●平成18(行ケ)10177 審決取消請求事件 釣り・スポーツ用具用部材

今日は、『平成18(行ケ)10177 審決取消請求事件 特許権;釣り・スポーツ用具用部材』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061221103811.pdf)について取り上げます。


 本件は、訂正審判の棄却審決の取消しを求めた審決取消訴訟で、原告の請求が認められ、訂正棄却審決が取消された事案です。


 本件では、訂正が認められる範囲と、物を製造方法によって特定する場合の裁判所の解釈の点とで参考になるものと思われます。



 つまり、知財高裁は、

『1 「強化繊維自体が研磨されてなることが記載されているとは認められない。」との説示について

(1) 当初明細書(甲2)には,次の記載がある。
「本発明の釣り・スポーツ用具用部材は,次のようにして製造することができる。例えば,部材本体1が引き揃えられたカーボン繊維にエポキシ樹脂を含浸してなる繊維強化プリプレグを巻回してなる竿管である場合,繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨する。このとき,図1に示すように,強化繊維2の表面はかなり粗い状態となる。次いで,この部材本体1の表面上にエポキシ樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂等の合成樹脂4を吹き付け塗装,シゴキ塗装,印刷等の方法により被着し,強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する(図中ラインAまで)。このようにして,強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面とする。」(段落【0007】)

「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面は,図3に示すような概略形状を有している。すなわち,研磨された面の強化繊維2には,微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている。窪み部6の深さは,1μm程度であるが,5μm以下であれば特に限定されない。なお,窪み部6の幅は,表面の平滑性を考慮すると,平坦部7の幅よりも狭いことが好ましい。また,平坦部7においては,装飾性を考慮すると,部材本体1の表面に入射する光を効率良く反射して光輝性を示すことが好ましい。」(段落【0008】)

 また,図面には,図1に本件発明の釣り・スポーツ用具用部材の一実施形態が示され,図3に本件発明の釣り・スポーツ用具用部材における表面状態が示されている。


(2) 上記(1)の記載によれば,図1には,繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨して,強化繊維2の表面がかなり粗い状態となった後に,部材本体1の表面上に合成樹脂4を被着した状態が示され,また,図3には,図1のラインAまで研磨して,「強化繊維が露出した状態で表面粗さが5μm以下である表面」の概略形状が示されているということができる。そして,段落【0008】の「すなわち,研磨された面の強化繊維2には,微視的に見て窪み部6および平坦部7が形成されている。窪み部6の深さは,1μm程度であるが,5μm以下であれば特に限定されない。なお,窪み部6の幅は,表面の平滑性を考慮すると,平坦部7の幅よりも狭いことが好ましい。また,平坦部7においては,装飾性を考慮すると,部材本体1の表面に入射する光を効率良く反射して光輝性を示すことが好ましい。」との記載から,図3に記載された「平坦部7」が部材本体の表面の平坦部分を構成していると理解することができる。


 そうであれば,図1のラインAまで研磨することにより,かなり粗い状態であった強化繊維2の表面が,微視的に見て窪み部6及び平坦部7が形成された状態になるのであって,図3はこの状態を示しているから,図面を参酌しつつ,明細書全体の記載をみるならば,当初明細書又は図面には,合成樹脂4の研磨の際に,ラインAよりも表面側に存在する強化繊維2自体をも研磨することが記載されているということができる。


(3) 被告は,当初明細書には,合成樹脂を被着した後,合成樹脂を研磨することで強化繊維が露出することは記載されているが,強化繊維自体も研磨されるとまでは記載されていないし,図面は単なる概念的な模式図にすぎないから,これをもって,合成樹脂を研磨する際に個々の強化繊維自体が研磨されたことを示しているということはできないと主張する。


ア 確かに,当初明細書には,「強化繊維2が露出するように,この合成樹脂4を研磨する」(段落【0007】),「強化繊維2が露出するようにして合成樹脂4を研磨する方法としては,バフ研磨,その他の鏡面研磨等を挙げることができる。」(段落【0009】)と記載されていて,強化繊維自体が研磨されてなるとは記載されていない。


 しかし,上記(1)のとおり,図面を参酌しつつ,明細書全体の記載をみるならば,当初明細書には,合成樹脂4の研磨の際に,ラインAよりも表面側に存在する強化繊維2自体も研磨することが記載されているということができるのである。


イ 上記(2)のとおり,図1には,繊維強化プリプレグを巻回した後にその表面を強化繊維2が露出するように研磨して,強化繊維2の表面がかなり粗い状態となった後に,部材本体1の表面上に合成樹脂4を被着した状態が示されているところ,当初明細書の段落【0007】の「図1に示すように,強化繊維2の表面はかなり粗い状態となる。」との記載は,図1が合成樹脂を被着する前のプリプレグの表面を強化繊維が露出するように研磨した時の図であると説明しているのではなく,合成樹脂を被着した後の図である図1においても,合成樹脂4を被着する前の「強化繊維2が露出するように研磨する」工程によって形成された強化繊維2の表面の粗い表面状態が,合成樹脂4と強化繊維2との境界に形成された凹凸として示されていることから,図1を利用して説明したにすぎないのであって,図面と説明とが一致していないわけではない。


 また,確かに,図面は,発明の内容を理解しやすくするために,明細書の補助として使用されるものであって,発明の内容を理解するのに十分な程度の正確さと精度があれば足り,設計図面のように詳細かつ厳密なものまでは必要でない。

 しかしながら,当初明細書の図面の簡単な説明には,図1が断面図,図3が拡大断面図と記載されているから,図3は,図1の部材本体の表面側に位置する(ラインA位置に存在する)強化繊維2とそれに隣接する強化繊維2が存在する部分を拡大した図であると解釈するのがもっとも自然であるところ,上記(2)のとおり,図3は,図1のラインAまで研磨することにより,かなり粗い状態であった強化繊維2の表面が,微視的に見て窪み部6及び平坦部7が形成された状態になることを示していて,合成樹脂を研磨する際に個々の強化繊維自体が研磨されたことを示しているということができるのである。


ウ 被告の主張は,図面の記載を顧慮することなく,当初明細書の文言に拘泥して,その趣旨を正解しないものであるといわざるを得ないから,採用の限りでない。


(4) そうであれば,当初明細書又は図面には,合成樹脂4の研磨の際に,ラインAよりも表面側に存在する強化繊維2自体も研磨することが記載されているということができるから,「強化繊維自体が研磨されてなることが記載されているとは認められない。」とした審決は,誤りである。


2 「「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されており,」という特徴を有する「竿管」という,「製法により表面構造を特定された物」も,同様に記載されているとは認められない。」との説示について


(1) 訂正後の請求項1は,上記第2の2(3)のとおりであるところ,「研磨」という工程
に格別の意義があるかどうかはともかくとして,露出した強化繊維自体を研磨する製法により,個々の強化繊維表面に平坦部が形成された「竿管」の表面構造を達成するという「製法により表面構造を特定された物」が記載されているということができる。


(2) ところで,審決は,「当初明細書又は図面には,研磨された面に露出した強化繊維には「微視的に見て窪み部および平坦部が形成」される製法として,繊維強化プリプレグを巻回した後にそのプリプレグ表面を強化繊維が露出するように研磨し,強化繊維の表面をかなり粗い状態とし,次いで,合成樹脂を被着して,その後強化繊維が露出するように,被着した合成樹脂を研磨する製法が記載されていて,単に露出する強化繊維自体を研磨する製法が記載されているとは認められない。」と説示する。


 製法により特定された物の発明において,製法は,あくまでも物を特定するために記載されているのであるから,当初明細書又は図面に当該発明が記載されているか否かは,発明の対象となっている物が当初明細書又は図面に記載されているか否かで判断されるものであり,審決のような説示は,「繊維強化プリプレグを巻回した後にそのプリプレグ表面を強化繊維が露出するように研磨し,強化繊維の表面をかなり粗い状態とし,次いで,合成樹脂を被着して,その後強化繊維が露出するように,被着した合成樹脂を研磨する製法」により特定された物の発明と「単に露出する強化繊維自体を研磨する製法」により特定された物の発明とが異なるものであるということができて初めて成り立つものである。


 上記1(1)の当初明細書の記載によれば,当初明細書には,粗研磨を施す工程及び樹脂を塗布する工程の後に研磨という工程を順次経由する方法が記載されているが,これは,「微視的に見て窪み部および平坦部が形成」される製法の一例を示したものであって,粗研磨を施す工程及び樹脂を塗布する工程が発明の対象物となっている物の表面状態を特定するために必須のものであることは何ら記載されていないから,上記2つの物の発明が異なるとする根拠はない。


 そして,上記1(2)のとおり,当初明細書又は図面には,合成樹脂4の研磨の際に,ラインAよりも表面側に存在する強化繊維2自体をも研磨することが記載されているから,「単に露出する強化繊維自体を研磨する製法」もまた,当初明細書又は図面に記載されているということができる。

(3) そうであれば,「「露出する強化繊維自体も研磨されて,前記研磨された個々の強化繊維表面には平坦部が形成されており,」という特徴を有する「竿管」という,「製法により表面構造を特定された物」も,同様に記載されているとは認められない。」とした審決は,誤りである。

3 したがって,審決の認定,判断には誤りがあり,これが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告主張の審決取消事由は,理由がある。


第5 結論

 以上のとおりであって,原告の審決取消事由は理由があるから,審決は取り消されるべきである。』

と判示しました。


 確かに、本願の図1〜図3がとても粗く、明細書には強化繊維自体を研磨することが明記されてない点からすると、特許庁側の判断も仕方が無いのかと思います(本判決文の中の特許庁の反論も参考になります。)が、【0007】および【0008】および図面の記載からすると、強化繊維自体を研磨していることが開示されているものと思われます。


 尚、今日は、IPDLがメンテナンス中ですので、本願の図面等は、エスパスネットのここ(http://v3.espacenet.com/origdoc?DB=EPODOC&IDX=JP10006407&F=0&QPN=JP10006407)から参照できます。


 ともかく、出願人および代理人側からすると、後からクレームに上げそうな事項は、しっかりと明細書に記載しておくべきですね。


追伸;<気になったニュース>
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http://it.nikkei.co.jp/digital/news/index.aspx?n=MMIT13000019122006