●『平成18(行ケ)10067 審決取消請求事件 意匠権 知財高裁』

Nbenrishi2006-07-17

 『平成18(行ケ)10067 審決取消請求事件 意匠権 行政訴訟 平成18年07月12日 知的財産高等裁判所』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060707155518.pdf)について、コメントします。


 本件は、意匠登録出願の拒絶審決の取消しを求めた事案で、審査基準に反する判断等に違法性があるか否か争われ、その請求が棄却された事件です。


 つまり、原告は、共通点についての判断の誤り(取消事由1)として、
『(ア) 審決は,共通点(A)について,「両意匠の骨格的な態様であって,形態全体を支配する要素に係るものであるから,両意匠の類否判断に影響を与える」(審決2頁第4段落)と判断したが,同判断は意匠審査基準に反し,誤りである。

 意匠の類否判断に与える影響は,一般的に,「(1)見えやすい部分は,相対的に影響が大きい。(2)ありふれた形態の部分は,相対的に影響が小さい。……」(意匠審査基準(甲1)27頁)とされている。そうすると,側溝用ブロックでは,共通点(A)のような「全体を,横長で断面略縦長長方形状の角柱状体の内部中央に,長手方向に貫通する大きな排水路を設けた管体」であることは,側溝用ブロックとしては,ごくありふれた形態であって,類否判断への影響は微細であると判断されるべきである。

(イ) また,審決は,共通点(B)ないし(E)について,「両意匠の形態を特徴づける要素に係り,そうして,これらの共通するとした態様は,相まって形態上のまとまりを形成し,かつ,形態全体の大部分を占めるものであるから,看者に共通する印象を与えるところであり,両意匠の類否判断を左右する要素と認められる」(審決2頁第4段落)ことを理由として,類否判断に与える影響は大きいと判断したが,同判断も上記意匠審査基準に反し,誤りである。

 側溝用ブロックとして,両意匠の共通点(B)ないし(E)は両意匠に見られる特徴的な形態ではない。他の意匠公報である甲2ないし甲5は,共通点(B)ないし(E)の構成を備え,同じく甲6ないし甲10は,共通点(B)ないし(E)の構成のうち2つ以上の構成を有し,このことから,共通点(B)ないし(E)は側溝用ブロックとしてごくありふれた形態であることが明らかである。したがって,共通点(B)ないし(E)は,側溝用ブロックとして,ごくありふれた形態であって,類否判断への影響は微細であるというべきである。

(ウ) 以上,要するに,共通点(A)の構成は側溝用ブロックとして基本的態様であり,(B)の構成は雨水のみを管内に浸透させるため,細幅のスリットは必要不可欠の形態であり,(C)の構成は通水の少ない時にも流速の落ちないようにするため必要不可欠な形態であり,(D)の構成はブロック同士の密接度を高めるため必要不可欠な形態であり,(E)の構成はブロック自体を軽量化するため必要不可欠な形態であるのであるから,これらの構成が類否判断に与える影響が大きいとした審決の判断は,上記意匠審査基準に反し,誤りというべきである。』
と主張しました。


 これに対し、被告である特許庁は、共通点についての判断の誤り(取消事由1)に対し、
『ア 原告が主張するように両意匠の骨格的な態様に係る共通点(A)がありふれた形態であったとしても,同共通点は意匠の類否判断に影響を与えるものである。すなわち,意匠の類否判断は,物品の外観の全体にわたって,その形態を観察する全体的,視覚的な判断であるから,その共通する骨格的な態様が周知又は公知の態様であるとしても,他に意匠上格別評価すべき部分がない場合は,意匠全体に占める割合が大きく,意匠的なまとまりを成し,看者の注意をひくところが類否判断の要部となるものであり,本件の場合のように差異点に格別見るべき点がないときは,共通する骨格的な態様が両意匠の類否判断の要部となり得るものである。

 また,原告は,審決の判断は意匠審査基準に反すると主張するが,意匠審査基準は,「意匠審査における意匠法の統一的な条文解釈及びその運用を図るためのもの」であって,法規としての性質を有しない一種のガイドラインないし指針にすぎない上,意匠審査基準は,なお書きで,「それらの共通点及び差異点が意匠の類否判断に与える影響は,個別の意匠ごとに変化するものである」こと,そして,「一般的には,(2)ありふれた形態の部分は,相対的に影響が小さい」とし,原告が主張するように「ありふれた形態は,類否判断への影響は微細である」と判断すべき旨を規定したものでないから,原告の主張は失当である。

イ 共通点(B)ないし(E)は,共通点(A)に比べれば,類否判断に与える影響は,さほど大きいものとはいえないが,共通点(A)とともに,その態様は両意匠に共通する印象を与える要素となり得るものである。そして,共通点(B)ないし(E)が,本願意匠の出願前にありふれた形態であったとしても,骨格的な態様を成す共通点(A)とあいまって,形態上のまとまりを形成し,かつ,形態全体の大部分を占めるものであるから,その類否判断を左右する要素となり得るものである。

ウ 審決は,本願意匠と引用意匠を比較検討するに当たり,共通点として(A)ないし(E)を認定するとともに,差異点として(ア)ないし(ウ)を挙げ,共通点と差異点の比較考量を通して両意匠の類否判断を行っているのであり,原告が挙げる甲2ないし甲10の各意匠中に共通点(A)ないし(E)が存在するとしても,それ以外の形態についての評価判断については未検討のままであり,本件と同様の共通点が存在するからといって,そのことから直ちに,本件における判断と一致しなければならないというものではない。』

と反論しました。


 そして、裁判所は、共通点についての判断の誤り(取消事由1)について、

『(1) 原告は,意匠の類否判断に与える影響は,一般的に,「(1)見えやすい部分は,相対的に影響が大きい。(2)ありふれた形態の部分は,相対的に影響が小さい。……」(意匠審査基準(甲1)27頁)とされているから,側溝用ブロックでは,共通点(A)のような「全体を,横長で断面略縦長長方形状の角柱状体の内部中央に,長手方向に貫通する大きな排水路を設けた管体」であることは,側溝用ブロックとしては,ごくありふれた形態であって,類否判断への影響は微細であると判断されるべきであり,また,共通点(B)ないし(E)は両意匠に見られる特徴的な形態ではなく,側溝用ブロックとしてごくありふれた形態であるから,共通点(A)について「両意匠の骨格的な態様であって,形態全体を支配する要素に係るものであるから,両意匠の類否判断に影響を与える」(審決2頁第4段落)とし,共通点(B)ないし(E)について,「両意匠の形態を特徴づける要素に係り,そうして,これらの共通するとした態様は,相まって形態上のまとまりを形成し,かつ,形態全体の大部分を占めるものであるから,看者に共通する印象を与えるところであり,両意匠の類否判断を左右する要素と認められる」(審決2頁第4段落)ことを理由として,類否判断に与える影響は大きいとした審決の判断は,誤りであると主張する。

 確かに,本願意匠と引用意匠(ただし,「本願意匠と同じ向きに合わせ」(審決1頁最終段落)たもの。以下同じ。)との共通点(A)のような「全体を,横長で断面略縦長長方形状の角柱状体の内部中央に,長手方向に貫通する大きな排水路を設けた管体」である構成態様は,原告が主張するように,物品「側溝用ブロック」においてありふれた態様というべきであり,また,証拠(甲2〜11)によれば,共通点(B)ないし(E)の各構成態様は,いずれも本願出願前から公知であることが認められる。

 しかし,一般に,意匠は全体として機能的に構成されていることが多く,公知の部分が意匠の支配的部分を占め,これが全体的なまとまりとして視覚を通じて美感を起こさせることがあるから,公知の部分であっても,当該構成部分が意匠全体から見て看者の注意をひく場合には,その部分が意匠の要部になり得るものというべきである。

 これを本件についてみると,本願意匠と引用意匠とを全体的に観察した場合,上記共通点に係る構成は,意匠全体の支配的部分を占め,意匠的まとまりを形成するものと認められる。そして,本願意匠の各部の形態は,差異点の構成態様につき後述するように格別のものと評価することはできないから,本願意匠と引用意匠との前記共通点について,共通点(A)につき「両意匠の骨格的な態様であって,形態全体を支配する要素に係るものであるから,両意匠の類否判断に影響を与える」(審決2頁第4段落)とし,共通点(B)ないし(E)について「両意匠の形態を特徴づける要素に係り,そうして,これらの共通するとした態様は,相まって形態上のまとまりを形成し,かつ,形態全体の大部分を占めるものであるから,看者に共通する印象を与えるところであり,両意匠の類否判断を左右する要素と認められる」(同)とした上,「意匠全体として,これらの共通点が両意匠の類否判断に及ぼす影響は大きいものといわざるを得ない」(同頁第5段落)とした審決の判断は相当であり,原告主張の誤りはない。

(2) 原告は,審決の上記判断は意匠審査基準(甲1)に反するとも主張する。
 しかし,意匠審査基準は,意匠要件の審査に当たる審査官にとって基本的な考え方を示すものであり,出願人にとっては出願管理等の指標として広く利用されているものではあるが,飽くまでも意匠出願が意匠法の規定する要件に適合しているか否かの特許庁の判断の公平性,合理性を担保することに資する目的で作成された判断基準にすぎず,法規範ではないから,意匠審査基準に反するか否かは,上記アの判断を左右するものではない。

 また,意匠審査基準は,「それらの共通点及び差異点が意匠の類否判断に与える影響は,個別の意匠ごとに変化するものである」,「一般的には,……(2)ありふれた形態の部分は,相対的に影響が小さい」(甲1の27頁)とするにすぎず,原告が主張するように,ありふれた形態の類否判断への影響は微細であると判断すべき旨を規定したものではない。本願意匠と引用意匠との上記各共通点に係る構成態様がありふれた態様ないし公知の態様であり,類否判断に与える影響が一般的には「相対的に影響が小さい」としても,意匠審査基準がいうように「共通点及び差異点が意匠の類否判断に与える影響は,個別の意匠ごとに変化するものである」。そして,本願意匠の各部の形態は,差異点の構成態様が,後述するように格別のものと評価することはできず,意匠全体の支配的部分を占め意匠的まとまりを形成する上記共通点に係る構成態様の類否判断に与える影響が相対的に大きなものになるというべきであるから,審決の上記判断が意匠審査基準に反するということもできない。』(以上、本判決文より抜粋。)

と判断しました。


 つまり、知財高裁は、特許の偏光フィルムのパラメータ特許事件のときの解釈と同様に、意匠法においても審査基準は、審査に当たる審査官にとって基本的な考え方を示すものであり、出願人にとっては出願管理等の指標として広く利用されているものではあるが、あくまでも出願が法の規定する要件に適合しているか否かの特許庁の判断の公平性、合理性を担保することに資する目的で作成された判断基準にすぎず、法規範ではない、と判断しました。


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