●平成16(ワ)23600等 特許権侵害差止等 半導体記憶装置 東京地裁

 東芝とハイニックスとのフラッシュメモリ特許訴訟の第一審の『平成16(ワ)23600 特許権侵害差止等 半導体記憶装置 東京地裁』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060327185227.pdf)についてもう少しコメントしておきます。


 なお、あいかわらず今日も知財判決データベースの方にアクセスできないので、上記判決文を鈴榮特許綜合事務所のデータベースの『東京地方裁判所 平成18年3月24日 平成16年(ワ)第23600号』(http://www.suzuye.co.jp/hanrei/16wa23600.pdf)からダウンロードして読んでみると、本事件の争点は、


『3 本件の争点
(1)構成要件充足性
(2)本件特許発明は特許無効審判により無効にされるべきものか否か
特許法36条5項2号違反
イ新規性欠如その1(乙第6号証と同一か)
ウ新規性欠如その2(乙第7号証と同一か)
(3)損害の発生及びその額』

となっています。


 第1の争点の『(1)構成要件充足性』は、イ号(被告製品)が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かの争点であり、これは、昨日コメントしたように、

『特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められ(特許法70条1項),特許請求の範囲に記載された用語の意味は,明細書の記載及び図面を考慮して解釈する(同条2項)。明細書に特許請求の範囲に記載された用語に関する特別な説明や定義が存在しない場合には,当業者が理解する一般的な意味として解釈すべきである。』

 という、知財高裁でも採用する従前からの特許権の権利解釈で、東京地裁は、被告製品は特許発明の技術的範囲に属すると判断されています。



 第2の争点としては、特許法36条5項2号違反が争われており、東京地裁は、

『(1)平成6年法律第116号による改正前の特許法36条5項は「第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない」と規定し,同項2号(以下「特許法旧36条5項2号」という)は,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。」と規定している。


 したがって,特許請求の範囲には,発明の構成に欠くことができない事項、すなわち当該発明の技術的課題を解決するために必要不可欠な技術的事項を記載することにより,発明の構成要件のすべてを記載すべきものである。』


と述べ、


『・・・
(3)被告は,本件特許請求の範囲には,所定のカラムアドレスからの「連続読み出し」を規定する「第1のモード「第2のモード」の要件とは別に,このような「連続読み出し」の場合において「所定アドレス毎回入力の必要性」を除去する技術的手段が明確に記載されなければならないところ,かかる技術的手段が一切記載されていないと主張する。


 確かに,具体的構成については特許請求の範囲に記載はないが,本件特許発明は「第1の所定の列から順次前記データレジスタの内容を外部に出力」する「第1のモード」と「第2の所定の列から順次前記データレジスタの内容を外部に出力」する「第2のモード」という特許請求の範囲の各文言を基礎に,読み出し開始位置が「第1の所定の列」,「第2の所定の列」という具合に,あらかじめ定まっていることに大きな意味がある。


 そして,そのために,どのようなモード設定をするかについても,本件明細書(甲6)の実施例に関しては,例えば「第1のモード」については,図4,図11の動作を行うものであること及びその動作につき【0019】、【0020】、【0032】ないし【0036】に詳細に説明されており,また「第2のモード」についても,図5,図12の動作を行うものであること及びその動作につき【0021】、【0037】に詳細に説明されており,当業者が実施できる程度に説明されているというべきであるから,かかる具体的な技術手段が特許請求の範囲に記載されていなくても,特許請求の範囲の記載に欠けるところはないというべきである。


 したがって,この点に関する被告の主張は理由がない。』

と判断されています。


 本件とは関係ありませんが、特許法36項第4項や第5項の特許請求の範囲や明細書の記載違反も無効理由になっていますので、明細書にしっかり本発明の内容が開示されていなかったり、あるいは矛盾する記載があると、つかれる可能性があるので注意が必要です。


 少し気になったのは、第3の争点の争点イ(新規性欠如その1)について、

『・・・
カ 以上のとおり,引用例1は,本件特許発明1と構成要件A,B,C,D及びGにおいて一致するが,構成要件E及びFにおいて相違する。


(4)本件特許発明2及び3について
 上記(3)と同様の理由により,引用例1の構成d’は,構成要件L及びRと一致しない。


(5)以上により,本件特許発明が引用例1により新規性を欠如するとの被告の主張は理由がない。


4 争点(2)ウ(新規性欠如その2)について
(1)引用例2の内容
 本件特許の出願前に頒布された特開昭62−298095号公報(乙7)には,次の記載がある。

・・・

 したがって,引用例2は「データレジスタ内のデータを外部に出力する」ことを前提とする本件特許発明1の構成要件E及びF,本件特許発明2の構成要件L並びに本件特許発明3の構成要件Rの構成とも一致しない。
(3)以上により,本件特許発明が引用例2により新規性を欠如するとの被告の主張は理由がない。』

と判示されています。



 通常、新規性に基づく無効を抗弁を主張する場合、合せて進歩性に基づく無効の抗弁も主張し、引用例が複数あれば、引用例の組合わせに基づく進歩性に基づく無効も主張すると思うのですが、上記判決文を読む限り、進歩性違反の無効の抗弁はなかったようです(なお、本事件では、引用例1,2の組み合わせに基づく進歩性なしを主張されたとしても、本件特許発明1の構成要件E及びF,本件特許発明2の構成要件L並びに本件特許発明3の構成要件Rの構成は、開示されていないので、結論においては変わらなかったものと思います。)


 なお、本事件の裁判長は、高部眞規子裁判長でした。



追伸;<気になったニュース>
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http://www.meti.go.jp/press/20070119004/20070119004.html
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