●『平成18(行ケ)10229 審決取消請求事件 商標権 「紅隼人」』

 今日は、『平成18(行ケ)10229 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成18年09月27日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060928105722.pdf)を取り上げます。


 本件は、「紅隼人」の登録商標をその指定商品中「ベニハヤトを使用したアイスクリーム」に使用した場合,これに接した取引者,需要者は,商品の原材料,品質を表示したものと理解し,商品の識別標識とは理解しないものと判断するのが相当であり,上記以外のアイスクリームに使用したときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものであるから,同商標登録は商標法3条1項3号及び4条1項16号の規定に違反し,無効であるとの審決をしたため,原告が同審決の取消しを求めた事案で、知財高裁は、原告の請求を棄却しました。


 つまり、知財高裁は、 取消事由(商標法3条1項3号及び4条1項16号該当性の判断の誤り)について、

『(1) 商標法3条1項3号に掲げる商標が商標登録の要件を欠くとされているのは,このような商標は,取引に際し必要適切な表示として何人もその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのは公益上適当でないとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場合自他商品識別力を欠くものであることによるものと解される(最高裁昭和54年4月10日第三小法廷判決・裁判集民事126号507頁,判例時報927号233頁参照。)。この趣旨に照らせば,本件審決時において,当該商標が指定商品の原材料又は品質を表すものと取引者,需要者に広く認識されている場合はもとより,将来を含め,取引者,需要者にその商品の原材料又は品質を表すものと認識される可能性があり,これを特定人に独占使用させることが公益上適当でないと判断されるときには,その商標は,同号に該当するものと解するのが相当である。


(2) そこで,本件について検討すると,審決が挙げる証拠(乙3,4,7〜9,11〜15,17〜19,21〜34,36〜65)には,審決が引用した記載が存在すると認められるところ,これらの記載によれば,(i)さつまいも(かんしょ)の新品種ベニハヤトは,種苗法に基づき「ベニハヤト」との名称で昭和61年11月21日に品種登録され,官報により告示されたこと,(ii)ベニハヤトは,多量のカロチンを含む色鮮やかなオレンジ色をしたさつまいもの新品種であり,広い用途に利用可能なものとして注目され,昭和62年ころから,新聞,雑誌上で広く紹介されるようになったこと,(iii)ベニハヤトは,新聞,雑誌,ホームページ等において,登録された名称の「ベニハヤト」のほか,「紅隼人」「紅ハヤト」「紅はやと」などとも表記されていること,新聞,雑誌等により,ベニハヤトや他のさつまいもが菓子類等(アイスクリーム,ようかん,水羊羹,ケーキ,クッキーなど)の原材料に適していることが度々紹介され,また,実際に,ベニハヤトや他のさつまいもを原材料として用いたアイスクリームやその他の菓子類が販売されていることの各事実が認められる。


(3) 上記認定事実によれば,本件審決時において,本件商標に係る「紅隼人」がさつまいもの品種であるベニハヤトを意味することは,取引者,需要者に広く知られており,また,ベニハヤトを和菓子類やアイスクリームの原材料として利用することができ,あるいは実際に利用されていることも同様に広く知られていたものと認められる。そうすると,「紅隼人」との文字からなる本件商標を,その指定商品中「ベニハヤトを使用したアイスクリーム」に使用した場合,これに接する取引者,需要者は,商品の原材料,品質を表示したものと理解して,自他商品を識別標識とは認識しないものというべきであり,他方,ベニハヤトを使用したアイスクリーム以外のアイスクリームに本件商標を使用したときは,商品の品質について誤認を生じさせるおそれがあるものということができる。

 したがって,本件商標は,商標法3条1項3号及び4条1項16号の規定に違反して登録されたものであるとの審決の判断に誤りがあるということはできない。


(4) これに対し,原告は,種苗法と商標法は独立した制度であり,品種登録されていても,商標登録が無効になるものではなく,また,種苗法に基づく「ベニハヤト」の品種登録は無効にされるべきであると主張する。

 しかしながら,審決がベニハヤトの品種登録について認定をしたのは,ベニハヤトがさつまいもの新品種の一つであり,取引者,需要者にそのことが広く知られていたことを基礎付けるためであり,ベニハヤトが種苗法に基づいて品種登録されていることから,本件商標登録を無効としたものではない。また,原告がベニハヤトの品種登録が無効である根拠として挙げる商標(甲3の1)は,その登録日がベニハヤトの品種登録よりも後の昭和63年3月であるから,同品種登録を無効とする根拠となるものではなく,仮に,原告の主張するとおりベニハヤトの品種登録自体が無効であるとしても,「ベニハヤト」がさつまいもの一品種であり,昭和62年ころから雑誌や新聞で紹介され,取引者,需要者に広く知られるようになったとの認定を左右するものではない。

 原告は,アイスクリーム商品に工業標準化法(JIS法)で規定された商品名,原材料名,内容量,販売者名(製造者名),所在地を記載することにより,消費者が商品の品質を誤認しないようにするべきであると主張するが,同法上の表示義務と商標法の登録要件は異なる趣旨,目的に基づくものである。前記のとおり,「紅隼人」を和菓子類やアイスクリームの原材料として利用することができ,あるいは実際に利用されていることが取引者,需要者に広く知られていたと認められる以上,本件商標を,「ベニハヤト」を使用したアイスクリームに使用した場合,取引者,需要者は,商品の原材料,品質を表示したものと理解して,自他商品を識別する標識とは認識しないというべきである。

 原告は,本件商標の指定商品である「アイスクリーム」は,野菜の一種であるベニハヤトとは区別し得るとも主張するが,ベニハヤトやその他のさつまいもがアイスクリームの原料として用いることができ,また実際に用いられていることは前記判示のとおりであり,ベニハヤト自体が野菜であることは,本件登録商標が商標法3条1項3号及び4条1項16号に該当することを否定する事情とはならない。

2 結論
 以上のとおり,原告の主張には理由がない。
 なお,原告は,上記主張と関連して,又はこれと別に詳細な主張(弁論終結後に提出された準備書面における主張を含む。)をしているが,これらの主張に照らして審決の認定判断を検討しても,審決にこれを取り消すべき誤りは認められない。

 よって,原告の請求は棄却されるべきである。』 (以上、上記判決文より抜粋。)

と判断しました。


 妥当な判断であると思います。