●『平成17(ワ)8874等 不当利得返還請求事件 特許権 東京地裁』

  今日は、『平成17(ワ)8874等 不当利得返還請求事件 特許権 民事訴訟 平成18年07月26日 東京地方裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060726171844.pdf)についてコメントします。


 本件は、原告が不当利得の返還を請求した事件で、結局、本件特許発明は特許法29条2項に違反し無効なものであるので、同法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない、としてその請求は棄却されました。


 今回の判例で、興味を引いたのは、進歩性の有無の判断で、商業的成功が考慮されなかった点です。

 つまり、まず、原告は、商業的成功等について、

『(a) 本件特許発明が特許出願され,公表された結果,パワーMOSFET分野の開発動向は大きくその流れを変え,パワーMOSFETの主流は(001)面又は(010)面をチャンネルとする縦型MOSFETとなった。本件特許発明は,出願当時は注目されていなかった技術を飛躍的に進化させ,その後の主流技術とならしめるとともに,商業的成功を収めたパイオニア発明である。

(b) さらに,刊行物2が昭和42年に,刊行物1が昭和55年に公開された後,MOSFETの開発に各社がしのぎを削っていたにもかかわらず,本件特許出願時まで,IBMの技術者を含め,だれも本件特許発明を着想することができなかったということは,本件特許発明が刊行物1と刊行物2の組合せから容易に想到できるものではなく,進歩性を有することを裏付けている。』

と主張したようです。


 しかし、東京地裁は、本件の商業的成功について

『(カ) 原告は,商業的成功,長く要望されていた課題の点を主張する。しかしながら,本件特許発明は原告が商業的成功を主張するパワーMOSFETに限定されるものではないし,商業的成功は,仮にそのような事実が認められるとしても,必ずしも発明の困難性とは異なる要素によることがあること,当業者にとって容易に想到可能な発明が,本件に即していえば,プレーナ型MOSFETに注力していた等の理由で,関心が持たれず,実施もされなかったことが考えられることからすると,これらの二次的考慮要素を併せ考慮しても,前記結論を左右するものではないといわなければならない。

(4) まとめ
 以上によれば,本件特許発明は,刊行物1MOSFETに,刊行物2に表れた技術常識を組み合わせることにより,当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項に違反し無効なものであるから,原告は,同法104条の3第1項により,本件特許権を行使することができない。』
と判示しました。


 審査基準には、進歩性の判断の際に商業的成功は参酌するとあったと思いますが、商業的成功はやはり進歩性判断の副次的な要素であり、論理付けや動機付け等により客観的に進歩性ありと主張できないと、権利行使上苦しい(特許が無効になる可能性が高い)と思った方が良いようです。

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