●『平成17(行ケ)10046 審決取消請求事件 特許権 知財高裁』(2)

今日は、昨日に続いて『平成17(行ケ)10046 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成18年09月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060913085433.pdf)についてコメントします。


 知財高裁は、取消事由3(相違点の看過2)について、

『(1) 原告は,本願発明の「休止期間」は,1トラックより小さく,かつ,固定長である「クラスタ」に対する書き込みと,次のクラスタに対する書き込みとの間に必ず発生するものであり,1トラックごとに必ず生じるのに対し,引用発明では,書き込みの中断時間はバッファメモリのデータ蓄積量に対応して,条件付きで発生する,すなわち,バッファメモリの容量が第2のレベルV2 以下になるという条件がある場合にのみ記録が中断されるものであり,書き込みの中断前後のデータの集群(被告のいう「クラスタ」)は,1トラックより大きく,可変長であり,審決は,本願発明の「休止期間」及び「クラスタ」の技術的意義を誤解し,上記相違点を看過した旨主張する。


(2) そこで,まず,記録の「休止期間」について検討する。

ア 本願発明は,特許請求の範囲の「記録担体に記録すべきデータの各バーストをトラックの一部分つまり1つのクラスタに,その正味データレートとは無関係にまえもって定められた物理的な書き込みデータレートを用いて該記録担体に記録し」との記載や「バーストのデータを一時記憶メモリ(6)を使用して記録または再生装置に一時記憶して,記録すべきデータの正味データレートを書き込みデータレートに変換し,または読み出しデータレートを再生すべきデータの正味データレートに変換し, 前記記録担体へのそれらのデータの書き込み後または記録担体からのそれらのデータの読み出し後,書き込みまたは読み出しにあたり休止期間を挿入し,現在のクラスタまたはバーストの書き込み後または読み出し後の前記休止期間中,記録または再生装置を次のクラスタまたはバーストの開始位置に位置決め」との記載のとおり,記録担体に記録をするに当たり,一時記憶メモリを使用し,記録担体上のトラック部分に設定されたクラスタごとに記録を行うものであり,1つのバーストデータを1つのクラスタに記録するごとに,記録の休止期間が挿入されるものであると認めることができる。

 この「休止期間」は,「期間」である以上,時間の観念を有することは明らかであり,しかも,クラスタへの記録と記録との間に,記録又は再生装置を位置決めするために「挿入」されるべき有為の時間であると認められる。

イ 他方,引用発明は,前記1(3)イのとおり,バッファメモリ内のデータ容量のレベルが一定のレベル(V1 )以上のときには,記録ヘッドをディスクの未記録トラック上に進行させてディスクへの記録を行い,一定のレベル(V2 ただしV1 >V 2)以下のときには,記録動作を中断し,V1 とV2 の間のときには,未記録トラックから隣接する既記録トラックに戻り,既記録部分の終了位置から記録を行うものであるから,バッファメモリ内のデータ容量のレベルが,一定のレベル(V1 )以上のときには,記録動作の中断は生じず,V1 とV2 の間のときには,未記録トラックから隣接する既記録トラックに戻るので記録動作の一時的中断が生じ,一定のレベル(V2 ただしV2 >V1 )以下のときには,記録動作の継続的な中断が生じる。バッファメモリのデータ容量のレベルがV1 とV2 の間のときには,記録の一時的中断が生じるが,単にトラックを戻した結果生じる時間遅れ(time lag )であり,これを期間の「挿入」とはいえず,この一時中断が有為の時間の観念を含むものでないことが明らかである。

 また,バッファメモリのデータ容量が一定のレベル(V2 ただしV2 >V1 )以下の時には,記録動作の継続的な中断が生じるが,V2 以下の状態から回復しない限り,中断したままであって,クラスタへの記録動作の間に「挿入」されるものであるとはいい難い。

ウ 審決は,引用発明につき,「ディスクへのデータの記録(書き込み)後,バッファメモリのデータ容量の減少に伴い,記録動作を中断し,記録再生ヘッドを移動し(この期間が「休止期間」に相当する。),既記録トラックの未記録部分の先端(「次の開始位置」に相当する。)からデータを断続記録するものである。」(審決謄本7頁第1段落)と認定し,被告も,引用発明において,休止期間によって分割されて書き込まれたデータの,各々の集群をクラスタと称するのであるから,引用発明においても,隣接する2つのクラスタの書き込み間には,当然に休止期間が存在する旨主張するが,上記のとおり,隣接する2つのクラスタの書き込み間に存在するのは「中断」の結果生じる時間遅れであって,本願発明にいう「休止期間」とはいえないのであって,失当である。』 (以上、本判決文より抜粋。)

と判断しました。


 情報通信関連の特許出願の中間処理をしていると、本事例のように、たまたま“時間遅れ”等があって、これが結果的に“〜期間”であると指摘される場合がありますが、この場合には、本件のように、「引例発明は、結果として生じる時間遅れ等であって、本願発明の〜期間とは異なり、・・・」等と反論できますね。




 さらに、知財高裁は、

『(3) 次に,「クラスタ」について検討する。
ア 上記(2 )アのとおり,本願発明においては,記録担体に記録をするに当たり,一時記憶メモリを使用し,記録担体上のトラック部分に設定されるクラスタごとに記録を行うものであり,1つのバーストデータを1つのクラスタに記録するごとに,記録の休止期間が挿入されるものである。

 ここで,本願発明において,上記1のとおり,バーストとは所定のデータ量を示すものであり,各バースト,すなわち所定のデータ量が,1つのクラスタに記録されるものではあるが,特許請求の範囲の記載そのものには,クラスタにつき,「トラックの一部分」であると限定されているのみであって,クラスタが固定長の意味を含むか否かについては,明示的な記載はない。

そこで,本件優先日である平成2年3月当時,当業者間において,「クラスタ」がどのような技術的意義を有するものとして理解されていたかを検討する。

・・・

ウ これらによれば,乙3公報においては,欠陥セクタにより分断されるセクタのかたまりがクラスタと呼ばれるなどし,そこでのクラスタの長さは一定のものとは認められないが,他の各文献においては,いずれも,記録担体において,記録部分の最小単位であるセクタを特定の数だけまとめるなど,記録部分の一定の単位がクラスタと呼ばれていて,上記イ(ア)によっても,一般的には,クラスタと呼ばれるものは,単位となるような固定長のものとされていたのであり,「クラスタ」をこのような用語として用いることが,一般的であったものと推測される。

エ しかし,「クラスタ」について,乙3文献のように,固定長ではなく,一定のデータのまとまりを指す用例もあり,本願発明の「クラスタ」の意義が必ずしも一義的であるとまではいえないので,本件明細書の発明の詳細な説明をみると,以下の記載がある。

・・・

 上記記載によれば,本願発明において,データは休止期間をはさんで,各クラスタに記録されるものであるが(上記(ア)),上記(イ)及び(ウ)は,その場合のクラスタの長さとしてどのような長さが適切かを記載しているのであり,それらの記載において,クラスタが固定長であることを前提としていることは明らかである。その上で,上記各記載において,「1つのクラスタ(集群)の長さ」をどのように設計したらよいかについて,「1つのATIPブロックの整数倍」,ひいては「EFMフレームの整数倍」がよいこと(上記(イ)),効率性や他の制約の関係から,「1つのクラスタの長さはまた任意の大きさではない」として,特定の条件の下で「本来28224ビットのスペースを占める1つのクラスタ」が設定されることが示されているのである。

 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の用語を参酌しても,「クラスタ」は,当然のように,記録担体における記録部分の長さの単位を示す語として用いられているのであり,本件において,特許請求の範囲の記載において,そこで使用されたのと異なった意義で使用する理由はないから,発明の詳細な説明を参酌しても,本願発明の「クラスタ」は,記録担体における記録部分の長さの単位となる固定の長さを示すものであると認めることができる。

 したがって,本願発明の「クラスタ」は,記録担体のトラックにおける固定長の管理単位を示すものを意味しており,本願発明は,各バースト,すなわち所定のデータ量が,記録担体における,1つのクラスタ,すなわち,トラック上の所定の長さを持った部分に記録され,そのような各バーストのクラスタに対する記録ごとに休止期間が挿入されるものである。

オ  被告は,本願発明の「クラスタ」は,固定長のものに限られない旨主張し,「クラスタ(cluster )」という用語は,本来「群れ」「かたまり」というイメージを有する単語であり,必ずしも一定の大きさ,量を示す意味は備えていないこと,乙3公報において,クラスタの長さは個々に異なるものであることを指摘し,また,本願発明の特許請求の範囲においては,クラスタの長さについて何ら言及はなされておらず,単に記録すべきデータが記録される領域として示されているにすぎないのであるから,本願発明における「クラスタ」には,固定長のものに限定されず可変長のものも含まれている旨主張する。

 しかしながら,「クラスタ」について,本来「群れ」「かたまり」というイメージを有する単語であったとしても,本件においては,本件優先日当時の当該技術分野における「クラスタ」という語の技術的意義が問題となるのであり,本願発明の「クラスタ」の技術的意義が被告主張のようなものでないことは,上記のとおりである。

カ  他方,引用発明は,前記1(3 )ウのとおり,バッファメモリのデータ容量に応じて,ディスクに対する記録が中断されたり,されなかったりするものであるから,連続して記録される個々のデータのまとまりのデータ量は,通常,異なったものとなる。そして,引用例において,データ量が異なるにもかかわらず,連続して記録される一つのデータのまとまりが,記録担体上の特定の長さを有する一つの部分に記録されることをうかがわせる記載はない。

キ  被告は,「クラスタ」が必ずしも固定長のものに限定して理解されないことを前提に,引用発明においても,記録されたデータのかたまりの長さは個々に異なるものの,そのデータのかたまりを「クラスタ」ということができる旨主張するが,「クラスタ」について,被告主張の意義を採用できないことは前記(3 )オのとおりであり,被告の主張はその前提を欠くものである。


 また,被告は,引用発明において,ディスクに記録されるデータのかたまり(クラスタ)の長さは個々に異なっていてもよいところ,そのクラスタの長さを可変長のものに代えて,単に固定長のものとする程度のことは当業者が必要に応じて適宜なし得た事項である旨主張する。

 しかし,ここで問題となっているのは,引用発明が固定長のクラスタを開示しているか否かであり,進歩性の議論をしているわけではないから,被告の上記主張は,それ自体失当である。のみならず,被告は,当業者が必要に応じて適宜なし得た事項であるとする根拠も示していないが,念のために検討を加えておく。

 そもそも,引用発明においては,入力されるデータ量の変動がある通常の場合,記録の中断によって生じるまとまりごとのデータ量は,全く異なったものとなるのであり,引用発明において,連続して記録されるデータのまとまりのデータ量を所定の量とすることは,発明の本質上,困難である。

 そして,引用発明において,連続して記録されるデータの一つのまとまりを固定長の管理単位である一つのクラスタに対する記録とすることが,当業者が適宜なし得た事項であるということもできない。

 すなわち,連続して記録されるデータのまとまりをそれぞれディスク上の一つの固定長に記録するためには,上記のとおり,バッファメモリのデータ容量がV1 以上の場合には記録が連続してされることを考慮しなければならない。仮に,通常の場合に連続して記録される最大限のデータのまとまりを記録し得る固定長の設定が可能であったとしても,各記録のまとまりのデータ量は,大きく異なるにもかかわらず,連続して記録されるデータのまとまりをそれぞれディスク上の一つの固定長に記録するためには,各データのまとまりを上記最大限のデータのまとまりを記録し得る一つの固定長の部分に記録することとなるが,その場合には,記録されなくなる部分が多数出て,「(発明の効果)上述したように,本発明になる情報記録再生装置は,データ圧縮された情報をディスク上に高密度で記録でき,従って,情報の長時間記録,長時間再生ができる効果を有する。」(上記1(3 )ア(カ))という引用発明の効果を全く奏さないものとなる。


(4) 以上によれば,本願発明は,所定のデータ量ごとに,記録担体のトラックの所定の長さを有する部分(クラスタ)として記録がされるもので,そのような記録を行うごとに,記録を休止するものである。これに対し,引用発明は,バッファメモリのデータ容量に応じ記録の中断を行い,通常の場合,連続して記録されるデータ量は毎回異なったものであり,また記録の休止によって生じるひとまとまりのデータがトラックにおいて記録される部分の長さは異なったものである。

 したがって,本願発明は,固定長である「クラスタ」に対する書き込みと,次の書き込みとの間に必ず,記録の「休止期間」を挿入するものであるのに対し,引用発明においては,書き込みの中断はバッファメモリのデータ蓄積量に対応して,条件付きで発生するものであり,書き込みの中断が発生した場合の中断前のデータの集群は,可変長である点で相違することとなる。
引用発明において,この相違点に係る構成を本願発明の構成とすることは,上記のとおり,引用発明の本質上,困難であり(上記1(4 ),2(3 )キ),上記相違点の看過が,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。


(5) したがって,原告の取消事由3の主張は理由がある。


3 以上によれば,原告主張の取消事由1及び取消事由3は理由があるから,その余の点について検討するまでもなく,審決は違法として取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決
する。』 (以上、本判決文より抜粋。)


と判断しました。


 特許請求の範囲の用語の意義は、まずは本出願日(優先日)当時の技術水準の下、文献や辞書等により一般的に解釈し、それでも解釈できない場合、明細書の記載を参酌して解釈するという手法は、特許出願に係る発明の要旨を認定する際の基本と思いますので、特許実務上、覚えておく必要がありますね。



追伸;<気になったニュース>
●『特許合格率を初公表、審査請求件数の抑制狙う 特許庁
http://www.asahi.com/business/update/0915/163.html
●『産業財産権の現状と課題〜21世紀型知的財産戦略の深化に向けて〜
〈特許行政年次報告書2006年版〉の公表について』
http://www.jpo.go.jp/torikumi/puresu/press_gidou_0915.htm
●『産業財産権の現状と課題 〜21世紀型知的財産戦略の深化に向けて〜〈特許行政年次報告書2006年版〉』
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2006_index.htm
 ・・・3連休ですので、ゆっくり本報告書を読もうと思います。


●『東芝、米マイクロンと特許契約締結・子会社との争訟は終結
http://it.nikkei.co.jp/business/news/index.aspx?n=AS3L1505X%2015092006
●「東芝、米マイクロンから半導体特許一部を譲り受け」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060915-00000544-reu-bus_all