●知財高裁『まねきTV仮処分抗告事件』

 今日は、以前、東京地裁で出された『まねきTV仮処分事件』の抗告審の棄却判決が6件、知財高裁より出ましたので、取り上げます。


 なお、6件の抗告審の抗告人は、それぞれ、在京TV局の6社です。


 具体的には、

 『平成18(ラ)10014 著作隣接権仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061222160510.pdf)の抗告人はテレビ朝日
 『平成18(ラ)10013 著作隣接権仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061222155344.pdf)の抗告人は日本テレビ
 『平成18(ラ)10012 著作隣接権仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件』』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061222154234.pdf)の抗告人は日本放送協会NHK)、
 『平成18(ラ)10011 著作隣接権仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061222153046.pdf)の抗告人は東京放送(TBS)、
 『平成18(ラ)10010 著作隣接権仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061222145005.pdf)の抗告人はテレビ東京
 『平成18(ラ)10009 著作隣接権仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061222143432.pdf)の抗告人はフジテレビです。


 なお、本抗告審での争点は、
『(1) 本件サービスにおいて,被抗告人が本件放送の送信可能化行為を行っているか否か(本件申立て1について)。
 (2) 保全の必要性 
 (3) 当審において本件申立て2を追加する旨の申立ての趣旨の変更が許されるか否か。』

でありましたが、争点(1)、(3)についてのみ判断されました。



 つまり、知財高裁第3部の三村量一裁判長は、


『当裁判所は,抗告人の本件申立て1は抗告人の主張する被抗告人による権利侵害行為が認められないから理由がなく,また,当審において本件申立て2を追加する旨の抗告人の申立ての趣旨の変更は許されないと判断する。


 その理由は,次のとおり付加するほか,原決定の「第4 当裁判所の判断」のとおりであるから,これを引用する。


1 争点(1)について
(1) ベースステーション等の「自動公衆送信装置」該当性について
ア抗告人は,被抗告人が本件サービスに供している多数のベースステーション,分配機,ケーブル,ハブ,ルーター等の機器は,有機的に結合されて一つのサーバと同様の機能を果たすシステムを構築しているものであり,一つのアンテナ端子からの放送波を,このようなシステムに入力して多数の利用者に対して送信しうる状態にしているから,全体としてみれば,一つの自動公衆送信装置として評価されるべきものであると主張する。

 
 しかし,ベースステーションによって行われている送信は,個別の利用者の求めに応じて,当該利用者の所有するベースステーションから利用者があらかじめ指定したアドレス(通常は利用者自身)宛てにされているものであり,送信の実質がこのようなものである以上,本件サービスに関係する機器を一体としてみたとしても,「自動公衆送信装置」該当性の判断を左右するものではない。


イ 抗告人は,被抗告人がベースステーションのポート番号の競合を避けるための設定を行っていることを認めており,ルーターにおいて「ポートフォワーディング」を用いる設定を行っているから,多数のベースステーションを統合したシステム全体を一台のコンピュータとして認識できるようにしていると主張する。


 しかし,甲第13及び第14号証により一応認められる事実としては,「ポートフォワーディング」(IPマスカレード)は,一個のグローバルIPアドレスだけで複数の端末がインターネットにアクセスすることができるようにする技術であるが,各端末が「1対1」の送信を行う機能しか有しないときは,この技術を用いたとしても,「1対1」の送信しかできないのであって,「1対多」の送信が可能になるものではない。したがって,「ポートフォワーディング」を用いる設定を行っていても,そのことから直ちにベースステーションを含む一連の機器が全体として,1台の「自動公衆送信装置」に該当することにはならない。


(2) 送信可能化行為の主体について
ア 抗告人は,被抗告人が電気通信回線であるインターネット回線に接続されているベースステーションにアンテナを接続して放送波を入力していることは,著作権法2条1項9号の5イの「情報を入力すること」に当たり,また,既に放送波が入力されているベースステーションを電気通信回線であるインターネット回線に接続して,利用者が当該放送を視聴し得る状態にしていることは,同号ロに当たると主張する。


 しかし,前記引用に係る原決定掲記の事実関係によれば,ベースステーションは「1対1」の送信を行う機能のみを有するものであって,「自動公衆送信装置」に該当するものではないから,被抗告人がベースステーションにアンテナを接続したり,ベースステーションをインターネット回線に接続したりしても,その行為が送信可能化行為に該当しないことは明らかである。


イ 抗告人は,被抗告人が「ベースステーションにアンテナを接続して放送波を入力している」とも主張する。


 しかし,アンテナが単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく,受信機に接続して受信設備の一環をなすものであることは,技術常識であるから,被抗告人がベースステーションにアンテナを接続しても,ベースステーションへの送信を行ったことにはならない。また,分配機は,単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく,アンテナを複数の受信機で共用するために,アンテナからの1本の給電線を分岐させて複数の給電線と接続させるとともに,それに伴う抵抗の調整を行うにすぎないことは,技術常識であるから,被抗告人が分配機を介してアンテナとベースステーションとを接続しても,「1対多」の送信や「有線放送」をしたことにはならない。


(3) 「送信可能化行為」該当性の判断
ア 前記引用に係る原決定掲記の事実関係及び前記(1)(2)に判示したところに照らせば,本件においては,次の各事情を指摘することができる。


(ア) ベースステーションの機能
 本件サービスにおいて用いられるベースステーションは,あらかじめ設定された単一のアドレス宛てに送信する機能しかなく,1台のベースステーションについてみれば,「1対1」の送受信が行われるもので,「1対多」の送受信を行う機能を有しない。


(イ) 本件サービスにおけるベースステーションの利用形態本件サービスにおいては,利用者各自につきその所有に係る1台のベースステーションが存在するところ,各ベースステーションからの送信の宛先は,これを所有する利用者が別途設置している専用モニター又はパソコンに設定されており,被抗告人がこの設定を任意に変更することはない。


(ウ) 送信の契機等
ベースステーションからの送信は,これを所有する利用者の発する指令により開始され,当該利用者の選択する放送について行われるものに限られており,被抗告人がこれに関与することはない。


イ 本件において,ベースステーションの機能,利用形態及び送信の契機等の上記の各事情を総合考慮すれば,ベースステーションないしこれを含む一連の機器が「自動公衆送信装置」に該当するということはできず,ベースステーションから行われる送信も「公衆送信」に該当するものではない。被抗告人の行為は,単に各利用者からその所有に係るベースステーションの寄託を受けて,電源とアンテナの接続環境を供給するだけであって,著作権法99条の2所定の送信可能化行為に該当するものではない。


2 争点(3)について
(1) 申立ての趣旨の変更の適法性について

ア 抗告人は,当審において本件申立て2を追加(選択的併合)する旨の申立ての趣旨の変更を申し立てている。


 抗告審の手続には,その性質に反しない限り,控訴審の規定が準用され(民事訴訟法331条),控訴審の手続には,特別の定めがある場合を除き,民事訴訟法第2編第1章から第7章までの規定が準用されるから(同法297条),訴えの変更に関する同法143条は抗告審の手続に準用されると解するのが相当である。

 そこで,本件について検討するに,原審における本件申立て1の被保全権利は,抗告人が本件放送について放送事業者として有する送信可能化権著作隣接権)であるのに対して,当審における追加申立てに係る本件申立て2の被保全権利は,特定の著作物である本件著作物について著作権者として有する公衆送信権である。前者は,放送に係る番組等の内容,著作権の帰属のいかんを問わず発生する権利である。これに対して,後者は,特定の著作物の著作権を有することを前提とする権利であるが,その一方で,当該著作物が放送事業者により放送されていることを前提とするものではなく,放送されているとしてもどの放送事業者により放送されているかを問わないものである。このように,両者がその性質において異なる権利であり,被保全権利の存在を認めるための審理の対象となる事実関係も全く異なるものであることに照らせば,抗告人において権利侵害行為として主張する被抗告人の事実行為が同一のものであるとしても,当審における追加申立てに係る本件申立て2が原審における本件申立て1と請求の基礎を同一とすると解することはできない。


 したがって,当審において本件申立て2を追加(選択的併合)する旨の抗告人の申立ての趣旨の変更は許されないというべきであるが,抗告人は,本件申立て2を追加する旨の申立ての趣旨の変更が許されない場合に,本件申立て2を管轄裁判所に移送することを求めない旨を明らかにしているから,本件申立て2を不適法なものとして却下する。


イ なお,付言するに,本件申立て2は,被抗告人が「アンテナ端子から各ベースステーションへ放送番組を送信する行為が有線放送行為」に当たるとするものであるが,前記1(2)において説示したとおり,アンテナが単独で他の機器に送信する機能を有するものではなく,受信機に接続して受信設備の一環をなすものであること(分配機を介した場合も同様である。)は,技術常識であるから,被抗告人の行為が,本件著作物の公衆送信行為に該当することはないというべきである。


3 結論
 以上によれば,抗告人の本件申立て1は保全の必要性(争点(2))について判断するまでもなく理由がないから,本件抗告を棄却し,当審における追加申立てに係る本件申立て2を却下することとし,主文のとおり決定する。』

と判示しました。



追伸:<気になったニュース>
●『独DVDメーカーへの特許侵害判決執行へ=米MPEG LA』
http://home.businesswire.com/portal/site/google/index.jsp?ndmViewId=news_view&newsId=20061221005468&newsLang=ja
●『Enforcement of MPEG-2 Infringement Verdicts Proceeds Against DVD Disc Manufacturer ODS』
http://www.mpegla.com/news/n_06-12-21_pr.pdf
●『国際標準は企業の知的財産戦略の柱の1つだ 内閣官房知的財産戦略推進事務局 次長 藤田昌宏氏に聞く(中)』
http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/fujita20061221.html
●『日本独自の"戦略的標準化活動"を進める時が来た
内閣官房知的財産戦略推進事務局 次長 藤田昌宏氏に聞く(下)』
http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/fujita20061222.html
●『ホログラフィック・プロジェクタ向け 基本特許を英大がアルプスに供与』http://www.eetimes.jp/contents/200612/13717_1_20061222192206.cfm
●『角川書店に出版差し止め命じる 東京地裁
http://www.sankei.co.jp/shakai/jiken/061221/jkn061221017.htm
●『第5回商標三極会合概要について』
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/kokusai/kokusai3/5th_trilatera_meeting.htm
●「ほっかほっか亭」の商標権めぐり、内輪で訴訟』
http://www.asahi.com/national/update/1219/SEB200612190024.html
●『タカラバイオ 遺伝子増幅技術を米社にライセンス供与』
http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200612210005a.nwc
●『テレビ番組、ネット転送事業は適法・知財高裁、局側の抗告棄却』
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20061222AT1G2200V22122006.html
●『知財高裁、「まねきTV」のサービス停止を求めたテレビ局の抗告を棄却』
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2006/12/22/14342.html
●『ロケフリ利用の遠隔視聴サービス、知財高裁も適法と判断』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0612/22/news093.html