●平成18年(行ケ)第10098号審決取消請求事件「魚釣用電動リ

 本日は、『平成18年(行ケ)第10098号審決取消請求事件「魚釣用電動リール」』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061101132814.pdf)について取り上げます。


 本件は、無効審決の取り消しを求めた審決訴訟で、その請求が棄却された事案です。


 本件では、取消事由3(動機づけの欠如による進歩性の判断の誤り)の判断で、本件発明の課題と同一の課題が引例になくても各引例発明に共通の課題があれば、各引例を組み合わせて本件発明の進歩性を否定できるとした点で、参考になります。


 つまり、知財高裁は、

『4 取消事由3(動機づけの欠如による進歩性の判断の誤り)について
(1) 原告は,甲2公報,甲4明細書,甲8,9,10公報及び甲11刊行物は,本件発明におけるような課題,すなわち,「リール本体に装着した単一のモータ出力調節体を連続的に変位操作すると,その操作量に応じスプール駆動モータのモータ出力が連続的に増減して,スプールの巻上げ速度が巻上げ停止状態から最大値まで変化する。そして,そのようなモータ出力調節体は,電源コードが外れる等,モータを再駆動する必要が生じた場合,調節位置を巻上げ停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないと,モータの再駆動ができないようになっている」との作用及び効果を奏するような「スプール駆動モータのスイッチ操作を容易にした」との課題に対する認識は何ら存在していないから,審決の判断は,本件発明に対する課題の誤認とともに,上記各刊行物の誤認によるものであると主張する。


(2) しかし,本件発明の上記課題と全く同一の課題が記載されていないとしても,各刊行物に記載された発明に共通する技術的課題が存在すれば,当該課題を解決するために,各刊行物に記載された発明を組み合わせることは,当業者が通常試みることである。そして,甲2発明に甲4発明を適用する動機づけが存在することは,上記2(2)のとおりである。また,甲8公報には,「本発明の目的は,……ハンドル操作で駆動モーターの回転速度を制御して獲物の引きに合わせて釣糸の繰り出しと巻き上げ操作が出来て釣り本来の面白味が味わえるようにした魚釣用電動リールを提案することにある」(1頁右下欄1行目〜5行目), 「又上記説明では魚釣用リールをスピニングリールと両軸受型リールで述べたが,他の形式のリールに実施してもよい」(3頁左下欄12行目〜14行目)との記載が,甲9公報には,「……釣り操作を大幅に向上することが出来る」(同明細書11頁7行目〜8行行目)との記載が,甲10公報には,「……ドラグ操作を迅速かつ容易に行うことができる」(3頁右下欄13行目〜15行目)との記載が,甲11刊行物には,「……巻き上げるパワーが違います。操作性が違います」(左上「電動丸」の欄)との記載があり,これらの記載によれば,実釣性及びスイッチ操作を容易にするという課題は,本件発明と同一技術分野の魚釣用電動リールにおいて,従来より周知のありふれた課題ないしそこから類推できるものにすぎない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。


(3) 原告は,甲6,7公報は,本件発明におけるような,「スプール駆動モータの電源をON/OFFする電源スイッチを設けることなく,前記リール本体に設けた単一のモータ出力調節体の連続的な変位操作でモータ出力を巻上げ停止状態から最大値まで連続的に増減するモータ出力調節手段を設け」ているモータ出力調節体に係るものではなく,その具体的構成である,「前記モータ出力調節体は,その調節位置を巻上げ停止状態のモータ出力ゼロ状態に一度戻さないとモータを再駆動しないように設定されている」との具体的構成については何ら記載されてなく,それを示唆する記載もないから,本件発明の課題に対する認識は存在しないと主張する。


 しかし,一般に停電復帰時等に電動機が不意に起動するような事態は危険であるからこれを避ける必要があり,安全性に配慮して,電動機の制御において,電源が遮断されて電動機が停止した際に,一度停止位置に戻した後でなければ電動機が起動しないように設定することは,本願出願時において,当業者に周知の技術であったことは上記3(3)のとおりである。そして,甲2発明もモータを駆動するものであるから,安全のために,電源が遮断された場合にモータ調節体をモータ停止状態に一度戻さなければ再起動しないよう構成することは,当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことにすぎないというべきであり,原告の上記主張は採用できない。』

と判断しました。


 進歩性を否定するため複数の引例の組み合わせの動機付けに関し、本件発明と異なる課題であっても、各引例に共通の課題があればその各引例を組み合わせて進歩性を否定可能であることを明示した『平成17(行ケ)10493 審決取消請求事件 「透過形スクリーン」』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061005153030.pdf)事件等と同様の判断のようです。



追伸;<気になったニュース>
●『米国特許の「進歩性」審査基準は厳格化の方向へ 特許制度改革に一石を投じるKSR事件の米連邦最高裁判決(上)』
http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/nara_yoshida20061027.html