●平成18(行ケ)10130 審決取消請求事件 「透過型スクリーン」

  今日は、ここ3日ほど説明してきた「透過型スクリーン」関連判決3件のうちの最後の、『平成18(行ケ)10130 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟平成18年10月04日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061005152008.pdf)について取り上げます。


 本件は,本件特許の特許権者である原告が,訂正審判の請求をした際,請求棄却の審決がされたため,その訂正審判棄却審決の取消しを求め、その請求が棄却された事案で、他の2件と同様に、本件発明の課題と異なる課題であっても、複数の引用発明を組み合わせることができ、本件発明の構成と同一の構成が導かれれば、本件発明の進歩性を否定できることを判示しています。


 つまり、知財高裁は、「進歩性の判断手法の誤り」の主張について

『(6)「進歩性の判断手法の誤り」との主張について
 
  原告は,フレネルレンズ基板より観察側に配置され光拡散作用をもつレンチキュラーレンズ基板と,レンチキュラーレンズ基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつ前記フレネルレンズ基板とからなるプロジェクションTV用透過形スクリーンにおいて,フレネルレンズ基板のレンチキュラーレンズ基板側に,紫外線硬化樹脂により成形したフレネルレンズ部が,外光等に含まれている紫外線により劣化するという課題は刊行物1,2に記載又は示唆されていないところ,審決が刊行物1,2にも補正後訂正発明の課題が示唆されていないとしても,引用発明1におけるレンチキュラーレンズに引用発明2の紫外線吸収剤を添加したレンチキュラーレンズを適用して得た構成によって,紫外線硬化樹脂で成形されたフレネルレンズへの紫外線も減少して劣化が防止されることは,当業者が容易に予測できたものであると判断したことは,進歩性判断において,発明の構成のみを重視し,補正後訂正発明がその構成を採用するに至る動機となった課題が何であるかは問題ではないとするものであって,このような判断手法自体が誤りであると主張する。


 しかしながら,引用発明1に引用発明2及び周知技術を組み合わせることによって,補正後訂正発明の構成と同一の構成が導かれれば,たとえ,それらを組み合わせる目的が,補正後訂正発明の課題と同一の課題を解決するためでなかったとしても,補正後訂正発明の課題も併せて解決されることは明らかである


 もっとも,この点に関し,原告は,技術の採否や調整は目的(課題)に即して行われ,ある目的のための採用の基準は,別の目的のための採用の基準と異なるし,ある目的に即して調整されても,別の目的に応じた効果が達成されるという保障は全くないと主張する。


 しかしながら,発明がある効果を奏するかどうかという点は,その発明が採用されるかどうかということによって左右される問題ではないし、また調整とは要するに発明の実施態様をどのように設定するかということであるから,ある目的に即して調整されたとしても,発明の構成の範囲内でなされる限り,その構成に応じた他の効果も奏するはずのものである。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。


 そして,そうであれば,引用発明1に引用発明2及び周知技術を組み合わせて,補正後訂正発明と同一の構成を導いたことが,補正後訂正発明と同一の課題の解決を直接の目的とするものでなかったとしても,引用発明1に引用発明2や周知技術を組み合わせること自体に,他の課題によるものであれ,動機等のいわゆる論理付けがあり,かつ,これを組み合わせることにより,補正後訂正発明が課題とした点の解決に係る効果を奏することが,当業者において予測可能である限り,補正後訂正発明は,引用発明1,2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである


 しかるところ,引用発明1のレンチキュラーレンズとして,引用発明2の紫外線吸収剤を添加したレンチキュラーレンズを使用することに論理付けがあることは,上記(4)のとおりであり,また,このように引用発明1と引用発明2とを組み合わせることにより補正後訂正発明が課題とした点の解決に係る効果を奏することが当業者において予測可能であることは,上記(5)のとおりである。レンチキュラーレンズが「400nm以下の波長に対して光線透過率が短波長側に移るにつれて減少して約360nmより短波長側においては光を透過しなくなる紫外線吸収特性を有する」ようにする点は,上記のとおり,格別の技術的意義はなく,当業者が適宜設定し得る設計的事項にすぎないから,この構成については,論理付けの有無を探るまでもない。


 そうすると,補正後訂正発明は,引用発明1,2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであって,審決の判断に誤りはない。』

 と判示しました。


 今年の6月末に出された特許庁の進歩性なしの審決を取消した判決である『平成17(行ケ)10718 審決取消請求事件 H18.6.22 「適応型自動同調装置」』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060623104959.pdf)や、『平成17(行ケ)10490 審決取消請求事件 H18.6.29 「紙葉類識別装置の光学検出部」』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060629173057.pdf)の判決あたりから、知財高裁は、複数引例を組み合わせて進歩性を否定する際に、複数引例を組み合わせるための動機付けの存在を明確に求めているような気がします。


 そういう意味では、複数引例を組み合わせて進歩性を否定する際、複数引例を組み合わせるための動機付けを必要とし、審査官が立証するとする米国特許法の103条の非自明性の判断に近付いているのかなと思います。