●平成17(行ケ)10677 審決取消請求事件 特許権 「メモリ制御装置

  『平成17(行ケ)10677 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「メモリ制御装置」平成18年08月31日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060901102755.pdf)についてコメントします。

 本件は、一昨日もコメントしたように、特許庁が出した進歩性なしの拒絶審決を知財高裁が取消した判決です。


 本判決で、知財高裁は、明細書に記載された発明の目的と、その目的を達成するために採用した構成を参酌して、「取消事由1(相違点1の判断の誤り)」においては、引用発明のニブル・モード・アクセス信号が本願発明のメモリに対してのアクセス終了を示す制御信号とは異質なもので、同一であるとする判断は、採用できないと判断し、「取消事由2(相違点2の判断の誤り)」においては、引用発明と本願発明とでは、アクセス単位の制約の有無の点で異なり、メモリへのアクセス方式が異なるので、引用発明に接した当業者が引用発明の特定のニブル・モード・アクセス方式を、具体的な全体を離れてページモードに偏向することの契機にはならないと判断し、いずれも特許庁の判断を誤りとしました。


  つまり、知財高裁は、
『1 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について
 原告は,本願発明と引用発明とは,アクセスの終了に係る構成が全く異なっており,引用発明において,アクセスの終わりを示す制御信号によりアクセスを終了させる構成に変更することは容易ではない旨主張する。

・・・

(2) 引用例1の上記(1)アエの記載によれば,引用発明は,「高速なアクセスを必要とする装置と高速なアクセスを必要としない装置が共通バスを介してメインメモリにアクセスする場合に,高速なアクセスを必要とする装置のみに,メインメモリへのニブル・モード・アクセスを可能としつつ,このような処理を複雑なものとせず,全体として効率的なメモリ・アクセス方式を提供する」ことを目的として,「アドレス・レジスタの最下位の2ビットの値が所定の値となったことで,自らニブル・モード・アクセスを終了するよう構成」し,メインメモリは「ニブル・モード・アクセス指示信号がオフとなったことで,ニブル・モード・アクセスを終了し,次の任意装置からのメモリ・アクセスに備え,また,ニブル・モード・アクセス指示のないメモリ・アクセス要求を受信したときは,通常の1ワードのアクセス・モードで記憶素子にアクセスするよう構成」したものであり,ニブル・モード指示信号(311)がオンの場合にのみニブル・モードでのアクセスを行い,これがオフとなった場合にニブル・モード・アクセスを終了して,次のアクセスに備えるものであることが分かる。

 そして,引用発明の構成では,ニブル・モード・アクセス指示信号は,アドレスの下位2桁が11となるワードに対するアクセスの終了の時点(最初のアクセスから連続3ワード以下,最初のアクセスも含めると4ワード以下)でオフとなり,ニブル・モードでのアクセスは終了するが,通常,メモリへのアクセスが4ワードで済むことはまれであり,引き続きアクセスがあると考えるのが自然であるから,引用発明においてニブル・モード・アクセス指示信号がオフとなることは,引用発明が採用している特別なニブル・モードでのアクセスの一応の終了を意味するだけであって,メモリに対するアクセスの完了を意味するものではないと解される。

(3) この点に関して,被告は,引用発明においては信号321(アクセス同期信号)を検出後,タイミング作成部104を制御して,メモリへアクセスするためのRASやCASの送出動作を開始し,信号321(アクセス同期信号)の送出の終了によってアクセスを終えており,通常,RASやCASの送出動作の停止によってアクセスが終るので,引用発明は信号321(アクセス同期信号)をRASやCASの送出動作の開始の制御だけでなく,停止の制御にも用いることを示唆していると主張する。


 しかしながら,引用例1の前記(1)エの記載によれば,引用発明における信号321(アクセス同期信号)の送出の終了は,アドレスの下位2桁が11となった場合に発せられるニブル・モード終了信号を受けたものであることが認められる。そして,引用発明においてニブル・モード・アクセス指示信号がオフとなることは,引用発明が採用している特定のニブル・モードでのアクセスの一応の終了を意味するだけであって,メモリに対するアクセスの完了を意味するものと解されないことは,すでに検討したとおりである。

 そうすると,引用発明の信号321(アクセス同期信号)は,本願発明における「メモリに対するアクセスの完了を検出する手段であって,リクエスト側エージェントにより生成される,前記メモリに対してのアクセスの終りを示す制御信号」とは異質なものというべきであるから,被告の上記主張は採用できない。

(4) 甲7には,パラレル・システム・バス(iPSB)について,「要求エージェントが,EOC(End of Cycle)信号で最後のデータ転送を知らせると転送サイクルが終了する」(315頁4行6行)と記載されているが,既に検討したとおり,引用発明における特定のニブル・モードでのアクセスの終了と甲7における転送サイクルの終了を同視することはできないから,引用発明のアクセスの終了を示す信号を甲7におけるEOC信号と関連付けて理解することには無理があるといわなければならない(なお,甲7は,原査定(甲15)が引用する拒絶理由通知書(甲14)において引用されたものではないから,再開されるべき審判手続において再度拒絶理由を通知した上で,これを引用例として用いることは格別,本訴において,本願の優先権主張日当時周知であった技術事項を立証することを超えて,本願発明の相違点1に係る構成の容易想到性を論理付けるための引用例として用いることは許されない。)。

(5) 以上のとおり,引用発明に接した当業者が本願発明の相違点1に係る構成に至ることが容易であるとはいえない。したがって,相違点1についての審決の判断は誤りというべきである。

 よって,原告主張の取消事由1は理由がある。



2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について
 原告は,引用発明のニブルモードは特殊なものであり,通常のページ・モードと引用発明のニブル・モードとは機能,構成,設計困難性等において異なっているのであるから,単に高速アクセスモードという点で共通するというだけで,両者を置き換えることが容易想到とはいえない旨主張する。

 前記1(1)において説示したとおり,引用発明は,「高速なアクセスを必要とする装置と高速なアクセスを必要としない装置が共通バスを介してメインメモリにアクセスする場合に,高速なアクセスを必要とする装置のみに,メインメモリへのニブル・モード・アクセスを可能としつつ,このような処理を複雑なものとせず,全体として効率的なメモリ・アクセス方式を提供する」ことを目的として,「アドレス・レジスタの最下位の2ビットの値が所定の値となったことで,自らニブル・モード・アクセスを終了するよう構成」し,メインメモリは「ニブル・モード・アクセス指示信号がオフとなったことで,ニブル・モード・アクセスを終了し,次の任意装置からのメモリ・アクセスに備え,また,ニブル・モード・アクセス指示のないメモリ・アクセス要求を受信したときは,通常の1ワードのアクセス・モードで記憶素子にアクセスするよう構成」したものであり,ニブル・モード指示信号(311)がオンの場合にのみニブル・モードでのアクセスを行い,これがオフとなった場合にニブル・モード・アクセスを終了して,次のアクセスに備えるようにしたものである。

 一方,ページ・モードによるメモリへのアクセス方式は,行アドレスストローブ信号RASを低電位に保持するとともに列アドレスストローブ信号CASをトグルさせることにより,ページ内のデータ(行アドレスが同じで列アドレスが異なるデータ)をより速やかに出力するようにしたものであり(乙2,1頁右下欄11行2頁左上欄4行),引用発明のニブル・モードのアクセス方式と異なり,アクセスの単位には制約がない。

 アドレス・レジスタの最下位の2ビットの値が所定の値となったことで自らニブル・モードでのアクセスを終了する構成を採用した引用発明は,ニブル・モード・アクセス方式におけるアクセス単位の制約を前提とした上で,ニブル・モードによるアクセスと通常モードによるアクセスの両方に対応可能とすることを発明の目的とするものであるから,一般にメモリへの高速アクセス方式としてニブル・モードアクセス方式とページ・モード・アクセス方式が知られていることや,ページ・モード・アクセス方式の方が古い技術であることが知られているというだけでは,引用発明に接した当業者が,そこで採用されてい
る特定のニブル・モード・アクセス方式を,具体的な前提を離れてページモードに変更することの契機にはならない。

 上記によれば,引用発明に接した当業者が,そこで採用されている特定のニブル・モード・アクセス方式をページ・モードに変更し,本願発明の相違点2に係る構成に至ることが容易であるとはいえない。したがって,相違点2についての審決の判断も,また誤りというべきである。

 よって,原告主張の取消事由2も理由がある。

3 結論
 以上の次第で,原告の取消事由1,2の主張はいずれも理由があり,審決は取消しを免れない。
したがって,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。』

と判示しました(以上、本判決文より抜粋。)。


 本判決文からすると、本願発明と引用発明とで構成の一致点があったとしても、その構成が引用発明における特殊なモード等の特殊な場合であれば、本願発明の進歩性判断の際の引用発明として採用するのは難しいようです。


 興味のある方は、上記判決文を参照願います。