●『標準化における知的財産権の扱い』 

 今日は、12月にしては、記録的な雨のようです。


 さて、今日は、12/20に情報処理学会の情報規格調査会より公表された「情報技術標準− NEWSLETTER −No. 72 2006年12月」より、『標準化における知的財産権の扱い』(http://www.itscj.ipsj.or.jp/tutorials/tu72.html)の記事について取り上げます。

 なお、この記事は、竜田敏男様(早稲田大学 理工学総合研究センター)が執筆された記事です。


 この記事には、ISOやIEC、ITUの国際標準に関連する特許を取得した際に提出する共通する“ISO/IEC/ITU共通の宣言(案)”(http://www.itscj.ipsj.or.jp/tutorials/tu72.pdf)がリンクされています。


 この記事によれば、まず、

『昨年来ISOとIECとITU-T(International Telecommunication Union − Telecommunication Standardization Sector: 国際電気通信連合 − 電気通信標準化部門)の3者は,それぞれの知的財産権の担当者が集まってタスクフォースを組み,標準化における特許権の扱い方を協議してきました.その結果2006年1月にISO/IEC/ITUの共通特許取扱ポリシー(案)が完成し,2006年3月にISOとIECでそれを承認しました.

 その後,ITU-TのIPR Ad Hoc委員会が2006年6月にジュネーブで開催され,JTC 1とITU-Tが共同で作成した標準案に使用していたJTC 1/ITU-T共通の特許声明兼使用許諾宣言(以下,宣言と略す)を基に,ISO/IEC/ITU共通の宣言(案)”を作成しました(図1参照).

 ITU-Tは,前記のISO/IEC/ITU共通特許取扱ポリシー(案)と,ISO/IEC/ITU共通の宣言(案)を2006年7月に承認しました.ISOとIECが宣言(案)を承認するのは, 2007年3月頃になる予定です.』

とのことです。


 つまり、2007年3月移行は、国際標準のパテント所有者は、“ISO/IEC/ITU共通の宣言(案)”(http://www.itscj.ipsj.or.jp/tutorials/tu72.pdf)のような共通の宣言書をそれぞれISOやIEC、ITU-Tに提出して、パテント所有者であることを表明するようです。


 この記事によれば、“ISO/IEC/ITU共通の宣言(案)”(http://www.itscj.ipsj.or.jp/tutorials/tu72.pdf)には、

(1)特許所有者(Patent Holder/Organization)
(2)使用許諾を申請するときの連絡先(Contact for license application)
(3)標準のタイプ(Document type)と文書の提出先
(4)特許の使用許諾条件の宣言(Licensing declaration)
(5)特許情報(Patent Information)

等を記入するようです。


 ここで、特許の使用許諾条件の宣言(Licensing declaration)の欄には、

『“特許所有者(弊社)は,成立した特許又は申請中の特許を所有していて,上記の標準を実施・実装する上で弊社の特許を使用することが必要になる(必須特許ともいう)と思われるので,ITU-T/ITU-R/ISO/IECの共通特許ポリシーに従って,以下を宣言する”』

と記載されているとのことです。


 なお、

『“必須特許”とは、標準を実施・実装するときにどうしても避けられない特許を必須特許のことを言い、標準化団体では一般的に必須特許だけを宣言の対象とする。』

とのことです。


 一番問題になるのが、その下の欄ですが、そこには、特許使用許諾(ライセンス)の条件の選択肢として、1,2,3の3つの選択枝があり、世界中のほとんどの標準化団体が,この“3種類の選択肢”を採用しているとのことです。


 第1の選択肢は“無償(Free)”で、

『1番目の選択肢は, RF(アールエフ)と呼ばれています.特許所有者は“RF(Royalty Free:無償)”で特許を使用許諾するという宣言です.


詳しく翻訳すると,“特許所有者は,世界中の無制限数の特許使用者(applicants 又はlicensees)に対し,「非差別的な原則」(後述)に基づき,妥当な条件で,上記の標準の実施物を製造,使用,販売する範囲で,無償で使用許諾する用意がある.使用許諾の交渉は,関係当事者に任せるので,ISO/IEC/ITUの外で交渉すること”となります.


  “非差別的な原則”とは,A社には使用許諾するが,B社には使用許諾しない,というような差別をしないという意味です.


“妥当な条件”とは,使用許諾の合意書に不当な条件をつけないという意味です.


また,無償の意味は,3.5.4で詳細な定義が出てきます.


  その下にAlso mark here_ が2つありますが,一つ目のAlso mark here_は,“特許所有者の使用許諾はreciprocityを適用する権利を留保する”場合にチェックマークを付けるのです.Reciprocityの定義は3.5.5に出てきます.

 二つ目のAlso mark here_は,“同じ標準に対して相手も必須特許を持っていて,その相手が無償でなく有償で使用許諾すると宣言した場合は,こちらは無償を有償に変える権利を留保する”という意味で,権利を留保する場合に,チェックマークを付けます.』

とのことです。



 第2の選択肢は、“妥当な使用許諾料(有償)”で、

『2番目の選択肢は, RAND(ランド)と呼ばれます.特許所有者は妥当な料率(有償)で特許を使用許諾するという宣言です.


詳しく翻訳すると,“特許所有者は,世界中の無制限数の特許使用者(applicants 又はlicensees)に対し,非差別的な原則に基づき,妥当な条件で,上記の標準の実施物を製造,使用,販売する範囲で,使用許諾する用意がある. 使用許諾の交渉は,関係当事者に任せるので,ISO/IEC/ITUの外で交渉すること”となります.ここにもReciprocityの権利を留保する選択肢があります.


 以前は,Reasonable and Non-Discriminatory terms and conditions(略してRAND)となっていたのですが,Reciprocityなどの例外条件を追加したのと,使用許諾の料率は非差別的(同額)という意味ではないので,誤解のないようにNon-Discriminatory basis and on Reasonable terms and conditionsと文章を変えました.従って,正確には略語がRANDではなくなりましたが,知財部門の人達はこれまでどおりRANDと呼んでいます.』

とのことです。



 第3の選択肢は“前記の第1項でも第2項でもない”で、

『3番目の選択肢は,使用許諾拒否”と呼ばれています.


詳しく翻訳すると,“特許所有者は,上記の第1項又は第2項の条件での使用許諾をしない”です.理論的には,妥当でない使用許諾条件もここに含まれますが,一般的には“使用許諾を拒否する”ととられています.

 この選択肢を選ぶ場合には,次の3種類の資料を添付する必要があります.その理由は,ウソの宣言をして,標準案が成立するのを遅らせたり,阻止しようとする策略行為を防止するためです.


· 成立した特許の番号又は申請中なら申請番号
· 標準のどの部分が,上記の特許(申請中を含む)の影響を受けるかを明示
· 上記の特許(申請中を含む)の請求範囲が,標準とどのように重なっているかの説明 』

とのことです。


 また、“無償(Free)の定義”としては、

 『Freeの意味は,“特許所有者は特許の権利を放棄するわけではなく,金銭的な対価を求めないという意味です.


ところで,Freeだからと言って特許を黙って勝手に使用してよいということではなく,関係する法規(問題が生じた場合は,どこの裁判所を使うとか),特許の使用分野(例えば,玩具に限るとか),相互主義(以下のReciprocityの定義を参照)の条件を付けるのか,瑕疵担保条件(特許が有効でなかった場合など)はどうするのか,などを記載した特許使用許諾に合意してから特許を無償で使用するように要求することができる”となっています.


しかし,無償で使ってよいと宣言したのに,世界中の特許使用者から契約書を交わしたいと申込みが殺到すると面倒なので,“契約書は不要”という立場をとる企業が多いと思います.


ただし,周辺特許などを所有していて,それらを有償で使用許諾しようとする企業は,無償の使用許諾を申請してもらうと,鴨がネギを背負ってくることになります.』

とのことです。


 また、“相互主義(Reciprocity)の定義”としては、

『図1にある定義を翻訳すると,“将来の特許使用者が同じ標準に対して必須の(確立した又は申請中の)特許を持っている場合で,将来の特許使用者が無償(RF)または有償(RAND)で使用許諾をするときだけ,この特許の所有者は将来の特許使用者に使用許諾しなければならない,”となります.


つまり,相手が相手の特許を使用許諾しない場合は,こちらがRFかRANDで使用許諾を宣言したとしても,その相手にだけは使用許諾を拒否できるという意味です.


 上記のReciprocityの定義に対して,以前に日本から疑問を投げかけました.それは,“こちらが無償(RF)で,相手が有償(RAND)を宣言した場合でも,相手に無償で使用許諾をしなければならないのか,不公平では?”というものでした.


これに対してITU-Tは二つ目のAlso mark here_を追加して,こちらが無償で相手が有償の場合は,その相手に対しては有償に変更できる,という救済措置を追加したのです.』

とのことです。


 選択枝1の“無償(Free)や、選択枝2の“妥当な使用許諾料(有償)”にも色々な制限があるようですので、標準化特許を担当している特許担当者は、これらの意味をしっかり理解する必要があります。


 詳細は、上記記事を参照して下さい。


追伸;<気になった他の記事>
●『第6回JIPA知財シンポジウム開催のお知らせ 』
http://www.jipa.or.jp/topics/topic_view.php?mode=view&unq=topic4590b76764570
●『ナビゲーション製品特許訴訟で米ガーミンに勝訴=蘭トムトム〔BW〕』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061226-00000040-jij-biz
●『大連:初のソフトウェア知的財産権保護センター設立』
http://www.xinhua.jp/newsdetails.aspx?newsid=P100005343&cate_id=712
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http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2006&d=1225&f=business_1225_008.shtml
●『オープンソースと法律問題の関係が印象深かった2006年』
http://japan.internet.com/webtech/20061225/10.html
●『■ 台湾の玩具著作権侵害案件で有罪判決
 〜日本企業の玩具模倣品業者に懲役刑〜 』
http://www2.accsjp.or.jp/news/release061225CODA.html
●『「コピーワンス見直し論」に分け入るインテルの戦略』
http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0612/25/news012.html
●『ウィニー事件、検察側も控訴』
http://www.asahi.com/digital/internet/OSK200612260061.html
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