●平成18(行ケ)10337 審決取消請求事件 意匠権「車止めブロック」

 今日は、『平成18(行ケ)10337 審決取消請求事件 意匠権 車止めブロック』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061215145447.pdf)について取り上げます。


 本件は、原告の有する本件登録意匠について意匠登録無効審決に対しその取消しを求めた事案で、無効審決で使用されたパンフレット等の真偽が争点になり、無効審決が取消されました。


 つまり、無効審決の理由は、『本件登録意匠の出願前に頒布したパンフレット(甲2。以下「甲2パンフレット」という。)に記載された意匠(以下「甲号意匠」という。その内容は別添審決写し別紙第2記載のとおり。)と類似するから,意匠法3条1項3号に該当する』などの理由で、

 本訴の取消事由は、『本件登録意匠と甲号意匠が全体として類似しているとする審決の判断は,争わない。しかしながら,審決が甲2パンフレットが本件出願前に頒布されたと認定したことは誤りであるから,審決は違法として取り消されるべきである。』

等でした。


 そして、知財高裁は、

『ア 甲2パンフレットは,被告日新道路工業株式会社作成名義の「これが取れない車止めブロック」と題するパンフレットであり,その裏面には,「Aタイプ」,「AAタイプ」,「NAAタイプ」という3種類の車止めブロックについて,上下3段にわたり,それぞれ寸法入りの概略図が記載され,その最下段に<車止めブロックNAAタイプ>として記載されたものが甲号意匠である。同パンフレットの裏面右下隅には,「90.10」と記載されている。

イ そして,甲2パンフレット頒布の事実について,審決は,「当該パンフレット(判決注:甲2パンフレット)は,その裏表紙の右下に「90.10」の記載がある。国内のパンフレット,カタログにおいて,その裏表紙ないし最終頁の右下又は左下に数字等で印刷の時期を簡略的に記載することは,一般的に広く行われている。そうすると,当該パンフレットは,1990年10月(遅くとも10月末日)に印刷され,通常,パンフレット,カタログは,頒布することを目的として印刷されるものであるから,その後頒布されたものと推認することができるものである。


 そして,本件登録意匠の出願日が,平成3年(1991年)2月15日であり,当該パンフレット記載の日付から,約4ヶ月経ていることから,その後頒布していないと認められる特別の事情がない限り,当該パンフレットは,本件登録意匠の出願前に頒布されていたものとするのが相当である」(審決5頁第3段落〜第4段落)と認定したものであり,この点につき,被告は,甲2パンフレットによる広告宣伝については乙1陳述書(被告代表者作成の平成18年10月25日付け陳述書)の2に記載したとおりであると主張し,乙1陳述書の2には,「甲第2号証の車止めブロックのパンフレットは,その裏面右下隅に「90.10」とあるように平成2年10月に作成されたものです」との記載がある。


 しかし,乙1陳述書は,被告代表者により本件訴訟に提出するためその後十数年経過した平成18年10月25日付けで作成されたものであるのみならず,上記(1)キで認定したとおり,被告から平成2年3月ないし4月にかけての納品の証拠として提出された書証が真実は郵便番号制度が改定された平成10年2月2日以降のものであり(甲20の1〜3),同じく平成元年に作成されたカタログとして提出されたものが真実は撮影日である平成6年2月16日以降のものである(甲17)ほか,別件保全事件の決定(甲15)で前記のとおり上記郵便番号の矛盾を指摘され(甲15の8頁最終段落〜9頁第1段落),被告代表者も,乙1陳述書において,前記のとおりこれら3通の納品書は事後に作成したものであることを認める陳述をしていることなど,これまでの経緯に照らすと,甲2パンフレットが平成2年10月に作成された旨の上記記載は,にわかに措信し難い。


 そして,甲2パンフレットは,単なるカラー印刷物にすぎず,「90.10」との記載も含め,事後に作成することも不可能ではないから,上記作成月の記載から,甲2パンフレットが平成2年10月に作成されたとまで認めることはできない。


ウ また,被告は,本件登録意匠の出願前に甲2パンフレットが頒布された事実ないし被告において甲号意匠に係るブロックの製造販売を行なっていたとの事実を立証する趣旨で,審判において,甲2パンフレットのほかにも,審判甲1,甲3ないし甲11及び甲16(本訴甲1,甲3〜11,甲16)を提出し,審決は,「甲第5号証の中元秀造氏の「陳述書」によれば,請求人は,甲第1号証のパンフレットと平成2年1月の「価格表」(甲第4号証)を平成2年8月付の「依頼書」(甲第3号証)とともに,送付したこと,また,甲第6号証のB氏の「陳述書」及び甲第7号証のC氏の「陳述書」によれば,甲第1号証のパンフレットあるいは甲第2号証のパンフレット(送付された時期が10月頃とあり,甲第2号証のパンフレットの可能性もある。)と平成2年1月の「価格表」(甲第4号証)を平成2年8月付の「依頼書」(甲第3号証)とともに,送付したものと認められる。そして,それらを妨げる証拠はない。


 そうすると,甲第1号証及び甲第2号証のパンフレットは,本件登録出願前に頒布されたものとするのが相当である。なお,当審において,甲第1号証ないし第11号証及び甲第16号証について原本を確認したところ,何ら不自然な点は見当たらなかった」(審決5頁最終段落〜6頁第2段落)としているので,これらの証拠についても検討する。

(ア) 甲1パンフレット
 同パンフレットには発行日の記載がなく,その作成日を特定することはできない。

(イ) 甲3依頼書・甲4価格表
 甲3依頼書には,右上に「平成2年8月」と表示され,その文面中には,「NAA型を新に開発いたしA型・AA型・NAA型の3種類となりました」との記載がある。また,甲4価格表には,右上に「平成2年1月」と表示され,「A型」,「AA型」,「NAA型」の各定価,卸価格等が記載されている。


 しかし,上記各書面は被告名義で印字しただけのもので,いずれも事後に作成することも可能であり,上記記載から,「NAAタイプ」の車止めブロックが本件登録意匠の出願(平成3年2月15日)前に開発されたとまで認めることはできない。


(ウ) 甲5〜甲7陳述書
 上記陳述書は,いずれも被告の取引先の関係者が,平成16年に作成した陳述書であり,これらには,「A型・AA型・NAA型ブロック」のカタログ,価格表及び「NAA車止めブロックの採用のご依頼について」という挨拶状を,平成2年に被告から受領したことがある旨の記載がある。


 しかし,これらの陳述書は,上記カタログ等を受領したとされる平成2年から約14年を経過した後に作成されたものであり,その作成者がいずれも被告の取引先の関係者であることを併せ考慮すると,その記載内容の信用性には疑問があり,これらの陳述書から上記カタログ等が被告により頒布されたとまで認めることはできない。


(エ) 甲8図面・甲9注文書・甲10仮領収証・甲11図面
 甲8図面は,新貝工業作成名義の1988年1月20日付け車止めブロックの詳細寸法図であり,そこにはイ号意匠に係る車止めブロックの図が寸法とともに記載されている。甲9注文書は,佐々木道路株式会社作成名義の平成3年1月20日付け注文書であり,そこにはNAA型車止めブロックの注文が記載されている。甲10仮領収証は,被告代表者作成名義の「仮領収証」と題するメモであり,そこには「仮領収証¥5.000円也車止めアンカー付きNAA型1組の代金として……H.2.11.5」と記載されている。また,甲11図面は,OS設計事務所作成名義の1990年12月付け駐車場図面であり,そこには「車止めブロック(NAA型アンカー付)」の表題の下に車止めブロックの側面図が記載されている。


 しかし,これらの書面は,各名義人が記載しただけのもので,いずれも事後に作成することも可能であり,上記各記載から,NAA型車止めブロックが本件登録意匠の出願前に開発,販売されたとまで認めることはできない。


(オ) 甲16陳述書
 上記陳述書は,被告の取引先であった庄瀬興産株式会社の元代表取締役A作成名義の平成17年11月22日付け陳述書であり,そこには,被告の依頼により,平成元年12月にNAA型車止めブロックを製造したこと等が記載されている。


 しかし,上記陳述書は,NAA型車止めブロックを製造した上記カタログ等を受領したとされる平成元年12月から約16年を経過した後に作成されたものであり,その作成者が被告の取引先の関係者であることを併せ考慮すると,その記載内容の信用性には疑問があり,同陳述書からNAA型車止めブロックが本件登録意匠の出願前に製造されたとまで認めることはできない。


エ 以上のとおり,甲2パンフレット以外の各証拠を検討しても,本件登録意匠の出願(平成3年2月15日)前に,甲2パンフレットが頒布された事実ないし被告において甲号意匠に係るブロックの製造販売を行なっていたとの事実を認めることはできない。


オ したがって,審決が,甲2パンフレットは本件出願前に頒布された刊行物であると認定したことは誤りというほかなく,この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,原告主張の取消事由は理由がある。


3 結論

 よって,原告の本訴請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。』

と判示しました。


 本件無効審判で提出されたパンフレット等が客観的にどの程度のもので、また証人尋問などが行われたかな不明で、その真偽については何とも言えませんが、証拠の作成者が被告の取引先の関係者であること等の点をもって証拠性無しと判断されると、厳しいように思われます。


 それとも、裁判官からすると、客観的にパンフレットの信憑性が低いことが推認されたのでしょうか?


追伸;<気になったニュース>
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http://www.riaj.or.jp/release/2006/pr061215.html
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http://bizplus.nikkei.co.jp/colm/baba.cfm?i=20061213c8000c8&p=1
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http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0612/16/news010.html
●『ドコモ 「iモード」技術提供 印社とライセンス契約 』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0612/16/news010.html
●『サムスン電子を特許侵害で提訴、米国で日本企業が』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061216-00000013-yonh-kr
●『特許制度の世界統一めざせ』
http://www.komei.or.jp/news/daily/2006/1216_01.html