●『平成17(行ケ)10486 特許取消決定取消請求事件 知財高裁』

 今日は、『平成17(行ケ)10486 特許取消決定取消請求事件 特許権 行政訴訟 平成18年07月12日 知的財産高等裁判所 』(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060713162050.pdf)について、コメントします。

 本件は、異議申立てにより取消し決定を受けた原告が、その取消しを求めた事案で、取消事由1として発表会で発表した刊行物が引用例ロになるか否かが争われ、結局、引用例ロになると判断され、原告の訴えが棄却されました。


 つまり、裁判所は、取消事由1(引用例ロ記載の発明が本件出願前に公然と知られていたとした認定の誤り)について、

『引用例ロは「冷蔵庫フロン対応研究技術発表会」との標題と「日時:平成4年7月30日(木) 13:00〜16:30 「会場: (社)日本電機工業会4階ホール」及び「主催:(社)日本電機工業会冷蔵庫フロン対応研究委員会」との各記載がある1枚目(表紙)のほか,2枚目以降の記載から見て,平成4年7月30日に,日本電機工業会(同工業会の会館の趣旨と認められる)4階ホールにおいて、社団法人日本電機工業会冷蔵庫フロン対応研究委員会が主催して行われた冷蔵庫フロン対応研究技術発表会のプログラム及び発表用のテキスト(レジュメ)等から成る冊子であるものと認められ,そのプログラム部分(2枚目)には,同研究発表会が,冷蔵庫フロン対応研究委員会委員長による開会挨拶及び活動経過報告,冷蔵庫・冷凍サイクル分科会,コンプレッサー分科会及び断熱材分科会の各主査による研究発表(取組状況と解決すべき課題の発表),冷蔵庫技術専門委員会委員長による「海外情報と回収リサイクル対策」と題する報告,冷蔵庫フロン対応研究委員会参加9社の状況報告質疑応答の順に進行するものとされていることが記載され、また,テキスト目次(3枚目)には,同冊子に,上記3分科会主査の研究発表及び上記冷蔵庫技術専門委員会委員長による報告に係るテキスト等が収録されていること及びその収録頁が記載されている。

 引用例ロのうち決定が引用する部分(29,40,45頁)は,いずれも,コンプレッサー分科会主査横井清重による「代替フロン採用コンプレッサー」の開発状況と解決すべき課題」と題する研究発表に係るテキスト(25頁〜46頁)の一部であり,同テキスト中には,同分科会の構成員が松下冷機,三洋(原告),東芝,日立,三菱電機及び澤藤電機の6社の者(各社2名)であること,同分科会の研究目的が「代替フロン採用における情報交換を通じ,課題と対応策の共有化を図り早期切り換えを目指す」ことも記載されている(27頁)。

 なお,同テキスト部分は,記載事項が1頁ごとに完結しており,文字が大きく,図表が多用され,各頁にわたって,右肩に「1992.7.30/冷蔵庫フロン対応研究委員会/コンプレッサー分科会」との記載がなされている体裁に照らして,発表時には,プロジェクタ等を用いて画面表示される形式のものと推認される(仮に何らかの事情により上記形式によらなかったとしても,同テキスト部分は出席者に配布されたものと考えられ以下の検討において格別の差異はない。)

 以上の事実関係によれば原告を含め冷蔵庫フロン対応研究委員会は9社の者、コンプレッサー分科会は、そのうちの6社の者によって構成されていることが認められる。 
 しかしながら,上記発表会においては,会場が日本電機工業会館4階ホール1か所であり,各分科会の研究発表のほか,各分科会の研究事項を総合した事項に関する報告等(冷蔵庫フロン対応研究委員会委員長による開会挨拶及び活動経過報告,冷蔵庫技術専門委員会委員長による「海外情報と回収リサイクル対策」と題する報告)が行われるものとされていること,各分科会の研究発表に係るそれぞれのテキストが1冊子にまとめられていること,各分科会の構成員は,いわば共同研究員なのであるから,当該構成員だけを対象として改まった形式の研究発表会を行う意味はないことに照らし,各分科会の研究発表が,例えば,各分科会ごとに,当該分科会の構成員のみを対象として行われたものでないことは明白であって,実際には,各分科会の主査が,プログラムに従い,上記会館4階ホールにおいて続けて発表を行ったものと推認することができる。

 のみならず,上記発表会の主催者は「社団法人日本電機工業会冷蔵庫フロン対応研究委員会」とされているところ、「主催者」という語句の意味自体は,原告主張のとおり「中心となってある行事や会を催す者」であるとしても「主催者」という語句の用法としては,当該行事や会に「主催者」以外の者が参加することが予定されている場合に用いるのが通常であること,仮に,上記発表会に参加する者が同委員会を構成する9社の者のみであるとすれば,例えば,コンプレッサー分科会の研究発表について見れば,その構成員である6社の者は,上記のとおりいわば共同研究員であって,発表者側に属するのであるから,発表の相手方は残り3社の者のみとなるが,そのような少数の者を対象とするにしては,上記発表会を開催すること自体や,プロジェクタ等を用いる発表の形式が大仰に過ぎて不自然と感じられることに鑑みると,上記発表会は,冷蔵庫フロン対応研究委員会を構成する9社のみではなく,さらに広範囲の者を対象として開催されたものと認めることができる。

 そして,そのような状況の下では,参加者が,発表された事項について守秘義務を負うものとすることは不自然であるから,引用例ロに記載された発明は,遅くとも本件出願前である上記発表会の開催日(平成4年7月30日)に公然知られたものと認めることができ,この点についての決定の認定に,原告主張の誤りはない。』

と判示しました。


 発表会の出席者に対し契約等により明確に守秘義務が課せられてない以上、出席者に守秘義務がないと判断する方が通常であり、妥当な判決であると思います。