●『平成18(ヨ)22022 著作隣接権仮処分命令申立事件 東京地裁』

Nbenrishi2006-08-07

 今日は、『平成18(ヨ)22022 著作隣接権仮処分命令申立事件 著作権 民事仮処分 平成18年08月04日 東京地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060807104814.pdf)を紹介します。


 本件は、債権者は,債務者が運営する放送番組送信サービス「まねきTV」において,債務者が別紙放送目録記載の放送を送信可能化してはならない、ことを仮処分命令により申立てましたが、東京地裁により却下されました。


 状況の詳しくは、本判決文の「第2 事案の概要等」に記載されているように、

『1 争いのない事実等
(1) 当事者
 債権者は,放送事業者である。
 債務者は,コンピュータ及びコンピュータ付属機器の製造,販売,保守,管理及び修繕,放送設備の開発,設計,運用及びコンサルティング並びに電気通信事業法に基づく一般第二種電気通信事業及び特別第二種電気通信事業等を目的とする株式会社である(審尋の全趣旨)。

(2) 債権者の著作隣接権
 債権者は,別紙放送目録記載の放送(以下「本件放送」という。)につき,送信可能化権等の著作隣接権を有している。

(3) 債務者の行為
 債務者は,「まねきTV」という名称で,利用者がインターネット回線を通じてテレビ番組を視聴できるようにするサービス(以下「本件サービス」という。)を提供している。本件サービスは,ソニー株式会社(以下「ソニー」という。)製の商品名「ロケーションフリーテレビ」の構成機器であるベースステーションを用い,インターネット回線に常時接続する専用モニター又はパソコンを有する利用者が,インターネット回線を通じてテレビ番組を視聴できるものである(甲1の4)。

2 事案の概要
 本件は,債権者が債務者に対し,債務者が行う本件サービスが,本件放送に係る債権者の送信可能化権を侵害していると主張して,本件放送の送信可能化行為の差止めを求める事案である。
 なお,債権者のほか5社のテレビ放送会社(以下,まとめて「債権者ら」という。)も,本件と同様の仮処分命令申立てを行っている。

3 争点
(1) 本件サービスにおいて,債務者が本件放送の送信可能化行為を行っているか否か
(2) 保全の必要性  』

であります。


 そして、東京地裁は、争点(1)(債務者の送信可能化行為の有無)について、
『(1) 本件サービスの内容及び利用される機器
ア 本件サービスにおいては,ソニーが製造販売している「ロケーションフリーテレビ」が使用されている。前記1(1)認定のとおり,ロケーションフリーテレビ自体は,本件サービスとは無関係に,外出先や海外等においてもテレビ放送の視聴を可能にする社会的に見ても有用な装置であって,債権者も,その利用が著作隣接権侵害に当たるとは主張していない。

 ロケーションフリーテレビを利用するにあたっては,必ずしも利用者自身が必要なベースステーションの取付け及び設定作業を行うのではなく,前記1(2)認定のとおり,ソニーの設定サービスにおいて,かかる作業を代行してもらうこともできる。しかも,ソニーの設定サービスについては,海外在住者向けサポートを含め,債権者は,それが著作隣接権侵害に当たるとは主張していない。

イ 本件サービスにおいて放送データの送信を行う機器は,ベースステーションである。すなわち,ベースステーションは,テレビチューナーを内蔵し,アンテナ端子からの放送をデジタルデータ化し,対応する専用モニター又はパソコンからの指令に応じて,インターネット回線を通じて専用モニター又はパソコンへ自動的に送信する機能を有するものである。

 しかしながら,まず,前記アのとおり,債権者においても,ベースステーションの利用行為一般が著作隣接権侵害に当たるとは主張していない。

 ロケーションテレビは,前記1(3)ウ認定のとおり,本件サービスの利用者において購入するものであり,本件サービスの利用者は,いつ,どの販売店から,どの種類のロケーションフリーテレビを,いくらで購入するかにつき自由に意思決定をなし得る立場にあり,債務者による購入先の指定等はされていないし,債務者においてロケーションフリーテレビの購入の仲介ないしあっせんを行ってはいない。また,利用者はいったん債務者にベースステーションの保管及び管理を依頼した後も,前記1(3)エ認定のとおり,本件サービスの利用契約を解除して,ベースステーションの返還を受けることができる。なお,債務者は,前記1(3)オ(イ)認定のとおり,自らのホームページ中でロケーションフリーテレビの販売業者の紹介の項目を設けるなどしているが,これはあくまで利用者に対する最低限の便宜を図る域を出るものではなく,購入自体は申込者が単独で行ったものと評価せざるを得ない。

 そうすると,本件サービスにおいて,ベースステーションの所有権が債務者にあると解する余地は全くなく,利用者への所有権移転が仮装であるとみる余地もない。債権者においても,これを争っていない。

 また,前記1(3)イ認定のとおり,その余の機器類は,すべて汎用品であり,本件サービスに特有のものではない。

ウ さらに,前記1(3)イ認定のとおり,本件サービスにおいては,ソニーが作成したソフトウェアが用いられているのであって,ベースステーションから利用者の専用モニター又はパソコンへの送信につき,債務者が独自に作成したソフトウェア等が利用されている事情は,全く存しないものである。

エ そして,本件サービスにおいては,1台のベースステーションから送信される放送データを受信できるのはそれに対応する同一の利用者が所有する1台の専用モニター又はパソコンにすぎず,1台のベースステーションから複数の専用モニター又はパソコンに放送データが送信されることはない。したがって,特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステーションとは,全く無関係に稼働し,それぞれ独立している。

 また,本件サービスにおいては,あくまでも,特定の利用者が所有する1台のベースステーションからは,当該利用者の選択した放送のみが,当該利用者の専用モニター又はパソコンのみに送信されるにすぎず,この点に債務者の関与はない。

 さらに,債務者は,ベースステーションとは別個のサーバー等を設置してはおらず,また,利用者によるベースステーションへのアクセスに同サーバー等の認証手順を要求するなどして,利用者による視聴を管理することもしていない。すなわち,利用者はインターネット回線を通じて自己のベースステーションに直接アクセスし,必要な指令を送って,ベースステーションから選択した放送データのみの送信を受けているのであって,債務者が管理する複数のベースステーション全体が一体のシステムとして機能しているとは評価し難いものである。

オ 本件サービスは,ソニーの設定サービスと対比して,ベースステーションを債務者の事務所に設置保管して,分配機を経由してアンテナ端子から放送波が流入するようにし,かつ利用者がプロバイダーと契約しなくてもベースステーションからインターネット回線への接続が行われるようにする点において相違するが,その余は,利用者がソニーの設定サービスを利用してロケーションフリーテレビのNetAv機能を使用するのと同じであり,本件サービスを利用しなければ,本件放送を視聴できないというものではない。

(2) 本件サービスにおける債務者の役割
ア 本件サービスにおいて債務者が利用者に対して提供しているサービスの中核は,(i) ベースステーション等とアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステーションが稼働可能な状態に設定作業を施すこと,(ii) ベースステーションを債務者の事務所に設置保管して,放送を受信できるようにすることである。

イ しかし,このうち,まず前記(i)は,利用者がテレビ視聴を行う場所以外の場所(自宅等)に必要なアンテナ端子及びインターネット回線を準備してベースステーションを設置すれば,本件サービスを利用しなくても可能になることであり,利用者自身が必要なベースステーションの取付け及び設定作業を行うこともできるし,利用者が用意したアンテナ端子及びインターネット回線を利用し,ベースステーションとアンテナ端子等を接続してベースステーションが稼働可能な状態にすること自体は,ソニーの設定サービスにおいても行われることである。そして,ベースステーションの設置場所が東京都内のテレビ放送波の受信状態が良好である場所であれば,本件サービスを利用したのと同様の結果を得ることができる。

 しかも,ソニーの設定サービスについては,債権者はそれが著作隣接権を侵害するわけではない旨主張している。

ウ さらに,前記(ii)についても,ベースステーションの所有権は,名実ともに利用者にあり,それを債務者に寄託しているもの,すなわち,利用者において債務者の事務所にあるアンテナ端子及びインターネット回線の利用を許されているのと同視することができる。いわゆるハウジングサービスにおいても,利用者のサーバーを預かり,利用者のパソコン等とインターネット接続によりデータの送受信ができるようにされているが,債権者は,それが本件サービスとは異なるとして,送信可能化権を侵害する旨主張していない。

 そして,本件サービスにおいては,あくまでも,特定の利用者が所有する1台のベースステーションからは,当該利用者の選択した放送のみが,当該利用者の専用モニター又はパソコンのみに送信されるにすぎず,この点に債務者の関与はない。

(3) 送受信の主体
ア 以上によれば,本件サービスは,利用者の所有するベースステーションを債務者の事務所に設置保管して,放送波を受信するものではあるが,それに使用される機器の中心をなすベースステーションは,名実ともに利用者が所有するものであり,その余は汎用品であって,特別なソフトウェアも使用していないものであるから,放送波は,利用者が各自の所有するベースステーションによって受信しているものといわざるを得ない。

イ 本件サービスにおいては,
(i) それに使用される機器の中心をなし,そのままではインターネット回線に送信できない放送波を送信可能なデジタルデータにする役割を果たすベースステーションは,名実ともに利用者が所有するものであり,その余は汎用品であり,本件サービスに特有のものではなく,特別なソフトウェアも使用していないこと,
(ii) 1台のベースステーションから送信される放送データを受信できるのはそれに対応する1台の専用モニター又はパソコンにすぎず,1台のベースステーションから複数の専用モニター又はパソコンに放送データが送信されることは予定されていないこと,
(iii) 特定の利用者のベースステーションと他の利用者のベースステーションとは,全く無関係に稼働し,それぞれ独立しており,債務者が保管する複数のベースステーション全体が一体のシステムとして機能しているとは評価し難いものであること,
(iv) 特定の利用者が所有する1台のベースステーションからは,当該利用者の選択した放送のみが,当該利用者の専用モニター又はパソコンのみに送信されるにすぎず,この点に債務者の関与はないこと,
(v) 利用者によるベースステーションへのアクセスに特別な認証手順を要求するなどして,利用者による放送の視聴を管理することはしていないこと
に照らせば,ベースステーションにおいて放送波を受信してデジタル化された放送データを専用モニター又はパソコンに送信するのは,ベースステーションを所有する本件サービスの利用者であり,ベースステーションからの放送データを受信する者も,当該専用モニター又はパソコンを所有する本件サービスの利用者自身であるということができる。

 そうすると,本件サービスにおけるベースステーションがインターネット回線を通じて専用モニター又はパソコンに放送データを送信することを債務者の行為と評価することは困難というべきであって,かかる送信は,利用者自身が自己の専用モニター又はパソコンに対して行っているとみるのが相当である。

ウ 以上のとおり,本件サービスにおいては,利用者が,自己の所有するベースステーションによって,放送波を受信し,自己の専用モニター又はパソコンから視聴したい放送を選択し,当該放送を上記ベースステーションによってデジタルデータ化した上,上記専用モニター又はパソコンに対し,デジタルデータ化した放送データを送信しているものである。

 これを利用者の立場からみれば,ソニー製のロケーションフリーテレビを債務者に寄託することにより,その利用が容易になっているにすぎない。』

と判示しました(以上、本判決文より抜粋。尚、丸数字は表示できないため、(i)、(ii),・・・に変換しました。)。


 放送番組を受信および送信するベースステーションは利用者が所有するものであり,かつ、その受信番組は所有者以外に送信されることはない、こと等から債権者の有する送信可能化権を侵害していないと判断しました。


 本判決は、先日の格安DVD判決に続き東京地裁の高部眞規子裁判長が出されたもので、たとえ控訴されても支持されれば、デジタル放送時代の注目に値する画期的な判決の一つになるのでは、と思います。