●平成17(ワ)10821 特許権侵害差止請求事件「台車固定装置事件」

今日は、『平成17(ワ)10821 特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟「台車固定装置事件」平成18年07月20日 大阪地方裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060720161746.pdf)についてコメントします。

 本件は、被告らが保守管理している立体駐車場装置について、原告が有する特許権侵害に基づき実施料相当額の不当利得の返還と、本件台車固定装置の点検,修理及び部品の交換の差止めを求めた事案で、大阪地裁は以下の様に判断して、原告の請求を棄却しました。

 
 興味を引いたのは、本件特許発明に係る台車固定装置の点検,修理が特許発明の『使用』該当するか否かおよびその点検,修理が消尽論の適用があるか否か等の点です。


 つまり、大阪地裁は、

『1 本件特許発明は台車固定装置の発明であり(甲3),物の発明である。物の発明における「実施」とは,「その物の生産,使用,譲渡等…若しくは輸入又は譲渡等の申出…をする行為」をいう(特許法2条3項1号)。したがって,被告らが本件特許発明を実施しているといえるのは,被告らの行為が,「生産」,「使用」,「譲渡等」,「輸入又は譲渡等の申出」のいずれかに該当する場合である。

2 この点,原告は,本件台車固定装置の点検,修理及び部品の交換は本件台車固定装置の「使用」に該当すると主張する。

 「使用」とは,発明の目的を達するような方法で当該発明に係る物を用いることをいうものと解するべきである。

 証拠(甲3【0001】,【0008】)によれば,本件特許発明の目的は,「例えば立体駐車装置において自動車を戴置させる台車をリフター中央および定位置で固定する台車固定装置に関するもの」であって,「台車を正確,かつ,確実に停止固定して台車の停止精度を向上することを目的とする」ものであることが認められる。

 この目的は,自動車等を戴置した台車をリフター中央及び定位置に移動させて,台車固定装置を作動させて固定するという方法で達することができるものであって,単に,台車固定装置の点検,修理及び部品の交換をしただけでは,この目的を達することはできない。

 したがって,単に台車固定装置の点検,修理及び部品の交換をするだけの行為は,発明の目的を達するような方法で物を用いることには当たらないので,本件台車固定装置の「使用」に該当しない。

3 しかも,別件和解成立以前に設置された本件各駐車場については,被告日本コンベヤは,本件技術情報基本契約に基づき,原告の承諾を得て本件台車固定装置を用いた駐車場設備の設置工事をし,具体的には,被告日本コンベヤは,本件技術情報基本契約に基づき原告の設計図等の提供を受け,原告が当時製作していた本件台車固定装置等を購入し,これを立体駐車場の装置に設置して納品していたことは,原告と被告日本コンベヤ及び被告マリン興産との間では争いがなく,原告と被告三菱電機ビルテクノサービスについても証拠(甲1,2,乙3)により認められる。

 特許権者又は実施権者が特許製品を譲渡した場合には,当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し,もはや特許権の効力は,当該特許製品を使用し,譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきであるところ(最高裁判所平成9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁),上記のとおり,被告日本コンベヤは,本件台車固定装置について後に特許権者となる原告から適法に譲渡を受けたのであるから,当該本件台車固定装置については,後に設定登録がされる本件特許権はその目的を達成したものとして消尽しているものと解すべきであり,その後,被告らがこれを「使用」したとしても本件特許権の侵害とはならない。原告の主張は,この点でも失当である。

4 もっとも,当該特許製品が製品として本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(第1類型),当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(第2類型)には,特許権は消尽せず,特許権者は,当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと解する余地もあるが,そのように解するとしても,原告の主張する「点検,修理及び部品の交換」が上記のいずれかの類型に該当することの主張立証はない。

 原告は,部品の取り替えはすでに何度か行われている,部品には当然耐用年数があり,駐車場では安全性や故障がないことが要求されるので,部品の取り替えが必要なのは当然のことと考えられる,ソノレイド(円筒コイル)は消耗品で取り替えの必要があり,台車に使用しているゴムは経年変化による劣化が考えられ定期的に取り替える必要がある,更に台車衝突時の衝撃と慣性を受け止めるので,芯がずれると破損や変形のおそれがあり,常に綿密な保守,点検を必要とする,本件各駐車場以外の原告が保守管理している駐車場の本件台車固定装置については故障が生じているのであり(甲6の1ないし11),本件台車固定装置には消耗品が使われているから,部品の取り替えが必要であることはいうまでもないと主張する。

 しかしながら,上記のいずれかの取り替えが前述の特許権に基づく権利行使が許される余地のあるいずれかの類型にどういう理由で該当するのかという点についても,そのような取り替えを被告らが実際に本件各駐車場で行ったという点についても,具体的な主張立証はない。

 しかも,被告三菱ビルテクノサービスは,保守点検の内容には消耗部品の交換が含まれ,消耗部品はヒューズ,各表示灯用電球,油脂類の補給である,消耗部品以外の部品の交換の必要が生じた場合は,別途の契約を締結することになっている,現在まで本件台車固定装置についてはトラブルがなく部品の交換作業は行われていないと主張し,被告日本コンベヤも,本件各駐車場について現在まで本件台車固定装置を交換したことはないとして,部品の交換を否認しているのに対し,原告は何ら反論も立証もしていない。

 したがって,原告の主張する「点検,修理及び部品の交換」について,本件特許権は消尽せずこれに基づく権利行使をすることが許される場合に該当するとは認められない。

5 結論
 よって,原告の本件各請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文
のとおり判決する。』  (以上、本判決文より抜粋。)

と判示しました。


 判示内容からすると、本事件では、原告による被告の実施行為の主張立証も、不十分だったようです。被告が「点検,修理及び部品の交換」行為をしていたことを原告が主張立証できていれば、もしかすると消尽論が適用されずに、侵害となっていたかもしれません。


 なお、機械である以上、寿命あるいは耐用年数があり、機械の「点検,修理及び部品の交換」という行為は必須であり、かかる行為が侵害になるか否かという争いは製造業者とメンテ業者の間では重要ですが、本件特許権に係る駐車場装置のように第三者が使用する社会的な装置の場合、シンドラー社のエレベータの事件ではありませんが、製造業者およびメンテ業者ともに、まず第一に、第三者の安全を確保した上で議論お願いしたいものです。


追伸;<気になったニュース>
●『タイムスタンプ 知財防衛に新手法登場 』
http://www.business-i.jp/news/for-page/chizai/200607120010o.nwc
・・・先使用権(特許法第79条)を確保するには、他人の特許出願より前に発明をしたことだけでなく、発明の実施である事業あるいは事業の準備していることを客観的に立証する必要があります。
●『紫外線 化粧品会社がしのぎ削る 』
http://www.business-i.jp/news/for-page/chizai/200607190001o.nwc
●『【続報】ソニーAVCHD対応ビデオ・カメラ,H.264コーデックLSIの消費電力は約500mW』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060719/119252/?ST=d-ce
●『HDTVビデオ・カメラ規格「AVCHD」のライセンスが始まる』
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060713/119131/
・・・AVCHDとは、H.264/AVC(MPEG4part10)符号化技術を用いHD(高精彩)という意だったんですね。