の特許問題で騒がれた『エイディシーテクノロジー株式会社』(http://www.epoint.co.jp/)です。



追伸;<気になったニュース>
●『【中国】特許検索、初の無料サイト』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070127-00000007-fsi-bus_all
●『米特許商標局、Eラーニング特許を再調査』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/27/news009.html
●『【知はうごく】映画が盗まれている≪盗撮の現場≫著作権の攻防(1)』
http://www.sankei.co.jp/shakai/wadai/070127/wdi070127002.htm