●平成17(行ケ)10493 審決取消請求事件 「透過型スクリーン」(2)

 昨日取り上げた『平成17(行ケ)10493 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成18年10月04日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061005153030.pdf)について、もう少しコメントします。


 まず、知財高裁は、昨日抜粋した判断の次に、

『・・・(ここまでは、昨日、抜粋した内容)

 エ しかるところ,引用発明1のレンチキュラーレンズとして,引用発明2の紫外線吸収剤を添加したレンチキュラーレンズを使用することに,いわゆる論理付けがあることは,上記(2)及び(3)のとおりである。


 また,紫外線硬化樹脂成形物の紫外線による劣化という課題が従来周知のものであったことは上記イのとおりであり,さらに,審決の一致点の認定のとおり,引用発明1は「フレネルレンズ基板より観察側に配置され光拡散作用をもつレンチキュラーレンズ基板と,前記レンチキュラーレンズ基板より光源側に配置されフレネルレンズ形状をもつ前記フレネルレンズ基板とからなるプロジェクションTV用透過形スクリーンにおいて,前記フレネルレンズ基板が紫外線硬化樹脂により成形されたことを特徴とするプロジェクションTV用透過形スクリーン」という構成を有するものであるから,紫外線を含む外光はスクリーンの外側から,すなわち,レンチキュラーレンズ基板を透過してフレネルレンズ基板に達するものであることは明らかである。


 そうすると,この引用発明1のレンチキュラーレンズ基板に紫外線吸収作用をもたせれば,レンチキュラーレンズ基板を透過してフレネルレンズ基板に達する紫外線が減少することは必然というべきであるから,紫外線硬化樹脂成形のフレネルレンズ基板の劣化を防止し得るという本件特許発明の課題に係る効果も,当業者が十分予測し得るものである。


 この点に関し,原告は,フレネルレンズ基板の劣化を有効に防止できることの系としての,量産の可能,生産性の向上等の効果は,本件特許発明の効果を技術思想として的確に把握していなければ把握されないと主張するが,量産の可能,生産性の向上等の効果は,本件明細書に記載されているものではなく,また,本件明細書に記載された「UV硬化樹脂で成形したフレネルレンズ基板の劣化を有効に防止できる(2頁右欄44〜46行)との記載から」派生的に導けるというのであれば,紫外線硬化樹脂成形のフレネルレンズ基板の劣化を防止し得るという本件特許発明の課題に係る効果を十分予測し得る当業者の予測の範囲内でもあるというべきであり,いずれにせよ,上記主張を採用することはできない。


 そうすると,本件特許発明は,引用発明1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであって,審決の判断に誤りはない。


2 結論
 以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。』

と判示しています。


 要は、本判決では、発明の構成こそが実体であり、発明の課題や目的・効果は発明の構成から導かれる主観的あるいは副次的なものであって、本発明とは異なる課題であっても、その異なる課題によって複数の引例を組み合わせて本件発明の構成となる以上は、本件発明の効果も必然的に有するのものであり、進歩性はない、といっているものと思います。


 そう考えると、発明の構成と効果との考え方は従前からの進歩性の見解と変わりませんが、本判決では、『本件発明とは異なる課題による引例の組み合わせ』、すなわち『引用発明1に引用発明2を組み合わせて,本件特許発明と同一の構成を導いたことが,本件特許発明と同一の課題の解決を直接の目的とするものでなかったとしても,引用発明1に引用発明2を組み合わせること自体に,他の課題によるものであれ,動機等のいわゆる論理付けがあり,かつ,これを組み合わせることにより,本件特許発明が課題とした点の解決に係る効果を奏することが,当業者において予測可能である限り,本件特許発明は,引用発明1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。』を明確にした点で、やはり、非常に意義の大きい事件と思います。



 なお、本判決では、原告が「進歩性の判断手法の誤り」として、

『・・・
 進歩性判断における技術の把握において,構成のみを偏重すれば,事の本質を見誤り,後知恵に陥る危険がある。進歩性の判断では,欧州特許庁で採用されている課題解決アプローチに倣い,通常の発明過程と同様に,最も近い従来技術を基礎として,時間的に前向きに進歩性の有無を検討しなくてはならず,後知恵による判断をできるだけ防止する必要がある。

 そこで,進歩性判断においては,課題の予測性,構成の予測性,組合せの動機付け,効果の予測性の各要素を考慮する必要があり,審決の上記判断手法は誤りである。』


と主張し、これに対し、特許庁側は、


『(1) 「進歩性の判断手法の誤り」との主張に対して
 原告は,新規性の判断や侵害の有無を判断する場合であれば,構成のみで判断し動機や課題の有無は問題としなくてもよいのに対し進歩性の判断においては引用例の課題や目指す方向を考慮に入れざるを得ないと主張するが,誤りである。


 新規性の判断と進歩性の判断とは,ともに発明の核心ともいうべき請求項に記載された構成と,引用文献に記載された発明の構成とを対比し,その間に有意の差異が存在するか否かが判断される点では同じであり,その間に基本的な考え方の違いはない。ただ,進歩性の判断の場合には,複数の発明を組み合わせる際の「論理付け」についての検討がなされるにすぎない。


 したがって,本件特許発明の進歩性の有無の判断において,引用例1,2に,本件特許発明の課題が記載,又は示唆されているか否かは問題ではなく引用発明1に引用発明2を組み合わせることにつき「論理付け」があるかどうか,また,組み合わせることにより本件特許発明と同じ構成に至るか否かによって,本件特許発明の進歩性の有無が判断されるのである。発明の効果は,特殊な場合に限って考慮されるにすぎない。


 このような考え方は,裁判所においてほぼ確定した考え方であり特許庁の審査基準も同じ考え方である。したがって,原告の上記主張は誤りである。』

と反論しています。


これもとても参考になります。