●『平成18(行ケ)10262 審決取消請求事件 水棲動物用長期間飼料』

 本日は、『平成18(行ケ)10262 審決取消請求事件 特許権 水棲動物用長期間飼料 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061227171537.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、請求が認容されて拒絶審決が取消されました。


 本件では、拒絶審決の際、主引例とされた刊行物1について審査・審判において原告に示していなかったため、原告に意見を述べる機会を与えることなくされた審決の判断は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものであり,手続き上の瑕疵があるという理由です。


 ただし、この刊行物1は、本願発明の明細書に記載された従来発明でした。


 そして、知財高裁は、

『そこで原告は,上記拒絶査定に対する不服の審判請求を行い,同請求は特許庁において不服2002−6395号事件として審理されることとなった。


 同請求事件の審理の中で原告は,平成14年5月9日付けで再び本願についての手続補正を行った(甲9)が,その内容は,特許請求の範囲を次のとおり補正するものであった(下線部は補正部分。)

・・・

 上記補正後も特許庁において審理が続けられ,平成18年1月30日付けで本件審決がなされ,その内容は別添審決写しのとおりであるが,その間,特許庁から改めて拒絶理由通知が発せられることはなく,また審判請求人たる原告が意見書等を提出することはなかった。


イ 上記認定事実によれば,原告は,平成6年3月21日になした本願の明細書の発明の詳細な説明の冒頭において,刊行物1について言及し,同刊行物に記載された内容が公知である旨述べているが,その後平成13年6月12日付けでなされた特許庁審査官からの拒絶理由通知書(甲7)には刊行物1についての言及は一切なく,これに対して原告が提出した平成13年11月26日付けの意見書(乙1)にも刊行物1について触れる記載はなく,平成14年1月7日付けでなされた拒絶査定(甲8)も,前記拒絶理由通知を引用したものであったこと,そして,平成18年1月30日になされた本件審決において刊行物1が主引用例とされ,前記拒絶理由通知書(甲7)及び原告の意見書(乙1)で取り上げられた刊行物2は周知技術を示す一例とされたことが,それぞれ認められる。


 そこで,以上の事実認定に基づき原告主張の取消事由1について判断する。


ア 前記認定のとおり,平成18年1月30日付けでなされた本件審決は,刊行物1を主引用例とし,刊行物2を補助引用例として,本願発明について進歩性の判断をして,進歩性を否定したものであるが,主引用例に当たる刊行物1(西ドイツ特許出願公開明細書DE3707032号。甲2)。

 なお,刊行物1に係る出願を基礎とするパリ条約による日本国への優先権主張出願の公開公報は,特開昭63−230039号公報〔甲3 〕は,拒絶査定の理由とはされていなかったものである上,これまでの審査・審判において,原告に示されたことがなかったものであることが認められる。


 そうすると,審判官は,特許法159条2項が準用する同法50条により,審決において上記判断をするに当たっては,出願人たる原告に対し,前記内容の拒絶理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならなかったものということができる。


 したがって,原告に意見を述べる機会を与えることなくされた審決の上記判断は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものであり,その程度は審決の結論に影響を及ぼす重大なものというべきである。

イ 被告の反論に対する判断
 まず被告は,本願明細書の記載内容及び刊行物1の構成等を考慮すれば,原告は「DE3707032号明細書(刊行物1,甲2)に記載」の技術的内容について本願発明の出願時点からこれを熟知していたから,審決を取り消すべき手続上の違法性はない,と主張する。


 しかし,仮に被告主張のような本願明細書の記載内容及び刊行物1の構成等を考慮することにより原告が刊行物1に記載の技術内容について熟知していたといえるとしても,主引用例に当たる刊行物1が,拒絶査定の理由とはされておらず,審査・審判において原告に示されたことがなかったものであることに変わりはないのであって,なお原告は,審判官から,本願発明を従来発明と対比することにつき意見書を提出する機会を与えられるべきであったと解するのが相当である。


 被告の上記主張は採用することができない。


 次に被告は,審決が刊行物1から従来発明として引用したものは「水中で長期間安定であり,水に不溶性で,かつ水質を損わない押出物の形態であり,8%の残量水分,2〜8重量%の結合剤(Zement)を含む観賞魚の休日用魚餌」という技術的事項に止まるから,その旨を改めて拒絶理由として通知されなくても,原告は十分認識できていたと主張する。


 しかし,審決は,刊行物1を,発明のもつ技術的な意義を明らかにするなどのために出願時の技術常識や周知技術として参酌したものではなく,刊行物1を主引用例とし刊行物2を補助引用例として,本願発明について進歩性の判断をし,進歩性を否定したものと認められる。


 このように,審決は,拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしたものである以上,主引用例に当たる刊行物が異なるにもかかわらずこれを技術的事項に止まるものであるとして,原告に意見を述べる機会を与える必要がないということはできない。


 被告の上記主張は採用することができない。


 次に被告は,拒絶理由通知の理由は,その適用条文として「特許法第29条第2項」を示したものであって,本願発明が刊行物2に記載された発明であるという特許法29条第1項第3号をその適用条文として示しているものではない,と主張する。


 しかし,前記のとおり,審決は,拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしたものであって,そうである以上,主引用例に当たる文献が異なるにもかかわらず,拒絶査定と根拠法条が同じであるというのみで,原告に意見を述べる機
会を与える必要がないということはできない。


 被告の上記主張は採用することができない。


 次に被告は,本願発明は刊行物1(DE3707032号明細書)と比べて改良された部分に特徴があるとして刊行物2に関する拒絶理由通知が提示されたのは明らかであり,原告も刊行物1を念頭におき,従来の長期飼料として刊行物1に記載された飼料を前提としてそれと比べて改良された部分に特徴があると判断して反論をしているのは明らかであるから,再度刊行物1を含む拒絶理由通知書を提示したとしても,それは単に形式的なものに過ぎず,拒絶理由通知書の趣旨としては平成13年6月12日付けの拒絶理由通知書(甲7)と同じ内容のものとなってしまい意味がないことになる,と主張する。


 しかし,本願発明の技術的特徴がどこにあるにせよ,本件における審決の判断が,拒絶査定の理由とはされていなかった文献を主引用例として進歩性を否定する判断をしていることに変わりはなく,再度刊行物1を含む拒絶理由通知書を提示したとしても同じ内容のものとなってしまうとして原告に意見を述べる機会を与える必要がないということはできない。なお,意見書(乙1)の記載内容をみても,原告は,拒絶査定の理由とされた刊行物2を主引用例と認識して意見を述べていることが明らかであり,刊行物1を主引用例と認識して意見を述べていると認めることができる箇所は見当たらない。
 

 被告の上記主張は採用することができない。


ウ 以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がある。


 なお,本判決は,上記のとおり,審決の手続上の違法を理由に取り消すものであり,実体上の事由については,何ら判断しておらず,今後特許庁において適切な手続運営の下で改めて審理されるべきものと考える。


3 よって,その余について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから,これを認容することとして,主文のとおり判決する。』

と判示されました。


 審決において初めて引用された引用例が、出願人が初めて見る新たな引用例であれば、当然に出願人に意見を申し立てず審決を出したなら手続き上の瑕疵になりますが、かかる引用例が本件のように出願人自身が明細書に記載した従来技術ですと、特許庁側も主張しているように出願人自身が良く内容を知っているはずですので、本件に関しては、特許庁側の肩を持ちたくなります。


追伸:<気になったニュース>
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http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0612/29/news010.html