●平成18(ネ)10056 損害賠償等請求控訴事件 電話の通話制御システ

 今日は、昨日に続き、特許法第104条の3により原告(控訴人)の請求が棄却された『平成18(ネ)10056 損害賠償等請求控訴事件 特許権 民事訴訟 電話の通話制御システム,電話の通話制御方法』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061221104515.pdf)における争点、
  『(1)「本件出願当初明細書に開示された発明の本質」との主張について』と、
  『(2)「原判決の出願当初明細書の理解の誤り」との主張について』と,
について取り上げます。



 まず、知財高裁は、(1)「本件出願当初明細書に開示された発明の本質」との主張について、

『控訴人は,テレホンカードシステムと対比した上,本件出願当初明細書に開示された発明のうち「記憶」に関しては,前払いの額が記憶される場所を,使用者の手元のテレホンカードではなく,電話システム内の「特別交換局」とした点が,発明の本質であり,その額の「支払」と「記憶」の時間的前後関係は,発明の本質に何ら関係しないと主張し,さらに,本件出願当初明細書に接した当業者であれば,本件出願1に係る優先権主張日(昭和61年1月13日)当時,広範に普及していたテレホンカードシステムとの比較において,同明細書に記載された発明を理解することは当然であるとも主張する。


 しかしながら,本件出願当初明細書には,テレホンカードシステムの技術を参酌して発明を理解すべきであるとする記載も示唆もなく,そもそも,テレホンカードないしテレホンカードシステムについては何らの記載もない。


 そうするとたとえ、本件出願1に係る優先権主張日当時,テレホンカードシステム自体が周知であり,あるいは普及していたとしても,テレホンカードの技術を背景として,あるいはそれと対比して,本件出願当初明細書に記載された発明を理解すべきものであると考える理由はなく,そうであれば,控訴人の主張するように,クレジット額が記憶される場所を,電話システム内の「特別交換局」とし,クレジットの確認及びクレジットの残額に応じて相手先と接続したり遮断したりする制御を,特別交換局にさせるようにしたことが,同発明の本質であり,クレジット額の「支払」と「記憶」の時間的前後関係は,発明の本質に何ら関係しないことが,本件出願当初明細書の記載から直ちに読み取れるものということはできない。



 すなわち,明細書又は図面の記載から見て,ある事項が自明であるというためには,ある周知技術を前提とすれば,当業者が,明細書又は図面の記載から,当該事項を容易に理解認識できるというだけでなく,たとえ周知技術であろうと,明細書又は図面の記載を,当該技術と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が必要であると解すべきである。


 しかるところ,テレホンカードシステムは,電話利用のために,磁気カード読み取り機能を有する専用の公衆電話機しか使用できないシステムであるから、「前払い電話通話のためいずれの電話機でも使用できるようにした方法が提供される(本件出願当初明細書24頁8〜9行)」という効果を奏する本件出願当初明細書記載の発明とテレホンカードシステムとの間には本質的な相違があるというべきであり,たとえ,両者とも前払い方式の課金システムを伴うものであってもそのことのみによってかかる示唆があるということはできない。


 そうすると,本件出願当初明細書に,テレホンカードないしテレホンカードシステムについて何らの記載もない以上,テレホンカードの技術を背景として,あるいはそれと対比して,本件出願当初明細書記載の発明を理解する契機はないといわざるを得ない。


 なお,甲15,16の各陳述書は,本件出願1から20年以上の期間を経て作成されたものであり,かつ,作成者らは,その作成当時の(あるいは本件出願1補正がなされた平成9年5月7日当時の)技術水準につき,十分な知見を有するものと推認されるものであるから,これらのいわゆる後知恵の影響を排し,本件出願1のなされた当時の技術水準に基づいて,本件出願当初明細書の記載事項を把握することは,必ずしも容易ではないというべきところ,上記各陳述書の記載内容を仔細に検討してみても,作成者らが,その点に十分配慮し,本件出願当初明細書の記載に虚心に接した上で,各陳述書を作成したとの心証を抱くには至らず,したがって,その各記載内容を採用することはできない。』

と判示されました。


 つまり、クレジットの確認及びクレジットの残額に応じて相手先と接続等する制御を特別交換局にさせることが発明の本質である本件出願当初明細書記載の発明と、テレホンカードシステムとの間には本質的な相違があったので、この両者を結びつけて考えることは困難ということのようです。


 なお、上記判決文において、最初に赤太線で示した「明細書又は図面の記載から見て,ある事項が自明であるというためには,ある周知技術を前提とすれば,当業者が,明細書又は図面の記載から,当該事項を容易に理解認識できるというだけでなく,たとえ周知技術であろうと,明細書又は図面の記載を,当該技術と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が必要であると解すべき。」というフレーズは、中間処理時などに引例と周知技術等の組み合わせの困難性等に使えるのではと思います。



 次に、知財高裁は、(2) 「原判決の出願当初明細書の理解の誤り」との主張について

『控訴人は,本件出願当初明細書記載の発明において「取得」の前に「記憶」がなされていることを前提とし「支払」と「記憶」との時間的関係について,主張の(A)の態様と(B)の態様があるとし,本件出願当初明細書の実施例の記載を検討すれば,本件出願1当時の当業者は,(A)の態様のみならず,(B)の態様が記載されていることも理解し得ると主張する。


 しかしながら,本件出願当初明細書上「取得」の前に「記憶」がなされている,ことが記載されているものと直ちに認めることはできず,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものである。


 すなわち,控訴人が引用する本件出願当初明細書の実施例の記載(11頁17行〜12頁9行)は,以下のとおりである。


 ・・・


 「顧客,例えば正規の電話使用者或いは旅行者は現金或いはクレジットカード支払いにより特別の中央局で,特別のコード,クレジット額(信用額)及び電話番号を取得する。コード,クレジット額及び電話番号は通常クレジットカード会社を通じて取得し,取得者のクレジットカードにより支払われるようにしてもよい。或いはクレジット額,電話番号及び本人特定コードは例えば空港,ホテル,レンタカー事務所等の販売地点で購入できるようにしてもよい。支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる。クレジット額は特別のコードと共に特別の中央局のメモリーに記憶される」。


 しかるところ,上記記載中には,顧客が「特別のコード,クレジット額及び電話番号」を取得する時点で,すでに「特別のコード」と「クレジット額」とがメモリーに「記憶」されていることを示す記載はなく,また,顧客が「特別のコード,クレジット額及び電話番号」をセットで取得するからといって,その取得時に「特別のコード」と「クレジット額」とが,メモリーに「記憶」されていなければならないと考える理由もない。


 控訴人は「支払われた額は取得者のクレジット(信用貸し)となり,今後の電話使用ができる」との記載につき「支払」と「取得」が行われた時点では電話使用ができることをすなわちその時点ではすでに「記憶」がなされていることを示していると主張するが、「今後の電話使用ができる」との記載は,その前後の記載と併せ読めば,取得者(顧客)の支払額が「クレジット額となることと本件出願当初明細書記載の発明における電話利用はそのクレジット額(信用貸しの額,すなわち前払い額)を料金に充当することによって」なされることを意味することが明らかであり、「今後の電話使用ができる」と記載されているからといって「支払」と同時に,クレジットを使用した電話利用が可能となることを意味するものと解することはできない。

 ・・・

(4) 控訴人は,さらに,本件出願当初明細書の特許請求の範囲第10項は,支払と記憶についての時間的順序には関係しない発明,すなわち,特許請求の範囲第1項記載の発明よりも上位概念の発明を開示しており「記憶」,「支払」という順の発明が内包されていると主張する。


 しかしながら,特許請求の範囲第10項は「記憶」とともに「支払」について,も規定し,かつ,その順序を限定していないというものではなく,そもそも「支払」については規定していないのである。


 したがって,単なる論理的な可能性という意味では,特許請求の範囲第10項の発明として「支払 」,「記憶」という順の態様と「記憶」,「支払」という順の態様とが観念し得るとしても,そのような論理的な可能性というだけでは,明細書の補正の根拠として「記憶」,「支払」という順の態様が明細書に記載又は示唆されているといい得るものでないことは明らかであり,控訴人の上記主張も失当である。


(5) 以上のとおりであるから,本件出願当初明細書に「記憶「支払」という順の実施態様が記載又は示唆されているとする控訴人の主張を採用することはできない。

3 結論

 以上によれば,控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。』

と判示されました。


 つまり、出願後、明細書に記載なきことを記載部分から類推したり、あるいは周知技術等を参照して主張することは困難であり、特にその記載がない部分が本発明の本質部分が周知事項とか発明の特徴部分であり、その部分を主張する場合は、特に困難であることを教示しているようです。


 なお、本件出願は、外国出願を基礎とする日本出願のようですので、翻訳や優先権の同一性の問題で明細書をあまりいじれないので、いたしかたないのかとも思います。



追伸;<気になったニュース>

●『外国人による特許出願件数が米国で急増、2006年には24.2%に (2007/01/16)』
http://www.eetimes.jp/contents/200701/14095_1_20070116144543.cfm
●『民主党主導の米国110 議会が開会 〜両院司法委員長、少数党筆頭委員及び上院司法委員公表〜』
http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/070111.pdf
●『米ラムバスがスパンションに特許使用ライセンスを供与(ラムバス)』
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=671
●『米アイシロン・システムズ、ストレージ関連ユーザー負荷低減のソフトウェア技術特許を取得(アイシロン・システムズ)』
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=673


●『英国産業革命発明秘話』(JIPA“Coffee break 役員談話室”)
http://www.jipa.or.jp/content/coffeebreak/yakuin/yaku070116.html
●『地域団体商標制度
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/t_torikumi/t_dantai_syouhyou.htm


●『著作権法改正へ--検索事業者のデータ利用、著作権の許諾なしでも可能に』
http://japan.cnet.com/news/biz/story/0,2000056020,20340735,00.htm
●『米ネット検索市場、12月はグーグルとヤフーがシェア拡大=調査』
http://www.thinkit.co.jp/free/news/reuters/0701/16/3.html
●『中国の検索エンジン百度」、日本上陸へ』
http://www.asahi.com/digital/internet/TKY200701120257.html
●『高まる検索エンジンナショナリズム(前編)--なぜGoogleは韓国で弱いのか?』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070116/258796/
●『洋上の微小国家シーランドが、海賊版コンテンツ天国に?』
http://japan.internet.com/busnews/20070116/12.html
●『「世界最小国家」買収にBitTorrentサイトが名乗り』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0701/16/news027.html
●『SIIA、総額100万ドルでソフトウェア・ライセンス違反企業11社と和解──和解金は全額違法コピー撲滅運動へ』
http://www.computerworld.jp/news/trd/56050.html


●『「中国知財権保護の新たな布石」』
http://www.21coe-win-cls.org/rclip/activity/index31.html
●『知的財産権侵害への罰金刑など強化へ』
http://j.people.com.cn/2007/01/16/jp20070116_66951.html
●『オリンピック知財を保護』
http://www.pekinshuho.com/jp2005/2005-wj/2007-03/2007.03-zhongyao-1.htm
●『LG電子が1位、サムスン3位・「利用価値高い」国内登録特許』
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20070116AT1D1400B15012007.html
●『サムスンSDI、06年第4四半期は赤字に転落』
http://www.thinkit.co.jp/free/news/reuters/0701/16/8.html


●『「驚いた」と第一声 伊吹文科相理研を視察 和光』
http://www.saitama-np.co.jp/news01/16/17x.html
●『特殊セメント:住宅解体廃材から製造、県と松下電工共同開発 ゴミ減量に期待 /三重』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070116-00000155-mailo-l24
●『建設廃材使いバイオ燃料 世界初の施設、堺に完成』
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007011601000494.html
●『産総研と民間5社が病院・放送局向け大容量データ配信システムを開発(産業技術総合研究所)』
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=674
●『高速LAN製品が登場――規格の確定は来夏か?』
http://www.yomiuri.co.jp/net/frompc/20070111nt05.htm
●『三菱電機など、単一光子源による世界最長80kmの量子暗号通信に成功』
http://japan.cnet.com/news/ent/story/0,2000056022,20340809,00.htm


●『PS3が日本国内でも生産出荷累計が100万台を達成--全世界では200万台』
http://japan.cnet.com/news/tech/story/0,2000056025,20340843,00.htm
●『PS3出荷、国内でも100万台突破』
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20070116AT1D1605Y16012007.html
●『5万円で買える次世代DVDプレーヤー、「PS3」・東芝「HD-XF2」を徹底比較』
http://it.nikkei.co.jp/digital/news/dvd.aspx?n=MMIT1f000004012007
●『CESで見えてきた2007年の薄型テレビ市場』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070116-00000026-zdn_lp-sci
●『LGフィリップスLCD、07年の液晶パネル価格は大幅低下の見通し』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070116-00000937-reu-bus_all
●『松下・シャープ、北米の薄型テレビ販売で激戦=認知度アップに懸命』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070115-00000145-jij-bus_all
●『【CES 2007】ビル・ゲイツ氏が語る「コネクテッド・ホーム」構想 』
http://www.computerworld.jp/news/trd/55691.html
●『【続報】ヤマダやヨドバシが参加するICタグ6実験、経産省が発表』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070116/258791/
●『「電子タグ活用による流通・物流の効率化実証実験」について』
http://www.meti.go.jp/press/20070116002/denshitagu-p.r.pdf


●『内閣府個人情報流出、韓国の大学HPに掲載』
http://www.asahi.com/digital/internet/TKY200701160199.html
●『不二家事件で痛感した「内部統制」の限界』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070114/258582/