●平成18(行ケ)10125 審決取消請求事件 「被服用ハンガー」

  今日は、『平成18(行ケ)10125 審決取消請求事件 「被服用ハンガー」
』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061221132009.pdf)について取り上げます。


 本件は、無効審判の棄却審決の取消しを訴えた審決取消訴訟で、原告の請求は認められず棄却されました。


 なお、この無効審判請求については,特許庁が一度特許無効審決をし,これに対し特許法181条2項に基づき上記審決を取り消す決定をしたことから,特許庁で再審理されていたものです。


 本件では、取消事由が1〜13主張され全て理由なしと判断されましたが、取消事由13において、本件発明1は特許法29条2項に該当する無効理由を有することを別件訴訟において被告が自ら認めた点が、本件訴訟の特許発明の有効性に影響与えるか否かを判断しており、この点で参考になります。



 つまり、原告は、『取消事由13(本件発明1は特許法29条2項に該当する無効理由を有することを別件訴訟において被告が自ら認めたこと)』について、


『(ア)  被告と原告の間には,引用発明3に基づく別件訴訟(東京地裁平成17年(ワ)第3056号。以下「第1訴訟。」という。)及び本件発明1に基づく別件訴訟(知財高裁平成17年(ネ)第10092号(その原審は大阪地裁平成16年(ワ)第5380号)。以下「第2訴訟」という。)が係属中であり,被告は,以下のとおり,これら2件の別件訴訟を通じて,本件発明1は,引用発明3に基づき容易に発明できた旨述べている。


a まず,被告は,第1訴訟の準備書面5(甲22)において,原告製品である第1クリップの目録(7頁)及び図面(8頁〜11頁)を示し,第1クリップは引用発明3の技術的範囲に属する旨(5頁8行)主張し,さらに,「第1クリップが被告商品に誰もが容易に想達するも極めて簡易な変更を加えたものに過ぎない」(6頁25行〜27行)と主張している。


b そして,被告は,第2訴訟の控訴状(甲20)において,原告製クリップの物件目録及び図面を示し,控訴理由書(甲21)において,原告製クリップは,「訂正後の本件発明(判決注本件発明1。以下同じ)の構成要件を充足し,作用効果も同一であることから,訂正後の本件発明の技術的範囲に属する」(2頁19行〜21行)と主張している。


c 第1訴訟における第1クリップと第2訴訟における原告製クリップは,いずれも原告製の同一クリップ(ピンチ)であるから,被告は,第1訴訟において,「引用発明3から誰もが容易に想到する」と主張しており,この主張と第2訴訟の主張とを併せると,本件発明1は引用発明3に基づいて誰もが容易に想到することを自ら認めていることになる。


(イ) 本件審決取消訴訟は,本件審決の違法性を争うものであるとしても,上述したように,被告が本件発明1は引用発明3に基づき容易に発明できたと自ら述べているのであるから,本件発明1は特許法29条2項に該当する無効理由を有することを被告が自ら認めたことになる。それにもかかわらず,審決は,本件発明1の進歩性を認めている誤りがある。』

と主張しています。


 これに対し、被告は、

『(13) 取消事由13に対し
ア 第1訴訟及び第2訴訟における被告の主張は,本件審決の取消事由とは無関係な主張であり,本件訴訟において,訴訟上の自白となるものではない。

イ もっとも,一定の場合,ある訴訟における当事者の主張,認否,反論等が,別の訴訟における事実認定に影響をおよぼす可能性があることは否定できない。

 しかし,第1訴訟及び第2訴訟において,被告が原告引用にかかる各主張を行ったことは事実であるが,これに対し,原告は各主張を争い,特に,引用発明3と第1クリップとの比較においては,後者が前者の技術的範囲に属しないことを主張していたのである。このような意味において,原告の主張は,自らの主張を否認する意味を持つと考えるべきである。』

と反論しています。



 そして、知財高裁は、取消事由13(本件発明1は特許法29条2項に該当する無効理由を有することを別件訴訟において被告が自ら認めたこと)について


『(1) 証拠(甲7の2,甲8の1,甲20〜22)と弁論の全趣旨によると,

(i) 原告(実施者)が被告(権利者)に対し,原告が製造販売する製品は引用発明3の技術的範囲に属するとして被告が警告書を送付した行為は不正競争行為に当たるとして,損害賠償等を請求する訴訟(東京地裁平成17年(ワ)第3056号。第1訴訟)が存したが,平成18年8月8日,原告の請求を棄却する判決がされ,同判決は確定したこと,


(ii) 被告が原告に対し,原告が製造販売する製品は本件発明1の技術的範囲に属するとして,差止め及び損害賠償を求める訴訟(大阪地裁平成16年(ワ)第5380号)が存し,同訴訟については,第1審で原告の請求を棄却する判決がされたが,原告が控訴して,当庁に係属中であること(当庁平成17年(ネ)第10092号。第2訴訟),以上の事実が認められる。


 そして,被告は,第1訴訟の準備書面5(甲22)において,原告が製造販売する製品である第1クリップの目録(7頁)及び図面(8頁〜11頁)を示し,第1クリップは引用発明3の技術的範囲に属する旨(5頁8行)主張し,「第1クリップが被告商品に誰もが容易に想達するも極めて簡易な変更を加えたものに過ぎない」(6頁25行〜27行)と主張している。


 他方,被告は,第2訴訟の控訴状(甲20)において,原告が製造販売する製品の物件目録及び図面を示し,控訴理由書(甲21)において,同製品は,「本件発明1の構成要件を充足し,作用効果も同一であることから,本件発明1の技術的範囲に属する」旨(2頁19行〜21行)主張している。


 第1訴訟の準備書面5(甲22)に記載された第1クリップの目録(7頁)及び図面(8頁〜11頁)と,第2訴訟の控訴状(甲20)に記載された原告が製造販売する製品の物件目録及び図面のピンチ片を対比すると,同一の物件であると認められる。


(2) 以上の(1)の事実によると,被告は,第1訴訟及び第2訴訟を通じて,原告が製造販売する一つの製品が,引用発明3の技術的範囲にも,本件発明1の技術的範囲にも属する旨の主張をしていることが認められるが,そうであるからといって,本件発明1が引用発明3に基づいて容易に発明することができたことを認めているということにならないことは明らかである。


 また,被告は,第1訴訟において,上記(1)のとおり,「第1クリップが被告商品に誰もが容易に想達するも極めて簡易な変更を加えたものに過ぎない」と主張している。ここでいう被告製品が,引用発明3の実施品を指すとしても,第1クリップという原告の製品が引用発明3から容易に想達する旨述べているに過ぎず,本件発明1と引用発明3を対比して,本件発明1は引用発明3に基づいて容易に発明することができた旨を述べているものではない。


 さらに,そもそも,第1訴訟及び第2訴訟における被告の主張は,本件とは別の訴訟における被告の主張であって,それから直ちに,本件訴訟において,本件発明1が引用発明3に基づいて容易に発明することができたかどうかの認定が左右されることにはならないというべきである。

(3) したがって,取消事由13は理由がない。


6 以上のとおり,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。』

と判示されました。


 詳細は、上記判決文を参照して下さい。


 なお、以前紹介した『特技懇 243号(最新号)』(http://www.tokugikon.jp/gikonshi/)は、“アジアの知的財産事情”の特集で、判例の紹介以外にも、『韓国の知的財産事情』(http://www.tokugikon.jp/gikonshi/243tokusyu4.pdf)や『中国特許制度のエッセンス』(http://www.tokugikon.jp/gikonshi/243tokusyu2.pdf)等の最新の韓国特許法や中国特許法の状況が掲載されおり、とても参考になりました。



追伸;<気になったニュース>
●『2007年度特許特別会計予算案、先行技術調査外注の強化など1190億円(特許庁)』
http://www.ipnext.jp/news/index.php?id=589
●『平成19年度知的財産政策関連予算案等の概要』
http://www.jpo.go.jp/torikumi/puresu/pdf/press_h19_chizai_yosanan/yosanan.pdf
●『解禁された高速PLCでシアワセになれるか?――パナソニック「BL-PA100KT」』
http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/articles/0612/25/news010.html
●『SEDの「CES 2007」への出展中止、原因は特許問題か』
http://www.eetimes.jp/contents/200612/13735_1_20061225181051.cfm
●『米MicrosoftRSS関連特許2件を申請』
http://enterprise.watch.impress.co.jp/cda/foreign/2006/12/25/9324.html
●『平成17(ワ)18156 商標権侵害差止等請求事件 「LOVEBERRY」』
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061222185041.pdf