●平成17(行ケ)10803審決取消請求事件「蔵型収納付き建物」知財高裁

 今日は、『平成17(行ケ)10803 審決取消請求事件 特許権 行政訴訟「蔵型収納付き建物」平成18年07月20日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060721165018.pdf)についてコメントします。


 本件は、無効審決の取消しを求めた訴訟で、原告の請求が棄却されました。
 
 原告がミサワホーム株式会社、被告が住友林業株式会社という住宅メーカ同士の争いで、問題になった特許発明の名称は「蔵型収納付き建物」でした。発明の名称からすると、損害賠償の侵害訴訟が提起されていた場合、損害賠償額の基準となる製品単価は、2,3千万くらいになるのでしょうか?


 さて、本件特許発明の特許請求の範囲は、本判決文によると、

「【請求項1】上下階に亘って複数の室を配置した建物において,天井高に差を設けた室を下階に配置し,前記天井高の差に応じて室間の床面に高低差を設けた室を上階に配置し,高床面室の床面から屋根裏までの空間を蔵型収納空間としたことを特徴とする蔵型収納付き建物。」

「【請求項2】低床面室に面して前記高床面室の出入口を設け,該出入口に至る階段を前記低床面室に設けたことを特徴とする請求項1に記載の蔵型収納付き建物。」

であります。とても基本特許のような感を受けます。


 そして、原告は、取消事由として、
『審決は,本件発明の要旨の認定,引用発明の認定,本件発明と引用発明との相違点の認定を誤り,本件発明の進歩性の判断を誤ったものである。
 本件発明の「天井高に差を設けた室を下階に配置し」との構成は,下階に配置された複数の室の床高が同一であることを当然の前提とし,これを必須要件とするものであるから,引用発明の下階に配置された「居間」,「アトリエ」(アトリエの床の高さが居間よりも低い位置に形成されている。)とは,全く異なるものである。
 審決は,本件発明の上記前提を無視し,単純に「複数の室」として,引用発明における「居間」,「アトリエ」と対比したものであって,上記相違を看過することにより,本件発明の進歩性を誤って否定したものである。・・・』
等と主張したようです。


 しかし、裁判所は、
『1 原告は,本件発明は下階に配置された複数の室の床高が同一であることを当然の前提とし,これを必須要件とするにもかかわらず,審決は,この点を無視したため,本件発明と引用発明との相違点を看過し,本件発明の進歩性を誤って否定した旨主張するので,検討する。

 (1) 特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁判所昭和62年(行ツ)第3号・平成3年3月8日第二小法廷判決,民集第45巻3号123頁参照)。

(2) これを本件についてみるに,本件特許の特許請求の範囲には,本件発明において下階に配置された室に関し,「上下階に亘って複数の室を配置した建物において,天井高に差を設けた室を下階に配置し」との記載が請求項1にあるにとどまり,下階に配置された複数の室の床高が同一であることを示す記載は見当たらず,上記床高が同一である場合に限られないことは,一義的に明確であり,また,誤記であることが一見して明らかであるとも認められないから,本件発明の下階に配置された複数の室の床高が同一であると限定して理解することはできない

 (なお,本件明細書(甲4)において,第2図,第4図の記載は,下階に配置された複数の室の床高が同一である場合を示していることがうかがわれるものの,発明の詳細な説明には,下階に配置された室について,段落【0010】,【0011】,【0028】,【0029】などの記載があるにとどまり,本件発明において,下階に配置された複数の室の床高が同一であることは当然の前提であり,必須要件であるという原告の主張を裏付ける記載は,見当たらない。)。

(3) そうすると,審決が,本件発明において下階に配置された複数の室の床高が同一であることを必須要件とするものとして,引用発明と対比しなかったことに誤りはなく,したがって,審決が本件発明と引用発明との相違点を看過することにより,本件発明の進歩性を誤って否定したとの原告の主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。』

と判示しました。


 『特許出願に係る発明の要旨の認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである』とする平成3年のリパーゼ最高裁判決通りの判断であり、また、請求の範囲に記載されていない事項は、主張できないことを判示しています。


追伸;<気になったニュース>
●『HP、米粒よりも小さい無線チップを開発──4メガビットのデータ保存が可能』
http://www.computerworld.jp/news/mw/44452.html
・・・日立のμチップとどちらが性能が上でしょうか?