●『平成17(行ケ)10856 審決取消請求事件 知財高裁』

 ここのところ出張があったり、その準備や仕事がとても忙しく、日記をサボってしまいました。これではいけないので、また少しずつ日記をつけたいと思います。

 さて、今日は、『平成17(行ケ)10856 審決取消請求事件 実用新案権 行政訴訟 平成18年10月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061025142056.pdf)について取り上げます。

 本件は、無効審判の棄却審決の取消しを求めた訴訟で、その請求が認められた事案です。

 本件では、無効審判において審理判断されなかった公知資料が新たに提出され、その是非について争われ、知財高裁は、本件審判で審理判断の対象とされなかった公知事実を立証しようとするものではなく,本件審判において審理判断され,本件審決においてその存在を認められなかった事実について,その存在を立証しようとするものであるから,違法性はない、判断しました。


 つまり、知財高裁は、

『(1)本件審判段階で提出された甲3〜17に原告が本件訴訟で新たに提出した証拠(検甲1,甲19〜35,37,39〜59)を加えれば,(i)引用考案1が本件出願前に公知となっていたこと,(ii)引用考案1は,本件考案1の構成要件Eのうち「弾性ロープによって連接された左右ハンドル」との構成を備えており,「ハンドルホルダー」を除く本件考案1の構成要件をすべて備えるものであることが認められることは,被告も認めるところである。

 そうすると,「引用考案1のハンドルが取り外し可能であるとしても,左右のハンドルが弾性ロープによって連接されているとまでは認められない」(審決書12頁22行〜23行)とした本件審決の事実認定は誤りであり,したがって「『引用考案1は本件考案1の構成要件のうち,Eの要件についても『弾性ロープによって左右ハンドルが連接されている』という部分は充足している』という請求人の主張の前提自体が成立しない」(審決書12頁24行〜26行)とした本件審決の判断も誤りであるといわざるを得ない。(2) 被告は,原告が本件審判において提出した証拠(甲1〜17)によって上記(i)及び(ii)の事実を認定することはできないとした上,原告が本件訴訟において新たに提出した証拠(検甲1,甲19〜35,37,39〜59)は,本件審判において審理判断されなかった事実に関する新たな証拠であるから,これらに基づいて,本件審決の誤りを主張することは許されず,したがって,本件審決の認定に誤りがあるとはいえない旨主張する。

 特許無効審判の審決に対する取消訴訟においては,審判で審理判断されなかった公知事実を主張することは許されないところ(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照),この理は,実用新案登録無効審判の審決に対する取消訴訟についても,同様に当てはまるものというべきであるから,無効審判において実用新案法3条1項各号(同条2項において引用される場合を含む。以下,同じ。)に掲げる考案に該当するものとして審理されなかった公知事実については,取消訴訟において,これを同条1項各号に掲げる発明として主張することは許されない。

 しかしながら,審判において,実用新案法3条1項各号に掲げる考案に該当するものと主張され,その存否が審理判断された事実に関し,取消訴訟において,当該事実の存在を立証し,又はこれを弾劾するために,審判での審理に供された証拠以外の証拠の申し出をすることは,審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超えるということはできないから,これが許されないとする理由はない。


 そして,検甲1,甲19〜35,37,39〜59は,いずれも本件審判における審理に供されなかった証拠ではあるが,本件審判で審理判断の対象とされなかった公知事実を立証しようとするものではなく,本件審判において審理判断され,本件審決においてその存在を認められなかった引用考案1に係る前記(i)及び(ii)の事実について,その存在を立証しようとするものであるから,これらに基づいて本件審決の誤りを主張することは許されるものというべきである。

 被告の主張は採用することができない。

(3) 被告は,本件審決の引用考案1の認定が誤りであるとしても,本件考案1,2は,いずれも引用考案1及び2に基づいて,当業者がきわめて容易に考案することができたものではないから,上記誤りは本件審決の結論に影響するものではないと主張する。

 しかし,本件審決は,引用考案1において左右のハンドルが弾性ロープによって連接されていることを看過した結果,原告が主張する本件考案に対する無効理由は前提自体が成り立たないとして,引用考案1と本件考案とを対比検討して本件考案の容易想到性の有無について判断しないまま,原告が主張する本件考案1及び2に対する無効理由は根拠がないと結論付けたものであるから,容易想到性の点について検討するまでもなく,上記引用考案1の認定の誤りが,本件審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであり,本件審決は取消しを免れないというべきであって,被告の主張は失当である。

2 結論
 以上の次第で,原告主張の取消事由は理由があり,本件審決は取消しを免れない。
 したがって,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。』

と判断されました。


 本案訴訟で新たに提出した証拠は、審判において審理されなかった証拠であるものの、審理判断の対象とされた公知事実を立証しようとするものであるので、妥当な判決であると思います。