●平成18(行ケ)10004 審決取消請求事件 意匠権 知財高裁(2)

 昨日に続いて、『平成18(行ケ)10004 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成18年07月18日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060718153917.pdf)について、コメントします。

 今日は、本件の残りの取消事由、物品の類否判断を誤り(取消事由3),意匠法50条3項で準用する特許法50条に規定する手続に違背し(取消事由4)について取り上げます。


 まず、知財高裁は、取消事由3(物品の類否判断の誤り)について、
『(1) 原告は,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」と引用意匠に係る「セーター」とは,物品において類似しておらず,これを類似するとした審決の判断は誤りであると主張する。

 上記2(2)のとおり,部分意匠における意匠とは,「物品の部分」の「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるもの」であり,また,部分意匠であっても,権利の及ぶ範囲は物品の部分でなく物品の全体であるから,部分意匠の物品の類否判断において,基準となるのは,物品の部分ではなく物品全体の用途及び機能であると解すべきである。

 なお,対比されるべき部分意匠の位置あるいは範囲が共通していない場合には,物品の部分の類否の問題も生ずるが,本件においては,引用意匠が,「セーター」に係る意匠のうち,本願部分意匠が意匠登録を受けようとする部分に相当する部分とされており,部分意匠の位置あるいは範囲を本願部分意匠と一致させているから,物品の部分の類否の問題を論ずる余地はない。

(2) そこで,本願部分意匠と引用意匠の物品の類否をみると,まず,用途の面において,本願部分意匠の意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」及び引用意匠の「セーター」は,いずれも「衣服」であることで共通している。

 また,機能の面をみると,本願部分意匠の「スポーツ用シャツ」は,「スポーツ用」としているものの,本件出願の願書及び添付図面(甲1,3)によれば,スポーツ専門着ではなく,例えば,日用,レジャー,スポーツ等に幅広く,汎用的に使用される上着であると認められ,一方,引用意匠の「セーター」は,普通のセーターであり,日用,レジャー等に幅広く使用される上着であると認められるから,両意匠は,機能において共通するところが多いというべきである。

 さらに,出願の経緯をみても,本願部分意匠は,上記第2の1のとおり,本件出願時において,意匠に係る物品を「上着」としていたところ,平成16年9月29日付け手続補正書(甲3)において「スポーツ用シャツ」に補正されたものであり,要旨変更には当たらないものとされたことからすれば,「スポーツ用シャツ」は,「上着」の範囲内の物品であると判断されたはずであるから,本願部分意匠に係る物品は,「上着」の一種としての「スポーツ用シャツ」であるということができる。

 そうすると,本願部分意匠及び引用意匠は,意匠に係る物品において類似していると認めるのが相当である。

(3) 原告は,物品の類否判断として両物品間に混同を生じさせるおそれがあるか否かという観点からもこれを決すべきものであるならば,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」は,スポーツ品売り場で販売されるものであって,引用意匠に係る一般のセーター売り場で販売されるものではなく,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」と引用意匠に係る「セーター」とが一般需要者において混同を生じさせるおそれはない旨主張する。

 しかしながら,前記2(2)のとおり,部分意匠の類否判断においても,全体的観察を中心に,これに部分的観察を加えて,総合的な観察に基づき,両意匠が一般需要者に対して異なる美感を与えるか否かによって類否を決するのが相当である。

 また,意匠は,「物品」の外観に関するものであるから,物品を離れての意匠はあり得ないところであって,「物品」とその「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」とは不可分一体の関係にあるものと解すべきである。そうすると,上記のとおり,本願部分意匠と引用意匠との混同といっても,物品を美感の観点から観察するものであって,本願部分意匠と引用意匠の物品の類否は,本願部分意匠に係る物品である「スポーツ用シャツ」がスポーツ品売り場で販売され,引用意匠に係る物品が一般のセーター売り場で販売されるなどといった具体的な事情により左右されるものではない。

 また,原告は,一般需要者が,編み物であるセーターと布地のシャツとを誤認混同することはなく,両者間で混同の生ずるおそれはない旨主張する。

 確かに,甲8文献によれば,一般に,「セーター」は,「男女ともに用いる編み物の上着の総称」とされ,一方,「シャツ」は,「綿や麻などのクレープや,木綿,絹,麻,化繊,毛のメリヤス地」とされており,素材が異なるものと認められるが,意匠の類否判断においては,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合についての美感(視覚を通じての美感)の類否が問題となるのであり,素材が異なることによって,直ちに視覚を通じての美感に影響を与えるとは考えられないし,本件出願の願書及び添付図面(甲1,3)においても,素材が本願部分意匠の上記構成要素に反映されていることをうかがわせる記載はない。

(4) そうすると,本願部分意匠及び引用意匠は,意匠に係る物品において類似していると認めるのが相当であるから,原告主張の取消事由3は理由がない。』 (以上、本判決文より抜粋。)

と判示しました。

 部分意匠と全体意匠との物品の類否の判断の仕方が、具体的にわかり、参考になります。



 次に、知財高裁は、取消事由4(意匠法50条3項で準用する特許法50条違反の手続違背)について、
『原告は,審決が,差異点(ロ)の点について,当該分野において袖口等も含めて同じ格子模様を施すことは出願前ありふれたものであることの例示として挙げた甲6文献について,同文献が「スポーツ用シャツ」の分野において,袖口等も含めて同じ格子模様を施すことは,出願前ありふれたものとはいえず,そうである以上,公知意匠として審判段階で新たな拒絶の理由を通知しなければならなかったのに,それをしていないから,意匠法50条3項で準用する特許法50条の規定に違反している旨主張する。

 しかしながら,甲6文献は,原告が主張するとおり,審決が,差異点(ロ)の点について,当該分野において袖口等も含めて同じ格子模様を施すことは出願前ありふれたものであることの例示として挙げたものであって,このように周知事実であることの例示として挙げた証拠が,仮に,周知事実を証明するに足りない場合であっても,そのことによって,直ちに,当該証拠が本願部分意匠と対比すべき公知意匠となるわけではないから,原告の主張は,前提において既に誤りであり,採用の限りでない。

5 以上によれば,本願部分意匠は,引用意匠と対比し,差異点及びその効果を考慮しても全体として類似しており,また,意匠に係る物品においても類似しているから,本願部分意匠は,意匠法3条1項3号に該当し,同条柱書の規定により意匠登録を受けることができないとした審決の判断に誤りはないというべきであり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。

 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。』 (以上、本判決文より抜粋。)

と判示しました。


 取消事由4で争われた証拠は、周知事実を証明するためのいわゆる補強的証拠に過ぎない、ということのようです。


 特許法概説の審決取消訴訟のあたりを久しぶりに読んでみたくなりました。