●平成17(ネ)10111 特許権侵害差止等請求控訴事件「透過形スクリー

 今日は、一昨日、昨日紹介した、『平成18(行ケ)10104 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成18年09月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060929134920.pdf)に関連した
『平成17(ネ)10111 特許権侵害差止等請求控訴事件 特許権 民事訴訟平成18年10月04日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061005151358.pdf)について取り上げます。


 本判決は、控訴人(原審原告)は、大日本印刷株式会社、被控訴人(原審被告)は、凸版印刷株式会社、という印刷会社の大手同士の特許侵害事件です。


 本判決では、控訴が棄却、すなわち、控訴人(原審原告)が求めた差止め請求が一審に続き棄却されました。


 そして、本判決の中で、知財高裁は、

『まず,争点3(本件特許は無効とされるべきものか)について判断するに,当裁判所も,本件発明は,特許法29条2項により特許を受けることができず,特許無効審判により無効にされるべきものであるから同法104条の3第1項により控訴人の特許権の行使は許されないと判断するものであるが,本件発明が,特許法29条2項により特許を受けることができないとする理由は,以下のとおり,本件発明が,引用発明1及び特開昭51−89419号公報(乙29。引用文献3)に記載された引用発明3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたと判断されることにある。


・・・


  ところで,進歩性判断の手法に関連して,控訴人が縷々主張するところのもの(上記第2の2の「控訴人の主張」(2),原判決22頁末行〜24頁17行,28頁24行〜29頁17行)は,要するに,進歩性の判断において,当業者が引例に係る発明を組み合わせて目的とする発明を容易になし得たとするためには,目的とする発明や引例に係る発明の課題,効果やその目指す方向を含む技術思想を考慮に入れざるを得ないというべきところ,本件発明は,光拡散性基板が観察側にフレネルレンズ基板が光源側に配置されている透過形スクリーンにおいて,紫外線硬化樹脂により成形されているフレネルレンズ基板が,外光に含まれる紫外線により劣化してしまうという課題を,光拡散性基板に紫外線吸収作用をもたせることにより解決したことに,その特徴があるのだから,各引用文献に,このような本件発明の技術思想が開示も示唆もされていない以上,本件発明は進歩性を有するということに帰するものである。


 しかしながら,引用発明1に引用発明3を組み合わせることによって,本件発明の構成と同一の構成が導かれれば,たとえ,それらを組み合わせる目的が,本件発明の課題と同一の課題を解決するためでなかったとしても,本件発明の課題も併せて解決されることは明らかである。


 そして,そうであれば,引用発明1に引用発明3を組み合わせて,本件発明と同一の構成を導いたことが,本件発明と同一の課題の解決を直接の目的とするものでなかったとしても,引用発明1に引用発明3を組み合わせること自体に,他の課題によるものであれ,動機等のいわゆる論理付けがあり,かつ,これを組み合わせることにより,本件発明が課題とした点の解決に係る効果を奏することが,当業者において予測可能である限り,本件発明は,引用発明1,3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。j


 この点につき,控訴人は「光拡散性基板に紫外線吸収作用をもたせたので,UV硬化樹脂で成形したフレネルレンズ基板の劣化を有効に防止できる」という技術思想が的確に把握されている場合には,記載された効果の当然の系として,フレネルレンズを成形するためのUV硬化樹脂の耐光性を考慮する必要がなくなり,樹脂の種類の選択の範囲が増大して,実用化に大きな一歩を踏み出すことができるが,異なった課題によってたまたま同一の構成に至ったような場合には,このような系としての効果は把握されず,発明に到達したことにはならないと主張する。


 しかしながら,樹脂の種類の選択の範囲が増大するというような効果は,本件明細書に記載されているものではなく,また,本件明細書に記載された「UV硬化樹脂で成形したフレネルレンズ基板の劣化を有効に防止できる(2頁右欄44〜46行)と」の記載から派生的に導けるというのであれば,上記(3)のとおり,紫外線硬化樹脂成形のフレネルレンズ基板の劣化を防止し得るという本件特許発明の課題に係る効果を十分予測し得る当業者の,予測の範囲内でもあるというべきであり,いずれにせよ,上記主張を採用することはできない。


 しかるところ,引用発明1の光拡散性基板として,引用発明3の紫外線吸収剤を添加したレンチキュラーレンズを使用することにより,相違点に係る本件発明の構成に到達すること,及び引用発明1の光拡散性基板として,引用発明3の紫外線吸収剤を添加したレンチキュラーレンズを使用することに,論理付けがあることは,上記(1)のとおりである。また,紫外線硬化樹脂成形物の紫外線による劣化という課題が従来周知のものであり,引用発明1の光拡散性基板に紫外線吸収作用をもたせれば,紫外線硬化樹脂成形のフレネルレンズ基板の劣化を防止し得るという本件発明の課題に係る効果を奏することも当業者が十分予測し得るものであることは上記(3)のとおりである。したがって,本件発明は,引用発明1,3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといわざるを得ない。


・・・


3 結論
 以上によれば,控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく理由がないから,これを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がない。』

 と判示しました。


 一昨日、昨日紹介した『平成18(行ケ)10104 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成18年09月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060929134920.pdf)と同様に、知財高裁は、複数の引用発明を組み合わせることによって,本件発明の構成と同一の構成が導かれれば,たとえ,それらを組み合わせる目的が,本件発明の課題と同一の課題を解決するためでなかったとしても,本件発明の課題も併せて解決されることは明らかで、進歩性が否定される、ことを判示しており、複数引用発明を組み合わせて進歩性を判断する際の重要な判決になるものと思います。