●『平成18(行ケ)10698 審決取消請求事件「ポイント管理装置」』

  今日は、『平成17(行ケ)10698 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成18年09月26日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060927112516.pdf)について取り上げます。


 本件は、拒絶審決に対する取消しを求めた事件で、結局、その請求は、棄却されました。


 本件では、原告が拒絶査定を受けて審判請求後、2度手続補正書を提出しており、2度の手続補正書を却下した点と、本願発明の発明としての成立性(自然法則の利用性)の判断について争われ、原告の請求は認められませんでした。


 前者の判断では、2度補正却下した点の適法性の判断も興味あるのですが、特許請求の範囲の補正が限定的減縮違反と判断された点が特許実務上、参考になりまので、今日は前者の取消事由の判断について取り上げます。


 つまり、知財高裁は、第1及び第2補正の判断の方法の誤りについて、

『原告らは,審判請求の日から30日以内に行われた複数の補正は,これらを一体のものとして把握した上で,後の補正を審判請求前の明細書及び図面と比較して補正の適否を判断すべきであり,そのように取り扱うことが当事者の意思に合致すると主張する。


 しかし,(1) 特許法には,審判請求の日から30日以内という同一の補正の機会に行われた複数の補正がある場合に,それらの補正を一体のものとして扱うべきことを規定した条文は存在せず,(2) 特許法上,手続補正の手続は,方式不備等の理由に基づいて18条の規定により手続却下がされない限り,消滅することはないから,審判請求の日から30日以内に複数回の補正があった場合には,次の理由により,これらを一体として扱うのではなく,それぞれの補正を独立したものとして扱うべきものと解するのが相当である。


 ある補正が,特許法17条の2第4項及び第5項の規定に適合するか否かについての判断をする場合には,当該補正よりも前の時点での特許請求の範囲を基準にしなければならないところ,その基準となるのは,最後に適法に補正された特許請求の範囲であり,そのような補正がない場合には願書に添付された特許請求の範囲である。そして,特許請求の範囲に関するある補正について上記判断をする場合において,それ以前にされた複数の補正についてその適否がいまだ判断されていないときには,補正のされた順番に従って,補正の適否について順次判断すべきである。


 本件においては,第2補正の適否を判断する際に,直前の第1補正の適否がいまだ判断されていないから,まず第1補正の適否を判断すべきものである。

 そして,第1補正が不適法なものとして却下されるときは,第1補正前の明細書及び図面を基準に,第2補正の適否を判断すべきである。したがって,審決のした判断の方法に誤りはない。


2 取消事由2(第1補正の判断の誤り)について
 第1補正は,第1補正前の請求項1に下記の下線部の文言を付加するものである。
                     記
「ユーザのポイントキャンペーンごとのポイントアカウントを用いて当該ポイントキャンペーンごとの累積ポイントを記憶する累積ポイント記憶手段と,
 ユーザの識別情報とユーザが入力した記号列とを含む送信情報をネットワークを介して受信する手段と,
 上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段と,
上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記対応づけ手段により上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンの,ポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段とを有することを特徴とするポイント管理装置。」

(1) 原告らは,「上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーン」は,請求項1に記載した発明を特定する事項であり,「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」及び「上記対応づけ手段により」を挿入する補正は,全体的・実質的に検討した場合には,特許法17条の2第4項2号に規定される「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」であると主張する。

 第1補正前の請求項1において,発明を特定するために必要な事項としては,「累積ポイント記憶手段」,「受信する手段」,「加算する手段」等があるが,「(上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの)対応づけ」は,これらのいずれかを概念的により下位にしたものとはいえず,むしろ,「(累積ポイントの)記憶」,「受信」,「加算」と概念的に同位にある。

 したがって,第1補正は,第1補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではないから,特許法17条の2第4項の規定に違反するものである。


(2) 原告らは,第1補正の文章を等価な範囲で書き換えれば,「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段により,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段」又は「上記送信情報を受信したことに対応して,上記ユーザの識別情報に基づいて決定されるユーザの,上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけにより,上記記号列に基づいて決定されるポイントキャンペーンのポイントアカウントに関して,上記累積ポイント記憶手段の累積ポイントに所定ポイントを加算する手段」と同等のものであり,第1補正は,請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定する補正であると主張する。

 第1補正と同等であり,文章を等価な範囲で書き換えたと原告らが主張するものは,第1補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「加算する手段」を,形式的に限定するものではある。しかし,第1補正後の請求項1において,「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」は,第1補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「累積ポイント記憶手段」,「受信する手段」及び「加算する手段」と同様に,ポイント管理装置を構成する一つの手段として位置付けられていることは,明らかである。したがって,第1補正は,「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」を追加するものである。原告らの主張は,第1補正の内容に基づかないものであり,採用することはできない。


(3) 原告らは,特許請求の範囲の請求項に,例えば,「Aと,Bと,Cと,Dとを有することを特徴とする装置。」と記載された場合でも,単に後の構成を明確にするために箇条書きにする場合も多いから,A,B,C及びDすべてが発明を特定するために必要な事項であるわけではなく,発明を特定する事項かどうかを実質的に判断すべきであると主張する。また,これを前提に「対応づけに基づいてポイントを加算する手段」が「ポイントを加算する手段」の下位概念であることは,明らかであると主張する。

 発明を特定する事項かどうかは,文脈全体を考慮して,実質的に判断すべきことは,原告らの主張するとおりである。

 しかし,第1補正後の請求項1においては,「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」は,「累積ポイント記憶手段」,「受信する手段」及び「加算する手段」と同様に,ポイント管理装置を構成する独立した一手段として位置付けられている。また,「対応づけに基づいてポイントを加算する手段」が「ポイントを加算する手段」の下位概念であったとしても,第1補正のうち,「上記対応づけ手段により」を挿入して「…ポイントを加算する手段」に限定を加えたことを正当化し得るにすぎず,第1補正により「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」を追加することを正当化することにはならない。


(4) 以上のとおり,第1補正は,第1補正前の発明特定事項のいずれかを限定したものではなく,特許法17条の2第4項2号で規定された限定的減縮には,該当しない。したがって,第1補正を不適法なものとして却下した審決の判断に誤りはない。


 3 取消事由3(第2補正の判断の誤り)について
(1) 第2補正のうち,新たな請求項1に係るものについて,原告らは,請求項の発明を特定する事項を限定するものであると主張する。

 前記1において判示したとおり,第2補正の適否を判断する場合において,直前の第1補正がいまだ判断されていないときはまず第1補正の適否を判断すべきであり,前記2のとおり,第1補正は不適法として却下されるべきであるから,第2補正の適否は,第1補正前の明細書及び図面を基準に判断することになる。

 そこで,第1補正前の請求項1(旧請求項1)を基準にして第2補正をみると,第2補正は,「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う対応づけ手段」との文言を追加する補正を含んでいる。第1補正は,旧請求項1を基準にして「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの対応づけを行う対応づけ手段」という文言を追加するものであったのであり,第2補正は「間の1対多の関係の」との文言が加わるほかは,第1補正と同じ補正である。「間の1対多の関係の」との文言が加わることによって「対応づけ」が限定されることは認められるものの,「対応づけ手段」を追加する点においては,第2補正も第1補正も同じである。また,第2補正の「上記記号列と上記ポイントキャンペーンとの間の1対多の関係の対応づけを行う対応づけ手段」としても,第1補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「累積ポイント記憶手段」,「受信する手段」,「加算する手段」のいずれかを,概念的により下位にしたものとはいえないとの結論を左右するものではない。

 したがって,前記2において第1補正について判示したのと同じ理由により,第2補正のうち,請求項1に係る部分も特許法17条の2第4項の規定に違反するものとして却下すべきである。

(2) 前記(1)のとおり,第2補正のうち新たな請求項1に係るものは不適法であり,却下すべきものである。そして,第2補正のうち新たな請求項5に係るものも,第1補正前の請求項11(旧請求項11)の内容及び当該請求項に係る補正の内容に照らせば,新たな請求項1に係る第2補正につき上記(1)において説示したのと同様の理由により,不適法として却下すべきものである。』

と判断しました。


 やはり、審判請求後の特許請求の範囲の補正は、発明特定事項を増加させる補正は、特許庁および裁判所でも、特許発明の限定的減縮に該当せず、認められないようです。


 なお、本願発明の発明としての成立性(自然法則の利用性)の判断については、明日、取り上げます。