●平成18(行ケ)10136 審決取消請求 意匠権「ピアノ補助ペダル事件」

 本日は、『平成18(行ケ)10136 審決取消請求事件 意匠権「ピアノ補助ペダル事件」平成18年08月24日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060824150911.pdf)についてコメントします。


 本件は、意匠に係る物品が「ピアノ補助ペダル」である意匠登録出願の参考図にのみ記載された「アタッチメント付きピアノ補助ベルト」についての分割出願が認められず、拒絶された拒絶審決の取消しを求めた審決訴訟で、原告の請求は棄却された事件です。


 つまり、知財高裁は、
『1 取消事由1(分割出願の適法性判断の誤り)について
(1) 審決は,「『参考図』である参考斜視図は原出願に係わる意匠を現す図面とは異なる別の意匠を示すためのものであるとの請求人(注,原告)の主張(B)には無理があって採用できず,そして,原出願の図面の一部であるにしても,それは意匠法第10条の2でいう二以上の意匠を包含する意匠登録出願の一部にはあたらないというべきものである。」(審決謄本4頁第2段落)とし,意匠法10条の2第1項の「二以上の意匠」にいう「意匠」とは,「意匠登録を受けようとする意匠」であることを前提として,「本願については,意匠法第10条の2第1項の規定による原出願からの出願の分割は認められず」(同5頁第2段落)と判断したところ,原告は,同項の「意匠」は,「意匠登録を受けようとする意匠」に限られず,「意匠登録出願に表現された意匠」をいう旨主張し,審決の上記判断を争っている。

 意匠法10条の2第1項は,「意匠登録出願人は,意匠登録出願が審査,審判又は再審に係属している場合に限り,二以上の意匠を包含する意匠登録出願の一部を一又は二以上の新たな意匠登録出願とすることができる。」と規定し,一つの意匠登録出願に二以上の意匠が包含される場合,その意匠登録出願の一部を一又は二以上の新たな意匠登録出願とすることができる旨定めている。

 一方,同法7条は,「意匠登録出願は,経済産業省令で定める物品の区分により意匠ごとにしなければならない。」と規定するとともに,同法17条は,「その意匠登録出願が第七条に規定する要件を満たしていないとき」(3号)には,審査官は,その意匠登録出願について拒絶すべき旨の査定をしなければならないと規定しており,いわゆる一意匠一出願制度を採用している。このような一意匠一出願制度の下で,「二以上の意匠を包含する意匠登録出願」について,拒絶査定を回避するためには,同法10条の2第1項の規定による意匠登録出願の分割をすべきことになるが,同規定の「二以上の意匠」にいう「意匠」が「意匠登録を受けようとする意匠」に限定されるか否かが本件の実質的な争点である。

(2) そこで,検討すると,意匠法6条は,1項において,「意匠登録を受けようとする者は,次に掲げる事項を記載した願書に意匠登録を受けようとする意匠を記載した図面を添付して特許庁長官に提出しなければならない。一意匠登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所 二 意匠の創作をした者の氏名及び住所又は居所 三 意匠に係る物品」とするほか,2項において,「経済産業省令で定める場合は,前項の図面に代えて,意匠登録を受けようとする意匠を現わした写真,ひな形又は見本を提出することができる。この場合は,写真,ひな形又は見本の別を願書に記載しなければならない。」と,・・・とそれぞれ規定している。

 また,同法20条3項は,「前項の登録(注,意匠権の設定の登録)があったときは,次に掲げる事項を意匠公報に掲載しなければならない。一 意匠権者の氏名又は名称及び住所又は居所 二 意匠登録出願の番号及び年月日 三 登録番号及び設定の登録の年月日 四 願書及び願書に添付した図面,写真,ひな形又は見本の内容 五 前各号に掲げるもののほか,必要な事項」と規定し,さらに,同法24条は,「登録意匠の範囲は,願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真,ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。」と規定している。

 また,意匠法施行規則3条は,「願書に添付すべき図面は,様式第六により作成しなければならない」とし,様式第6の備考8には,立体を表す図面は,正投影図法により各図同一縮尺で作成した正面図,背面図,左側面図,右側面図,平面図及び底面図をもって一組として記載する旨が記載され,同備考14には,意匠登録を受けようとする意匠を記載した正面図等だけでは,その意匠を十分表現することができないときは,展開図,断面図,切断部端面図,拡大図,斜視図その他の必要な図を加え,そのほか意匠の理解を助けるため必要があるときは,使用の状態を示した図その他の参考図を加える旨が記載されている。

 上記各規定によると,「意匠登録を受けようとする意匠」の範囲を確定するための基礎となるのは,願書の記載及び願書に添付した図面に記載され又は願書に添付した写真,ひな形若しくは見本により現された意匠,換言すると,「意匠に係る物品」の記載と願書に添付された図面に記載された意匠,あるいは,「図面に代えて,意匠登録を受けようとする意匠を現した写真,ひな形又は見本」に現された意匠であり,上記記載のみでは必ずしも意匠の表現が十分でないと考えられるときに,展開図,断面図,切断部端面図,斜視図その他の必要な図を加え,そのほか意匠の理解を助けるため必要があるとき,使用の状態を示した図その他の参考図を加えることができる。

 そして,意匠法10条の2第1項の「二以上の意匠を包含する意匠登録出願」か否かは,同法24条と同様,願書の記載及び願書に添付した図面に記載され又は願書に添付した写真,ひな形若しくは見本により現された意匠に基づいて確定されるべきものであり,必要があれば,展開図,断面図,切断部端面図,拡大図,斜視図その他の必要な図,使用の状態を示した図その他の参考図をも参照することになる。したがって,展開図,断面図,切断部端面図,拡大図,斜視図その他の必要な図,使用の状態を示した図その他の参考図中に,「意匠登録を受けようとする意匠」とは別の意匠が記載されているとしても,「二以上の意匠を包含する意匠登録出願」か否かにおいて検討されるべき対象になるものではない。

(3) これを分割出願に係る本件出願についてみると,以下のとおりである。
ア 原出願は,意匠登録を受けようとする意匠に係る物品を「ピアノ補助ペダル」とするものである。

・・・

イ 一方,本件出願は,原出願の第1のアタッチメントを取り付けた状態のアタッチメント部分を含むピアノ補助ペダルに係る意匠について,意匠に係る物品を「ピアノ補助ペダル」として出願するものであり,別添審決謄本写し別紙第1表示のとおり,願書添付の図面には,正面図,右側面図,平面図,左側面図,底面図,左斜上方から見た斜視図,使用状態を示す参考斜視図が記載されている。本件出願の願書添付の図面中,左斜上方から見た斜視図は,原出願の願書添付の図面中の,ピアノ補助ペダルに第1のアタッチメントを取り付けた状態を示す参考斜視図と同内容の図面であり,使用状態を示す参考斜視図は,原出願の願書添付の図面中の,第1のアタッチメントを取り付けたピアノ補助ペダルの使用状態を示す参考斜視図と同内容の図面である。

ウ 以上のとおり,原出願は,意匠に係る物品を「ピアノ補助ペダル」とし,意匠登録を受けようとする意匠として,アタッチメントを取り付けていないピアノ補助ペダルに係る意匠を登録出願したものである。原出願に添付の図面の参考図においては,アタッチメントを取り付けた状態のアタッチメント部分を含むピアノ補助ペダルの意匠が示されているということができるが,それは,意匠登録を受けようとする意匠の理解を助ける目的で,当該意匠以外の意匠として示されている。

 本件出願は,原出願の参考図において示されたアタッチメントを取り付けた状態のアタッチメント部分を含むピアノ補助ペダルに係る意匠について,意匠に係る物品を「ピアノ補助ペダル」として,意匠登録を受けようとするものであるところ,本件出願において意匠登録を受けようとする本願意匠は,原出願において,意匠登録を受けようとする意匠ではないのであるから,本件出願は,意匠法10条の2第1項の要件を満たす分割出願であるということはできない。

(4) 原告は,「参考図」も意匠登録出願の図面の一部であり,原出願の「一組の図面」及び「必要な図」に一つの意匠が表現され,その原出願の「参考図」に別の意匠が表現されている以上,原出願は,意匠法10条の2第1項にいう「二以上の意匠を包含する意匠登録出願」に当たるというべきであり,そのように解しても何の障害あるいは不都合もない旨主張する。

 しかし,参考図が,「二以上の意匠を包含する意匠登録出願」か否かの判断の対象となるものではないことは,上記のとおりである。

 そして,上記(3)のとおり,本願意匠は,原出願の参考図に示されていたものであるが,参考図において,仮に,意匠登録を受けようとする意匠以外の意匠が示されたとしても,それは飽くまで意匠登録を受けようとする意匠の理解を助ける目的で,当該意匠とは別の,意匠登録を受けようとしない意匠として示されているものであり,その意匠は,必ずしも,意匠登録を受けようとする意匠のように所定の様式に従って厳密に記載された図面によって示されているものではなく,意匠登録を受けるため,意匠に係る物品を明らかにしているわけでもないから,この意匠を意匠制度の下で保護することが予定されているということはできない。

 また,様式の制限や意匠に係る物品欄の記載に掲げられた物品と関係がなく,単なる参考のために記載された図面中の意匠について,出願日遡及効(意匠法10条の2第2項)を有する分割出願を認めることは,意匠登録を受けようとする意匠について,意匠に係る物品を明らかにして,所定の図面により意匠を示して出願した場合に,一定の要件の下に登録して排他的,独占的な保護を与えるという意匠制度の趣旨に反するものであるだけでなく,不当に出願日遡及効が認められる範囲を広げ,第三者及び公益を不当に害するものとなる。

 したがって,このような意匠制度の趣旨等に照らすと,意匠登録出願の願書の図面において意匠登録を受けようとしない何らかの意匠が示されていても,当該意匠登録を受けようとしない意匠について,分割出願を認め,もとの出願時までの遡及効を認めることは許されないところであって,意匠法10条の2第1項の「二以上の意匠を包含する意匠登録出願」にいう「意匠」は,参考図等において意匠登録を受けようとしない意匠として示された意匠を含まず,もとの出願において意匠登録を受けようとする意匠のみを意味すると解するのが相当である。』

と判示しました(以上、本判決文より抜粋。)。
 

 知財高裁の考えは、参考図とは、あくまで登録を受けようとする意匠の理解を助けるためのものにすぎず、特許法でいうところの要約書のような役割のものだ(知財高裁はここまで言っていませんが)ということだと思います。


 また、知財高裁は、さらに、分割が補正の一種であることや、原告が特許法70条と意匠法第24条との関係から参考図にのみ記載された意匠も分割すべきと主張した理由をそれぞれの法律の目的等から却下しており、その理由も面白いので、明日の日記で触れることにします。