●平成17(ワ)11663不正競争行為差止等請求「正露丸事件」(1)

Nbenrishi2006-07-31

 やっと、関東でも梅雨があけたようですね。日曜日はとても暑かったです。これから夏本番ですが、早くもバテ気味です。


 さて、 今日は、『平成17(ワ)11663 不正競争行為差止等請求事件 商標権 民事訴訟正露丸事件」平成18年07月27日 大阪地方裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060731093511.pdf)についてコメントします。なお、原告は、ラッパのマークの『正露丸』で有名な大幸薬品です。


 本件は、本判決文の事案の概要に記載されているように、
(1)胃腸薬(止瀉薬)やその包装に対し「正露丸」等を表示して製造販売している被告の行為が,不正競争防止法2条1項2号又は1号の不正競争に当たると主張して,同法3条に基づき,被告に対し,上記表示態様及び各表示の使用及びこれらを使用した胃腸薬(止瀉薬)の製造販売の差止め及び同表示等を付した包装の廃棄等を求め,

(2)かかる被告の行為が,原告の有する後記商標権を侵害すると主張して,商標法36条に基づき,上記各表示の使用及びこれらを使用した胃腸薬(止瀉薬)の製造販売の差止め及び同表示を付した包装の廃棄を求めるとともに,商標権侵害の不法行為に基づく損害賠償を請求した、事案です。


 まず、大阪地裁は、原告表示1(原告製品の包装箱の表示態様)が不正競争防止法2条1項1号,2号所定の「商品等表示」に該当するか否かについては、
『・・・
オ 原告は,原告表示1の使用を開始した昭和52年以降,本件訴え提起に至るまでの間,常磐薬品工業株式会社に対して上記(1)カ記載の要請をしたが,その他に「正露丸」の名称で本件医薬品を製造販売している他の業者に対しその製品の販売中止又は包装箱のデザインの変更を求めるなど,原告表示1類似の包装箱の使用を排除するための措置をとったことを認めるに足りる証拠はない。

(3) 上記(1)の認定事実によれば,なるほど,原告は,遅くとも昭和52年以降今日に至るまで30年以上の間,一貫して原告表示1を使用し,多額の費用を投じて原告製品の宣伝広告活動を行い,その結果,今日,本件医薬品市場において原告製品が占めるシェアは,売上金額ベースで見た場合,80%を超えることが認められる。したがって,原告製品の包装箱の表示態様は,そのシェアの大きさ等から,本件医薬品として店頭等で一番よく目にすることのできる包装として一般消費者にかなりの程度浸透していることは優に認めることができる。

 しかし,他方,上記(2)の認定事実によれば「正露丸」あるいは「SEIROGAN」,の名称で本件医薬品の製造販売を行っている業者は複数存在し,その包装箱の表示態様として,遅くとも昭和30年代ころから,主要な点,すなわち,(1)包装箱の形状,包装箱全体の地色,(2)正面の「正露丸」の文字,図形及び周縁の模様の表示,配色及び配置,(3)背面の「SEIROGAN」の文字,図形及び周縁の模様の表示,配色及び配置,(4)左右側面の表示,以上の点において原告表示1と共通する特徴を有する包装箱を用いており「ラッパの図柄」の表示を度外視すれば(原告が包装箱に表示された「大幸薬品株式会社」との表示を原告表示1から除外していることは前記のとおりである。)、原告のみがその包装箱の表示態様として,原告表示1あるいはこれに類似するものを独占的に使用してきたという事実はない。
 
 また,上記のとおり,売上金額ベースでみた原告製品のシェアは80%を超える圧倒的なものということができるものの,販売数量ベースで見た原告製品のシェアは,売上金額ベースで見た上記シェアをかなり下回り,市中に出回っている他社製品の数量は,本件医薬品全体の中で無視できない割合を占めているものと認められる。さらに,後記2のとおり「正露丸」「SEIROGAN」の表示は,それだけでは現在においてもなお原告製品を示す商品表示性を取得したものとはいえない。

 したがって,原告表示1は「正露丸」の製造販売に携わる取引業者はもとより,一般消費者においても「ラッパの図柄」を度外視した包装態様のみでは,これが原告の商品であることを認識することができるものとは認められず,商品の出所表示機能を有するものとはいえない。原告製品と他社製品との識別は,原告製品の包装箱に記載された原告の社名とラッパの図柄によって初めて可能になるということができ,事実,原告も,包装箱にラッパの図柄が記載されていることを強調するような宣伝広告活動を行っている。
 
 そうすると,原告表示1の中で自他商品識別機能を有するのは「ラッパの図柄(及び原告の社名)のみということになるところ,前記認定のとおり,被告表示1において「ラッパの図柄」に相当する部分は「瓢箪の図柄」にほかならず,この点において原告表示1と類似しないことが明らかであるから,被告製品が原告製品と誤認混同を生ずるおそれがあるとは認められない。

 原告は,被告が被告製品について他に独自の商品表示を採択する余地が十分あるにもかかわらず,あえて原告の著名表示と多数の点で近似する態様の表示を選定しているのであり,被告にすり寄り行為(接近行為)の意図が存することは明らかであると主張する。確かに,証拠(甲4ないし6の各1〜3,12ないし14の各1〜3,乙12)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の包装箱の表示態様である被告表示1は,従前のものと比べて原告表示1に漸次接近してきているかのように見えることが認められる。しかし,原告表示1は「ラッパの図柄」,(及び原告の社名)を除き,それ自体は特定の者の商品であることを識別させるに足りないものであるから,そのような自他商品識別機能を有しない表示態様の範囲内で原告表示1により接近した表示態様を用いたとしても,そのことが不正競争防止法2条1項1号,2号の不正競争に当たるとはいえない。

 また,証拠(乙15)によれば,被告が被告の製品の販売名を「イヅミ強力正露丸」から「イヅミ正露丸」に変更したのは,平成10年7月24日に被告の製品につき大阪府知事に代替新規申請を行った際にされた大阪府保健衛生部薬務課の指導によるものであることが認められることをも考慮すれば,被告が被告製品の包装箱の表示態様を原告表示1により近づけたとしても,このことが直ちに被告の不正競争の意図を推認させるものとはいえないというべきである。』

と判断しました。


 被告表示1が従前のものと比べて原告表示1に漸次接近してきているかのように見えることを認めたものの、原告表示1は「ラッパの図柄」(及び原告の社名)を除くと特定の者の商品であることを識別させるに足りないものであるから,そのような自他商品識別機能を有しない表示態様の範囲内で原告表示1により接近した表示態様を用いたとしても,そのことが不正競争防止法2条1項1号,2号の不正競争に当たるとはいえない、と判断した点が興味深いと思います。


 今日は、ここまでにします。明日に続きます。