●『平成18(行ケ)10104 審決取消請求事件 商標権 知財高裁』

  今日は、『平成18(行ケ)10104 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟
平成18年09月28日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060929134920.pdf)について取り上げます。


 本件は、商標法50条1項の不使用取消審判の取消審決が争われた事案で、原告の完全子会社あるいは独占的輸入業者へのカタログの頒布が登録商標の使用として認められず、原告の請求は棄却されました。


 つまり、知財高裁は、本件各カタログの頒布の有無について、

『(1) 原告は,本件商標の指定商品に関する取引書類である本件各カタログに社会通念上本件商標と同一と認められる使用商標を付して,平成15年1月から8月5日までの間にトッズ・ジャパンに本件カタログ1を,平成16年1月から3月2日までの間に三井物産に本件カタログ2をそれぞれ配布したから,本件商標につき「商品に関する取引書類に標章を付して頒布する行為」(商標法2条3項8号)を行った旨主張する。

 証拠(甲1ないし16)び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。


・・・


(2) 以上の認定事実によれば,原告がトッズ・ジャパン宛て及び三井物産宛てに発行した各インボイス(甲3ないし7)のコード欄に商品の特定のために記載されたコード中には,本件各カタログに掲載された商品の写真に付されたコードと同一のものがあることが認められる。

 ア しかし,一方で,原告のトッズ・ジャパン宛てのインボイス(甲3,4)中には,本件カタログ1記載のコードと一部のみが一致し,完全に一致しないものがあり,また,コードが一致(一部一致を含む。)する商品についても,商品名の記載はインボイスと本件カタログ1とでいずれも相違し,更に本件カタログ1には商品の価格に関する記載は一切ないのに,インボイスには価格の記載がある。

 このことは,本件カタログ1のほかに,商品を特定するコード,商品名,価格等に関する取引資料が存在することを強くうかがわせるものである。

 同様に,原告の三井物産宛てのインボイス(甲5ないし7)に記載のコードと本件カタログ2に記載されたコードが一部一致する商品について,商品名の記載はインボイスと本件カタログ2との間でいずれも相違し(前記(1)ウのとおり,本件カタログ2においては,「JACKET」と「COAT」が区別して記載されているのに,インボイスでは,「COAT」も含めて「JACKET」としている。),更に本件カタログ2には商品の価格に関する記載は一切ないのに,インボイスには価格の記載がある。

 このことは,本件カタログ2のほかに,商品を特定するコード,商品名,価格等に関する取引資料が存在することを強くうかがわせるものである。

 イ 前記(1)ア(ア)で認定したとおり,本件カタログ1は,A4版横組みの用紙39枚からなる英文のカタログであるが,全体を通じた通し頁の記載がないこと,「WOMAN COLLECTION」に続く掲載写真には,1ないし18の番号が付されているものの,最後の2枚(22枚目及び23枚目)には番号の記載がないこと,「MAN COLLECTION」に続く掲載写真の番号は1ないし10,12,13,15で,11と14が欠番となってお
り,番号12,13,15のものにはコードの記載がないことに照らすと,本件カタログ1が一体のものとしてトッズ・ジャパンに配布され,それが商品を特定するための資料として発注・受注に使われたというには,本件カタログ1の体裁に不備があり,不自然である。

 ウ 前記(1)ア(イ)で認定したとおり,本件カタログ2は,A4版横組みの用紙30枚からなる英文のカタログであるが,全体を通じた通し頁の記載はないこと,2枚目から22枚目までの掲載写真には1ないし21の番号が付され,23枚目ないし28枚目において上記各写真及び番号が再度掲載(ただし,縮小されたもの)され,商品名等の記載がされているものの,29枚目には,4枚の商品写真及び写真右横に「22」ないし「25」の番号,写真中に付された「a〜e」の符号に対応する商品名等が記載されているのみで,本件カタログ2全体を通じて上記4枚の写真に対応する各商品のコードの記載はないことに照らすと,本件カタログ2が一体のものとして三井物産に配布され,それが商品を特定するための資料として発注・受注に使われたというには,本件カタログ2の体裁に不備があり,不自然である。

エ そして,甲3ないし7の各インボイスに対応するトッズ・ジャパン及び三井物産作成の注文書,各商品の受領書,三井物産の代金の支払に関する書面は提出されておらず,トッズ・ジャパン又は三井物産が本件各カタログに記載のコードによって商品を特定して発注したことを直接確認することはできない。

オ 以上のアないしエの事実に照らすと,本件各カタログが存在し,原告がトッズ・ジャパン宛て及び三井物産宛てに発行した各インボイスのコード欄に商品の特定のために記載されたコード中に,本件各カタログに掲載された商品の写真に付されたコードと同一のものがあるからといって,原告が平成15年1月から8月5日までの間にトッズ・ジャパンに
本件カタログ1を,平成16年1月から3月2日までの間に三井物産に本件カタログ2をそれぞれ配布したものと認めることはできず,他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

 (3) また,仮に原告がトッズ・ジャパンに本件カタログ1を,三井物産に本件カタログ2をそれぞれ配布したと認める余地があるとしても,原告の主張によれば,原告は,完全子会社であるトッズ・ジャパン及び原告商品の独占的輸入権を有する三井物産とのみ取引を行っているものであるから,本件各カタログは,専ら上記2社との取引のためにのみ作成・配布されたものであって,これらが日本国内において上記2社以外に配布されることは予定されていなかったということができ,このことに照らすと,原告によるトッズ・ジャパンに対する本件カタログ1,三井物産に対する本件カタログ2の配布をもって,商標法2条3項8号の「頒布」に当たるものと認めることはできないというべきである。

 原告は,商取引において商品カタログを配布する相手はその配布の目的からして取引相手あるいは将来取引相手になる可能性のある者に配布することで足り,取引相手の上記2社に本件各カタログが配布されたのであれば「頒布」されたと解すべきである旨主張するが,本件各カタログは原告の主張する通常の商品カタログのように取引相手あるいは取引の可能性のある者一般を対象に配布されることを予定したものではなく,上記のとおり,専ら原告の完全子会社あるいは独占的輸入業者である上記2社の使用のみに供するために作成,配布されたものであって,その性質上,日本国内において上記2社以外には他に配布される可能性がなかったのであるから,「頒布」には当たらないというべきであり,原告の上記主張は採用することができない。

(4) 以上に説示したところによれば,本件予告登録前3年以内に日本国内において,商標権者,専用使用権者,通常使用権者のいずれかが本件商標をその指定商品について使用したことの証明がされていないとした審決の判断に誤りはない。

 したがって,原告主張の取消事由には理由がなく,他に審決を取り消す。』

と判断しました。


 妥当な判決であると思います。