●『平成18(行ケ)10105 審決取消請求事件 商標権 知財高裁』

  今日は、『平成18(行ケ)10105 審決取消請求事件 商標権 行政訴訟 平成18年08月09日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060810110343.pdf)についてコメントします。


 本件は,商標登録の不使用取消審決の取消しを求めた事件で、WEb上の広告が商標法第2条第3項8号の使用と認められ、また許諾契約のない通常使用権者の使用でも通常使用権者の使用と認められ、商標登録の取消し審決が取消されました。

 つまり、知財高裁は、
『・・・
(2) 原告と東急ストリームライン(平成14年9月9日設立)は,原告の国際旅行事業及びビジネストラベル事業を東急ストリームラインに承継させるために吸収分割を行い,平成15年1月6日にその旨の登記を経由した。原告は,吸収分割に先立ち,「全国を網羅する東急観光。・・・平成15年1月,個性的な3つの顔が新たに誕生いたします。」として,東急ストリームラインを含む3社を紹介するチラシ(甲6)を作成,配布したが,これには,東急ストリームラインについて,「・・・幅広いサービスを提供する国際旅行と,ご出張の手配から精算までをシステム管理することにより,トータルな旅費出張費削減を実現するビジネストラベルマネジメント。このふたつの仕事を両輪として,グローバルな視点で活躍されている国内外のお客様に質の高い旅行サービスをお届けします。」と説明している。

 東急ストリームラインは,平成15年にウェブページを開設したが,少なくとも同年10月17日の時点のウェブページ(甲22)において,BTM事業(BusinessTravel Management)について,「当社では,お客様の多様なニーズにお応えする為,各システム構成を機能ごとにユニット化しております。」との案内文のもとに,「ユニット構成」の1つとして,「●旅費精算ユニット TEAMS Web対応「旅費精算・管理システム」」を掲げ,さらに,TEAMS(Travel ExpenseAccounting & Management System)につき,「出張に関わる従来の出張申請→手配→精算→支払等の業務で重複していたプロセスを見直し,Web上で電子的に処理・管理する旅費精算・管理システムです。(有料)」と説明している。
 東急ストリームラインは,少なくとも,
1 平成15年2月27日,富士ゼロックスゼネラルビジネス株式会社FXトラベルに対し,「TOKYU BUSINESS TRAVELMANAGEMENT PLAN」と題する提案書(甲23)を交付して,TEAMSにつき,「出張申請→手配→精算→支払等の業務で重複していたプロセスを見直し,Web上で電子的に処理・管理する旅費精算・管理システム」として,その内容を説明し,

2 同年3月25日,株式会社オギハラに対し,「ビジネストラベル・マネジメントに関するご提案書」と題する提案書(甲24)を交付して,TEAMSにつき,上記1と同様の説明をし,

3 同月26日,経済産業省に対し,「旅費法に基づく精算業務の受託提案」と題する提案書(甲25)を交付して,「旅費精算・管理システム」であるTEAMSの内容を説明し(なお,見積りの前提として,「本件で提案する弊社システム「TEAMS」は,一般企業向けに開発した旅費精算・管理システムであり,現時点では官公庁の業務フロートと異なる部分があるため,旅費法令等のすべてをシステムでカバーするまでには至っておりません・・・将来的に弊社システムのバージョンアップに伴い,・・・人件費がメインとなる受託料が引き下げられる可能性があります。」と記載されている。),

4 同年9月10日,独立行政法人産業技術総合研究所に対し,「出張旅費に関する事務処理システムの構築,運用及びに導入準備業務に関するご提案」と題する提案書(甲29)を交付して,出張旅費精算システム(TEAMS)の内容を説明している。

(3) 原告は,平成16年7月1日,東急ストリームラインを合併した(これに伴い,東急ストリームラインは解散した。)。

 原告は,少なくとも,平成16年11月9日,日本ミクロコーティング株式会社に対し,「Tokyu Streamlines サービスのご案内」と題する提案書(甲8)を交付しているが,その中で,Information Technology(受発注・旅費精算システム)の1つとして,「旅費精算ユニット TEAMS Web対応「旅費精算・管理システム」」を掲げている。

2 上記の事実によれば,原告の旅費精算・管理システムとは,従来の出張申請,手配,精算及び支払等の業務で重複していたプロセスを見直して,Web上で電子的に処理・管理しようとするプログラムで,顧客の需要に応じて適宜カスタマイズされる(例えば,原告と日本ケイデンスとの間の平成12年6月20日付け「出張申請経費精算アウトソーシング事業に関する覚書」(甲14)には,「ユーザーの依頼によりカスタマイズされたソフトウェア」(2条3項)との記載があることに照らして明らかである。)ものであるから,このようなシステムの提供は,本件役務である「電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守」に当たるということができる。

 そして,本件商標の審判の請求の登録前3年以内に,原告は,この旅費精算・管理システムをTEAMS(Travel Expense Accounting & ManagementSystem)と称して,これを記載した提案書を顧客に交付し,また,東急ストリームラインも,原告から通常使用権の許諾を得て,TEAMSに関する広告を内容とする情報を原告のウェブページに掲載したり,これを記載した提案書を顧客に交付したりしている。

 そうであれば,原告は,被告による商標登録の不使用取消審判請求の登録前3年以内において,本件商標を使用したものということができる。

3 被告は,通常使用権の許諾契約の存在を示す証拠方法が全く提出されていないから,東急ストリームラインは通常使用権者でないと主張する。

 しかしながら,契約書などの書面によらなければ,通常使用権を許諾することができないというわけではなく,また,契約書などの書面が証拠として提出されない場合であっても,上記1の事実によれば,原告が本件商標について東急ストリームラインに通常使用権を許諾した事実は優に推認されるのである。被告の主張及びこの点に関する審決の事実認定に関する手法は,あたかも,実体法的には要式行為性を要求し,手続法的には法定証拠力を想定するものであって,誤りである。

 また,被告は,システムは,商品に当たるとしても,役務には当たるものではないと主張するが,上記2のとおり,原告の旅費精算・管理システムは,Web上で電子的に処理・管理しようとするプログラムであるから,これをもって,有体物を観念することはできない。

 さらに,被告は,ウェブページでは,「旅費精算・管理システム」の名称として本件商標を使用しているにすぎないし,提案書等は,商標法2条3項8号の「取引書類」に当たらない上,特定の一企業に提示されただけであるから,同号の「頒布」に当たらないと主張する。しかしながら,上記1の事実によれば,東急ストリームラインのウェブページの掲載は,商標法2条3項8号にいうところの,本件役務に関する広告を内容とする情報に本件商標を付して電磁的方法により提供する行為に当たるものである。また,提案書は取引上必要な書類であるから,本件役務に関する取引書類に当たるところ,通常,このような提案書は提供を求める特定の顧客に交付されるものであるから,現実に提供を求める顧客に交付されている以上,これを頒布したということができる。

 第5 結論,
 以上によれば,本件商標の使用を認めることができないとした審決は誤りであり,原告主張の審決取消事由は理由があるから,審決は取り消されるべきである。』

と判示しました。(以上、本判決文より抜粋。)



 なお、本件とは逆に、ウエブサーバが米国に設けられ、ウエブ広告の内容もすべて英語で表示されていたため,ウエブ広告が日本の需要者を対象としたものと認められず、商標法2条3項8号の使用に該当しないと判断され、不使用取消審決の棄却審決が取消されたピザのパパジョンズ事件(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/CEBB3D9318B125AC492570DD003A007E.pdf)があります。