●『平成18(ヨ)22022 著作隣接権仮処分命令申立事件 東京地裁』(2)

 昨日に続いて、『平成18(ヨ)22022 著作隣接権仮処分命令申立事件 著作権 民事仮処分 平成18年08月04日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060807104814.pdf)を紹介します。


 なお、本事件で問題とされているソニー製『ロケフリ』は、昨年のNET家電大賞に選ばれたものです(http://members14.tsukaeru.net/lay_2001/2006-1q/NetKaden/NetKaden.htm)。


 さて、東京地裁は、(4) 自動公衆送信装置について
『ア 債権者は,ベースステーションが自動公衆送信装置に当たる旨主張する。
 しかしながら,まず,「自動公衆送信装置」とは,「公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置」である(著作権法2条1項9号の5イ)。

 そして,「自動公衆送信」とは,「公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)」であり(同項9号の4),また「公衆送信」とは,「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(有線電気通信設備で,その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(中略)を除く。)を行うこと」をいう(同項7号の2)。

 ここで,同法2条5項は,「公衆」には,「特定かつ多数の者を含むものとする。」と定めているから,送信を行う者にとって,当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば,「公衆」に対する送信に当たるということができる。

イ 前記(3)のように,本件サービスにおけるベースステーションからの放送データの送信の主体を債務者と評価することはできないから,ベースステーションによる放送データの送信は,1主体(利用者)から特定の1主体(当該利用者自身)に対してされたものである。そうすると,ベースステーションによる送信は,不特定又は特定多数の者に対するものとはいえず,これをもって「公衆」に対する送信ということはできない。

 したがって,本件サービスにおける個々のベースステーションは,「自動公衆送信装置」には当たらない。

 よって,債務者がインターネット回線に接続されているベースステーションを分配機に接続して放送波が入力されるようにすることは著作権法2条1項9号の5イに当たらないし,同分配機に接続されているベースステーションをインターネット回線に接続することは同ロに当たらないというべきである。』

と判示しました。


 本件サービスにおけるベースステーションが、著作権法2条1項9号の5イの「自動公衆送信装置」に相当するか否か文理通り判断しており、この判断の通りであると思います。


 さらに、東京地裁は、(6) 債権者の主張(2)イについて

『ア 債権者は,本件サービスの本質が,海外及び放送区域外でのテレビ番組視聴ができることにある旨主張する。

 しかしながら,そのことは,ソニーロケーションフリーテレビのNetAV機能そのものであって,債権者自身,それを著作隣接権侵害とは主張していないものである。

イ 債権者は,放送波の範囲が債務者によって限定されている旨主張する。

 なるほど,本件サービスにおいては,債権者らが提供する地上波がベースステーションから送信されるのみであるが,送信される放送波の範囲が限定されるのは,ベースステーションの設置場所が東京都内の債務者の事務所(データセンター)内である結果にすぎず,債務者がかかる限定について関与したとはいえない。なお,かかる放送波の範囲の限定があることをもって,放送波の受信が債務者においてされているとみることはできない。

ウ 債権者は,放送波の入力やインターネット回線への接続行為が債務者の事務所で行われ,そのための機器を債務者が所有し管理している旨主張する。

 なるほど,債務者は,自己の事務所内にベースステーションを設置し,アンテナ端子及びインターネット回線に接続しているところ,放送波のベースステーションへの流入に必要な分配機及びケーブル類や,ベースステーションからインターネット回線への出力に必要なハブ,ルーター及びケーブル類等の機器ないし機材は,いずれも債務者の所有及び管理に係るものである。

 しかしながら,前記1(3)イ認定のとおり,本件サービスに利用する機器のうち,中心となるベースステーションの所有権は名実ともに利用者にあり,各ベースステーション同士はそれぞれ別個独立のものであって一体の機器を成すものではない。その余の分配機やケーブル類,ハブ及びルーター等の機器ないし機材は,本件サービスに特有のものではなく,一般的に利用される汎用品である。

 そして,本件サービスにおいては,ソニーが作成したソフトウェアがそのまま用いられ,ベースステーションから専用モニターないしパソコンへの送信につき,債務者が独自に作成したソフトウェア等が利用されることはない。

 なお,ベースステーションは債務者の事務所に設置されているが,その所有権を有する利用者がこれを債務者に寄託しているものであり,利用者において債務者の事務所にあるアンテナ端子及びインターネット回線の利用を許されているのと同視することができる。そして,利用者自身が所有するベースステーションを他人に寄託して,直接占有する以外の場所において受信した放送を視聴することは,著作権法上禁止されていない。そもそも,通常の地上波放送に関しては,集合住宅の屋上部分にテレビアンテナを設置して複数の居住者のテレビ放送視聴の用に供したり,自己の占有部分以外の場所にテレビアンテナを設置することが行われており,債権者は受信用アンテナの設置場所ないし設置形態を理由に放送の視聴を禁じていないが(審尋の全趣旨),本件サービスはそれに近いものである。

 また,債務者が有償でベースステーションを設置する場所を賃借しているとしても,そのことをもってベースステーションによる送信の主体を債務者とみるのは困難である。

エ 債権者は,債務者においてベースステーションのポート番号の変更の作業が行われ,債務者がベースステーションを管理している旨主張する。

 しかしながら,ポート番号の設定作業は,同一のLAN回線上に複数のベースステーションが接続されているために,ポート番号が競合して機器の動作上不都合が生じるという事態を避けるためのものにすぎず(甲5〔41頁〕),ベースステーションの設定作業の1つにすぎないところ,ソニーに設定作業の代行を依頼した場合にも行われる作業であると推認できる。
 そうすると,債務者がベースステーションのポート番号の変更作業を行っているとしても,この作業のゆえにベースステーションを債務者が管理しているとはいい難い。

オ 債権者は,さらに,債務者がサポート体制を採って管理している旨主張する。

 確かに,前記1(3)オ認定のとおり,債務者は,本件サービスの案内をするホームページを作成及び公開して,利用希望者が本件サービスの内容等を容易に知ることができるようにした上,利用希望者が容易に本件サービスの申込みをすることができるよう,登録予約フォームを用意したり,利用希望者が本件サービスの利用が可能な高速インターネット接続環境を有しているかチェックできる他のウェブサイトを紹介し,サポートデスクと称する質問窓口を設けて,利用希望者の疑問に答えるなどしている。

 しかし,これは,本件サービスの利用者がベースステーションから自己の専用モニター又はパソコンへの送信を行う上での便宜を図っているにすぎず,利用者に対する付随的なサービスと解される。なお,債務者による継続的な管理行為も,利用者の管理行為を代行しているにすぎないものと評価することができる。

カ 債権者は,また,債務者が利用料の支払を受けており,それが放送波の送信の対価である旨主張する。

 しかしながら,債務者が利用者から徴収する利用料金も,最初に徴収する入会金が3万1500円,その後に徴収する利用料金が月額5040円であって,前記1(2)認定のソニーの設定サービスの利用料金や,前記1(4)認定のハウジングサービスの料金水準に比し,にわかに高額すぎるとはいい難く,このうちに放送の送信の対価が含まれているということは困難である。

キ そして,本件サービスにおいては,前記(3)イ判示のとおり,(i) それに使用される機器の中心をなし,そのままではインターネット回線に送信できない放送波を送信可能なデジタルデータにする役割を果たすベースステーションは名実ともに利用者が所有するものであり,その余は汎用品であり,本件サービスに特有のものではなく,特別なソフトウェアも使用していないこと,(ii) 1台のベースステーションから送信される放送データを受信できるのはそれに対応する1台の専用モニター又はパソコンにすぎず,1台のベースステーションから複数の専用モニター又はパソコンに放送データが送信されることは予定されていないこと,(iii) 特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステーションとは,全く無関係に稼働し,それぞれ独立しており,債務者が保管する複数のベースステーション全体が一体のシステムとして機能しているとは評価し難いものであること,(iv) 特定の利用者が所有する1台のベースステーションからは,当該利用者の選択した放送のみが,当該利用者の専用モニター又はパソコンのみに送信されるにすぎず,この点に債務者の関与はないこと,(v) 利用者によるベースステーションへのアクセスに特別な認証手順を要求するなどして,利用者による放送の視聴を管理することはしていないことに照らせば,債務者は,物理的にみても,実質的にみても,送信可能化行為の主体とはいい難い。

 利用者がソニー製のロケーションフリーテレビのNetAV機能を利用することが債権者の送信可能化権を侵害するものでない以上,ベースステーションの寄託を受け,これを設置保管してその利用を容易にしているにすぎない債務者の行為をもって,送信可能化権の侵害と評価することは困難である。

(7) 小括
 したがって,本件サービスにおける個々のベースステーションは,「自動公衆送信装置」に当たらず,債務者の行為は,著作権法2条1項9号の5に規定する送信可能化行為に当たらないというべきである。
 そうすると,債権者には,著作権法112条1項に基づき,債務者の本件放送の送信可能化を差し止める請求権がない。』

と判示しました。


 『利用者がソニー製のロケーションフリーテレビのNetAV機能を利用することが債権者の送信可能化権を侵害するものでない以上,ベースステーションの寄託を受け,これを設置保管してその利用を容易にしているにすぎない債務者の行為をもって,送信可能化権の侵害と評価することは困難である。』とする論理、直接侵害が成立しない以上、間接侵害も成立しないとする間接侵害の従属説の論理に似ているものと思いました。


追伸;<気になったニュース>
●『ソニーなど3社、地上デジタル放送特許管理で共同出資会社』
http://www.nikkei.co.jp/news/sangyo/20060808AT1D0806O08082006.html
●『特許出願取下時の審査請求料全額返還措置、8月9日から1年間』
http://news.braina.com/2006/0807/rule_20060807_001____.html