●平成17(行ケ)10635 審決取消請求事件「固体燃料ロケット燃焼室の

 本日は、『平成17(行ケ)10635 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「固体燃料ロケット燃焼室の形状」平成18年08月31日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060901095956.pdf)についてコメントします。


 本件は、特許無効審決の取消しを求め、その請求が棄却された事案です。


 本件では、原告は、特許出願に係る発明の要旨の認定について明細書および図面の記載を参酌すべきと主張しましたが、知財高裁は、平成3年のリパーゼ最高裁を理由などに棄却した点で、参考になるかと思います。


 つまり、知財高裁は、

『2(1) 原告は,「燃焼面積増加用」が機能的な表現であることから,発明の技術的範囲に含まれるかについては明細書及び図面を参酌し,そこに示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて考察されるべきである,と主張する。


 しかし,特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。


 そして,本件明細書(乙15添付の全文訂正明細書)の特許請求の範囲の【請求項1】には「固体燃料ロケットの燃焼室に燃焼面積増加用の複数のドーナッツ形の横溝を設けたことを特徴とする固体燃料ロケット燃焼室の形状」と記載されているところ,この記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情は認めることができないから,本件発明の要旨を認定するに当たって発明の詳細な説明の記載を参酌することは許されないというべきである。


(2) 原告は,本件明細書には,縦溝を付けたときよりも進力の増加及びロケットの性能向上を図るため,図面に示された複数のドーナッツ形横溝を設けたことが明示されているのに対し,引用発明3における2個の横溝は,基端部側にまとめて形成された横溝であり,また,引用発明3の横溝は,進力の増加ではなく,いずれも燃焼状態の調整のために設けられるものであり,「燃焼面積増加用」という構成要素の有無により本件発明との構成の差異が生じる旨,主張する。


 しかし,前記のとおり,本件発明の要旨は特許請求の範囲の記載に基づいて認定されるべきところ,【請求項1】の記載によれば,本件発明の「横溝」は「燃焼面積増加用の複数のドーナッツ形」であって,「固体燃料ロケットの燃焼室」に設けられるとされるにとどまり,それが燃焼室のどのような位置に幾つ設けられるものであるとか,進力の増加のためのものであるといった事項は何ら規定されていない。


 そうすると,本件明細書には,縦溝を付けたときよりも進力の増加及びロケットの性能向上を図るため,図面に示された複数のドーナッツ形横溝を設けたことが明示されているとして,引用発明3における2個の横溝との差異をいう原告の主張は,発明の要旨に基づかないものであって,採用することができない。


(3) 原告は,1進力の増加を目的とする本件発明はロケット打ち上げのために有益であるのに対して,引用発明3はロケット第3段目以降で使用され,姿勢制御するのに有益である,2本件発明は使用される領域が大気圏内であるのに対して引用発明3は無重量状態でも軌道修正のために使用される,3出力においても,本件発明の出力は200トン以上であるのに対して引用発明3は46トン程度にとどまる,4本件発明は円柱形であるのに対して,引用発明3は球形である,などとも主張するが,本件明細書の特許請求の範囲の【請求項1】には,使用される状況,出力,燃焼室の形状について何ら規定されていない。原告の上記主張は,いずれも,発明の要旨に基づかないものであって,採用することができない。


3 結論

 上記検討したところによれば,本件発明と引用発明1ないし2との対比について検討するまでもなく,審決を取り消すべきものとは認められない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。』(上記判決文より抜粋。)


と判示しました。


 なお、本事件で被告側は、

『「特許法29条1項及び2項所定の特許要件,すなわち,特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当たっては,この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として,特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ,この要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。


 特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」(最高裁平成3年3月8日判決・民集45巻3号123頁)


 これを本件についてみると,請求項1に記載された本件発明において,固体燃料ロケットの燃焼室に設けられた複数のドーナッツ形の横溝が「燃焼面積増加用」であるという記載は,それ自体一義的に明確に理解することができ,他の解釈の余地がないものである。したがって,本件発明の要旨認定は,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,明細書の発明の詳細な説明の記載や図面を参酌する必要はない。


 原告の前記機能的クレームに関する主張は,実用新案権又は特許権侵害訴訟において,特許発明の技術的範囲を確定するにあたって,機能的クレームをいかに解釈すべきであるかという問題に関するものであり(例えば,東京高裁昭和53年12月20日判決〔判例タイムズ381号165頁,ボールベアリング自動組立装置事件〕,東京地裁平成10年12月22日判決〔判例時報1674号152頁,磁気媒体リーダー事件〕等),発明の新規性,進歩性を判断するために当該発明の要旨を認定するに際してのクレーム解釈に関する問題ではない。』

等と反論しました。


追伸;<進歩性なしの拒絶審決が知財高裁において取消された判決例>


 特許庁の出した進歩性なしの拒絶審決が知財高裁において取消された新たな判決例が出ましたので追加します。

(1)平成17(行ケ)10091 特許取消決定取消請求事件 H17.4.12 「回路接続用フィルム状接着剤及び回路板」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/00E8E396586BFFF94925710E00099E04.pdf

(2)平成17(行ケ)10017 特許取消決定取消請求事件 H17.4.27 「難燃性組成物及び電線、ケーブル」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/083BF60B549C54104925710E0008F2C4.pdf

(3)平成17(行ケ)10112 特許取消決定取消請求事件 H17.6.2 「環状オレフィン系共重合体から成る延伸成形容器」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/C1300D5C8577EB024925710E0005DC31.pdf

(4)平成17(行ケ)10316 特許取消決定取消請求事件 H17.9.22 「自動車用窓ガラスおよびその製造方法」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/2C12ADEE8F4C1FA04925710E002B12C5.pdf

(5)平成17(行ケ)10222 特許取消決定取消請求事件 H17.9.26 「食品包装用ストレッチフィルム」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/DE6A3633046A42214925710E002B12C7.pdf

(6)平成17(行ケ)10125 拒絶審決取消請求事件 H17.11.10 「情報記録システム並びにその情報記録システムに使用される記録装置及び記録担体」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/5CC0F32A85F5BE71492570B5002CFC6B.pdf

(7)平成17(行ケ)10519 拒絶審決取消請求事件 H18.3.15 「記録担体」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060327152351.pdf

(8)平成17(行ケ)10223 特許取消決定取消請求事件 H18.4.27 「酸性水中油型乳化調味料」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060428100144.pdf

(9)平成17(行ケ)10603 審決取消請求事件 H18.5.24 「有機エレクトロルミネッセンス素子及びパネルの製造方法と製造装置」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060525174211.pdf)

(10)平成17(行ケ)10729 審決取消請求事件 H18.6.6 「キー変換式ピンタンブラー錠」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060607133701.pdf

(11)平成17(行ケ)10514 審決取消請求事件 H18.6.21 「遊戯台」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060622104257.pdf

(12)平成17(行ケ)10718 審決取消請求事件 H18.6.22 「適応型自動同調装置」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060623104959.pdf

(13)平成17(行ケ)10490 審決取消請求事件 H18.6.29 「紙葉類識別装置の光学検出部」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060629173057.pdf

(14)平成17(行ケ)10677 審決取消請求事件 H18.8.31 「メモリ制御装置」(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060901102755.pdf