●平成16(行ウ)29 認定取消請求事件 神戸地裁 石製灯籠及び石製灯篭

  今日は、『平成16(行ウ)29 認定取消請求事件 石製灯籠及び石製灯籠用扉』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/596AA7DAAF3C149549257111000FE139.pdf)について取り上げます。


 本件は、先日受講した弁理士会会員研修の「水際取締り(税関)に関する研修会」のテキストに掲載されていた事件で、関税定率法による特許権侵害品の輸入差止め措置の認定処分の取消しを求めたものです。


 原告は輸入者、被告は神戸税関六甲アイランド出張所長で、裁判所は神戸地裁、判決言渡し日は平成18年1月18日で、神戸地裁は、輸入差止め措置にかかる特許に無効理由ありと判断して、輸入差止め措置の認定処分を取消しました。


 つまり、神戸地裁は、


 ・・・

イ よって,本件発明1は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができず,本件特許には,同法123条1項2号の無効理由が存在する。


2 争点3(無効理由の存在と本件認定処分の違法性)の検討

(1) 被告らは,特許権は,無効審決が確定するまでは適法かつ有効に存続し,対世的に無効とされるわけではないこと,特許の有効,無効の判断は第1次的には特許庁にあることを理由に,被告が,本件特許を有効なものと扱い,本件認定処分を行ったことに何ら違法はない旨主張する。


(2) 確かに,特許法は,特許に無効理由が存在する場合に,これを無効とするために専門的知識経験を有する特許庁の審判官の審判によることとし(同法123条1項,178条6項),無効審決の確定により特許権が初めから存在しなかったものとみなすものとしている(同法125条)。したがって,特許権は,無効審決の確定までは適法かつ有効に存続し,対世的に無効とされるわけではない。


(3) しかし,証拠(甲28の1)によれば,本件各物品についての認定手続(関税定率法21条4項)は,前権利者の申立て(同法21条の2第1項)に基づき開始されたことが窺えるが,このように特許権の権利者の申立てに基づき開始された認定手続を経て,当該貨物を同法21条1項5号に定める特許権侵害物品と認定する認定処分(同法21条6項)がなされて輸入が差し止められた場合,当該特許権に無効理由が存在していても,無効審決が確定していない限り,当該貨物を輸入しようとする者が,当該認定処分取消訴訟を提起しても,同特許権に無効理由が存在することを理由に同認定処分の適法性を争えないとすることは,特許権者に過度の保護を与える反面,貨物輸入申告者に不当な不利益を与えるもので,衡平の理念に反するというべきである。


 税関長のする認定手続申立人に対する供託命令(関税定率法21条の3)によっても,この衡平は回復し難い。


 また,認定処分取消訴訟の受訴裁判所が,無効審判の帰趨をみた上で判決する運用をすることも考えられるが,そうすると,当該貨物の輸入申告者は,認定処分を争うためには無効審判の申立てをすることを事実上強制されることになるし,認定処分取消訴訟が遅延することも必至である。


 加えて,認定処分制度の趣旨は,特許権者その他の知的財産権者の権利を保護する点にあるが,改正特許法104条の3第1項によれば,いわゆる侵害訴訟において,当該特許が無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者は,相手方に対しその権利を行使することができない。


 そうすると,特許権に無効理由が存在し,侵害訴訟において,特許権者の権利行使が制限されるような場合にまで,税関長が,認定処分を行う必要性も合理性も存しないというべきである。このことは,当該認定手続が特許権者からの申立てにより開始されたか否かにより変わりはない。


 以上の諸点からすると,関税定率法21条1項5号の「特許権」とは,すべての特許権を指すのではなく,無効理由の存在しない特許権を指すものと解するのが相当であり,輸入しようとした貨物が同号にいう特許権侵害物品に当たるとの理由で認定処分を受けた者は,同認定処分取消訴訟において,同認定処分の根拠となった特許権に無効理由が存在することを理由に同認定処分の違法を主張することができると解すべきである。


 もとより,これは認定処分をした税関長又は国と認定処分の相手方との間において,無効理由の存在が当該認定処分の違法理由となるというにとどまる。


 なお,被告らは,無効理由の存在が「明らかである」ことを要すると主張するが,改正特許法104条の3第1項が無効が「明らかである」ことを特許権者等の権利制限の要件としていないことに照らしても,採用できない。

(4) 以上によれば,本件特許には進歩性欠如の無効理由が存在するから,本件認定処分は違法というべきである。


第5 結 論

1 以上の次第で,本件特許には,特許法123条1項2号の無効理由が存在し,本件認定処分は違法であるから,取消しを免れない。

2 よって,原告の本件認定処分取消請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。』


と判示しました。


 特許権に基づく輸入差止めに、特許法100条の差止め請求と同等の権利を認める以上、無効理由を有する特許権に基づき輸入差止めを認めないのは、当然であると思います。


 なお、先日の弁理士会会員研修によると、本件のように特許の有効性に問題がありそうな場合や、侵害が否かの判断が困難な場合、本年7月の通達改正により、税関における輸入差止めの認定処分が出される前に、専門委員意見紹介制度による専門委員の意見を聞き、専門委員でも判断が難しい場合は申立を保留扱いにして、特許庁長官や裁判所の意見を聞くとのことです。



 また、特許庁長官意見照会制度により、権利者又は輸入者自身等も、一定期間内であれば、税関長に対し技術的範囲等(特許発明・実用新案の技術的範囲又は登録意匠及びこれに類似する意匠)に属するか否かに関し、特許庁長官の意見を聴くことを求めることができる、とのことです。


 詳細は、税関ホームページの『特許庁長官意見照会の概要』(http://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/c_003.htm)を参照して下さい。



追伸;<気になったニュース>
●『第97回「知的財産の課税上の課題:移転価格課税について――新日本監査法人 清水鏡雄氏に聞く」(2006/12/15)』
http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/soumu/rensai/senshin_chizai.cfm
●『IT業界を揺るがした2006年の10大ニュース』
http://www.computerworld.jp/topics/ma/54529.html
 ・・・『特許をめぐる訴訟が激化』等があげられています。
●『東芝、音楽事業撤退 ネットの波…構造変化』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0612/15/news098.html
●『Winny事件判決の問題点 開発者が負う「責任」とは』
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0612/17/news002.html