●平成18(行ケ)10102 審決取消請求事件 シート張力調整方法,シー

  今日は、『平成18(行ケ)10102 審決取消請求事件 シート張力調整方法,シート張力調整装置およびシートロール用巻芯』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061221104212.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、審判段階で新たに甲3を公知技術として引用し、しかも原告に甲3発明についての意見や補正の機会も与えず拒絶審決をしたので、審決の結論に影響を及ぼすものと判断され、原告の請求が認容され、拒絶審決が取消された事案です。


 つまり、知財高裁は、取消事由3(手続違背)について

『・・・

(2) 原告は審決では刊行物2に代えて甲3が公知例として適用されており原告は,甲3発明について意見を述べる機会もなく,補正の機会も与えられなかったのであるから,本件審判手続は,特許法159条2項で準用する同法50条の規定に違反すると主張する。


ア そこで拒絶理由通知書甲4及び拒絶査定甲5 について検討する


(ア) まず,拒絶理由通知には,刊行物1,2を引用文献として掲げ「備考」として「刊行物2に記載された,巻芯に設けたトランスポンダに巻取量,残量,日時等のデータを記憶し,当該データに基づきロールの回転に対する負荷を制御する発明を刊行物1に記載されたシート張力調整方法及び装置の発明について適用し本願の請求項1〜6に係る発明とすることは,当業者が容易に想到し得たことであると記載されているここではトランスポンダに巻取量残量日時等のデータを記憶し,当該データに基づきロールの回転に対する負荷を制御する発明」が刊行物2に記載されていると認定しており周知技術についての言及はされていない。


(イ) 上記拒絶理由に対して原告は刊行物2には巻取量データと引出量データに基づき回転に対する負荷を制御することは記載も示唆もされていない旨主張する意見書(甲9)を提出したが,審査官は,意見書の内容を検討しても,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせない,として拒絶の査定をした。


 拒絶査定(甲5)には備考として刊行物2の段落【0042】【0045】【0046】などを摘示した上で「刊行物2には,計測時における残量に基づき,回転に対する負荷を制御する発明が記載されておりさらにある時点の巻取量データと,その時点からの引出量データとにより残量を検出することは,例を挙げるまでもなく通常行われていたことにすぎないから,巻取量データと引出量データに基づき回転に対する負荷を制御することは,刊行物2に記載されているに等しい事項というべきであり,出願人の上記主張は受け入れることが出来ない」として,本願の各請求項に係る発明は,刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであると結論付けた。


 ここでも審査官は「刊行物2には,計測時における残量に基づき回転に対する負荷を制御する発明が記載されており・・・巻取量データと引出量データに基づき回転に対する負荷を制御することは刊行物2に記載されているに等しい事項であると認定している。


 イ 上記拒絶理由通知書及び拒絶査定の記載から明らかなように,審査官は,本願補正発明と引用発明1の相違点に係る構成に関し,刊行物2には,シート巻取量と使用量から求めた残量に基づきロールの回転に対する負荷を制御する発明が記載されているとの認定に基づき,相違点2に係る構成は,引用発明1に引用発明2の構成を適用することにより,当業者が容易に想到し得ると判断している。


  しかしながら,刊行物2には,以下の記載がある。

 ・・・

 以上の記載によれば,刊行物2には,長尺材21の搬送距離に基づいて使用開始からの使用量を算出し,算出した使用量から長尺材21の残量が求められ,求められた残量がトランスポンダ14に記憶されることは記載されているということはできるが,シートの張力調整は,長尺材21の弛み具合を検出するセンサを用いて行われ,同センサで検出された長尺材21の弛み具合に基づいて回転軸45又は搬送ローラ46の回転が制御されることにより,長尺材21に常に一定の張力が作用するように調整されるものであると認められる。


 したがって,引用発明2は,巻取量データと上記引出量データから求められるシート残量とに基づいて張力の調整を行うものではない。


ウ そうすると,拒絶理由通知書及び拒絶査定の「備考」欄における,刊行物2には,シート巻取量と使用量から求めた残量に基づきロールの回転に対する負荷を制御する発明が記載されているとの認定は誤りである。


(3)  前記のとおり,審決は,シートロールの巻取量データと引出量データとに基づいて負荷をかけるという相違点に係る構成が「周知技術」であると認定し,拒絶理由通知書及び拒絶査定のように,公知例である刊行物2に記載されているとは認定していない。


 シートロールの巻取量データと引出量データとに基づいて負荷をかけるという構成が,本願補正発明の構成要件のうちでも重要な部分であることは,本願補正明細書に「従来のシート張力調整装置では,シートの使用による巻取量の変化を径方向に配置した巻径検出センサで段階的に検出する方式を採用しているため,検出センサのランクが切替わる径になると,芯管軸の偏心,シートの重量,巻き歪みなどの原因により電磁ブレーキのブレーキ力ランクが1回転毎に上下に変動するバイブレーション現象が生じる(段落【0005】),「この発明に係るシート張力調整装置においては,測定したシートの引出量と巻芯へのシートの巻取量とに基づいてシートロールの回転に対して負荷をかけるようにしたので,シートロールの巻径を検出するセンサが不要となる。」(【段落0011】) との記載からも明らかである。


 そして,審査手続及び審判手続を通じ,原告が,巻取量データと引出量データに基づき回転に対する負荷を制御することが刊行物2に記載されているとの認定を争ってきたことは,前記判示のとおりである。


  被告も指摘しているとおり周知技術はその技術分野において一般的に知られ当業者であれば当然知っているべき技術をいうにすぎないのであるから,審判手続において拒絶理由通知に示されていない周知事項を加えて進歩性がないとする審決をした場合であっても,原則的には,新たな拒絶理由には当たらないと解すべきである(例えば,東京高判平成4年5月26日・平成2年(行ケ)228号参照。)


 しかしながら,本件では,本願補正発明と引用発明1との相違点に係る構成が本願補正発明の重要な部分であり,審査官が,当該相違点に係る構成が刊行物2に記載されていると誤って認定して,特許出願を拒絶する旨の通知及び査定を行い,しかも原告が審査手続及び審判手続において刊行物2に基づく認定を争っていたにもかかわらず,審決は,相違点に係る構成を刊行物2に代えて,審査手続では実質的にも示されていない周知技術に基づいて認定し,さらに,その周知技術が普遍的な原理や当業者にとって極めて常識的・基礎的な事項のように周知性の高いものであるとも認められない。


 このような場合には,拒絶査定不服審判において拒絶査定の理由と異なる理由を発見した場合に当たるということができ,拒絶理由通知制度が要請する手続的適正の保障の観点からも,新たな拒絶理由通知を発し,出願人たる原告に意見を述べる機会を与えることが必要であったというべきである。そして,審決は,相違点の判断の基礎として上記周知技術を用いているのであるから,この手続の瑕疵が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。


3 結論
 以上のとおり,原告の取消事由3の主張は理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取消しを免れない。』

と判示されました。


 上記ケースは、拒絶理由および拒絶査定時に引用していなかった新たな甲3の公知技術を審判段階で引用しての拒絶審決ですので、反論の機会を与えなかったのは、やはり手続上の瑕疵になると思います。


 なお、上記ケースとは違いますが、特許出願の中間処理の際、進歩性の拒絶理由に対し引用例に該当しないように請求の範囲を補正したのに、次に新たな引用例を追加されて「前回補正により追加された事項は、新たな引用例等に記載されており、周知事項である。よって、・・・」等として拒絶査定が来ることが時折あります。


 勿論、こういう場合、審判請求をして反論すれば良いのですが、費用もかかるので、もう一度拒絶理由を出して、新たな引用例に対し審査段階で反論させて欲しいなと思うことがあります。



追伸;<気になった記事>
●『続・「仕事を任せないから日系企業は中国で負けている」』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20061220/125637/
●『電灯線でも高速通信』
http://www.yomiuri.co.jp/net/column/dennou/20061218nt01.htm
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http://www.people.ne.jp/2006/12/23/jp20061223_66277.html
●『携帯電話向け違法音楽配信根絶に向けた諸施策の検討・実施について』
http://www.riaj.or.jp/release/2006/pr061221.html
●『MSのフィードリーダに関する特許、米特許商標庁が公開』
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20339845,00.htm
●『薄型テレビ、携帯電話は2011年まで成長--NRIが市場規模予測』
http://japan.cnet.com/research/column/market/story/0,2000067181,20339958,00.htm