●『平成18(行ケ)10023 審決取消請求事件 意匠権 知財高裁』

 『平成18(行ケ)10023 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成18年07月13日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060713151533.pdf)について、コメントします。


 本件は、意匠法3条1項3号による拒絶審決の取消しを求めた訴訟で、その請求が棄却された事件です。意匠法3条1項3号の判断主体を、平成18年法改正後の第24条2項に「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と明記されたように、需要者を判断主体とした点等が参考になります。


 つまり、裁判所は、
『1 取消事由1(差異点の看過)について
(1) 審決が,本願意匠と引用意匠との具体的構成態様につき,「後係合部の側面視につき,後端部を上方側に折り返して倒『U』字状とし,さらに上方に屈曲した後,頂部で折り返して斜め前下方に屈曲形成したものである点」(共通点(い))において共通し,「(イ)後係合部の屈曲形状につき,本願意匠は,後端部のU字状の折り返しの後,斜め上方に屈曲し,頂部でヘアピン状に屈曲し,さらに斜め前下方に屈曲して先端部を跳ね上がり状に形成したものであるのに対して,引用意匠は,U字状の折り返しの後,ほぼ垂直状に上方へ屈曲し,頂部で逆U字状に屈曲し,さらに斜め前下方に屈曲して先端部を水滴状に屈曲形成したものである点」(差異点(イ))において相違すると認定したのに対し,原告は,共通点(い)とされた部分はすべて差異点として認定されるべきである旨主張する。

 しかし,意匠法3条1項3号に係る意匠の類否判断は,物品について一般需要者の立場からみた美感の類否を問題とするものであって,公知意匠からの創作容易性の問題ではないところ(最高裁昭和49年3月19日第三小法廷判決・民集28巻2号308頁参照),一般需要者である取引者・需要者は,本願意匠に係る物品を購入したり,使用したりする際,まず,物品を全体的に観察するのが通常であることからすると,本願意匠が公知意匠と類似するか否かの判断をするに当たっては,全体的観察を中心に,これに部分的観察を加えて,総合的な観察に基づき,両意匠が看者に対して異なる美感を与えるか否かによって類否を決すべきものである

 本件についてみると,審決は,本願意匠と引用意匠とを対比し,後係合部の形状に関して,基本的構成態様において「略三角形状の後係合部を形成している」と概括的な把握をした上で,その「略三角形状の後係合部」の具体的構成態様につき,一方で,「後端部を上方側に折り返して倒『U』字状とし,さらに上方に屈曲した後,頂部で折り返して斜め前下方に屈曲形成したものである点」(共通点(い))で共通するとともに,他方で,「本願意匠は,後端部のU字状の折り返しの後,斜め上方に屈曲し,頂部でヘアピン状に屈曲し,さらに斜め前下方に屈曲して先端部を跳ね上がり状に形成したものであるのに対して,引用意匠は,U字状の折り返しの後,ほぼ垂直状に上方へ屈曲し,頂部で逆U字状に屈曲し,さらに斜め前下方に屈曲して先端部を水滴状に屈曲形成したものである点」(差異点(イ))で差異があると認定しているのであって,全体的観察と部分的観察を併せた総合的な観察に基づく認定をしているものであり,その認定に不合理なところは見当たらない。

(2)原告は,審決は,両意匠が屈曲形状を共通するとの認定の下に,本願意匠から共通点(い)を分離し,差異点(イ)に矮小化したものである旨主張する。

 原告の主張は,差異点(イ)に係る後係合部の形状を一体としてとらえ,共通点(い)と差異点(イ)とを分離したことを論難するものであるが,上記のとおり,意匠法3条1項3号に係る意匠の類否判断においては,引用意匠からの創作容易性の問題ではなく,物品についての美感の問題である以上,美感の類否検討の前提として,引用意匠と共通する屈曲形状についての評価を無視し,差異点(イ)に係る後係合部の形状がすべてであるとみるわけにはいかないことは,明らかである。

 したがって,審決の上記認定の誤りをいう原告の主張は,採用できない。
(3) 以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由がない。

2 取消事由2(類否判断の誤り)について
(1) 共通点の評価について
 原告は,本願意匠と引用意匠との基本的構成態様について,この種の横葺屋根板材が機能を発揮するためには,必然的に,板面部,前係合部,後係合部の存在することが求められ,また,連結する屋根板との関係で,前係合部(軒側係合部)の下片に係合用形態を施し,後係合部(棟側係合部)の上片に前記前係合部の下片の係合用形態に関連付けられる係合用形態を施さざるを得ないとし,基本的構成態様が看者に共通する印象を与えたり,その共通点が類否判断を左右したりするものでもない旨主張する。

 しかし,まず,意匠法は,物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものを「意匠」として保護するものであり,このような意匠の美感の側面と,意匠に係る物品の機能発揮のための必然性という技術的な側面とは直接関係がない。そして,原告主張のとおり,板面部,前係合部,後係合部を有することが,この種の横葺屋根板材が機能を発揮するために必然の技術的事項であるとしても,これを意匠の面からみれば,板面部,前係合部,後係合部のそれぞれに様々な意匠的な工夫を加えることができるのであり,その結果,意匠的価値を生ずることも十分にあり得るものであって,技術的な側面のゆえに,美感の保護に欠けることになるわけでもない。

 もっとも,ある種物品に必然的な形態であるため,ありふれたものとなっている場合には,看者の注意を引き付ける度合いは弱くなるのが通常であるから,一般論として,意匠の構成態様によっては,類否判断を左右しない場合もあり得るところである。

 しかし,本件において,本願意匠及び引用意匠の基本的構成態様である「全体が,横長の薄板体で,平坦な板面部の正面側端部には,下方に屈曲して側面視略『コ』字状の前係合部を形成し,背面側端部には,略三角形状の後係合部を形成した」形状は,意匠全体を大づかみに把握した構成態様であるところ,この構成態様が意匠全体の支配的な部分を占めており,しかも,全体としてまとまった意匠を形成し,看者に視覚を通じて一つの美感を与えている一方,大づかみの把握において,上記美感を左右するような差異は見当たらない。

 したがって,この種の横葺屋根板材が機能を発揮するための必然性等を理由に,共通する基本的構成態様が看者に共通する印象を与えるものではないとする原告の主張は,失当というほかない。

・・・

(3) 全体的観察について
 ア原告は,本願意匠に係る物品のような横葺屋根板材の需要者は,施工された屋根面全域を漠然と俯瞰するような一般消費者ではなく,屋根業界を含む建築業界の専門家であるとし,このような専門家は,屋根全体の外観として看取される板面部,前係合部の垂直状部分等はもとより,当該製品の機能を左右する前後係合部の係合形態を強く注目し,その形態,更には当該形態により発揮される機能に着目して採否を決するから,前後係合部における両意匠の差異は顕著であり,決して微弱なものではない旨主張する。

 しかし,前記のとおり,意匠法3条1項3号に係る意匠の類否判断の主体は,一般需要者すなわち取引者・需要者であって,建築業界(屋根業界)の専門家に限られるものではない。

 また,原告主張のとおり,屋根業界を含む建築業界の専門家であっても,最終的な消費者の美感を無視することはないのであって,そのような専門家の視点によっても,意匠全体の支配的な部分を占めており,しかも,全体としてまとまった意匠を形成し,看者に視覚を通じて一つの美感を与えている基本的構成態様を軽視することはできないものというべきであり,一般消費者であれば見逃すような細部の差異についてもより正確かつ子細に観察するというところに違いがあるにすぎないのであって,専門家が看者であるからといって,直ちに,前後係合部における両意匠の差異が顕著なものとなるということはできない。

イ また,原告は,本願意匠と引用意匠の差異が明白であるとするが,差異があり,区別可能であれば直ちに非類似であるとはいえない。公知意匠との対比において部分的な差異があっても,新たな創作的工夫により独自の美感を与える要素を付加するものといえなければ,全体より生ずる美感ないし意匠的効果の面において異なるところがないとみるほかなく,公知意匠の範囲内にあると解せられるのであり,その際,本願意匠と引用意匠とが区別可能であることとは,直接関係がないものというべきである。要するに,意匠の類否判断は,取引者・需要者が区別できるかどうかではなく,物品の美観の観点から二つの意匠について混同が生ずるおそれがあるといえるほどに似ているかどうかによるのである。本件においては,基本的構成態様を,略三角形状とし,具体的態様を,段差部後端部を上方に折り返して倒「U」字状とし,さらに斜め前上方に屈曲した後,斜め前下方に屈曲形成したという本願意匠及び公知意匠に共通する基本的構成態様の範囲内において,原告主張の差異は,子細に観察すれば看取でき,専門家であればそのような細部の差異も見逃さないというだけのことであって,これを一見して明確に区別される非類似意匠であるとする原告の主張は,誤りである。

ウ 原告は,被告が,本願意匠と引用意匠の様々な差異を,乙号証に示される断片的・部分的な形態を用いて吸収し,その結果,本願意匠と引用意匠は類似すると結論付けていると論難し,本願意匠と引用意匠とは,各所において様々な差異を有しており,それらの総和により全体として別異な意匠感を生じさせる旨主張する。

 しかし,被告の主張による限り,本願意匠に係る物品のような屋根板の後係合部について多種多様の意匠があり,本願意匠及び引用意匠の差異点に創作的工夫があるとも,独自の美感を与える要素があるともいえないことを,周知公報をもって示しているにすぎないものであって,本願意匠との対比の問題で提出されているわけではないから,原告の主張は,失当というほかない。

 なお,原告は,上記主張について,引用意匠と類似する後係合部を有する意匠登録第1035140号の類似1号の意匠(甲13)が,引用意匠の公開(昭和63年9月26日)後の登録出願(平成6年8月23日)であるにもかかわらず設定登録されていること,意匠登録第968609号の「布団用除湿具」の意匠権侵害を理由とする損害賠償請求訴訟(東京地裁平成14年(ワ)第17577号事件)において,当該登録意匠(甲14)と対象製品の意匠が類似しないとされたことからも裏付けられると主張するが,本件とは事案を異にするものであって,採用の限りでない。

(4) 以上によれば,本願意匠と引用意匠は,総合的に観察すると,一般需要者である取引者・需要者において混同が生ずるおそれがあるといえるほどに似ているものであって,看者に対して異なる美感を与えるものではなく,全体として類似するといわざるを得ないから,原告主張の取消事由2は理由がない。

3 以上のとおり,本願意匠と引用意匠は,差異点を考慮しても全体として類似しており,また,意匠に係る物品において共通しているから,本願意匠は,意匠法3条1項3号に該当し,同項柱書の規定により意匠登録を受けることができないとした審決の判断に誤りはないというべきであり,原告主張の取消事由は理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。

 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。』(以上、上記判決文より抜粋)

と判示しました。


 意匠は担当していないので正直素人ですが、判決文の裁判所の判断や、判決文の原告の主張や、被告の反論を読んでいると、意匠登録出願における意見書や審判請求書の理由の欄における引用意匠との差異点のとらえ方や、主張のし方等が参考になり、勉強になります。


 また、平成18年法改正により、意匠権の存続期間が20年に伸びることや、模倣品対策の面という点でも、今後、特許権と共に意匠権を上手く取得して活用していくことが重要となるので、かかる点でも、意匠の判決文等を読んで意匠の考え方等を勉強していきたいと思います。


追伸;<気になったニュース>
●『IntermecとSymbolの特許訴訟が決着』
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http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060719-00000005-inet-sci
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http://it.nikkei.co.jp/digital/news/index.aspx?n=MMITea000019072006
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http://it.nikkei.co.jp/mobile/news/index.aspx?n=MMITfa000019072006