●『平成17(行ケ)10698 審決取消請求事件「ポイント管理装置」』(2)

 今日は、昨日の続きで、『平成17(行ケ)10698 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成18年09月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060927112516.pdf)における本願発明の発明としての成立性(自然法則の利用性)の判断について取り上げます。


 なお、本判決の番号およびリンク先が誤っており、誠に済みませんでした。昨日の日記の判決番号等も修正しておきました。


 さて、知財高裁は、本判決において、「取消事由4(「発明」該当性の判断の誤り)」について、

 『前記2及び3のとおり,第1補正及び第2補正が不適法なものとして却下されるべきであるから,第1補正前の特許請求の範囲を基にして,本願発明(旧請求項11)が特許法29条柱書の「発明」に該当するか否かを判断する。


 審決は,本願発明において,人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合とコンピュータがポイント管理を行う場合とがあるとした上で,「発明」該当性を判断しているが,原告らは,本願発明において人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合はあり得ず,コンピュータがポイント管理を行う場合しかないと主張し,このような本願発明は特許法29条柱書の「発明」に該当すると主張する。

(1)人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合について原告らは,本願発明において人間が各手段を操作してポイント管理を行う場合はあり得ないと主張する。

 しかし,第1補正前の特許請求の範囲の請求項11(旧請求項11)において,「(累積ポイントの)記憶」,「受信」,「加算」等の行為の主体がコンピュータに限定されていないし,次のとおり,各行為を人間が行うことも可能である。

 ア 例えば電子メールやFAXにより,人間が「ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信する」ことは,可能である。

 イ 適当な対応表を用いて,人間が「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて」ユーザを決定し,また,「上記記号列に基づいて」ポイントキャンペーンを決定することにより,ポイントアカウントを特定することも,可能である。

 ウ データベースは,整理して体系的に蓄積されたデータの集まりであって,例えばカード・ファイルのような紙媒体も一つの態様として含むものであり,ポイントアカウントは,ポイントキャンペーンに対応付けされたカードに相当することから,人間が,累積ポイントが記載されたカード・ファイルからなるデータベースを用いて,決定したユーザの,決定した「ポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算する」ことも,可能である。

 エ ポイントアカウントデータベースがコンピュータからなるシステムとしても,そのデータベース・システムをカード・ファイルの代わりに,人間が,単に累積ポイントを蓄積するための道具として用いることも,可能である。

 以上の検討結果によると,本願発明の各行為を人間が実施することもできるのであるから,本願発明は,「ネットワーク」,「ポイントアカウントデータベース」という手段を使用するものではあるが,全体としてみれば,これらの手段を道具として用いているにすぎないものであり,ポイントを管理するための人為的取り決めそのものである。したがって,本願発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作とは,認められない。

(2) コンピュータがポイント管理を行う場合について
 本願発明は「ポイント管理方法」の発明であるところ,ポイント管理における各ステップの行為主体がコンピュータであることは,旧請求項11には,明示されておらず,コンピュータの構成要素,すなわちハードウエア資源を直接的に示す事項は,何も記載されていない。上記旧請求項11には,「データベース」,「ネットワーク」との記載があるが,「データベース」は整理して体系的に蓄積されたデータの集まりを意味し,「ネットワーク」は通信網又は通信手段を意味するもので,いずれの文言もコンピュータを使ったものに限られるわけではない。したがって,上記旧請求項11の記載からは,本願発明の「ポイント管理方法」として,コンピュータを使ったものが想定されるものの,ソフトウエアがコンピュータに読み込まれることにより,ソフトウエアとハードウエア資源とが協働した具体的手段によって,使用目的に応じた情報の演算又は加工を実現することにより,使用目的に応じた特有の情報処理装置の動作方法を把握し得るだけの記載はない。

 ア 原告らは,発明がコンピュータにより実現されようと,コンピュータを用いない機械(例えば,組み合わせ論理回路を用いた順序機械)により実現されようと,基本的には,その発明の成立性には変わりがないはずであるのに,コンピュータにより実現されている,あるいは実現可能であるという理由だけで,発明の成立性が否定されるという考え方には,合理的な理由がないし,産業保護の観点からも問題であると主張する。また,コンピュータを利用しないで,通常の装置(トランジスタやICやシーケンス回路を用いてかかる装置を形成することが可能である)で実現するポイント管理方法では,発明性が成立し,コンピュータを利用して実現するポイント管理方法では,発明の成立性がないというのでは,不合理であると主張する。

 特許法29条柱書の「発明」に該当するためには,自然法則を利用したものでなければならないところ,審決は,上記旧請求項11の記載からは,コンピュータを使った「ポイント管理方法」が自然法則を利用していると認められだけの記載がないと判断しているのであって,コンピュータを用いるか,コンピュータを用いない機械(例えば,組み合わせ論理回路を用いた順序機械)を用いるかによって,「発明」該当性が左右されると判断したものではない。原告らの主張は,審決を正解しないでされたものであって,失当である。

 イ 原告らは,コンピュータが数学的なルールや経済学的なルールも実行可能であることから,審査基準(第II部第1章)の趣旨は,精神的作用に属する事柄(数学上の理論等)のように,本来発明といえないにもかかわらず,コンピュータを利用しているという理由だけで,自然法則を利用した技術的思想の創作であるという外観を持つものを排除できればすむのであり,ソフトウェア関連発明については,そのような観点からも,発明の具体的な解決手段の内容が吟味されれば,十分であると主張する。

 審査基準(第VII部第1章2.2.2「判断の具体的な手順」(2))には,自然法則を利用した技術的思想の創作であると判断するためには,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されていることを必要とする旨が記載されている。この基準には,「コンピュータによって処理される文書データが,入力手段,処理手段,出力手段の順に入力されることをもって,情報処理の流れが存在するとはいえても,情報処理が具体的に実現されているとはいえない。」との記載(第VII部第1章2.2.2「判断の具体的な手順」(3))もあり,原告らのいう趣旨に解することはできない。

 ウ 原告らは,上記旧請求項11の各ステップがポイントの管理という目的・効果を実現するものであり,ソフトウェア関連発明の具体性も十分であるから,本願発明は,審査基準に照らして,自然法則を利用した技術的思想の創作であると主張する。

 しかし,本願発明は,ハードウェア資源としては,「ネットワーク」と「ポイントアカウントデータベース」のみを有するものであり,本願発明のソフトウェアは,これらのハードウェア資源について,「ポイントアカウントデータベースを参照」し,「ネットワークを介して受信」し,「ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算する」ものでしかない。そうすると,旧請求項11の各ステップには,ポイントを管理するための処理と,「ネットワーク」及び「ポイントアカウントデータベース」からなるハードウェア資源とが,どのように協働しているのかが具体的に記載されていない。したがって,情報処理の流れが存在するとはいえても,ハードウェア資源を用いて,情報処理が具体的に実現されているとはいえない。したがって,本願発明は,審査基準に照らしても,自然法則を利用した技術的思想の創作であるとは,認められない。

 エ 原告らは,ソフトウェア関連発明における特許請求の範囲の記載は,当業者が所期の目的・効果を実現できる程度に記載されていれば,十分具体的であり,それを超えて,その具体的な態様,例えば,中央処理装置,主メモリ,バス,外部記憶装置,各種インタフェース等のコンピュータの各部品をどのように用いるかまで,具体的に特定する必要はないから,旧請求項11の各ステップの記載は,当業者が所期の目的・効果を実現できるように記載されていると主張する。

 審査基準(第VII部第1章2.2.2「判断の具体的な手順」(2))には,ソフトウェア関連発明において,ソフトウェアによる情報処理が,ハードウェア資源を用いて具体的に実現されているか否かにより,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるかを判断することが記載されているが,審査基準は,自然法則を利用した技術的思想の創作であるためには,コンピュータの部品の類まで具体的に特定する必要があるとするものではないし,コンピュータの部品の類まで具体的に特定していれば,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であると判断するというものでもない。

 審決は,本願発明がポイントの管理方法として,「(ア)ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信するステップ」及び「(イ)上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記ポイントアカウントデータベースの累積ポイントに所定ポイントを加算するステップ」を有し,「(ア)及び(イ)のステップの処理が,ネットワークやポイントアカウントデータベースなどのハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって,どのように実現されるのか,という点に関しては,何ら具体的に記載されていない。そして,これら(ア)及び(イ)のステップを実質的な要部として含む本願発明は,その技術的課題を解決できるような特有の事項を具体的に提示するものではなく,一定の技術的課題の解決手段であるとは到底いえないから,本願発明は,自然法則を利用した技術的思想の創作である発明に該当するとは認められない。」と判断したものであって,コンピュータの各部品をどのように用いるかを具体的に特定していないことのみを理由にしてはいない。

 原告らの主張は,審査基準の意味及び審決を正解しないものであり,失当である。』

と判断しました。


 ソフトウエア関連発明の成立性に関しては、知財高裁も審査基準通りの判断であり、上記判決文の中の『自然法則を利用した技術的思想の創作であるためには,コンピュータの部品の類まで具体的に特定する必要があるとするものではないし,コンピュータの部品の類まで具体的に特定していれば,「自然法則を利用した技術的思想の創作」であると判断するというものでもない。』、『コンピュータの各部品をどのように用いるかを具体的に特定していないことのみを理由にしてはいない。』というのは少々分りにくいのですが、要は、ソフトウエアによる情報処理がコンピュータの部品を具体的にどのように協働させて実現されているかを示す必要がある、ということではないかと思いました。


追伸;<気になったニュース>
●『「国際標準総合戦略」,2006年中に策定・公表へ』
http://chizai.nikkeibp.co.jp/chizai/gov/20061002.html
・・・国際標準技術に関する国内の動きも気になりますが、この記事によれば『さらに,世界貿易機関WTO)の「貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)」によって,WTO加盟国は国際標準を各国の独自規格よりも優先することが義務化されていることから,各国では産業政策上の重要課題として浮上している。こうした国家戦略としての標準化を重視する姿勢は欧米諸国だけでなく,中国などにも広がっている。』とあり、世界的な動きも気になります。

●『論文と特許 米国が「先願主義」受け入れか 』
http://www.business-i.jp/news/for-page/chizai/200610040004o.nwc