●平成18(ネ)10063 特許権侵害差止請求権不存在確認請求控訴事件

 今日は,『平成18(ネ)10063 特許権侵害差止請求権不存在確認請求控訴事件 自動車タイヤ用内装材』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061027164702.pdf)について取り上げます。



 本件は、原告製品の製造販売について控訴人(特許権者)が本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確認を求めた事案で、原審は,原告製品は本件発明の構成要件の一部を充足せず,また,本件発明の構成と均等なものでもないから,本件発明の技術的範囲に属しないとして,被控訴人(実施者)の請求を認容したため,控訴人(特許権者)が,これを不服として控訴を提起したもので、本件控訴が棄却された事件です。



 本件では、原告製品が控訴人(特許権者)の特許発明の作用効果を有していても、本件発明の構成を備えていなければ、文理侵害は認められず、さらに本件では異なる構成が本件特許発明の本質的部分などであり、均等侵害も認められないと判断したものです。


 つまり、知財高裁では、

『控訴人は,「グリップ力が向上しタイヤが摩耗しにくい」という本件発明の作用効果は,本件発明の特許出願時,公知ではなかったもので,本件発明の本質的部分であるところ,被控訴人は,本件発明の内容が公開公報で明らかとなった後,本件発明の上記作用効果を奏するようにしながらも,その特許請求の範囲の数値を僅かに置き換えた原告製品を製造販売することによって本件特許権に基づく差止め等の権利行使を免れようとしたものであり,本件発明の上記作用効果を無視し,数値(構成要件A)の僅かな違いや非発泡表面層に関する表現(構成要件B)の違いにより,原告製品は構成要件A及びBを充足しないとして,原告製品の製造販売が本件特許権の侵害に当たらないと判断するのは不当である旨主張する。


 しかし,先に説示したとおり,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないのであるから,特許権侵害訴訟において,相手方が製造販売する対象製品が特許発明の技術的範囲に属するかどうかを判断するに当たっては,特許請求の範囲に記載された構成を充足するかどうかを基準とすべきであり,対象製品が特許請求の範囲に記載された構成のすべてを充足しない場合には,対象製品は,均等侵害が成立する場合を除き,特許発明の技術的範囲に属するということはできないものと解されるところ,前記認定のとおり,原告製品のうち,OP−434は本件発明の構成要件Aの破断伸びの上限値を超えている点で,OP−435及びOP−582は構成要件Aの圧縮応力の上限値を超えている点でそれぞれ本件発明の構成要件Aを充足せず,また,原告製品はその帯状環状体の表面に「ゴムからなる非発泡表面層」を有しない点で本件発明の構成要件Bを充足しないのであるから,これらの点において原告製品は本件発明の技術的範囲に属しないというべきである。


 加えて,異なる構成の発明から同一の作用効果が生じることはあり得ることであって,作用効果が同一であるからといって構成が同一であると直ちにいえないことは先に説示したとおりであり,原告製品が本件発明と同一の作用効果を奏するとしても,そのことから直ちに本件発明の構成要件A及びBを充足するということはできないのであるから,控訴人のいう作用効果の点は,原告製品が本件発明の技術的範囲に属しないとの上記判断を何ら妨げるものではない。

(2) 控訴人は,前記第2の2(2)イ(ア)(i)ないし(v)の事情があることを根拠として,原告製品は,本件発明の構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するから,被控訴人による原告製品の製造販売は本件特許権の侵害に当たる旨主張する。


 しかし,先に説示したとおり,特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,均等の第1要件ないし第5要件を充足するときは,対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると解すべきであるが(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁参照),前記認定のとおり,原告製品は,本件発明の構成要件A及びBを充足しない点において,本件発明の構成と異なるものであるところ,自動車タイヤ用内装材について,本件発明に係る特許請求の範囲(請求項1)に記載された範囲内の数値に限定された特定の物性を有するゴム発泡体(構成要件A)を使用するとともに,上記ゴム発泡体からなる帯状環状体の表面にゴムからなる非発泡表面層を一体化させる構成(構成要件B)を採用したことは,いずれも本件発明特有の課題解決の手段を基礎付ける技術的思想の中核的,特徴的な部分すなわち本件発明の本質的部分であると認めるのが相当であるから,上記異なる部分は本件発明の本質的部分であり,原告製品は,均等の第1要件を充足しないものである。


 また,前記認定のとおり,本件発明の特許出願経過によれば,控訴人は,ゴム発泡体からなり帯状環状体に形成される内装材のうち,ゴム発泡体からなる帯状環状体のみから構成されるものを,スキン層に該当する表面層のあるものも含め,意識的に本件発明の技術的範囲から除外したものであるところ,原告製品は,上記のとおり除外されたゴム発泡体からなる帯状環状体のみから構成されるものに該当するから,均等の第5要件(「対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき」)を充足しないというべきである。


 控訴人は,原告製品は,本件発明の構成要件A記載の圧縮応力又は破断伸びの上限値を僅かに(数g又は数%)超えている点で本件発明の構成と異なる部分があるが,本件発明の作用効果と同一の作用効果を奏するから,上記異なる部分は本件発明の本質的部分ではなく,均等の第1要件を充足する旨主張(前記第2の2(2)イ(ア)(i))するが,均等の第1要件は,異なる部分の構成が発明の構成の本質的部分かどうかを評価判断するものであって,発明の作用効果が本質的部分かどうかを問題とするものではないから,上記主張は採用することはできない。


 また,控訴人は,原告製品は本件発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に僅かに数値を除外したものであるから,均等の第5要件を充足する旨主張(前記第2の2(2)イ(ア)(v))するが,均等の第5要件は,出願人が,特許出願手続において当該異なる部分の構成を意識的に除外したかどうかなど,特許権者側の事情を問題とするものであるから,控訴人の上記主張はその主張自体均等の第5要件を充足するものではない。


 したがって,原告製品は,本件発明の構成と均等なものとして本件発明の技術的範囲に属するとの控訴人の上記主張は採用することができない。


5 結論

 以上によれば,被控訴人の本訴請求は理由があるから,これを認容した原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』

と判断しました。


 勿論、妥当な判決であると思います。


 なお、本件の原審は、6/15の日記(http://d.hatena.ne.jp/Nbenrishi/20060615)に取り上げた、『平成17(ワ)11037 特許権侵害差止請求権不存在確認請求事件 特許権 民事訴訟「自動車タイヤ用内装材及び自動車タイヤ」平成18年06月13日 大阪地方裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060614180334.pdf)であります。